【Mobile World Congress 2018】

リチャード・ユーCEOが語るファーウェイの戦略

「強みは通信技術。あと1~2年で世界シェア2位に」

 日本では、SIMフリースマートフォンの分野でトップシェアを誇るファーウェイ。最近では、auから初のスマートフォンとなる「nova 2」が発売されるなど、その勢いを増している。グローバルではシェア第3位につけ、2位のアップルや1位のサムスン電子を猛烈に追い上げている。そのファーウェイの端末部門を率いるのが、コンシューマー・ビジネス・グループのCEO、リチャード・ユー氏だ。Mobile World Congress 2018では、そのユー氏が日本の報道陣とのグループインタビューに応じた。

報道陣からの質問に答えるリチャード・ユーCEO

――世界的にシェアを伸ばしているが、アップルやサムスンにない強みは何だと見ていますか。

ユー氏
 弊社は通信を本業にしていて、強みとしています。たとえば4Gから4.5Gの時代になり、Mate 10 Proは世界で初めて4.5Gに対応することができました。このスマートフォンだけで、速度は1.2Gbps出ますが、発表当時では他社を半年から1年先行していました。5Gを迎える中、他社に先駆けて製品を出していけるのは強みです。

 ファーウェイは、グローバルでもたくさんのネットワークを手掛けていて、通信に対しても深い理解を持っています。自社でチップ、モデムも開発して、そのネットワークと互換性を持たせることもできます。アジアの企業に対しては、ソフトウェアが強みになり、アーキテクチャーやシステムデザインに長けています。自画自賛になってしまいますが、そういったところは勝っていると思っています。

 ほかのアジア企業と比べると、弊社は工業デザインやユーザーインターフェイスのデザインにも長けていると思います。韓国人や台湾人など、自国の人を登用してデザインしているところは多いですが、弊社は欧米に専用のチームを立ち上げ、いいところを取り込んでいます。フランスのパリや、イタリアのミラノ、イギリスのロンドンにも拠点を作っています。

 一方でアメリカの企業と比べると、ハードウェアが強みになります。アジアメーカーはハードウェアを得意としているところが多いですが、そういった面ではアメリカ企業よりも先進的な技術を実現しやすいと言えます。

 ただ、社名は申し上げられませんが、アメリカの企業(アップルのこと)には見習うところもあります。どう新しいビジネスモデルを作るといったエコシステムの構築の仕方や、ソフトウェアのイノベーション力が強いですね。

 ほかの企業と比べたときに、我々の長所といえるのは、勤勉で向上心があるところだと思います。ほかのアジア企業とは違い、弊社はいろいろな国から人材を招き入れ、マネージメント層にも入れて活躍してもらっています。今後も、それは強みになると思います。

 さらに成功の秘訣をお話しますが、弊社は欲張りではありません。パートナー企業とともに儲けが出るよう、利益を共有しています。ここでいうパートナーとは、サプライヤーだけでなく、生産、製造、リテールの分野ともしっかり利益を分け、ともにビジネスの成功を背負えるようしていいます。ですから、弊社は利益率が低く見えるかもしれませんが、これが長期的な発展につながります。

出荷台数を年々伸ばし、2位のアップルに迫りつつあるファーウェイ

――アップル、サムスンを超えることを宣言していましたが、いつ頃を目標にしているのでしょうか。そのうえで、足りないものは何だとお考えですか。

ユー氏
 一番足りないのはブランドです。この分野に参入してからほんの数年しか経っておらず、当初は中国市場だけで、シェアトップ10にも届きませんでした。数年でグローバルトップ3の地位は確立できましたが、どんどんいろんなことを吸収していきたいと思います。

 やはり、人より優秀になろうという目標がなければ、追い抜くことはできません。中国にはこういった言葉があります。「上を目指すと中で終わる、中を追い求めると下になってしまう」という趣旨の言葉です。1位を目指すと2位、3位になることはありますが、最初から2位や3位を目指すと、さらに下になってしまう。ですから、常に1位を追い求めなければならなりません。

 元々私は無線ネットワーク部門のトップでしたが、当時は競争力も低かった。そのあと、業界のトップであるエリクソンを抜き、今ではアメリカ市場に入っていないにも関わらず、売上、利益で世界1位になっています。

 この数年間はコンシューマー・ビジネス・グループに移り、端末を見ていましたが、こちらでも当初は利益がなく、ブランドもないと、ないないづくしでした。みんなを率いて目標を立て、それを実現しながら今日まで来ることができました。

 その上でいつ1位になるのかというお話ですが、私が答えるのはふさわしくないかもしれません。あくまで期待として聞いてほしいのですが、この1~2年で2位にはなれると考えています。1位になるには、そこからさらに4~5年はかかるかもしれません。ただ、それがさらに早まったり、遅くなったりする可能性はあります。

 業界でライバルを追い抜くのは、非常に難しいことです。消費者に信頼されるブランドにしなければいけないですし、チャネルやサービスもしっかりやり、常に革新的な製品を出して優位性も出さなければならない。ライバルより優れた新製品を出し、消費者に気に入られることは一番重要です。

――日本のメーカーは、軸足をB2Bに移しているところが多い。ファーウェイはどうでしょうか。

ユー氏
 日本の企業がB2Bをやっていくのであれば、我々はB2Cをやっていきます。むしろB2Bに力を入れる日本の企業と一緒に、グローバルに進出していきたいですね。

 B2Cは確かに難しい分野で、マーケティング、ブランディング、チャネル、リテールなど、各方面をしっかりやらなければいけない。国が違えば、文化も違います。それを理解して、消費者の琴線に触れるアプローチを考える必要もあります。私のファーウェイ人生のうち、18~19年はB2Bの仕事をしていますが、B2Cに移ってからは一気に難易度が上がりました。

――日本ではキャリア向けビジネスを拡大しています。一方で、アメリカ市場は開拓できていません。この点はどうお考えですか。

ユー氏
 日本の各キャリアとは、非常にいい関係を築き、お客様のために価値を創出しています。品質、サービス、安全性をしっかり確立することで、価値を作れます。日本市場ではファーウェイの革新性が強みとなり、キャリアにとっての価値も作り出せています。

 一方で、アメリカ市場に関しては、ライバルが恐れをなし、政治の力を使って我々を排除しようとしています。弊社は170以上の国や地域で事業を展開しているのに、その国にだけ問題があると思われているのが、どうしても理解できません。問題視しているところを明確にしてもらえば反論のしようがありますが、それもありません。

 弊社は中国を本拠地としていますが、中国企業ではなく、あくまでもおグローバル企業です。年間売上の60%が中国以上の市場からのものですし、我々の社員やマネージメント層、販売拠点も各地に分散しています。グローバル企業として、各国から優秀な人材も取り込もうとしています。

 ファーウェイは設立から30年経っていますが、私はそのうちの25年、この会社にいて、変化を見てきました。入社当時はただの中小企業でしかありませんでしたが、最初からグローバル企業を目指していました。どこかの国の政府や団体と深い関係を築くようなことはありませんでしたし、これからもそれはありません。

 管理手法も非常に現代的なものを取り入れていますし、各国でビジネスを展開する際には、必ずその国の法律や文化に則って展開しています。私たちは、その国で尊敬される企業になりたいと考えているからです。

 どの国に進出しても、政治に深く関わることはありませんし、我々の本業はビジネスです。しっかり本来やるべき製品やサービスをやっていくことが大切だと考えています。

――スマートフォン、タブレットに加えてノートPCを出し、ビジネスを広げてきましたが、次の一手はどうお考えですか。

ユー氏
 最終的な目標は、あらゆるシーンでのエクスペリエンスを提供することです。日常生活やビジネスなど、様々な場面でニーズを満たしていきたいと考えています。たとえば、家の中ではタブレットを使っている方や、Windows PCを使っている方、Macを使っている方などさまざまですが、スマートフォン、ウェアラブル、タブレット、車載デバイスなどをエンドトゥエンドで提供していきたい。これらのさまざまな製品とサービスを、ファーウェイのアカウントで一気通貫に紐づけていきたいと考えています。

MWCで発表されたMateBook X Pro

 MWCで発表したMateBook X Proも、非常に使い勝手のいい製品で、究極のデザイン性を備えています。部品単位でCPU、GPU、スピーカー、バッテリーと比べても、ほかより優れていますし、指紋認証機能もあります。今、業界の中では、もっとも先進的なWindows PCだと思います。世界初のフルビュースクリーンを作りましたが、ここにはジャパンディスプレイの最新技術を使わせていただきました。タブレットに関してはエンターテイメント性に優れたサウンド体験を提供しています。

 よく「なぜPCを作るのか」と聞かれます。確かにPCは、いわゆるレッドオーシャンなマーケットです。ただ、スマートフォンはレッドオーシャンどころか、血の海と言えるほど競争が熾烈です。その血の海を泳いできたので、レッドオーシャンぐらいはなんでもないだろう(笑)。そう考えています。

 先ほど申し上げたあらゆるシーンでのスマート体験を実現するためにも、PCは欠かせません。PCだけでなく、新たな分野に進出した場合でも、ベストな製品を作る意気込みがあります。参入したら、その分野のために、革新的なものを提供し、さらなる価値を創出しなければなりません。

――もう少し短期的な未来として、スマートフォンはどう進化するとお考えですか。ファーウェイはデュアルカメラの先駆けですが、カメラを3つにするか、それともAIなのか。今後の方向性を教えてください。

ユー氏
 AIは間違いないでしょう。カメラに関しては、2つでも3つでも、しっかり性能を高めていかなければなりません。最終的には、キヤノンのEOS 5Dのような、専門性の高い一眼レフに匹敵するものにしていきたいですね。

P20、P20 Proは3月37日(現地時間)に、フランス・パリで発表される

 3月27日は、次世代のP20、P20 Proを発表する予定です。そこに搭載されるカメラは、非常に優れた機能になります。韓国の会社(サムスン)やアメリカの会社(アップル)と比べても、大幅に性能は勝ることになるでしょう。これは、日本のパートナー企業と協力して、実現できたものです。

 ファーウェイは、これまで一眼レフでしか使えなかった機能や性能を、少しずつスマートフォンで実現していきたいと考えています。そのためには、カメラセンサー、カメラモジュール、ISP(イメージシグナルプロセッサー)、さらに複数のレンズを合わせたときのアルゴリズムにまで、高いレベルが求められます。さらに、AIの処理能力も加えていきます。非常に難易度は高いことですが、この分野に関しては、常に他社に先行していきたいと考えています。

 発表会は3月27日にパリで行う予定です。こうご期待ください。

――本日はありがとうございました。