南アフリカのモバイル教育

 KDDI総研 藤原正弘
 KDDI総研総務企画部。専門は情報通信全般の社会・経済分析ということになっていが、昨今クルマの情報化に関わる時間が増えている。


 ワールドカップの余韻がまだ残る南アフリカ。連日、ブブゼラの音を聞いたり、街の様子を写す映像を見たり、この1カ月で格段に身近な存在になったような気がする。せっかくなので、もう少し南アフリカの様子をさぐってみよう。

 南アフリカの人口は約4800万だが、公用語が11もある多民族国家だ。国土は日本の3.2倍。所得は日本の27%だが、携帯電話の普及率は数字の上では9割と日本とほぼ同じだ。インターネットの利用率は日本の69%に対して8.3%と言われているが、携帯電話から使えるMXitというSNSは人気のようで、1200万人くらいの会員がいるという。また、電力消費量は日本の6割弱、テレビの普及率も6割程度とインフラはまだまだ整備中だ。最貧国ではないので学校へ通う子供は多いが、小中学生の95%は学校に通いながら、働いてもいる。

 さて、その学校だが、日本では、いろいろ問題はあるにしても、ほとんどの子どもたちが学校に通って勉強している。しかし、経済的に豊かでない国では子どもたちも重要な働き手なので、満足に学校に通えなかったり、充分な中等・高等教育機関がなく勉強の機会に恵まれなかったりすることも少なくない。実際、南アフリカでは、高等学校へ進学する子どもは15%程度だ。モバイルを教育に活かすという意味は、日本で考えるのとは違う。日本では、ツールというか、勉強道具のひとつとしての利用が目に付くが、南アフリカの場合は、勉強の機会を補う手段として考えられている。

 さきほど、ちょっと触れたMXitというSNSがモバイル教育のプラットフォームとして使われ始めている。MXitのチャットルームの機能を使って、数学を勉強しようという「Math on MXit」プロジェクトが、2007年から実験的に行われていて、これまではいくつかの高校で試行的に行われてきたが、東ケープ州を中心に、この仕組みを広げていくようだ。Math on MXitでは、MXitを使って数学の教材やテキストにアクセスして一人で勉強ができるし、さらにはチャットルームで先生に質問したりアドバイスを受けたりすることもできる。また、ケータイを持っていない子どもにも使えるように、学校に端末を貸出すこともしている。

 MXitのメインのサービスはSNSだから、子どもたちはこれまでチャットルームに入り浸っておしゃべりばかりしていた。だから、MXitを使っていると、先生や親から「MXitばかりやらずに勉強しなさい!」と言われていたのだ。ところが、このプロジェクトはMXitを使って勉強できるのだから、子どもたちは大喜びだ。特に、家で宿題をするときに、ときには数学以外についてもチャットルームの先生に相談できるのがいいところだ。

 先生の側でも、最初はいろいろ戸惑いもあったようだが、先生同士で子どもたちの質問や回答を共有したり、数学の教材以外では、ウィキペディアやグーグルでの検索の仕方を教えたり、経験を積みつつあるようだ。ただ、チャットルームで数学を教える上で難しいのは図形やグラフが使えないことだ。

 このプロジェクトの定量的な成果はまだ報告されていないようだが、中には数学オリンピックに出場した子どももいるとかで、教育インフラが不十分な中で、前向きに評価されている。今後は、科学や歴史の分野にも広げていきたいそうだが、モバイルを教育に活用しようという動きはこれだけではない。「読み書き」の能力の向上を目指したユニークなプロジェクトも始まっている。そちらは、近日中(8月5日掲載予定)にKDDIモバイルサイトに掲載するので、是非お越しを。

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2010/7/29 06:00