【Mobile World Congress 2014】
「Xperia Z2は難しかった」、ソニーモバイル黒住氏が語るその狙い
(2014/2/26 16:39)
Mobile World Congressで、ソニーモバイルは「Xperia Z2」「Xperia Z2 Tablet」「Xperia M2」の3機種を発表した。また、年頭に米・ラスベガスで開催されたCESでコンセプトだけをお披露目していた「Core」や「SmartBand」を、正式に発表した。こうした製品のコンセプトを、ソニーモバイルでUX商品企画統括部長兼クリエイティブディレクターを務める黒住吉郎氏が語った。
フラッグシップモデルのXperia Z2を、「本当に難しい商品だった」と語る黒住氏。その理由は、「IFAで『One Sony』を打ち出し、象徴的な商品としての『Xperia Z1』を発表してから、わずか6~7カ月しか経っていない」ことにある。「できのいいお兄さんがいる弟が大変なようなもの」で、コンセプトや端末の完成度に黒住氏が自信を持てるようになったのは去年の10月になってからだったという。
「腹落ちしたのは、10月の終わりぐらい。それはなぜかというと、強い部分が明確になってきたから。まずはデザインだが、これには結構悩みがあった。Zがあり、Z1があり、基本的に同じランゲージを使っている。最初にくるのが、それを継続するかどうか。結論としては、ここまで“原型”を定義できたので、それを踏襲することにした。これで迷いが1つ消えた。
2つ目は、Z1ではベゼルが広いと散々言われたこともあって、ギャフンと言わせたかった。同じフットプリントでディスプレイを大きくしたい。しかも、Z1より絶対にいいものにする。それができた。幅はZ1より若干狭く、そこに5.2インチのディスプレイが搭載されている。また、印象として明るさが変わり、色域も広くなった。簡単に言うと、BRAVIAに相当する色域を持っている、より明るいディスプレイになった」
Xperia Z1で好評を博したカメラにも、さらに力を入れた。重点的に取り組んだのが4Kでの動画撮影。One Sonyとして、テレビ事業部も動かし、撮った動画を簡単に出力できるように、「(4Kでの出力に対応する)MHL3.0に対応してもらった」という。
こうした強化を図った上で、黒住氏は「その次に来るのが音」だと話す。Xperia Z2はデジタルノイズキャンセルに対応。Xperiaとして、初のハイレゾへの対応も行っている。ただし、ハイレゾに関しては、「USBにつないでDACから出力しなければならず、ひと手間、ふた手間かけないといい音にならない」という理由で、大きくはうたっていない。これについては、次回以降のXperiaに持ち越された課題といえるかもしれない。
同時に発表されたXperia Z2 Tabletは、世界最薄、最軽量を実現した10インチクラスのタブレット端末。ここでは、「リビングルームや家でのエクスペリエンスを、タブレットで変えることができるのかにチャレンジした」という。
「テレビは4Kがあり、大きなスピーカーも搭載されているため圧倒的なエクスペリエンスを持っているが、一方で小さなディスプレイを家の中で持ち運んで見るというオケージョンは絶対にある。据え置きのテレビを見るという感覚ではなく、映像をいろいろな場所で楽しめる世界観になっている」
こうしたコンセプトに基づき、オプション製品も充実させた。代表的なのはスピーカーチャージャー。ここに、Bluetoothで遠隔操作できるリモコンを組み合わせると、あたかも小型のテレビとして使うことが可能になる。このリモコンにも、一工夫を盛り込んだ。
「このリモコンは電話の子機にもなる。Xperia Z2 Tableには、リビングルームで楽しみたいこのすべてが詰まっている。それは、映像であり、音であり、電話でもある。このモデルはWi-Fiだけでなく、4Gモデルもあり音声もサポートする。結果的に、電話をかけることもできる」
Xperia Z2、Xperia Z2 Tabletという2つのフラッグシップと同時に発表したXperia M2は、「プレミアム間あるデザインを採用し、クラス最高のもの」。機能面ではフラッグシップより劣るが、同価格帯の他社製品と比べて、ディスプレイやカメラで差別化を図っている。
これらに加えて、センサーモジュールのCoreや、それを装着するSmartBandを発表した。これは、「Lifelogアプリを中心に、日常生活を記録する」ための周辺機器。「走ったり歩いたりするアクティビティに加えて、どれだけ電話したか、どういう音楽を聴いたかというエンターテインメントや、ライフブックマークと呼ばれるエモーショナルな部分までビジュアライズできる」という特徴を備える。
Coreはオープンなプラットフォームを志向している。ソフトウェアのSDKが公開されるだけでなく、黒住氏は「たとえばほかのデザイナーやほかのメーカーと、コラボレーションも進めていきたい」と語る。カメラ搭載型のCoreもコンセプトとして発表しており、今後の登場も期待されるところだ。
黒住氏が語るXperiaの現状と今後
新製品の狙いを語ったあと、黒住氏は報道陣からの質問に答えた。主な一問一答は次の通りとなる。
――Android OSのユーザーインターフェイス(UI)も4.4で大きく変わったが、Xperiaはどうそこに合わせたのか。
黒住氏
KitKat(Android 4.4)で機能やUIは変わってきているが、それ以上に今回はアプリケーション部分でのUIを新しくした。たとえば、「What's New」というウィジェットがあり、ここに新しいコンテンツやエンターテインメントの情報が出るようにしている。情報がきれいにまとまっているが、アルバムアプリのように、ピンチイン、ピンチアウトでスケールが滑らかに変わる。こういうこともやっている。
また、Walkmanアプリも、UI的にかなりよくなった。コンテンツをどう集めてくるかという部分もやっている。これまで「Music Unlimited」は、一言で言うと使いづらかった。それは私の責任でもあるが、1年半、Music Unlimitedのチームとはものすごく密接に連携し、どうやったらベストな音楽体験ができるのかをずっとやってきた。
サービスのOne Sonyは簡単だが、実際にやるのは難しい。何を表に出すかということから、クオリティへのこだわりまで、本当にひざをつき合わせて作ったのが、今回のWalkmanアプリ。簡単に言うと、Music Unlimitedを使うステップが減り、サービスがより身近になっている。ローカルなコンテンツとMusic Unlimitedのコンテンツの境目も、ほとんどなくなり、シームレスに使えるようになった。
――今まではVAIOとXperiaという役割分担があったと思うが、ソニーにVAIOが不在になった中で、今後は何か変化があるのか。
黒住氏
正直な話、今あるここの商品は、「VAIOというブランドがあり、PC事業がある」という前提で作られている。VAIOとは、いろいろなレベルで一緒にもやってきた。たとえば、WalkmanアプリをXperiaとVAIOでどうそろえていくかといったところから、もっと単純なところでは、使っている技術の名称を揃えるところまでやっている。
まだ発表から日が経っていないので、どういう影響があるかは分からない。ただ、影響がないかといえば、当然ある。
XperiaがPCをやるのかと言われると、それは本当に分からない。一方で、単純なところで、VAIOがあるからXperiaではできないということはなくなる。今はモバイルとホームの境目がどんどんなくなっていて、タブレットとクラムシェルPCの境目もなくなってきている。タブレットとスマートフォンの境界線もないかもしれない。2年後、3年後が読めるかというと、まだよく分からないところがある。
――Xperiaは対応バンドも多いが、1つのSKU(アイテム)で世界各国に対応する流れなのか。
黒住氏
クアルコムのチップセットはあるが、RF(無線)対応はアンテナの関係もある。たとえば、CESで発表したXperia Z1SはT-Mobile向けだが、アメリカはバンド環境が違うのでアンテナの配置も異なっている(ためデザインも変わった)。もっと言うと、オペレーターごと、パートナーごとにRF感度の要求水準も異なる。1つのSKUでやり切れるかというと、理想的にはそうしたいが、今の段階では難しい。
――VAIOの事業を移管するとWindows系の技術がソニーから失われてしまうが、ソニーモバイルとしてWindows Phoneに取り組んでいくことはあるのか。
黒住氏
OSに関しては、ステップ・バイ・ステップだと思っている。Xperiaはスマートフォンにしてもタブレットにしても、OSにこだわっているわけではない。こだわっているのは、我々がやりたいユーザーエクスペリエンスが実現できるかどうかだ。今のWindows Phoneや、将来マイクロソフトがやりたいことで、我々のユーザーエクスペリエンスが実現できるかどうかが、大切なところになる。
2つ目はビジネスの部分で、我々はまだキャッチアップのフェーズだと思っている。ビジネスとしては着実に結果を出していて、2014年はブレークスルーに持っていき、大きな飛躍をしようとしているところ。そのタイミングでほかのOSを一緒にやろうとすると、経営判断や技術リソースを考えると、企画がブレてしまう。このタイミングでは、Androidにフォーカスしていくのがベストだ。
一方で、OSをAndroidだけに限定しているわけではない。たとえば、Firefox OSに関してはテレフォニカと正式に技術検討して、何ができるのかを考えている。HTML4やWebOSの技術は、AndroidやほかのOSにも使えるからだ。ただし、今はまだ商品にするタイミングではない。
――デザインのテイストがZ、Z1と同じなのは、どのような判断があったのかをもう少し詳しく教えてほしい。
変わらないと思われるのか、継続していると思われるのかだが、我々としては継続していると考えている。継続は難しく、時間が経ちすぎると停滞にもつながってしまう。ただ、ちゃんとした進化はある。たとえば、デザインというエステティックな部分でいうと、側面のシルバーを強調して、より薄く見えるようになっている。Z1まではリブがうるさかったが、Z2ではうまく一体成形にもなっている。大きな進化ではないかもしれないが、ユーザーがこうあってほしいと思う部分ではある。
――iPhoneのように、あえて変えていかないというわけではないのか。
黒住氏
技術の進化もあるので、1つのデザインにスティックしたくはない。造形としての美しさと同時に、どうやって最先端の技術を表現するのかは大切なこと。デザインだけにこだわるのではなく、最先端の技術も使っていく。たとえば、Z2のメタルとフレームの一体成形は、これまででは決してできなかった。これで剛性が高まり、軽くなっているため、ユーザーにとってのベネフィットにもなっている。できるのにそれをやらないというのでは、申し訳ない。
――ハイレゾはどのようなアーキテクチャーで実現しているのか。
黒住氏
技術的な部分の開示は控えたい。ハイレゾに関しては、今はまだ立ち上げの段階。これが初号機で、最終的なソリューションでもない。誤解を与える可能性があるので、もう少し時間をいただきたい。
――Mobile World Congressではローエンドがフォーカスされている。Xperiaでさらに下の価格帯を攻めることはあるのか。
黒住氏
もちろん、広い価格帯での商品展開は、今もしているし、今後もしていく。しかし、そこにはソニーなりの攻め方がある。我々は、価格だけでの勝負はしたくない。強みは、ユーザーが求めているいいデザインであったり、美しいディスプレイであったり、きれいに写るカメラであったり、楽しい音楽だったりにある。その部分を変えてしまうと、ソニーが提供する意味がなくなる。
また、大きな会社なので、価格だけで勝負するのもなかなか難しい。低価格帯ではすでに他社がそれなりのポジションを作っている中で、勝てる公算も見出せない。結果として、きちんとプロポジションを生かした戦略を取っていくことが最適だと思う。
――SmartBandは、利便性をどのように感じられるのか。
黒住氏
それを言葉でなかなか説明できなくて苦労している(笑)。パーソナルストーリーになってしまうが、私はEメールと同じぐらいLifelogアプリをチェックしている。ここからバルセロナの街中に移動すると、その跡が出てくるだけで結構楽しいからだ。この会場には朝7時に来ていて、その前に朝5時から散歩するようにしている。散歩をしながら空いているカフェに行ったり、そこで写真を撮ったりするが、それを夕方に見るのも楽しい。
このように、自分がやっている生活がビジュアライズされると、思ったよりチェックするようになってしまう。Facebookのアップデートを中毒のように見てしまうのに似ているが、あれの自分版だと思う。言い換えると、自分とのつながりを常に見るアプリになっている。そこがエモーションと呼ぶ部分だ。
――Z1のカメラは料理の写真が“メシマズ”になってしまうなど、画質面で改善点もまだあるように感じる。Z2ではどうか。
黒住氏
画質はZ1からさらにチューニングをかけている。センサーやレンズの構成は同じだが、画質は時間をかければよくなっていくもの。そういう評価があることは、フィードバックにもかけているし、かけることで画質の向上もできている。そこは(ユーザーの声との)追いかけっこだと思う。これで最後ではなく、永遠に追いかけていきたい。
Z2のカメラはさらに万能型になっている。これまでは、空の青がここまできれいに出なかったし、暗いところと明るいところの差もきっちり出るようになっている。暗い部分はノイズも本当に少なくなった。
――なぜ、この短期間でフラッグシップを立て続けに出しているのか。
黒住氏
それは、業界やマーケットの進化が速いからだ。フラッグシップを保つためには、このスピードでやらなければならない。我々のポジションを考えても、キャッチアップをキープできない。スマートフォンをやる以上はフラッグシップでは絶対に外したくないし、そのポジションをキープするためにも、最新で一番いいものを真っ先にお届けしたい。
――敵が1年に1回なら、半年に1回ということか。
黒住氏
そうしないと追いつかない。
――スマートフォンの完成度が全体的に上がる中で、それでも半年に1回なのか。
黒住氏
業界はそのスピードで進んでいると思う。
――iPhoneは年に1回なのに対し、(サムスンの)GALAXYはSシリーズが1回、Noteが1回と枝分かれしている。そのような戦略を取ることはあるのか。
黒住氏
今は事実として、半年に1回フラッグシップを出している。これが二股に分かれるかというと、今の段階では戦略的なことなのでシェアできない。少なくとも言えるのは、Z2が2014年前半のフラッグシップということだ。