【CTIA WIRELESS 2010】
ドコモの国際事業、その取り組みや背景を聞く


 日本国内で最大手の携帯電話事業者であるNTTドコモは、日本国内だけではなく、海外でもさまざまな取り組みを行っている。今回、CTIA WIRELESSの会場にて、NTTドコモ 国際事業部 副事業部長の紀伊肇氏に国際事業について聞いた。

ドコモが海外に進出する理由

――まず最初に、日本でサービス提供するドコモが国際事業を行う背景を教えてください。

ドコモの紀伊氏

 理由は3つです。1つ目は、日本のユーザーが海外渡航する時のサポートです。海外ローミングの使い方が分からないといったユーザーへの対応として、ニューヨークや上海、ハワイなどにサポートデスクを設置して、顧客満足度の向上に努めています。ローミングの収入をいただいていますから、ビジネスとしても取り組む必要があるということですね。

 2つ目は、法人の海外展開のサポートですね。いわゆる法人営業の一環になるのですが、これは上海が現在最も盛んで、北米やロンドンでも行っています。

 3つ目の理由が、「成長を求める」ということです。最近ではインド(タタ・ドコモの立ち上げのこと)ですね。現地事業者に出資して、ネットワーク建設などにノウハウを供与して、それによる成長でもたらされた配当、リターンを得る。インド以外では、フィリピンや韓国、バングラデッシュなどで同様の取り組みを行っています。

 また別の切り口から見ると、技術仕様の標準化活動という取り組みもあります。世界各国の事業者を“仲間”にしながら活動すると。現在はLTEに向けて、取り組まなければいけないということですね。

――そういった方針は、いつ頃からのものなのでしょう。

 1999年~2000年ごろに欧米で出資などを行いましたが、これはW-CDMA方式の普及に向けた“仲間作り”だったわけです。これらの取り組みは売却などの結果に終わりましたが、シナジーを創出したり、ローミングをサポートしたりといった面ではその頃から現在まで続いている取り組みです。ちなみに国際ローミング関連の取り組みは、日本のFOMA端末でGSM方式がサポートされるようになってからのものです。

――海外事業者との協力という点では、端末の共同調達という話もありますね。

 そうですね、これからは、例えばインドやバングラデッシュなど、まだ2Gが利用されているエリアで、ボリュームディスカウントを狙うといったこともやっていこうと。

――北米での取り組みはいかがでしょうか。

 かつてはAT&T Wireless(当時)への出資を行い、結果的にうまくいかなかったのですが、現在はそういった形ではなく、渡米する日本人や在米日本人向けのサービスが基本です。具体的には、ニューヨークにサポートデスクを設置していますし、T-Mobileの取り次ぎとして、日本語対応端末を扱っています。また、技術面での取り組みでは、米国西海岸のパロアルトに米国法人の研究所を設けているのですが、ベンチャーキャピタルのように将来性が期待できる技術への投資も行っています。

 海外事業における顧客満足度向上での取り組みについては、数値目標、利益目標といったものは掲げていません。まずは満足度の向上そのものを優先させています。ユーザーさんからは、充電がきちんとできた、ちゃんと使えたという声をいただくことが多いですね。

――それらを踏まえた上で、国際事業における課題は何でしょう?

 次のステップは収益性でしょうか。ローミングの収入や在外日本人が帰国した時にドコモを選んでもらえるようにするといったことですね。

――なるほど。

 北米では、BlackBerryで日本語が利用できるようにするソフトウェアも提供していますし、携帯向け動画配信サービス「MobiTV」向けに、「Atakuチャネル」というものを設けて、コンテンツ配信を行っています。日本のものを米国向けに配信するための取り次ぎのような活動を最近始めたばかりです。

柔軟な姿勢で挑む

――携帯電話のサービスは、事業者によって、インフラ部分の構築を手がけるところもあれば、端末も開発するところ、コンテンツやサービスも提供するところがあるなど、それぞれ携わる領域が異なることが多いようです。一方、ドコモの国際事業はどのレイヤーに対しても取り組んでいるように思えます。

 そのあたりはマーケットにあわせていくということです。米国のようにインフラが整備され、iPhoneやKindleが登場している中では、新規ビジネスを狙うべきマーケットと判断したわけです。まずできることから着手した形ですが、うまく行けば日本へフィードバックすることもあるかもしれません。

――国や市場によって手法を切り替えていくと。

 たとえば3Gが導入されているかどうか、といった点もあります。インドはまだ2Gですが、3Gへ移行する時に備えて早めに投資しようという国もあれば、バングラデッシュのようにまだまだ2Gが続くでしょうから、まずは2Gなりのサービスを作ろうという場合もあります。欧州などはどちらかと言えば、上位レイヤーから入っていくことが多く、昨年9月には、ドイツの携帯向けコンテンツ配信プラットフォーム事業者のnet mobile社に出資しています。かつては通信事業者との連携を模索しましたが、組み方を国によって変えていく形になっていますね。お隣の韓国に関しては、人の行き来がそれなりにあったのにローミングができなかったわけですから、それをできるような取り組みを行ったわけです。

――最近の国内外の携帯業界を見ていると、特にiPhone登場以降、トレンドが変わったように思えます。そういった流れがドコモの国際事業へどう影響するのでしょうか。

 一番のポイントはスピードの変化ですね。インドを例にすると、もともとCDMA方式で、GSMを導入しようとしていたタイミングで、今年4月から3G向け周波数のオークションが始まるという話になっています。まだしばらく2Gが続くと思っていたところに、もし3GがスタートするとすぐiPhoneが入ってくるでしょうから、もう少し先と思っていた事柄を前倒ししていかなければいけないと考えているわけです。

 またLTEは、世界的な導入はもう少し先でしょうが、電波の利用効率がよくなるといった進化があります。LTE導入後の動きも速くなるだろうと見ています。

――たとえばエマージングマーケットと呼ばれる新興国市場について、インド以外の市場については、どう見ていますか。

 「チャンスがあれば」ということですね(笑)。こればっかりは相手、パートナーとの関係次第ですね。抽象的ですが、ドコモの強みを活かすという手法になるのでしょう。たとえばインドでは、ドコモに対して先進的なイメージを持っていただけていたということで、ブランド名などで反映させています。

――新興国市場での動きを含め、最近のスマートフォンの動向は影響していますか?

 ええ、影響はあります。やっぱり私どもが日本で注力しているのと同じように、世界で展開する時はオープンプラットフォームの端末でなければいけないと考えています。

――国内外で切り分けるのではない、ということですね。

 そうです。また、Kindleのように新しいモデルもどんどん登場してきています。日本だけのことではなく、マーケットがシームレスになってきていますから、海外の動向はよく見ておかなければならないでしょう。

――他社の例ですが、KDDIが米国市場でMVNOを買収するといった活動を行っています。ドコモの国際事業においてMVNOという形はどう思われますか。

 手段の1つ、可能性としてはあり得るのでしょう。ただし、パーフェクトな解かと言われればそうではない。チャンスがあれば手がけることはあるでしょうが、そればかりを狙うわけではない。出資するよりも直接、現地事業者と交渉するほうが早いこともあります。マーケット次第です。

――今回のCTIA WIRELSS 2010で注目している点はありますか?

 先月のバルセロナ(Mobile World Congress)で、スマートフォンへの潮流の変化が目に見える形になってきていましたが、北米でも同様の流れになっていますね。通信方式でもLTEの流れが強まっているところに注目しています。

――本日はありがとうございました。

 



(関口 聖)

2010/3/26/ 09:10