インタビュー

「AQUOS R2」のデュアルカメラはどうやって作られたのか

動画と静止画のこだわり、ディスプレイや機構設計・デザインまでシャープ担当者に聞く

 シャープは今夏、3キャリア向けにフラッグシップモデル「AQUOS R2」を発売する。2017年の「AQUOS R」の後継モデルという位置づけで、NTTドコモでは「AQUOS R2 SH-03K」、auでは「AQUOS R2 SHV42」、ソフトバンクでは「AQUOS R2」として登場する。それぞれ型番や、ソフトウェアで異なる部分はあるが、ブランドネームだけでなくハードウェアもほぼ共通の仕様となる。

AQUOS R2(右)と前モデルのAQUOS R(左)

 AQUOS R2について、特徴であるカメラやディスプレイ、機構デザインまで、シャープの通信事業本部 パーソナル通信事業部長の小林繁氏をはじめ、商品企画部の小野直樹氏、第三ソフト開発部の村上則明氏、要素開発部の山本智昭氏、ディスプレイを担当するシステム開発部の佐藤雄一氏、シニアデザイナーの芝田博和氏、放熱設計担当の田邊弘樹氏、商品企画部の伏見聡氏に話を聞いた。

動画ならではの使い方とは

――今回のAQUOS R2の特徴は?

動画コミュニケーションが今回のカメラのキーワード

小林氏
 特徴としては、まずデュアルカメラがあります。デュアルカメラ自体は、「カラー+モノクロ」「通常+ワイド(広角)」など、さまざまな組み合わせのものがこれまで登場していますよね。その中でシャープはどうするか。そこで注目したのが、動画でした。

 スマートフォンユーザーは本当によく動画を撮ります。調査すると、ユーザーの半数は定期的に動画を撮影していることがわかりました。その半数は、その動画をアップロードするところまで行っています。その一方で、たとえば1分間撮影し、そのままアップロードしたとしても、そこまで長い動画はなかなか観てもらえません。動画をアップロードするという使い方は広がっていても、まだ、お客さまには満足感を持っていないのではないか、と考えたのが背景としてあります。

――どういった利用シーンを想定して開発されたのでしょうか。

シャープの小野氏

小野氏
 私は犬を飼っており、休みの日には散歩に出かけます。犬を飼っている方であればご存じでしょうが、スマートフォンで犬を撮るのってわりと苦労します。たとえば人間の目線から撮ると、上の視点になって、良い写真や動画になりません。かといって犬の目線で撮るのは、スマートフォンでは難しい。だからこれまでは、スティックにアクションカメラを付けて撮影する、なんて楽しみ方をしていたのです。

 これをスマートフォンでやるには何が必要か、今回あらためて考えました。1つ目の答えは広角レンズです。犬からの目線を撮影しようとすると、そのままでは画面を覗きながらは撮れません。広角にすれば、犬が観ているであろう被写体や風景がフレームからはみ出さないようにできます。

 アクションカメラを使っていて気づいたのは、ピントが安定していて映像として見やすいことでした。でもスマートフォンのカメラは基本的にオートフォーカスですよね。カメラを1つしか搭載できない場合、ディープフォーカスの設計にしてくれとは言えません。そして歩きながらでも手軽に動画を撮るためには、先ほど説明があったような高性能な手ぶれ補正が必須です。広角、ディープフォーカス、手ぶれ補正という3つの性能が動画には必要というわけです。

小林氏
 市場調査などを通じて、動画を撮るのは家族、子供、ペット、動きのある被写体やレストランなどと、主立ったニーズがわかってきました。その上で、いろいろなデュアルカメラ方式がある中、本当にこんな特異なことをやっていいかと検討した結果、お客さんの声として、動画を撮る人であれば撮る人ほど、カメラが2つに分かれていた方が良いとの確信を得て、動画のためのデュアルカメラの仕様としました。

小野氏
 スマホではなんとなくで「デュアルカメラが良い」と思われがちですが、なぜ二眼が良いのか、どういった仕組みなのか、といった点はわかりにくくなっていないでしょうか。しかし「AQUOS R2」は「動画専用のカメラと普通のカメラです」とシンプルに2つあることの価値をお伝えできるかなと考えています。

小林氏
 シャープのDNAもあります。我々が一番心配しているのは、シャープがほかのメーカーに勝つとか負けるとかではなく、スマホ業界全体が盛り上がらないことです。新しい商品が出てきても、日用品になってしまって誰にも注目されなかったりライフスタイルが変わらなくなったりするのは、とても怖いことです。だから常に新しい使い方を提案したい。提案し続けるには常に新しいアイディアを持っていないといけません。今回は新しいアイディアが生まれました。発表後、良い反響が得られていると認識しています。

動画用カメラに備えたスペックとは

動画用の広角レンズと静止画用の標準カメラ

――そこで採用した「動画のためのデュアルカメラ」について、もう少し詳しく教えてください。

小林氏
 動画と静止画では、ハードウェアレベルで要求性能が違います。今回採用した動画用カメラは人間の視野よりも広い、画角135度のものです。これは電子手ぶれ補正の効果を得るためでもあり、なおかつ驚くほど広い範囲を撮るためでもあります。そしてF値は2.4と高めです。一般的にF値は低い数値のほうが明るく、良いものとされ、そこでメーカー同士での競争があります。しかし被写界深度の深さではF値は高い方が有利です。そこでディープフォーカスに対応するためF値2.4としました。

動画と静止画は手ぶれ補正の性質が異なる

 手ぶれ補正は従来の2倍程度の性能に仕上げています。たとえばカメラが数cmも動けば、画角で言えば15度〜20度くらい動くのです。そして「AQUOS R2」の動画カメラは斜めで15度ずつ、あわせて30度の手ぶれ補正が可能です。たとえば90度のカメラで30度を電子手ぶれ補正に使えば60度しか撮れなくなります、つまり、手ぶれを抑えた動画を撮れるようにすると、十分な広角性能が必要だということになります。

 ここまで思い切って画角を広げたのは、動画の場合、周辺部が少しひずんでもあまり気にならないということもあります。被写体が動けば周辺部はあまり目にとまりません、撮影者である自分が動くときも気になりません。こうした点は、静止画とまったく特性が異なるのです。最初はいろいろ議論があり、動画のために135度とするのは思い切った決断でしたが、ここまでやってよかったです。

 一方の静止画では、ディテールの描写など、高精細という面でのニーズがあります。そこでインカメラも16メガピクセルと大きなものを搭載しています。

2個のカメラを搭載

 動画と静止画のカメラを独立したことで、同時に撮影もできます。ただしカメラが別なので、ファインダーで見えているものと撮れるものが違うなど、使いこなすにはかなり奥が深い機能と言えるかもしれません。たとえば動画は被写体自体が動いており、それを追いかける場面もありますから。

村上氏
 動画は動画カメラ、静止画は静止画カメラで撮りますが、この2つを同時に使うことはリソースの限られたスマートフォンでは難しいことです。通常、静止画を撮影する瞬間は、カメラを固定した状態を想定します。しかし動画ではカメラが被写体を追って動きます。その状態で固定されているときと同じように静止画を撮るというのはハードルが高く、チューニングが難しかったポイントです。静止画と動画を同じパラメーターで撮るとボケやブレが出やすいので、動かしていてもちゃんと撮れるよう、チューニングに心血を注ぎました。

動画と静止画のフォーカスの違い

――動画カメラの方はオートフォーカスではないとのことでしたが、一方で静止画はオートフォーカスです。どこにピントをあわせるか、2つのカメラで協調して動作するのでしょうか。

村上氏
 動画撮影中に静止画を撮影するとき普通の静止画と同じようなチューニングだとブレてしまうので、動画撮影中は本体が動いても撮影できるようなシャッタースピードにして、フォーカス位置も動かしています。どこにフォーカスを当てるかは、静止画側のカメラで捉えたものから判断しています。

小林氏
 動画側のカメラはオートフォーカスしないので、静止画カメラは静止画カメラの映像を見てフォーカスしています。動画カメラと静止画カメラでフォーカスや被写体の情報を相互でやり取りはしていません。

AIライブシャッター/AIオートシーンを実現する3つのエンジン

――動画撮影中に自動で静止画を撮影するAIライブシャッターが特徴的ですね。

小林氏
 AIライブシャッターでは、動画を撮っているときに自動で静止画が撮影されます。顔の認識など、構図などを見て撮影しているのです。これが使ってみると面白いのです。撮影後に確認すると、撮影側も思っていなかったような表情やシーンが記録されてるんですよね。

 動画は30秒〜1分程度の長さで撮影することが多いでしょうが、先に申し上げたように、そのままSNSにアップしてもなかなか観てもらえません。そこで決定的に良いところだけを簡単に上げられるようにしたのもポイントです。静止画を撮ったシーンには何かがあったはずということで、その前後の動画を簡単に切り出せるようにもなっています。

村上氏
 AIでシャッターを切るためにAIエンジンがいくつか搭載されています。たとえば犬や猫の位置を検出したり、構図の良し悪しを判定したりするといったものです。いくつかのエンジンを組み合わせ、最終的にシャッターを切るところを決めています。フィールド試験とチューニングをかなり繰り返しましたね。

シャープの山本氏(左)と村上氏(右)。手前で動作してるのはAIエンジンのパラメータを表示する開発用アプリ。人物を認識し、笑顔などを数値化している

山本氏
 AIライブシャッターとAIオートシーンを実現するにあたり、どういったエンジンが必要か、開発中の議論を経て3つ必要という結論に至りました。1つ目はまずシーン認識です。夜景、会議中のホワイトボードなど、撮影する場面はさまざまで、その場面が何なのか、答えを出すエンジンです。そしてもう1つが物体を認識するエンジンです。人やペットなど、カメラが捉えている場面の中に何がいるのか、位置情報を含めて認識します。最後は構図認識のエンジンというわけです。

 シャープでは、これまで「エモパー」で写真の認識ができるよう開発を進めてきました。そこで今回は構図認識エンジンの開発が必要だったのです。ですが、これには頭を抱えました。写真の構図には暗黙のルールがあります。そこからずらすのは、人間が撮影するからできることです。正解をどう定義したら良いか悩みました。

 テストで写真を並べ、どれが良いかを開発メンバーに選ばせたところ、バラバラの評価となりました。しかし人数を増やしてデータを集めると、一定の傾向が出てきます。そこで、脈があると信じて、絵を集めて学習させていったのです。その結果、なんとか精度を向上することができました。

小野氏
 構図を完璧に見ようとすると難しく、いわば許容値を広げないといけません。しかしどこまで広げるかが課題です。構図には人の感性が働いているので、そのバランスが非常に難しいのです。

撮影後も楽しめる仕掛け

小野氏
 今回は撮るだけでなく見る、共有するといったサイクルを誰もが簡単にできるように、とも考えています。たとえば動画を撮ってもサムネイルに最初の場面だけが表示されても、何を撮ったかわかりにくいですよね。そこで、動画撮影中、最初に撮影した静止画をサムネイルにしています。

 またストーリー再生機能で動画と静止画をハイブリッドで見せられます。一番良いシーンを切り出してショートムービーも作れます。ユーザー対象のグループインタビューを実施したところ、撮影手順の簡単さよりも、撮影した長い動画から良いシーンを切り出すのが大切だと言われました。そこでこの機能を搭載しています。

サードパーティのカメラアプリ、どうなる?

――サードパーティのカメラアプリで撮影するときは、動画カメラや静止画カメラを使い分けられるのですか?

小野氏
 静止画のカメラを使っています。

小林氏
 ここの仕様は本当に悩みました。たとえばInstagramで動画を撮るとき、カメラを適切な方に切り替えたい。しかし他社のアプリがカメラをどう使うかわかりません。「このアプリの場合は動画用カメラで起動する」といった形にするには無理があるのです。その決め打ちが間違っていてアプリがクラッシュするのはいけません。今回は互換性を優先し、サードパーティ製のアプリで使うのは静止画カメラとしています。

小野氏
 動画のカメラだとディープフォーカスで全体にピントがあいますが、近くに寄ったとき、ピントが甘く見えてしまいます。そうしたとき、カメラアプリには、標準と広角を切り替えるボタンがありますので、動画のスタンバイ状態の時に、用途に応じてカメラを切り替えて撮影できるようにしています。もともと近いところを撮るときは、被写体があまり動かないので、動画でもオートフォーカスを使えます。利用用途に合わせて使うだけでカメラを変えることを意識させないようにしています。

応答速度はアップ、フレームレートを最適化

――今回もIGZO液晶を搭載されていますが、デザインはもちろん、さまざまな点で「AQUOS R」と異なりますね。

シャープの小林氏(左)

小林氏
 今回は指紋センサーの位置にあわせて、ディスプレイ側の開発にも注力しました。前面側の下部に液晶ディスプレイのコントローラーやバックライトがあるのですが、その上に指紋センサーが載るような形になっています。

 IGZOディスプレイの特徴の1つである動きの滑らかさは、フレームレートが100Hzとしています。先代の「AQUOS R」では120Hzでしたが、今回は応答速度を向上させており、より最適化したものとお考えください。たとえばスクロールさせたときの残像は少なく、読みやすいことに変わりはありません。

シャープの佐藤氏

佐藤氏
 「AQUOS R2」では、6インチでWQHD+(3040×1440ドット)と過去最高の解像度を実現しました。ハイスピードIGZOという面では、応答速度を25%アップさせています。

フレームレート向上で枚数が増え、反応速度の向上で残像がより速く消えるというイメージ

――フレームレートはなぜ100Hzになったのでしょうか。

佐藤氏
 バランスを考えた結果です。解像度やサイズを大きくして、応答速度も向上しました。いろいろなスペックがアップした反面、スペックを全部上げると、消費電力などが厳しくなります。

小林氏
 要因の1つは解像度の向上です。高精細になり、ディスプレイ側が120Hzであっても、アプリ上の処理で描写しきれず、フレーム数が落とされることもあるのです。さまざまなフレームレートを検証し、“スイートスポット”となる100Hzを見つけました。105Hzや110Hzも試しましたが、そうなるとメジャーなアプリでも描写がコマ落ちし始めます。しかし100Hzだとコマ落ちが、発生数が1/30程度にまで減るのです。

――アプリのコマ落ちを抑制する意味があるのですね。

小林氏
 そうですね。もう1つが消費電力です。そういったもののバランスを見ています。

――応答速度の向上では、どのような変化があるのでしょうか。

佐藤氏
 60Hzではフレーム間隔が長くなり、素早く動かすと離れたところにくっきり残像が残ります。それが100Hzになると、幅が狭くなります。さらに応答速度を速くすれば、残像が薄くなります。その結果、残像感が減っています。フレームレートと応答速度は別の概念なので、それを組み合わせてチューニングしています。

小林氏
 表現力の1つである色域が少し広がっています。また、かなりマニアックなポイントですが、生産時に個体調整するパラメーターの精度が8倍になりました。いままでは生産されたときの個体差を6万5000通りで調整していましたが、これを8倍、つまり52万通りから、画質が均一になるようにしています。ディスプレイパネルは大きなガラスから切り出しますが、どうしてもガラスの端と中央では、多少なりとも色の違いが生まれてしまいます。それをほぼ補正し、出荷する製品では同じ性能にしています。

ベールビューが復活

小林氏
 ディスプレイではベールビュー機能を「のぞき見ブロック」という名称で復活させました。ユーザーからの声が大きかったポイントです。

――ベールビューが復活したのですね。

小林氏
 この機能とコンテンツマネージャーは、「AQUOS R」で削減した機能のうち、ユーザーからのお叱りが多かった機能です。

佐藤氏
 「AQUOS R」の時点で広視野角などの特性が良くなった一方で、のぞき見ブロックができなくなったことがわかりました。ブロックしようとしても従来の方法では見えてしまうと。

 シャープはもともとベールビューを提供してきましたが、実際に利用されているかどうか、知る術がありませんでした。「AQUOS R」は、技術的に困難なこともあって省略したのですが、予想外に反響をいただきましたので、技術を進化させて搭載することになったのです。具体的な仕組みはお話できないのですが、「のぞき見ブロック」を実現するため、アルゴリズムを進化させています。

フリーフォームディスプレイのこだわり

左が切り出し後、右が切り出し前のディスプレイパネル下端もよく見ると角が切られている

――ディスプレイの狭額縁化がかなり進んだように思えます

佐藤氏
 今回のこだわりポイントです。上端まで画面のアクティブエリアが広がっています。一般的にディスプレイの角は四角くなりますが、フリーフォームディスプレイになることで、角を落としています。インカメラ部分のノッチもありますが、これでギリギリサイズの筐体に入れています。実は下端の角も削っていて、それによって無線の特性も確保しています。配線や金属部品があるとアンテナ特性が落ちるので、それを避けて部品を配置しています。

指紋センサー。かなり狭いエリアに搭載している

――指紋センサーをディスプレイの近く、前面に搭載していますね。

小林氏
 FIDO(業界団体が作っている生体認証の共通仕様)のバージョンが上がり、Android
標準でサポートすることになりました。ECサービスなどでの利用が増え、対応アプリも増えてくると見込まれます。利用頻度が高まることが予想される中で、背面に搭載すると「後ろだと使いづらい」との指摘があり得ます。指紋認証の使いやすさを優先して前面下部に搭載しました。

――画面に指紋センサーを埋め込むというのは難しいのでしょうか。

小林氏
 有機EL特有の技術ですね。我々は画面占有率を競うような物作りをしたいとは思っていません。使いやすければ良いのですが、今回の商品における使いやすさを考えると、前面搭載になるかと思っています。


ディスプレイパネル。下端側の配線が出てるあたりにバックライトとコントローラーが集中し、後述するとおり発熱も集中する

――ディスプレイ関連でいうと、VRゴーグルは有機ELを使っています(GoogleのDaydreamは主に有機EL端末が対応している)。今回のIGZOはさらに応答速度が上がっていますが、VRゴーグルに対応はできないのでしょうか。

小林氏
 応答速度はまさに液晶の中ではダントツに早いのですが、有機ELの応答速度は、一般的に数倍速いと言われており、IGZOディスプレイであってもそこまで速くはありません。しかし残像感への対応はIGZOの方が優れています。


上端側。インカメラはノッチ配置

――インカメラのためにノッチ(切り欠き)がディスプレイ上部にあります。昨年のAQUOS R Compactにも似ていますが、構造は同じでしょうか?

小林氏
 指紋センサーをディスプレイパネルに重ねた点は大きな違いです。それ以外は基本的に同じで、さらなる狭額縁化を狙っています。

佐藤氏
 インカメラの解像度が上がった分、モジュールが大きくなっていますが、存在感を増さないように改善をしています。

放熱性能が2倍にアップ

――パフォーマンスについて教えてください。

小林氏
 パフォーマンス面でいうと、チップセットがSnapdragon 845となり、AIの処理が3倍ほど高速化されました。

 一方で放熱性を2倍にしています。これは温度センシングを極めたことで、放熱性能が大幅に向上しているのです。このあたりは誤解されやすいのですが、表面が熱くならないのではなく、内部の熱を速く外に伝えることで、放熱性を高めています。つまり本体が暖かくなるのは放熱性の高さの証明です。しかし表面が、低温やけどするほど熱くならないようにチューニングしています。これにより最大クロックを維持できる時間が7倍になりました。

――内部はどう手が加えられているのでしょうか。


断面イメージ(右が上端)。グラファイトの放熱シートで熱を移動させ、全体に広げている

田邊氏
 もともと放熱性能は「AQUOS R」でも評価の高かったポイントです。今回はチップセットの性能がアップしたことのほか、カメラでのAIライブシャッター、ディスプレイの解像度アップがあります。デバイスの良さを引き出すために、工夫しないと提供できないというところがあり、放熱設計にとことんこだわっています。

 ポイントは3つあります。まず内部構造として、周囲の金属フレームと内部の金属シャーシです。AQUOS Rでは溶接していましたが、AQUOS R2では1枚の削り出し一体型となっています。

金属製のシャーシ・フレーム。これをメインボード・バッテリとディスプレイパネルがサンドイッチ状に挟み込んでいる

 もうひとつは液晶パネルの下部です。ここには大きな発熱源となるドライバー(駆動IC)やLEDバックライトがあり、指紋センサーも搭載されています。ここに熱を逃すためのグラファイトシートを入れているのですが、以前は普通に配置し、それでも効果はあったのですが、今回はグラファイトシートを折り曲げることで、表から裏に熱を逃すようにしました。

小林氏
 この折り曲げがポイントです。狭額縁化により、指紋センサーの配置場所が、これまでの機構では熱くなりやすい場所になってしまう。しかし操作する場面の多い指紋センサー周辺が熱を持つのは課題です。別の場所へ熱を逃がす必要があり、それを実現する唯一の方法がグラファイトシートの折り曲げ方式でした。と言ってもグラファイトシートは折り紙のように簡単には折れませんので、結構大変なんです。


前モデルでは温度が局所的に上がっていたが、AQUOS R2では全体的に効率良く放熱できるようになっている

田邊氏
 CPUやGPUの熱も逃がす必要があります。熱伝導材料を変更し、その熱伝導率を10倍以上にしました。

 このように、それぞれの熱をシャーシ・フレーム、グラファイトシートにしっかり移して広げ、全体から排熱するようにしています。

 放熱性能が変わったことで、温度センサーの位置やチューニングも変更しました。手で感じる温度は感じ取りやすくなるのですが、熱くなりすぎないようにしつつ、高いパフォーマンスを感じてもらえるようにバランスを取っています。

――液晶側のグラファイトシートとシャーシ面のグラファイトシートの間は接触せずに空気層になっているのですか?

シャープの田邊氏

田邊氏
 すべて空気層です。「AQUOS R」でもこだわったポイントでしたが、空気層の配置や厚みで、熱の動きをコントロールできます。グラファイトシート間の熱移動がないわけではありませんが、今回は前面と背面がガラスです。同じような温度分布になるようにバランスを取るべく配置しました。

 液晶側の熱は常に全体に広げていった方が良いですが、CPUは常にフルパワーではありませんので、ここはバランスを取っています。いろいろなユースケースでシミュレーションし、どのように熱を移していくかをチューニングした結果です。

 放熱性が高まり、熱がこもりにくくなりましたので、ピークパワーを高くしたり、ピークを長くしたりできるようになっています。アプリによって負荷の低~中~高を分けて、それぞれのパフォーマンスを高めるように調整しています。

側面のカーブで狙う演出

5つのカラバリがある。それぞれ背面パネルだけでなく、前面、側面も色が異なる

小林氏
 背面にはガラスを採用しました。初めての3Dガラスです。過去のモデルでは樹脂を用いていましたが、光沢のスカッとした美しさはガラスの方が上です。ちなみに背面はGorilla Glass(ゴリラガラス)5、前面がGorilla Glass 3です。「AQUOS R」と比べ、やや重たくはなるのですが、ここはエレガントさやシャイニーさを重視しました。

シャープの芝田氏

芝田氏
 前モデルのAQUOS Rではリブランディングし、新登場感を演出するために未来感を演出するべく、リキッドメタル的にしました。一方、今回は女性ユーザー層をより意識したデザインにしています。特に背面はガラスパネルによってジュエリーのような世界観を追求しています。

側面の立体的にねじれるなラインで背面パネルと側面フレームがつながっている

 側面には、カーブしたラインを意図的に取り入れています。これは持ちやすさもありますが、ジュエリーのような世界観を狙っています。このカーブラインのねじれは、他社にはできないんじゃないかと自信のある部分です。側面のカーブにあわせてガラスも曲げているのですが、カーブする金属フレームに貼り付けるための精度を出すのが非常に難しくなっています。かなりのトライ&エラーを繰り返して実現できました。

純正カバーで得られる体験とは

――あとは今回も専用のフリップケースを用意されていますね。

シャープの伏見氏

伏見氏
 純正のフロストカバーでは、フリップ部とケースの外周がピッタリとはまるようになっています。開けるときのための切り欠きが1箇所だけありますが、それ以外はスッキリと仕上げました。

 背面と前面のつなぎ目では、通常、接合面が必要です。しかし今回は、そうした接合面を極力見えなくしたデザインにしています。フリップ部分も新しい構造に挑戦しています。

 ソフト連動もいままで通りです。フリップ部が半透明のフロスト仕様で、開かなくとも、拭うような操作で通知を確認できます。

 ロングタッチすることで、フロストサインモードと呼ぶ機能を起動できます。たとえば稲妻のようなマークを描くとモバイルライトが点灯します。通常使用ではケースのフリップを開けて使うのですが、ちょっとしたシーンで使う機能は、ジェスチャマークを描いて起動できます。フリップをなぞる楽しさを体感していただければと。

純正フロストカバー。フリップ部が半透明で、うっすらと表示が見える

――フリップがかなりピッタリとハマっていますが、これはこれで保護フィルムが使いづらくなりませんか?

伏見氏
 フィルムは大丈夫です。たとえば厚さ0.4mmまでのガラスフィルムを貼っても閉じることができます。タッチパネルの感度も上げているので、操作面でも問題ありません。

――なるほど。

小林氏
 「デザイン for AQUOS」というプログラムを用意しており、そこへ参加するアクセサリーメーカーも増えています。今回は300〜400のアクセサリーが登場する見込みです。また、今回から認定プログラムでライセンスされたフィルムも登場します。

――先ほど、のぞき見防止の復活を紹介していただきましたが、同じくコンテンツマネージャーも復活したそうですね。

小林氏
 どちらの機能もここまでお叱りを受けるとは思いませんでした。

 その1つであるコンテンツマネージャーは、新しいものに作り直しました。基本はファイル管理アプリで、SDカードと内蔵ストレージでファイルコピーなどの操作ができます。SDカードと内蔵ストレージ、どちらかを表示するかターゲットを選ぶ機能もあります。Android標準アプリとは少し違う機能です。

分解モデル。ディスプレイパネルがカット前とカット後の2つあり、一部の部品がないことに注意

 UIや使い勝手は変わりましたが、今回の作り直しでOSアップデートへのサポートもしやすくなりました。

 このコンテンツマネージャーは、ファンが多く、なくしたときの反響が大きくて驚きました。しかしそれ以外にもなくした機能はあったのですが、ほかの機能にはあまりご意見をいただくこともなかったので、ほとんど使われていなかったのだな、と。

2017年に仕掛けた新たな戦略

――前モデルからブランドを統一しました。その効果は?

ブランドを統一し、各キャリアで同じモデルが登場するようになった

小林氏
 いま、シャープのスマホが「思ったよりも」売れています。以前からあわせれば100万台近く出ていたのですが、なぜか「売れている」という認知が広がりませんでした。そこで、売れただけ認知を広げていこうと思ったら、やはり共通の名前を持つべきです。どのキャリアでもどの機種でも、売れてるシリーズを自分が使っている、とユーザーに感じてもらうことが重要と考え、シリーズ名を統一しました。

 統一したことは別の効果もありました。OSのバージョンアップを約束したことにも関係しています。統一されれば、OS開発のターゲットハードウェアがひとつになります。今まではキャリアごとにバラバラで、バージョンアップが負荷になっていましたが、そこがまとめられるわけです。OSだけでなくアプリや細かい使い勝手の改善についても、まとめて対応できるというメリットもあります。

 宣伝したときに広まりやすいとか、アクセサリーなどのプロモーション効果もあるなど、マーケティングでも効率的で、いろいろな側面で支えになっています。昨年の「AQUOS R」発表時は、はっきりと申し上げませんでしたが、実は戦略を練った上でのことで、それが功を奏しています。

2017年のAndroidスマホ国内シェアナンバーワン(MM総研調査)

――なるほど。

小林氏
 「AQUOS R2」の発表会では、「AQUOS R」と「AQUOS sense」がそれぞれ100万台と説明しました。とはいえ、以前からシャープのスマートフォンは実績がありましたので、この数字も驚くほどの数ではありません。しかし「これだけ売れている」と感覚を共有できたのは良いと思ってます。

 そうした中でも、「AQUOS sense」シリーズは、これまでにないペースで売れています。「スマホ業界のユニクロになりたい」「リーズナブルでトレンドを押さえた製品が買えるようにしたい」という私たちのメッセージが浸透した結果だと思っています。

 とある調査によると、2017年はシャープがAndroidスマートフォンの国内シェアで1位になりました。ギリギリでしたが良い年になりました。

 「AQUOS R」を皮切りに商品を見直して、シリーズ再統合や商品性の見直し、顧客価値につながらないデバイス、機能をどんどんリストラクチャーして、本当に必要なものを洗練させた結果が出たと思っています。

AQUOSが重視する3つの要素

 AQUOSはディスプレイ、カメラ、AIの3つの要素に力を入れています。AIは他社さんも進めていますが、シャープは「人に寄り添うブランド」、つまり親近感があるブランドでいたいと思っています。身近な存在と感じていただきつつも最先端という方向を目指します。ですので、同じAI技術といっても、他社とは少し向いている方向が違うかな、と。そこが我々のブランドのオリジナリティとも思っています。

 「AQUOS R」では思い切っていろいろと刷新しました。でも、そのくらい思い切ったことをやらないと本当に使われているものが何かわかりません。お客さまの考えをヒアリングしつつ、うまく再構築できたと考えています。

――なるほど。本日はありがとうございました。

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