自転車ロードレースとケータイ

 KDDI総研 堺原いずみ
(株)KDDI総研 調査1部 海外市場・政策グループ。写真によってはちょっと怖い風貌のスリム氏だが、実は愛妻家だったそうだ(夫人は1999年に逝去)。通信業以外の企業のコングロマリットの名称は「カルソ(Carso)」。自身(Carlos)と夫人(Soumaya)の名前の冒頭を組み合わせたものだという。また、メキシコシティには彼女の名を冠したソウマヤ美術館がある。


 日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、ヨーロッパでは人気が高いスポーツのひとつに「自転車ロードレース」(サイクルロードレース)がある。「ツール・ド・フランス」というレース名なら耳にしたことがあるかもしれない。広大なひまわり畑の中を色鮮やかなジャージに身を包んだ選手たちが走り抜ける姿は、フランスの夏の風物詩のひとつにもなっている。

 とにかく自転車ロードレースのジャージは鮮やかである。なぜかと言うと、そこには(配色という観念はとりあえず横において)さまざまなチームスポンサーのロゴが散りばめられているから。その時々の景気やら大人の事情やらで、毎年のようにスポンサーもチーム名もジャージのデザインも変わってしまうのだけど、やはり同業者のロゴを見つけるとニヤッとしてしまう。

 今年は、ツール・ド・フランスでの予想外(失礼!)の活躍もあって「ブイグテレコム」をよく見かけた。ブイグテレコムはフランスの通信事業者で、今は“Bbox”という自社のブロードバンドサービスをチーム名に冠して宣伝しているが、元々は携帯専業、以前は携帯事業で提携をしている“i-mode”のロゴを付けていたこともある。

 また、少し前であればドイツテレコムの移動体ブランド「T-モバイル」を見かけることもできた。こちらはコーポレートカラーそのままにピンク色のジャージが目に鮮やかなチームだったが、その後スポンサーもチーム名もジャージの色も変わってしまい、今は日本でも馴染みとなった台湾のスマートフォンメーカー「HTC」がスポンサーに名を連ねている。

HTC本社のWebサイトでもゴールスプリントを制してスポンサーをアピールするマーク・カヴェンディッシュ選手の姿が紹介されている

 ところで、このHTCに関して、自転車ロードレースではひとつ語り草になりそうなゴールパフォーマンスがある。

 マーク・カヴェンディッシュという選手が、この新しいチームスポンサーをファンにアピールすべくやったことなのだが、彼はHTCがスポンサーを始めた年のツール・ド・フランスで『胸のスポンサー名(HTC)を指さしながら、電話をかける仕草をする』という何とも不思議なゴールシーンを披露したのだ。過去にはフアン・アントニオ・フレチャが自分の名前に因んで矢を射る真似をしながらゴールするというパフォーマンスを演じたこともあったが、スポンサーのために電話をかける真似をしながらゴールするなんて、そうそうお目にかかれるものではないだろう。

 ただ、残念なことに、それ以降カヴェンディッシュは優勝してもゴールで電話をかけてはくれないのだけど。

 そのほかには、GPSメーカーの「ガーミン」もアメリカのチームのスポンサーとなっている。日本ではもっぱら業務用GPSのイメージがあるガーミンだが、米国では“GARMINfone”という地図情報満載のAndroid端末をT-モバイル向けに出している。Google Mapsより詳細なガーミンの地図情報がプリインストールされていて、「持ち運べるカーナビに電話機能が付いた」と言った感じらしい。日本では販売されていないが、自転車に付ければ、au Smart SportsのBikeモードっぽくなりそうである。

 と、自転車ロードレースをスポンサーとなっている通信関連企業を思いつくまま書き連ねてみたが、実は来年度のスポンサーを募集中のチームもいくつかあるらしい。鬼に笑われそうだが、年が明けたらもう数社増えている、ということもあり得るかもしれない。

2010/8/26 12:02