【ワイヤレスジャパン2012】
KDDI、「auスマートパス」導入の狙いと今後を説明


KDDI 執行役員 新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部長 雨宮 俊武氏

 東京ビッグサイトで開催されている「ワイヤレスジャパン2012」で31日、KDDI 執行役員 新規事業統括本部 新規ビジネス推進本部長の雨宮俊武氏が講演。「コンテンツへのパスポート ~auスマートパスを中心とした事業戦略~」と題し、スマートフォン向けサービス「auスマートパス」の詳細と今後の展開などを語った。

2015年度のトラフィックは2010年度の25倍に

 雨宮氏はまず、同社におけるスマートフォンの出荷状況について説明した。2010年度はフィーチャーフォンを含めた全出荷台数のうちスマートフォンが占める割合は20%程度だったものの、2011年度には50%に拡大。2012年度は60%を超えると見られ、さらに契約数ベースでは、2014年度に全ユーザーの過半数がスマートフォンになると予測している。また、2011年3月時と12月時との比較では、Android端末の躍進が著しく、20%近くシェアを拡大。iPhoneを大きくリードし、現在はさらにその差が広がっているという。

2011年度にスマートフォンの出荷台数は50%を超えた2014年度にはユーザーの半数以上がスマートフォンになるという

 KDDIの予測では、利用者の増加によってスマートフォンによるトラフィックが2015年度には2010年度の25倍に達すると見込んでおり、同氏は「このトラフィックをどのように処理していくかが、キャリアにとって非常に大きな課題」であるとした。対策の1つとして、Wi-Fiネットワークへのオフロード、つまり、3Gなどの携帯電話網を利用した通信をいかに効率よくWi-Fiネットワークへ逃がすか、という方法を紹介。たとえば朝方と夕方の通勤時間帯は駅付近のトラフィックが増加するため公衆Wi-Fiへオフロードさせ、深夜から早朝にかけての時間帯は宅内のWi-Fiにオフロードさせる、といった対策をKDDIとして行っていくという。

2015年度にはスマートフォンのトラフィックが2010年度の25倍にまで上昇高トラフィックに対応するには、Wi-Fiネットワークへのオフロードが重要となる

ユーザーの声を反映した「auスマートパス」のサービス

アイテム課金の割合、金額ともに急激に拡大してきている

 次に、同社Androidスマートフォンユーザーにおける有料コンテンツの利用単価の推移をグラフで示した。2011年1月から2012年3月まで、従量課金の額に変化はほとんど見られず、月額課金についてもわずかな増加に止まっているが、アイテム課金の割合が急速に増し、総額を大きく押し上げていることがわかる。従来型の月額・従量課金による売り上げ増がそれほど見込めない中でも、ゲーム関連アイテムなどの「価値あるコンテンツを用意できればビジネスになる」と、同氏は新たな収益源の拡大に期待感をにじませた。

 また、有料アプリやセキュリティに対するユーザーの意識調査の結果も公表。アプリ料金が理由でダウンロードを諦めたことがあるユーザーが7割存在し、定額でアプリをダウンロードし放題のほうがありがたいと感じているユーザーが4割超という結果で、同社が「auスマートパス」における“アプリ取り放題”を開始した理由を裏付けるデータとなっていた。

 さらに、「auスマートパス」ではトレンドマイクロの「ウィルスバスター」を提供するなどセキュリティにも配慮したアプリやサービスの提供も行っているが、こうした施策の根拠となるアンケート結果も公表した。スマートフォンの安全性に関するユーザーの意識調査によれば、「セキュリティに対して不安がある」、「セキュリティ対策済み、あるいは対策したいと考えている」と答えたユーザーの割合が圧倒的に多く、セキュリティ対策を行っていない理由としては、「何をすればよいかわからない」という声が多数を占めていることがわかった。

アプリについてはやはり利用料金がネックになっているセキュリティに対する一般ユーザーの意識は低くはないが、対策方法がわからない人が多い

「au ID」を中心とした「3M戦略」を推し進める

「3M戦略」によって事業環境の変化に対応しながら成長を目指す

 雨宮氏は、「事業環境が変化し、1人で複数の端末を所有するマルチデバイス化に対応するためにも、オープンなネットワーク、オープンな世界にマッチしたビジネス戦略を考えなければならない」と述べ、移動体通信網・固定通信網を1社で提供しているというKDDIの強みを活かし、同社の掲げるマルチデバイス、マルチユース、マルチネットワークにフォーカスした「3M戦略」を推進していくことを改めて強調した。

 さらに、「ユーザーを回線にひもづけるのではなく、どのデバイス、どのネットワークでも使えるようにならないといけない」と同氏。これまでは1人1つの電話回線を前提とした事業モデルになっていたが、これからはユーザーの“ID”が中心になるという。1人のユーザーが複数の端末や複数のネットワーク回線で、多数のサービスをシームレスに利用できるようにする環境、これを「au ID」によって実現するというわけだ。直前に行われたNTTドコモの講演でも同様の発言があったことからも、キャリアとしてはこういった“ID”をベースにした考え方に完全にシフトしていっていることがわかる。

「au ID」によって、マルチデバイス、マルチネットワーク、マルチユース(サービス)のシームレスな連携を実現する

 こうした事業環境の変化に対応するだけでなく、前段で述べたような有料アプリとセキュリティに対するユーザーの意向にも応えるため、同社では「スマートパスポート構想」を掲げるに至った。「スマートパスポート構想」は、料金割引サービスである「auスマートバリュー」と「auスマートパス」、そしてその二つを支える「au ID」という3つのファクターから構成されるものだ。

 ここで同氏は、「auスマートバリュー」と「auスマートパス」の契約状況について報告した。「auスマートバリュー」は5月11日に100万契約を突破し、「auスマートパス」も5月9日に同じく100万契約を突破。今後は数千万規模の契約数を目指すとしている。

今後は「○○パス」のラインナップ拡大を図る

厳選した500の“取り放題”アプリは、その性質によって4種類に分類している

 「auスマートパス」の目玉ともいえる、月額390円でアプリをダウンロードし放題というサービスにおいては、同社が厳選した500以上のアプリを現在提供しており、アプリの性質によってそれぞれ“レベニューシェアモデル”、“無料モデル”、“Cools apps”、“フラッグシップサービス”の4つのモデルに分類している。

 このうち“レベニューシェアモデル”では、アプリ提供元のコンテンツプロバイダーに対して最初に一定額をKDDIが支払い、その後ダウンロード数の増加に応じて段階的に収益を分配するという形になっている。「我々がスタート時に原資を提供することで、コンテンツプロバイダーにとっても負担の少ない、ビジネスにしやすいモデルになっている」と、同社独自のレベニューシェアモデルに自信を見せる。

 その他、“フラッグシップサービス”は日常的に使われることの多いジャンルのアプリを、“Cool apps”は主に海外アプリやスタートアップ企業によるアプリをそれぞれ分類。特に“Cool apps”ついては、2012年2月に立ち上げたばかりの「KDDI Open Innovation Fund」と「KDDI∞Labo」との協力により、先進的な機能を備えた斬新なアプリを中心に取り込んでいるとのことで、これらのコンテンツプロバイダーに対して積極的に出資や開発支援、経営サポートなどを行っているという。

「auスマートパス」の“レベニューシェアモデル”では、最初に一定額をCPに支払うところがポイント「KDDI Open Innovation Fund」と「KDDI∞Labo」は、主にベンチャーのコンテンツプロバイダーにコミットする

 「auスマートパス」では、今後さらなるアプリの拡充を図るとともに、タブレットにも対応予定。また、6月中旬に「うたパス」が、夏以降に「ビデオパス」がそれぞれ開始予定となっている。いずれのサービスも定額で洋楽・邦楽、ビデオを見放題となっており、「ビデオパス」ではレギュラーコンテンツ以外にも話題の最新映画を毎月1本見られるほか、追加料金を支払うことでより多くの映画も視聴できる仕組みになっている。

「ビデオパス」は月額590円。数々の人気タイトルを好きなだけ視聴できる他社のビデオコンテンツとの比較。特に対応デバイスやラインナップの面で優位性があることを強調
「うたパス」は月額315円。ソーシャルサービスとの連携ももちろん盛り込む「auスマートパス」自体の拡充も予定。タブレットに対応し、映画・音楽のフリートライアルも開始する

 同氏は「こういった○○パスをこれからもどんどん増やしてユーザーの拡大を図りたい」と語り、「auスマートパス」に加えて他のサービスも同時に利用してもらうことで、ARPUの向上を図る計画だ。




(日沼諭史)

2012/6/1 11:57