インタビュー

4月1日開始のイオンモバイル「さいてきプラン」が生まれた理由

 イオンリテールが、MVNO型の携帯電話サービス「イオンモバイル」で4月1日より新たに「さいてきプラン」と名付けた料金プランを提供する。

 「さいてきプラン」は、0.5GB、1GB、2GB……と10GBまで容量を選べる料金プラン。新たに、3GB、5GB、7GB、9GB、10GBという選択肢が設けられ、10GBまで1GB単位で選べるようになり、たとえば音声通話対応のプランでは、3GB/1180円(税抜、以下同)となる。

 シンプルさを重視して選べる容量を絞るMVNOもあるなかで、選択肢を広げることになったのはなぜか。イオンリテール住宅余暇本部 イオンモバイル商品マネージャーの井原龍二氏は、大規模小売店で展開する同社ならではの「格安SIM」「格安スマホ」の在り方が背景にある、と語る。

ウイズコロナ時代で店舗・オンラインの変化

――4月1日から「さいてきプラン」が提供されるとのことですが、その背景として、モバイル業界の動向がイオンモバイルへどのような影響を与えたか、という点から教えてください。

井原氏
 この1年で見ると、やはり新型コロナウイルス感染症の影響がどうしても大きいです。

 ただ、モバイル業界としてはその前の段階で、2019年10月に改正電気通信事業法が施行され、スマートフォンの販売価格への割引額への規制ができました。例年、3月~5月は(新生活シーズンで)市場が盛り上がるのですが、2020年春はそうした動きが減ったのです。

 そこへ新型コロナウイルス感染症です。ほかのMVNO各社さんにとって、オンラインでの契約のほうが主流だと思いますが、イオンモバイルは販売の中心が店舗。全体の9割を占めるほどでした。

――昨春以降、外出を控える傾向が続いていますから、来店客数にも影響しますよね。

井原氏
 はい。しかし新型コロナ以降、オンラインでの申込みが増え、全体の3割を占めるほどまでに成長しました。2020年はオンラインで契約することが一般的になってきた年でもあったと思います。

――オンラインの比率がぐっと増えたんですね。全体の契約数で見るといかがでしたか。

井原氏
 具体的な数は開示できないのですが、先述した通り、店舗での契約が減りました。その分の全てをオンラインがカバーできたわけではありませんので、全体では“少し減った”というレベルでした。

 もともとイオンモバイルのお客さまは、シニア層が一定の割合を占めています。多い月では契約の3割が60歳以上です。

 そうしたなかで、シニア層のオンラインでの契約も増えました。昨春以降もその動きは続いています。そうした点も「オンラインでの契約が一般的になった」、根付いたのかなと。さらにシニア層のお客さまの構成比、つまり契約全体で占める割合も増えました。

――シニア層のオンライン契約が増えたというのは興味深い点です。

井原氏
 MNO(携帯大手)各社さんは、3Gサービスの停波の予告を熱心に案内されています。そうした影響もありそうで、フィーチャーフォンユーザーがイオンモバイルでスマホデビューというケースも増えています。

 端末販売も、これまで割引によって「安くなるから買おうか」となっていたところ、実際の需要にあわせた形での動きになってきたと見ています。

オンラインが伸びた理由

――しかし新型コロナウイルス感染症で外出が減る状況となったなかで、ちょうどオンラインが伸びた、いや伸ばすことができたというのは、イオンモバイルのWebサイトも、そうしたニーズを受け入れる準備ができていたということですか。

井原氏
 そのあたりは、実はお恥ずかしい話がありまして……もともとイオングループとしてのEC(ネット通販)サイトがあったのです。イオンモバイルもそちらを活用していました。

 ただ、契約するときには、イオングループのECサイトでの会員登録と、イオンモバイルとしての契約者情報の入力と、いわば「二重に登録する」格好でした。

 ここが課題だったことは把握していましたので、2019年12月に改修しました。その結果、ECサイト側の手続きを簡略化し、回線契約側だけで(本人確認が)済むようにしたんです。

 その結果、かつては24ステップ必要だったところ、8ステップにまで削減できました。

――それはかなり減りましたね。

井原氏
 他社さんのオンラインでの手続きなどを拝見し、かなり研究させていただきました。いかに簡素化を図るのかと。

――eKYC(オンラインでの本人確認)は導入されたのですか?

井原氏
 現在、検討中です。不正契約を防止する有効なツールと思っていますので、まずはオンライン側で年内にも導入したいです。オンラインだけではなく、店舗でのお手続きでの活用も利用したいですね。

 ゆくゆくはeSIMを提供できるようになれば、eKYC機能は必須になるだろうと思っています。

「eSIMはお客さまの利便性があがる」

――ということはeSIMには前向きですか。

井原氏
 はい、お客さまにとっては確実に便利ですから、「やりたい派」です。無駄がなく仕組みで、提供できるようになれば、おそらく必須になると思っています。

 もちろん課題は出てくるでしょう。そのあたりはまだ手掛けていませんので、実態がわかりません。とはいえ、既にいくつかの事業者さんがeSIMサービスを展開していますので、そのあたりを拝見しています。

競争環境の変化に

――大手携帯各社からの発表、特に一番最初に発表されたNTTドコモの「ahamo」をどう受け止めていましたか。

井原氏
 (20GBで約3000円というahamoの価格に)ここまでとは思っていませんでした。もちろん、その前の段階から、さまざまな報道がありましたので、何らかのプランは出るだろうと思っていました。

 とはいえ、衝撃があったものの、オンライン限定という条件が付いたことがどう影響するかと。

――やはり脅威ですか?

井原氏
 市場前提で見ると、2019年ごろからMVNO周辺はちょっと動きが鈍っていました。アーリーアダプターで、MVNOを契約される方にはもう認知され、契約する方はもう動き終わっていた。より多くの層、マジョリティへのキャズムをなかなか超えられない状況にあったんです。

 しかし、ahamo、povo、LINEMOといった料金が大手さんから発表され、料金へ注目が集まりました。

 つまり、これから活性化するのではないかと期待できる状況かと思っています。2020年の後半から、「格安スマホ」がそれまで以上に身近になったのではないかなと見ています。

――たとえばNTTドコモの井伊基之社長は、UQモバイルの「3GB1480円」に驚きのコメントを出していましたし、今春は楽天モバイルのサービス開始から1年というタイミングでもあります。これらの動きはいかがでしょうか

井原氏
 MVNOにとって、UQさんがMVNOからMNOになったこと、2台目以降の価格ではなく1台目から月額1480円(税抜、以下同)になることは衝撃でしたし、私どもにとっても競争環境が厳しくなったと受け止めていました。

 一方、楽天さんについては、0円から利用できる料金体系にされましたので、なんともコメントしづらいです。「0円」とは勝負しようがないところがありますので……。

注目高まるスマホ料金にイオンモバイルはどう動いたか

――さて、今回のインタビューの主題である新料金プランについて教えてください。4月1日スタートの「さいてきプラン」は従来よりも細分化され、1GB単位でプランを選べるかたちとなりました。

井原氏
 もともとイオンモバイルの特徴は「料金の細かさ」でした。ここをどう見直すか、重要な論点でした。

――さらに細かくしてきたことには、正直、驚きました。

井原氏
 通信業界としては、よりシンプルな料金プランという流れがあることは承知しています。

 でも、私たちはもともと小売業です。その立場からすると、イオンモバイルの料金は「量り売りしてるだけ」なんですよ。つまり「一物一価」、同じ商品は同じ価格じゃないといけないと考えています。何も複雑なことはないのです。

 衣服で、S/M/L/XLとご用意しているのと変わらないのです。むしろ通信料を「フリーサイズ」だけご用意するのは、不便ではないかなと。そこがスタート地点です。

――新料金を見ると、確かに1GB大きくなると、料金も100円高くなっていますね。

井原氏
 「さいてきプラン」のもうひとつのポイントは、「値下げ」です。実は新料金ではなく、既存料金を刷新したんです。一物一価と考えれば、「既存料金と別の新料金」にすることはできません。既存料金を値下げしない、という選択肢はないんです。ここが他社さんとの一番の違いなんです。

 新たな料金を設定するにあたり、事業者として重要な点は、今後、携帯大手さんから案内されるであろう接続料がどれくらいの値下げになるかです。その葛藤の中から新たな料金を先んじて設定しました。

――なるほど。

井原氏
 たとえば競合他社の料金とイオンモバイルの料金を見比べてみてください。3GBでは1480円のプランがあります。私どもは1180円で、300円の差しかありません。

 もし月間の通信量が4~5GBという方であれば、3GBで我慢するのか、1000円高い15GBのプラン(編集部注:UQモバイルのくりこしプランと見られる、月額2480円)にされるのか。当社であれば4GB/1280円でご利用いただけますし、余った料金は繰り越せます。「4GBでいいんだ」という方に選んでいただけるようにするのが私どもの戦略なんです。

 2020年末にユーザー調査を実施しました。すると、60歳以上の方の8割に繰り越し機能を評価していただけました。

 たとえば5GBプランを契約し、その月、2GB余ったとします。翌月、2GBを繰り越して、プランはもっと小容量にする――そんな使いこなしをされている方も多くいることがわかりました。先述した量り売りに加えて、繰り越しのことを踏まえれば、これまでの料金プランを強化する方向は「1GB単位のプラン」ということになったんです。

――60歳以上の方、という点がまた興味深いですね。イオンモバイルのオンライン手続きにも工夫があるのですか?

井原氏
 他社さんでのそのあたりの利用動向はわかりませんが、イオンモバイルの場合、マイページで簡単に変えられますし、通信量の残り容量も表示されています。「いくら安くできたか」実感していただきやすいようです。マイページの閲覧数もかなり多いことを把握しています。

――なるほど、節約したことがわかりやすいと。以前から、イオンモバイルは、通信料を下げて、その分をイオンでのショッピングに……という狙いを打ち出してましたよね。

井原氏
 はい、そうです。政府も生活費における通信費の占める割合を問題視していましたので、「ここまで下げられるんですよ」とご案内できることは意義あることだと思っています。

 またイオン全体で収益の辻褄をあわせているのではなく、イオンモバイルという事業単体でも利益を生み出せる状態になっています。ほかのMVNOさんと一番異なるのが「全国に店舗がある」ということです。MVNO事業をスタートする段階で、すでに電子機器の販売をしていましたから、場所とスタッフがもともとありました。

 とはいえイオンのクレジットカードをお使いの方で、イオンモバイルをご利用かどうかで、イオンでの買い物の傾向がかなり違うこともわかっています。(カードとモバイルの)親和性が高いのかなと思います。通信費をイオンカードで支払っていただける環境の方は、イオンカードをメインにされる傾向もあるのかなと思いますので、「単体での利益貢献」だけではなく、「間接的なイオングループへの貢献」もあります。

大容量プランはしっかり分けて

――さて料金の話に戻ります。今回、大容量プランは「さいてきプランMORIMORI」という名称になりました。

井原氏
 はい、値下げと同時にブランドをきちんと分けました。これはわかりやすさを追求するためです。小容量をお求めの方に50GBプランをオススメしても意味がありませんので、「大容量」「小容量」をひと目で区分けしたのです。

――まず最初にブランドで分けて、そこから自身に最適な容量を選ぶと。

井原氏
 そうです。もうひとつの「やさしいプラン」は、フィーチャーフォンから乗り換える方に向けたプランです。メールしか使わないよ、という方にわかりやすく選んでいただけるようにしました。

――発表後の反響はいかがでしたか。

井原氏
 店頭では案内しやすくなった、とスタッフからフィードバックを得ています。

 3月4日に発表したのですが、それ以前の1月、2月の段階では、携帯各社さんから新料金プランが発表されているのに、イオンモバイルはどうなるの? という問い合わせが多かった。それにお答えできていませんでしたから。

 各社さんの新料金プラン発表で、相談といいますか、イオンのデジタル売り場へ立ち寄っていただける機会も増えています。4月開始ですが、発表できてよかったなと。

音声定額はまだ未定

――今後についても教えてください。MVNO向けに、音声通話の料金をより手軽に割安な価格で利用できるよう、「自動プレフィックス番号追加」の仕組みが携帯大手各社で導入される動きが出てきました。

井原氏
 イオンモバイルは、MVNE(MVNO支援事業者)のサービスを利用していますので、そのMVNEさんの動向次第というところがあります。

 また、携帯大手各社さんも、音声通話の接続料をまだ明確にされていません。

 お客さまのことを考えると、これまでも「プレフィックス番号を付け忘れて通話料が高くなった」というお声をいただいていましたので、標準の通話アプリで自動的に安くなる手法はあったほうがいいと思っています。

 とはいえ、通話定額自体は、現時点では手がけない考えです。音声通話そのものへのニーズが少しずつ薄れているんです。

――LINEのようなアプリにある通話機能が利用されているということですか。

井原氏
 はい。10分定額も不要というくらいです。そして何よりも、イオンモバイルのようなプランをお選びになる方は「何よりも料金を安くしたい」というお考えの方が多い。仮に、1回あたりの通話時間を限定した通話定額が月額500円だとしても、高いと評され、加入されないと思っています。

――なるほど。

井原氏
 繰り返しになりますが、これから“格安スマホ”がキャズムを超えて、リテラシーを超えて広がっていく可能性があると思っています。MVNOで全国に店舗があるのは、唯一私どもだけで、しっかりとお客さまをサポートできます。

 eSIMなどの新しい仕組みの登場も今後ありえますが、「ITリテラシーの高低に関わらず、地域の方が安心してご利用いただける」サービスは、イオンが手掛けるべきことだと思っています。そういう意味で、2021年はサポート面をしっかり強化していきたいですね。

――ありがとうございました。