【Mobile World Congress 2012】
スマホで海外に再進出、パナソニックの狙いを聞く


 パナソニック モバイルコミュニケーションズは、「Mobile World Congress 2012」に先立ち、海外向けスマートフォン「ELUGA」(エルーガ)を発表した。今回の展示会にも、パナソニック モバイルコミュニケーションとして単独のブースを出展し、ELUGAをはじめとしたスマートフォンやフィーチャーフォンを展示している。

 パナソニックと言えば、かつては海外でも携帯電話を販売していたが、2005年ごろにいったん海外市場から撤退している。そのパナソニックがなぜいま、再び海外に打って出ようとしているのだろうか。海外市場への再参入について、パナソニック モバイルコミュニケーションズで海外戦略を担当する取締役の板倉太郎氏に話を聞いた。

――先週、ヨーロッパ市場へ再参入されることを発表されました。このタイミングで海外に再進出される理由とは?

パナソニック モバイルコミュニケーションズの板倉氏

板倉氏
 パナソニック モバイルコミュニケーションズは2005年~2006年にかけて海外から撤退し、国内に事業を集中していました。それが海外に再進出することになった大きな機転は、やはりスマートフォンです。日本もスマートフォンの時代になり、それによってアップルやサムスンといったグローバルメーカーが参入するようになりました。スマートフォンとなると、フィーチャーフォンとは違ったプラットフォームを使い、チップもグローバル仕様のものでなくてはいけません。日本で売るにも、グローバルで通用する物作りが必要です。そこで、厳しい市場ではありますが、まずはヨーロッパに再進出することにしました。ヨーロッパの携帯電話事業者と取引することで、商品力を高めることを狙っています。

 以前、海外でビジネスをやっていたときは、「やめる」という選択肢がありました。しかしいまはもう海外だけをやめるという選択肢はありません。海外をやめるときは携帯電話事業自体をやめる、そのくらいの信念でやらせていただきます。

――国内で販売されたベースモデルをグローバル向けに仕様変更する、といったことではなく、今回のELUGAはゼロから海外向けに作っているようですが、今後もこのようにグローバル先行で開発をされるのでしょうか。

板倉氏
 原則的にそのようになると思います。ELUGAは当初からヨーロッパをターゲットにおいて開発をしました。グローバル・ファースト、グローバル仕様で商品企画をしています。それを国内向けに派生させたモデルを、NTTドコモとソフトバンクに採用していただいた形になります。この開発の流れを作りました。

 一方で日本市場では、ワンセグなどの仕様が必要になるので、別の日本用のモデルを開発する必要も出てきます。しかしベース部分は統一することはできます。日本モデルからワンセグなどを取り除いて海外モデルを作るやり方では、コスト競争力で負けてしまうので、それはやりません。グローバルモデルが日本で売れるか、という議論もありますが、日本で作ったものから海外展開する、という発想はありません。

――今後は日本モデルを別に作るようになる、と。

板倉氏
 そうなります。ベースは一緒なので、ゼロからの開発にはなりませんし、そこは開発リソースや部品の共通化ができるメリットが発揮できます。

――NFCが登場しつつあります。こうした非接触ICは、おサイフケータイで日本がリードしてきた分野でもあります。そこでのグローバル展開は?

板倉氏
 ヨーロッパの携帯電話事業者には、NFCの展開に興味を持っていただいています。そこで、私たちが日本で培ってきた経験を元に提案もさせていただいています。

――海外のメーカーもNFCをアピールし始めました。ここはノウハウを持つ日本のメーカーはもっと打ち出していかないともったいないのでは、とも感じています。

板倉氏
 私たちもいくつかの携帯電話事業者とお話をしています。ただ、最終的にインフラを作るとなると、現地の銀行なり鉄道なりと連携しなければいけないので、そこが難しいところになっています。日本でどういったことをどうやって実現したか、というようなところを提案できれば、と思っています。

――NFC以外のところで、パナソニックがリードしているポイントは?

板倉氏
 防水防塵というところがあります。日本市場では当たり前すぎて、あえて言うほどの機能ではありませんが、ここではアピールしつつお話をさせていただいています。防水防塵は、興味を持っていただいているポイントです。

 海外ではモトローラも防水防塵のAndroid端末を手がけていますが、防水防塵にすると、通常はケータイが大きくなったり野暮ったくなる傾向があります。ところが日本では防水防塵がある意味、スタンダードな機能になっていて、それで本体が大きくなっては買ってもらえず、防水防塵でもコンパクトに作る技術が培われました。そこで海外で「防水防塵でもこのデザインでできます」とお話しさせてもらっています。

――実際にいろいろな商談をされているのだとは思いますが、手応えはいかがでしょうか。今回はELUGAとELUGA Powerを出展されていますが、それぞれの反響は。

板倉氏
 実は、当初どういったモデルから海外展開を開始するか、いろいろ物議がありました。ELUGAは候補になった中でも、思い切ったデザインの思い切ったモデルになります。国によっていろいろあるのですが、いくつかの国では非常に好意的に受け取ってもらっています。まだ具体的なことを発表できる段階ではありませんが、もう少しできちっとしたことをお話しできるような段階にきています。

――ELUGAが実際に発売される時期はいつぐらいになるのでしょうか。

今回展示されている海外モデル「ELUGA」

板倉氏
 私たちとしては、春先からELUGAの投入を考えています。一緒に展示している「ELUGA Power」という機種は、今夏頃に市場へ導入すべく、話を進めています。

――春先とはかなり早い印象もありますが、実機を触ったたところ、かなり完成度が高い印象もあります。もう発売できる段階なのでしょうか。

板倉氏
 商品としてはもう少し仕上げが残っているところです。販売する前に、携帯電話事業者と一緒に商品の評価を行なわないといけません。当然、日本の事業者とヨーロッパの事業者では、要求仕様が異なっています。どちらが要求しようが厳しい、という問題ではなく、ある分野では日本が厳しく、ある分野ではヨーロッパが厳しい、というものがあります。こうした事業者の要求を満たせるよう、改善を加えていく形になります。

――スマートフォンの開発サイクルはフィーチャーフォン時代に比べるとかなり短くなっています。スマートフォンでは、ある程度、ちゃんと動くモデルを作り、そこから商談をして、2ヶ月とかで仕上げる、というのがトレンドかと思いますが。

板倉氏
 ちょっと前までは、日本では商品採用が決まってから開発に着手、といった流れでした。しかし海外はもっと速いですし、もちろん国内も以前に比べると速くなっています。ある程度、商品開発に着手した後に、事業者に提案をさせてもらう、という形です。もちろんそこから事業者の要求などに従って最適化をさせてもらいますが、採用されていない段階から開発する、というところで、マインドがだいぶ変わってきました。

――採用されるかどうかわからなくても、商品開発を進めないといけない、と。

板倉氏
 海外の大手メーカーは、商品を開発して発表して、たとえばAという事業者に買ってもらえなくても、Bという事業者には買ってもらえる。誰かのために作る、とう感覚とは違います。私たち自身もそう考えないといけなくなっています。あるお客さまに買ってもらえなくても次のお客さまがいる、と。これはわかっていたことでしたが、いままでの「決まってから開発に着手」に比べると、非常に大きな変化です。

 もちろん、日本国内でも、いままでとは変わりました。そういったやりかたで仕事をしていかなくてはいけません。開発期間も短くする必要があります。

――いままでのフィーチャーフォンでは、事業者側が端末のテーマを提供していました。しかしスマートフォンではメーカー側が提案をしてアピールしないといけない。逆に言うと、開発はやりたいことができるので、モチベーションは変わっているのではないでしょうか。

板倉氏
 スマートフォンは差別化が非常に難しい商品です。そこで商品企画や技術担当の考え方も変わった、という面はあると思います。

――自分たちで商品を企画開発するとなると、製品が失敗しても自分たちが背負うことになります。

板倉氏
 大変です。とくに海外の事業者とビジネスするのは、いろいろな面で大変ですね。

――ヨーロッパへ進出とのことですが、どの国から攻めるというのはあるのでしょうか。

板倉氏
 たとえばアメリカであれば、商品を採用するのと発注・購入するのは近い人になります。しかしヨーロッパでは国をまたがる事業者が多いので、本社が端末の採用を決め、本社が採用を決めた端末のリストから、ローカルの事業者が選ぶ、という形式になります。もちろん、ローカルの事業者ともお話をするのですが、私たちが「この国で商品を出したい」と思っても、どうにもならない部分があります。

――まずは本社採用という第1審査をクリアするのが条件なのですね。

板倉氏
 事業者にノミネートされ、そこから本社が商品評価を行い、それが完了してからローカルの事業者がオーダーしてくれたものを出荷できる、という段階を経る必要があります。そういったところで、ヨーロッパのビジネスは非常に難しいところがあります。

――ヨーロッパ以外にも、アメリカや中国など、大きな携帯電話市場はありますが、なぜまずヨーロッパなのでしょうか。

板倉氏
 海外進出で、多数の機種を出すことができればよいのですが、それは難しいです。アジア市場では、たくさんのモデルをそろえないと、市場で認めてもらうのは難しい。そこで、まずはオペレーターとの商売ということで、欧米を選びました。まずはこのオペレーターとのビジネスで、スマートフォンメーカーとしてのパナソニックブランドを高めて、それをほかの市場へのステップとする、と考えざるを得ない状況です。

 パナソニック モバイルコミュニケーションズが海外から撤退したことで、ビジネスインフラがゼロになりました。そこで、パナソニック本体のビジネスインフラが使えるところとして、ヨーロッパにターゲットを絞りました。

――パナソニックグループとしては、AV機器から家電までさまざまな事業を展開されています。こうしたグループシナジーを生かした展開は。

板倉氏
 パナソニックグループのいろいろな商品のリンクというものはあります。実際に、パナソニックグループ内のほかのビジネスユニットとの連携も始めています。たとえば、私たちパナソニック モバイルコミュニケーションズが開発した技術を使ってもらうとか、ほかのビジネスユニットの商品の一部をこちらで開発するとか、そういったことをやっています。

――今回はパナソニックではなく、パナソニック モバイルコミュニケーションズとして出展されています。ここは意外かな、とも感じました。

板倉氏
 この「Mobile World Congress」は移動体通信が中心ですが、今回も一部、パナソニック システムネットワークスの商品も展示しています。しかし実は、このショーはスペースを取るのが大変なんですよ。今回のスペースを取るのも必死でした。本当は、パナソニックグループ内のほかのところも、展示したいというところがありました。しかし、もう展示するスペースがありません。兄弟関係のビジネスユニットの商品の展示も、かなりお断わりさせていただきました。

 来年のMobile World Congressの予約はもう取りました。今年の倍ほどのスペースで、もう少しいろいろな商品の品揃えをします。

――今回はヨーロッパ向けの展示ということですが、最後に日本のユーザーに向けたメッセージをお願いいたします。

板倉氏
 コンシューマーからも、事業者からも、「グローバルで通用しないと日本では生き残れない」と言われています。これはある意味、正しいコメントだと思います。こうして今回、海外に進出し、海外で通用する商品を作り上げます。それが日本のユーザーにも満足いただける商品になりますので、ご期待いただければと思います。

――本日はお忙しいところありがとうございました。




(白根 雅彦)

2012/2/29 13:50