【Mobile World Congress 2014】
エレコム葉田社長に聞く、その海外戦略は
(2014/2/27 18:22)
エレコムは昨年に引き続き、今回もMobile World Congressにブースを出展している。同社は、世界各地でショップを立ち上げ、スマートフォンやタブレットのアクセサリーを中心に海外へ進出。その海外展開のテーマは「Japan Design」で、展示ブースは“ジャパンクール”を感じさせるデザインとなっていた。
ブースの中央には企画中の製品として、USBメモリやUSBケーブルといったシンプルなものから、Bluetoothスピーカー、発表されたばかりの海外からの渡航者向けのプリペイドSIMカードなどが展示されている。
USBメモリやUSBケーブルはユニークなデザインのものが多く、とくにクマ・ネコ・オットセイのデザインのUSBメモリは来場者にも人気とのことだ。
円形に配置された展示物の中央には、開発中のBluetoothスピーカーが展示されていた。これは自転車向けの製品で、自転車のヘルメットのバンドに面ファスナーで固定する。耳に塞がないので、自転車に乗りながらでも利用できるというわけだ。欧州では自転車競技が盛んなこともあり、プレスの関心も強かったという。
エレコムが進める海外事業
会場では、エレコム取締役社長の葉田順治氏にインタビューする機会を得た。同社の海外事業展開を聞いた。
――まず去年からの変化は。
葉田氏
たくさんあります。海外展開がスピードアップしました。いままでに約30店舗がオープンしています。
――「ジャパンデザイン」をテーマにされた展示ですが、なぜその切り口なのでしょうか。
葉田氏
僕、ヨーロッパが大好きなんです。創業当時、イタリアに行って、そのデザインに衝撃を受けました。それで、“イタリアデザインを学んでイタリアデザイン(の製品)を作ろう”、と考えました。しかし数年前、東南アジアで高い日本製品を買う女の子を見かけました。何で買うの、と聞くと「クールジャパン」と言われて、そこではっとするという経験をしました。
――去年~今年にかけて、海外では、どうだったのでしょうか。
葉田氏
欧州はほどほどにして、現在は東南アジアと中南米に注力しています。欧州のキャリアなどからも引き合いはあるのですが、東南アジアと中南米で自社ショップ展開をやっているところです。
――地域を絞った理由は?
葉田氏
欧州市場は成熟していて、競合相手もいます。一方で1人あたりのGDPが3000ドルを超える新興国は、いま消費が増えています。ITがない状況から一気に変わっているので、パソコンもタブレットもスマホも売れています。そこで「拡散していた展開エリアを絞ろう」と考えました。とくにうまくいっているのはベトナムとブラジルです。うまくいっていることをうまく行え、ということで、ここに注力しています。
――地域・国ごとに「この製品が売れる」といった傾向はあるのでしょうか。
葉田氏
たとえば服飾品、アパレルは、それぞれの商品に個性がありますが、USBやWi-Fiは規格が一緒です。新興国でもそれは変わりません。カラーなどで売れ筋の違いは若干ありますね。
――ブース内に展示されていた各国のショップの写真を拝見しましたが、ショップの形態がバラバラという印象を受けました。これは地域ごとの売り方をされているのでしょうか。
葉田氏
まだ海外展開し始めて2~3年なので、いろいろなことを試しています。つまり統一するのはまだ早いと考えているのです。何が売れるのか、見さだまったわけでもありません。個々の製品にメッセージはありますが、お店のメッセージはまだフィックスするつもりはありません。
――先日、海外から日本に来る観光客向けのプリペイドSIMカードを発表されましたが、この商品も各地のショップで売るというイメージですか?
葉田氏
そうですね。国際ローミングは高価なので。ところがこれを発表した途端、大手の旅行代理店から「扱わせてくれ」との声が届きました。
――その商品は海外の人が日本で使う、インローミングの商品になるかと思いますが、そのあたりで日本人ユーザー向けに何か予定はありますか。
葉田氏
現段階では言えませんね。ただ(25ドルスマホがアナウンスされた)Firefox OSフォンじゃないですが、今年は価格相場が崩れる気がしています。
――価格破壊をエレコムがやっていくのでしょうか?
葉田氏
経済の原理原則に基づき、自然に、正しいコストに収斂すると考えています。
――ハードウェアというよりサービス方向をやっていきたいと?
葉田氏
うちはもともと、初期のパソコンの時代からサードパーティとして周辺機器を作り、サポートをやってきました。そうしたことが自前で出来るので、自分たちで検証してサービスを提供するようなことも可能です。
――海外ではいろいろなショップを展開しているとのことですが、これを日本に持ってくる可能性は?
葉田氏
できないと思っています。やりたい方がいればいいかもしれませんが、自分たちで、という形態はやりません。すでに量販店の一部はエレコムショップのようになっていますから、彼らと一緒にやっていきたいと思います。
――東南アジアや中南米とのことですが、たとえばバンコクであるショップを覗いてみると、とても安価なスマートフォンケースが販売されています。一方、日本の量販店などではMFi(Made for iPhone)認証を通ってないようなLightningケーブルはなかなかお目にかかりません。ユーザーがアクセスする商品の品質レベルが違う印象です。
葉田氏
その通りでした、いままでは。ケーブルだけでも、品質レベルは25種類くらいあります。われわれは上の方の商品を扱っています。新興国でもビジネスマンや高所得層を相手にするイメージで、販売店もそういったロケーションに展開しています。
――そういった層が新興国で増えているということでしょうか。
葉田氏
増えています。びっくりするほどです。
――ベトナムが好調とのことですが、アプリ開発といった界隈でも、以前は中国が中心的だったところ、ベトナムに拠点を移すケースがあるようですね。
葉田氏
ベトナムとフィリピンですね。東南アジアはよいのですが、中南米はちょっと怖いです。
――海外では日本の常識は通用しませんね。バルセロナでも毎年、MWC期間中に日本人関係者が何らかの犯罪の被害にあっています。
葉田氏
僕はしょっちゅう海外に行きますが、安全なところなんてありませんね。バルセロナも危ないところは危ないです。中南米なんかは、展示会場に降りた途端に拳銃を突きつけられて身ぐるみを剥がれた、とかあるそうです。
――そういった中南米でどのようにビジネスを展開されるのでしょうか。
葉田氏
エレコムは実は海外で大きな損をしています。日本でナンバーワンだから海外でもうまくいく、なんて考えません。基本的には自前でやらずに、共同資本か代理店を活用します。
たとえば中南米でのビジネスパートナーは、ほとんど30代です。しかもスペイン語もポルトガル語も日本語もしゃべれる人がいたりします。そんな人、日本じゃ雇えません。また現地の人だから「どこにいっても安全」と言います。現地の人は圧倒的ですね。事務所や倉庫を確保するのも、スタッフを雇うのも、スピード感が違います。スピードを上げるために、パートナーや合弁、現地の力関係に合わせた体制を構築しています。
――基本的に、日本からは人を派遣していないのですか?
葉田氏
基本的にはパートナーシップです。出張ベースで定期的に海外に行っていますが、日々のコミュニケーションはメールです。そう徹したところ、非常にスピードアップしました。
――日本と海外、どちらが儲かるのでしょうか。
葉田氏
売上が上がれば、海外の方が利益が大きくなりそうですね。
――アクセサリー商品は回転も速く、作る側は大変という話も聞きます。
葉田氏
エレコムで、アクセサリーの売上は(全体の)3割程度です。ケースだけに依存した収益構造ではありません。今はルーターや周辺機器が伸びています。一方で1月はアクセサリーで多くの返品がありました。やはり陳腐化が早いですね。小規模なアクセサリーメーカーは淘汰されていくのではないでしょうか。
――なるほど。本日はお忙しいところありがとうございました。