【WIRELESS JAPAN 2011】
UQ野坂社長、「次世代インターネットの本命を目指す」


UQコミュニケーションズの野坂社長

 「WIRELESS JAPAN 2011」初日の基調講演セッションで、UQコミュニケーションズの代表取締役社長の野坂章雄氏は、「WiMAXはNEXTステージへ-WiMAXによる豊かな社会の実現に向けて-」と題した講演を行った。

 野坂氏はまず、3月の東日本大震災によるUQのネットワークへの影響を説明する。震災により、3月11日には2000局のWiMAX基地局が停波したが、その後、電源と中継回線の回復により急速に復帰したという。とくに津波の被害にあったと思われる基地局について写真付きで紹介し、「この基地局は水をいったん水をかぶったが、電源が回復したら復帰した」とし、復帰が早いことを強調。5月中には立ち入り禁止になっている場所を除いてすべて復旧するということも明らかにした。

震災時に被害があったWiMAX基地局

 震災直後の通信状況についても、WiMAXは規制などはなく通信できたことをアピール。震災後は避難所にWiMAX内蔵パソコンを配布するなどの活動を行なったことも紹介した。

 UQコミュニケーションズの現状については、昨年度末に80万契約を達成し、6月には100万契約に達する見込みであることを説明。この原動力としては「いろいろあったがWiMAXルーターが大きかった。とくに昨年末発売のAterm WM3500R(NECアクセステクニカ)と同時期に開始したUQ Flat年間パスポート(UQの年間契約割引)のおかげで一挙に伸びていった」と紹介。さらに「今年4月にはKDDIがHTC EVOを発売したので、これらがドライバとなり、年度末には200万契約を目指している」との見込みも語られた。

 また、WiMAX内蔵パソコンについても、契約率が向上していることを紹介。野坂氏は「これも非常に大きなドライバと考えている。30%くらいになっているので、今後もこれを向上させていきたい」と語った。

 こうしたUQの足下を紹介しつつ、野坂氏は「WiMAXが実現する価値」について言及する。野坂氏はWiMAXのコアとなる要素として、「スピード」「料金」「デバイス」「エリア」の4つを挙げる。

 まず野坂氏は「2010年度はブロードバンドワイヤレスアクセス(BWA)元年だった」と振り返る。昨年度は11月にイー・モバイルのEMOBILE G4、12月にNTTドコモのXi、2月にソフトバンクのDC-HSDPAサービスが開始されるなど、UQにとってはライバルが増えた年度だったが、野坂氏は「こうしてBWAの市場が広がることは、UQにとって良いこと。UQは昨年度、震災を経ても目標だった80万契約を達成した」と語る。その背景として、「ワイヤレス環境でブロードバンドを使うニーズとして、デバイスの進化が大きく影響した。その典型がiPad。こうしたものの登場により、BWAの需要が爆発的に伸びていった」と説明する。

他社サービスとの比較

 ライバルとの比較については、BWA分野における他社との比較表を示し、速度、料金、デバイスの種類、エリアのいずれでも、「UQがいけているのでは」と優位性をアピールする。

 速度については、実行速度の高さをアピール。野坂氏は調査会社がWiMAXとEMOBILE G4、Xiの実測比較をした結果の表を示し、「みんなシステム速度で言うが、実際のフィールドは大きく違う。おしなべて上り・下りともにUQが有利と見ていただけると思う」と説明した。こういったこともあり、顧客満足度の調査でもBWA分野ではトップクラスであることも紹介した。

各社BWAの実測速度比較顧客満足度
大学採用事例

 UQ WiMAXの利用事例としては、まず引っ越し時に工事なしでブロードバンド環境を利用できる利点があることを挙げる。とくに野坂氏は、KDDIの中国総代表として海外勤務歴があり、「昨年中国から日本に帰ってきたとき、WiMAXを使ってみたら、非常に便利だった。充電さえできればフリーで使えるという良さがある」と実体験を元にWiMAXの便利さをアピールした。

 大学への導入事例としては、慶應大学の湘南藤沢キャンパスにおいて、イントラネットとWiMAXを相互接続していると紹介する。WiMAXは機器固有のMACアドレスで認証する仕組みを取っているが、この仕組みを利用し、WiMAX回線を使うことで、IDやパスワードの入力なしに湘南藤沢キャンパスのイントラネットに入れるようなシステムを構築したという。これに合わせ、今年5月の入学式でもWiMAXの販促を行なっていて、「湘南藤沢キャンパスの学生たちがWiMAXの良さを伝道してくれれば、と思う」と述べた。

 さらに海外での利用についても、WiMAX端末がそのまま米国と韓国のエリア内でも使えることを紹介。野坂氏は、「今後もアジア地区に拡げていきたい」とも語った。

海外での対応プロモーションには青いガチャピンとムックを採用
今年度のエリア展開

 2011年度の取り組みとして、まず野坂氏はエリア展開について説明する。野坂氏は「昨年3月で7000局だったが、昨年度末には1万4000局にまで持ってこられた。実人口カバー率は71%になり、東名阪に限れば99%になった。これをこのペースのまま頑張り、今年度末には2万局にまで持って行く」と目標を示す。一方でエリア展開の方針については、「携帯電話と異なり、全国くまなくではない。メリハリを利かせる。とくに交通路線と地下街に対策を打つ」とも説明する。

 まず交通路線については、すでに成田エクスプレスの新型車両にWiMAXとWi-Fiのレピータを搭載していることを紹介。今後もこのように電車の車内のブロードバンド化を進めるという。とくに地下鉄については、駅ホームの端からトンネルに向けて電波を吹いて駅間をエリア化する対策を、都営地下鉄と都営メトロで2011年度中に実施することに基本合意したことを紹介。同様の対策はJR東日本の総武線快速、東京駅から錦糸町駅の間で実施していることもあわせて紹介された。

地下鉄の駅間エリア化地下街のエリア化も進める

 また、通信の高速化についても、上り側通信について、現状16QAMの符号化方式を64QAMとすることで、理論速度は10Mbpsから15Mbps、実行速度で5Mbpsから7.5Mbpsへと改善がはかられるという。

WiMAX 2の特徴

 野坂氏は次世代のWiMAX、いわゆるWiMAX 2についても紹介する。UQでは7月にフィールドテストを行ない、2012年度中に製品化することを目指しているという。WiMAX 2はさらに高い周波数効率を持つWiMAXの新方式で、4x4のMIMOで40MHzの帯域幅を利用したとき、下り速度最大330Mbpsを実現する。すでにIEEE802.16mとして標準化が終了し、総務省による技術審議が開始されているという。現行のWiMAX(IEEE802.16e)との互換性もあり、互いの基地局とも通信可能で、16mの基地局に16mの端末が繋がったとき、16mの高速な通信が可能になる仕組みになっている。

技術スペック互換性について
広がるWiMAXの利用先

 野坂氏は今後のWiMAXの用途として、機械間の通信、いわゆるM2Mにも広がるとの考えを示す。実際の利用例としては、カラオケシステムにWiMAXを採用している事例を紹介。さらに検討中の応用例として、電力の消費量と発電量をネットワークで管理する、いわゆるスマートグリッドを挙げ、すでに米国でWiMAXを使った実証実験が行われていることも紹介した。

M2Mの事例スマートメーター
UQのビジネス戦略

 また、UQのWiMAXが携帯電話事業者と異なるビジネスモデルを採用していることによる展開についても紹介する。UQのWiMAXは水平分業型でビジネスを展開しているため、通信事業者ではなく、デバイス側が料金を収受することが可能だという。

 その例として野坂氏は、Amazonが展開する「Kindle」を挙げる。Kindleは通信料金をユーザーから徴収せず、コンテンツの売上から通信コストを出している。野坂氏は「こうしたものも考えないといけない。このようなビジネスに興味を持った方は、お声がけいただきたい」とビジネスパートナーを広く募っているオープンな姿勢をアピールした。

 さらに特殊な応用例としては、WiMAXが持つMACで認証できるという仕組みを使ったフォトフレームの例を紹介する。野坂氏は「フォトフレームを出荷するとき、MACアドレスにサービスをひも付け販売する。フォトフレームにはキーボードがないのでIDやパスワードは入力できないが、WiMAXなら無線でアクセスした瞬間にMACアドレスで自動で認証できる。このように、いままではオンラインサインアップでキーボードやディスプレイが必要だったが、WiMAXはネットワークにアクセスするだけで契約ができる。こういった仕組みを使った製品についても、今後デバイスメーカーとお話できれば、と考えている」と語った。

Kindle型のビジネス例WiMAXの認証システムの応用例

 最後に野坂氏は、「UQはインフラ屋。目指すことは、全国にWiMAXネットワークを構築し、高速BWAを実現すること。なんちゃってインターネットではなく、次世代インターネットの本命を目指す」と述べて、講演を締めくくった。




(白根 雅彦)

2011/5/26 11:14