インタビュー
ゲーム好きがゲームのためにつくったスマホ「Black Shark」にかけるメーカーの想い
2019年10月1日 06:00
中国発のスマートフォンメーカー、Black Shark(ブラックシャーク)。今、ゲーミングスマホメーカーとして着実にその地位を固めつつある。実際に、同社のスマートフォンは、eスポーツの大会で公式端末として採用されるなど、着実にその存在感を増してきている。
Black Sharkの端末は昨年、TAKUMI JAPANを通じて、日本でも発売され、その低価格さと高性能さは一部のゲーマーの心を掴んでいる。ハイエンド端末が軒並み10万円を超えつつある中、彼らはどのような手段でハイエンド機を安価で提供してきたのか。
Black Sharkとは?
Black Sharkは中国発のスマートフォンメーカーだ。北京、上海、南昌に4カ所の拠点をおいている。総勢で600人ほどの社員を抱えているが、そのうちのおよそ400人は開発に従事する技術者という特徴をもつ。“ものづくり”へのこだわりをもった技術屋集団といったところだ。
Black Sharkは同じく、中国のスマートフォンメーカー、Xiaomi(シャオミ)の出資を受けて事業を行っている。とはいえ、ラインアップを見ればわかるとおり、いわゆる一般的スマートフォンメーカーであるところのXiaomiとはまったく異なる独自のラインアップを備えているのがBlack Sharkだ。出資を受けてはいるものの完全に独立した企業として動いている。
Black Sharkがつくるのはゲーミングスマートフォン。水冷式の冷却システムや、ゲームパッド、それを装着可能な専用ケースなどのゲームに向けた多彩なアクセサリーなど、ゲーム用という点においてほかのメーカーを圧倒している。
加えて、圧倒的な低価格も特徴のひとつ。同社の「Black Shark 2」はSnapdragon 855や6GBのメモリーを搭載するモデルでは、価格は5万円以下(税別)だ。
また、同社が構築しているエコシステムも、同業他社にはない独自性にあふれている。Black Sharkは、端末を開発するだけではなく、ほかの企業との結びつきも重要視している。ゲーミングスマホメーカーとして、有名なタイトルを多く排出しているゲームメーカーとパートナーシップを締結。具体的には、「アスファルト」シリーズを手掛けるゲームロフトや、「PLAYER UNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)」の中国でのパブリッシャーテンセントなどだ。
そんな同社のターゲットは、主に若い男性。特にゲームに関心が高いであろう層がメインだが、意外なことに日本においては女性人気が高い。TAKUMI JAPANによれば、販売の30%ほどは女性ユーザーが占めているという。人気タイトルの「PUBG」や「荒野行動」は特に女性率が高い。
実際にプレイしていると、ボイスチャットでも若い女性の声が目立つ。ゲーミングデバイスはゲームマニアな男性というステレオタイプのみならず、今後もさらに市場を開拓できることが見込める。
ゲームを楽しめる環境を
Black Sharkの端末の最大の特徴はやはり、冷却システムに水冷を採用していることだ。しかし、そもそもなぜスマートフォンを作ろうと思ったのだろうか。
そこには、Black Sharkの創業者の1人、ハリソン・ラ氏のゲームに対する想いがあった。Harrison氏は自身も大のゲーム好き。スマートフォンでゲームをすると、発熱やバッテリーの問題がついてまわる。動作もスムーズとは言い難いものだった。「せっかく面白いゲームがあるのに、それを楽しむためのデバイスがない」。
これがBlack Shark設立のきっかけだった。ラ氏はもともと、ファーウェイに20年間も在籍していた技術者のひとり。同社の携帯電話の事業に15年間関わっていた。そこで、つくるならば経験のあるスマートフォンを作ろうと考えたのだという。
一般的な用途ならなんの問題もないスマートフォンでも、いざゲームをプレイするとなるとさまざまな問題が出てくる。多くは、アクセサリーの追加などで解決できず、ストレージやチップセットなどで改善しなければならない問題だ。だからこそアクセサリーではなく、スマートフォンメーカーを立ち上げたのだとラ氏。
独自の水冷システムを持つスマホへ
始めてつくるスマートフォンがゲーム用ハイエンド端末。開発時にはどのような課題があったのだろうか。ラ氏によると、排熱方法はハードルとして立ちふさがった。
スマートフォンに限らず、CPUは温度上昇を検知すると、故障防止のために自動的に動作スピードが低下してしまう。ゲーム中に性能が下がってしまっては、敵プレイヤーに対して不利になってしまう。
多くの方法を模索した結果、Black Sharkは水冷を採用した。自動車などの発動機に採用されることが多い水冷だが、ゲーミングパソコンの世界では、水冷式はひとつのジャンルとして確立されている。
しかし、それでもシステムとしては大掛かりで携帯電話にそのまま使えるような代物ではない。特にクーラントが通過する排熱用のフィンのデザインには苦労したとハリソン氏。
Black Sharkに搭載される水冷システムは、チップセットを 直接冷却 できることが特徴。今では他社からもいくつか水冷スマートフォンが出ているが、それらの多くはおそらく基盤を冷却しているに過ぎないだろうとした上で、ラ氏は「Black Sharkの水冷システムは我々が最もフォーカスした技術だ」と語る。
加えて、特殊なデジタル信号処理技術を用いて、フレームレートを補完している。多くのモバイルゲームは30fpsで動作するが、Black Sharkの場合は欠けたフレームを再現し60fpsまで引き上げている。
インターフェイスについても、着信などの通知を無視できる「SHARK SPACE」や「Master Touch(マスタータッチ)」という独自の機能が搭載されている。ディスプレイの左右でどこまでの範囲をタッチとして認識するかを選択し、タッチと認識する圧力を設定でき、選択した範囲はゲーム中の任意の機能に割り当てられる。シューティングゲームなら自分の好きな場所にトリガーボタンを配置できるということになる。
少しでも多くの人の手に
Black Sharkは、こうしたハイスペックさにも関わらず、ほかに類を見ない低価格を実現している。これについて、グローバルセールスおよびマーケティング担当のデイビッド・リー氏が言うには、「利益はまったく出ていない」。
今はまだ、(モバイルゲーム環境をとりまく)問題を解決していかなければならない時期だとリー氏。そのためには、まず自らの利益ではなく多くのユーザーに手の届く範囲の価格に設定している。手にしてもらったユーザーに長くBlack Sharkの製品を使ってもらえれば、次のビジネスにもつながってくれるという期待を持っているのだという。
利益が出ていないにも関わらず、なぜ端末を創り続けられるのか?
答えは、日本とはマーケットでの同社の立ち位置などの事情が違うところにあるようだ。中国は人口が多い分、マーケットも大きい。薄利でもどうにかやっていけているという部分も大きい。加えて、同社のエコシステムの一部であるサービスからの利益がある。中国でBlack Shark経由でゲームに課金される額は、ほかのAndroid端末に比べて10倍を誇っている。
そんなBlack Sharkは今、日本のマーケットを重要視する。日本マーケティングを担うニコラス・ファン氏は「日本人がゲームなどのコンテンツに消費するお金は世界でもトップクラス」と見ている。
Black Sharkにとって、いまはまだ日本ではブランドを広げていかなければいけない時期。最新鋭のハイスペックを常識を超えた低価格で提供している裏には、ゲームにかける想いが溢れている。
そんなBlack Sharkの次の一手は?
モバイルゲームに最適な環境を提供すべく、走り続けてきたBlack Sharkだが、そんな彼らの次の一手はどんなものになるのか。
ファン氏は、日本のゲームマーケットの大きさに触れ「日本では、ハードウェアを販売するだけではなく、ゲーム会社とパートナーとしてビジネスを展開したい」と語る。
これまでにはなかったようなやり方でゲーム会社とパートナーとなり、一緒に仕事をしていくことが目標。日本には優れたゲームがたくさんある。その市場でデバイスを販売すると同時に、ゲーム会社の収益の最大化の実現を手助けすることが日本市場での成長の鍵にしたいという。
「今はまだ、日本市場では赤ちゃんの(ような始まったばかりの)状態。ソフトとハードの両面を上手く組み合わせつつ、ゲーム会社とともに一歩ずつ進んでいきたい」とデイビッド氏は今後の日本での展開についての意欲を示した。