インタビュー

アプリとスマホで“美”を追求するMeitu

中国厦門の本社で首脳陣が語る市場拡大戦略

厦門のソフトウェアパークにあるMeitu

 「MakeupPlus」「BeautyPlus」「Meitu」といった“美”にフォーカスしたアプリを開発するMeitu。同社は中国市場向けにはセルフィ(自撮り)にこだわったスマートフォンの開発・販売も手掛けており、最近ではセーラームーンとコラボした端末の販売でも話題になった。

 本誌では、同社の本拠地となる中国・厦門(アモイ)で、Founder & CEOのXinhong Wu氏をはじめとする首脳陣にグループインタビューする機会を得たので、その模様をお伝えする。

プリクラやSNOWとも異なる「ナチュラル」へのこだわり

Founder & CEOのXinhong Wu氏

 Xinhong Wu氏は、「元々、写真が好きで、趣味でキヤノンとニコンのカメラを使ってモデル撮影を楽しんでいました。モデルさんたちから写真をきれいに修正して欲しいと言われたのですが、自分ではフォトショップを使いこなせず、そこでスマートフォン用のアプリを開発すれば、女の子たちも自分で修正できるし、自分も楽になると考えました。それが2008年、9年前のことです」と創業当時を振り返る。

 その後、2016年12月には香港市場に上場を果たすまでに成長したMeituだが、こうした成功の背景には女性ユーザーの美に対し、徹底的に満足度を追及してきたことにある。

Meituの人気アプリ「MakeupPlus」
左がフォトショップを使ってプロが加工した写真、右がMeituのアプリで加工した写真。髪の毛の質感が大きく異なる

 CTOのMitta Zhang氏は、「女性としては目の下のくまは消したいが、泣きぼくろは残したい。肌のしわなども解析して、消し過ぎないように工夫しています。一方で、チャームポイントの目を大きくするとか、個性をもっと大きくしたいというニーズもある」と、その難しさを語る。

 いわゆる美顔機能はセルフィをウリにした端末メーカー各社が最近取り組んでいるテーマだが、いじり過ぎると不自然になってしまうため、いかに人間らしい肌や髪の質感を保てるかが重要になるのだという。同社では、AI(人工知能)を活用して、これを実現。そうした細かい工夫の積み重ねにより、同社は女性からの支持を獲得してきた。

 「日本の最新のプリクラ機を買って研究したこともあるが、エンターテインメント性が高く、あれは昔のトレンド。今はもっとナチュラルなものが求められている」と語るのはプロダクト部門を統括するSenior Vice PresidentのBeigo Chen氏。同社のアプリは、SNOWなどと比較されることもあるが、目指すところが大きく異なっているのだという。

CTOのMitta Zhang氏
Senior Vice PresidentのBeigo Chen氏

理想のセルフィを追求したスマホも開発

Meitu M8のセーラームーンモデル

 そんな風に女性の心をつかんだMeituは、スマートフォンの開発も手掛けるようになる。インカメラに光学手ブレ補正付きの1200万画素のデュアルピクセルセンサーを搭載した「Meitu M8」をはじめ、同じく女性をターゲットにしたスマートフォンで注目されている。

 同端末は、オーソドックスなブラックやシルバーといったボディカラーは存在せず、ホワイト、ピンク、ブルー、レッドとカラフルで、ハローキティとのコラボモデルに加え、1万台限定のセーラームーンとのコラボモデルもあり、デザイン面でも女性が買いたくなる要素が満載だ。

Meitu M8のハローキティモデル
こちらはMeitu T8

 取材後に厦門市内のショッピングモールにあるMeitu Shopも訪れてみたところ、若い女性がセルフィを試している様子を確認できたが、店内はセルフィがきれいに撮れるように照明が明るく設定されている。また、普通の携帯電話ショップでは展示端末の脇にスペックシートが置かれていることが多いが、そうしたものは一切なく、スペックとは異なる評価軸でユーザーにアプローチしようとしていることが窺える。

厦門市内のショッピングモールにあるMeitu Shop
店頭の説明はシンプルで、セルフィを試しやすい環境

 日本発のキャラクターとのコラボがあるだけに、日本での端末販売にも期待したいところ。その可能性について尋ねたところ、Xinhong Wu氏は「考えたことはあるが、日本の市場で端末を販売するには、もっと品質を向上させる必要がある。今はまだ理想に達していないので、まずはアプリのを提供している。もちろん、将来的にはハードウェアの販売も行っていきたい」と述べた。

AIで新たなEコマースの形を模索

 勢いを増すMeituだが、上場企業となっただけに単にユーザーを増やすだけでなく、しっかりマネタイズし、収益を上げていくことが課題になる。

Meituのアプリは世界で11億ダウンロードを記録
アジア圏で高い人気を誇る
CFOのGary Ngan氏

 Xinhong Wu氏によれば、2016年はハードウェア販売が売上の95%を占めており、ソフトウェア(アプリ)からの売上を増やしていく必要があるという。CFOのGary Ngan氏も「テックカンパニーとしては、端末の売上が大きいというのは複雑な気持ちなので、アプリでしっかり稼げるようにしていきたい」と語る。

 その鍵となるのが、AIとEコマースだ。“美”に関心がある女性という明確なセグメントがあるため、美容やコスメといった業界からの広告出稿も多い。「MakeupPlus」では、メイクアップをアプリ上で試した上で、ECサイトに誘導し、購買に結び付けるというような取り組みも行っている。

 Xinhong Wu氏は、それを突き詰めて、「自分だけのオリジナルブランドとなるような、パーソナライズドされた化粧品や洋服などを提供していきたい。ユーザーが自分だけのものを友達に紹介することもブランディングの一つで、今までとは全く異なるEコマースの形を実現したい」と語る。

Global Managing DirectorのFrank Fu氏

 また、Global Managing DirectorのFrank Fu氏は、同社の技術の応用例としてヘルスケアや医療分野での「肌診断」を挙げる。皮膚科に行くと医師が目視でチェックしているが、カメラやAIといった技術の進歩により、より高いレベルでの診断が可能になり、さらにスマートフォン1台で診断できれば、通院せずに自宅でも診断可能となり、プライバシーの面でもメリットが出てくるという。

 コストパフォーマンスでの優位性を武器に戦う中国企業が多い中、アプリ、スマートフォン、Eコマースの各分野をそれとは別の競争軸で伸ばしていこうとするMeituの取り組みは大変興味深い。アプリについてはすでに日本でも利用できるようになっているが、同社製のスマートフォンの上陸にも期待したい。

Meituのオリジナルキャラクター「Meitu Family」
さまざまなキャラクターグッズも販売されている