IFA 2012で見えてきた次なる展開

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 8月31日~9月5日にかけてドイツ・ベルリンで開催されていた「IFA 2012」。世界でもっとも大きなコンシューマ家電の展示会として知られている。すでに本誌をはじめ、各僚誌に数多くの速報レポートが掲載されているが、ここではケータイやスマートフォン、タブレットに関わる話題を中心に、IFA 2012で見えてきた動向について、お伝えしよう。

家電の展示会としての位置付け


MESSE Berlinの入り口にはIFAのロゴと共に、巨大なドラム式洗濯機を模したオブジェが飾られていた

 改めて説明するまでもないが、ここ数年、デジタルに注目するコンシューマにとって、もっとも大きな関心事と言えば、やはり、スマートフォンをおいて、他にないだろう。国内で言えば、ケータイからの移行が急速に進み、ネットワークの面でも急激なトラフィック増からトラブルが起きてしまうほど、たいへんな勢いでスマートフォンが普及している。国と地域によって、多少の温度差はあるものの、世界的にもその傾向は同じで、端末そのものに限らず、サービスや他ジャンルの製品においてもスマートフォンの動向が大きく影響を与えている。

 8月31日~9月5日にかけて、ドイツ・ベルリンで開催されていた「IFA 2012」は、毎年1月に米国・ラスベガスで開催される「Consumer Electronics Show(CES)」と並び、世界最大のコンシューマ家電の展示会として知られている。ただ、筆者が捉えている感覚としては、IFAとCESには大きな違いがある。「コンシューマ・エレクトロニクス&ホーム・アプライアンス業界の世界最大の見本市」と銘打たれたIFAは、スマートフォンやタブレット、パソコン、薄型テレビといったデジタル家電の分野だけでなく、洗濯機や冷蔵庫、掃除機といった「白物家電」と呼ばれるジャンルの製品も出品されているのに対し、CESはパソコンを中心としたデジタル製品が中核を占めている印象だ。その微妙なポジショニングの違いが各社の出品内容や発表製品にも少しずつ影響している。まったくの余談だが、会場入り口にはIFAのロゴをあしらったオブジェと共に、巨大な穴の空いた通路のようなものが置かれているが、これはドラム式洗濯機をイメージしたもので、今回はサムスンがスポンサーとなっていた。

 携帯電話やスマートフォン、タブレットといったモバイル関連製品の展示会としては、毎年2~3月に「Mobile World Congress(MWC)」が開催されているが、MWCが業界関係者を対象にした専門的なイベントであるのに対し、IFA 2012は一般の消費者も来場できるイベントとなっており、昨年の実績でも会期中に23万人を超える人が来場している。ちょうど日本の「CEATEC JAPAN」を欧州規模や世界規模に大きくしたイベントと捉えてもらうとわかりやすいだろう。

「One Sony」のコアとして歩み出したソニーモバイル

 今回のIFA 2012では、会期開始直前にパナソニックやソニー、サムスンなどがプレスカンファレンスを催し、それぞれに新製品を発表した。ちなみに、現在、国内でも好調に販売を伸ばしているサムスンの「GALAXY Note」は、昨年のIFA 2011で発表され、その後、欧州から世界各地に販売先を拡大し、今年春から日本でもNTTドコモから発売されたという流れを辿っている。

 個々のメーカーの発表内容については、すでに本誌でも石野純也氏による速報レポートが掲載されているので、詳しくははそちらを参照していただきたいが、ここでは各メーカーの方向性や印象などについて、説明しよう。


ソニーのプレスカンファレンスでは、スマートフォン、タブレット、VAIO(パソコン)を主軸商品として扱うことをアピール

 まず、ソニーモバイルとソニーは、30日のプレスカンファレンスで、スマートフォンのXperia3機種(及び派生モデル1機種)、昨年のSony Tabletからブランドを改めて、Xperiaの名が冠されたXperia Tabletが発表された。

 ソニーモバイルについては、ご存知の通り、昨年11月にソニーがエリクソンからソニー・エリクソンの株式の持ち分を買い取り、ソニーの100%子会社となったが、その背景にはソニーとして、これからの時代、数々のソニー製品やサービスを展開して行くにあたり、スマートフォンが不可欠なものと判断したことがある。ただ、会社組織としてのソニーモバイルがスタートしたのは2012年3月であり、本社機能をスウェーデンのルンドから東京に移管するのは今年10月の予定だ。つまり、ソニー・エリクソンからソニーモバイル&ソニーへは、まだ移行のプロセスにあり、関係者の中にはスウェーデンをはじめとする海外から東京などの日本へ引っ越しを予定している人もいるという。

 そんな状況下において、いち早く「Sony Tablet」から「Xperia Tablet」に製品名を改めてきたのは、スマートフォンで浸透しているXperiaブランドをタブレットにも活かし、先行するライバル製品に対抗していこうという姿勢の表われだ。Xperia Tabletについては、9月4日に国内でも発表されたが、従来のSony Tabletのときと違い、豊富なアクセサリー類を揃え、さまざまなシーンにおいて、Xperia Tabletのある生活を演出しようとしている。


Sony Tablet改め、Xperia Tablet。デザインの基本コンセプトは同じだが、今回は豊富なオプション類も揃える新たに発表されたXperia3機種と派生モデル1機種。順次、世界各国で販売される予定

 アプリについてもスマートフォンのXperiaシリーズとの連携が図られ、「Xperia Link」により、スマートフォンのテザリング機能を簡単に利用できるようにしている。ちなみに、今回発表された海外向けのXperia Tabletは3G/Wi-Fiモデルがラインアップされているが、国内向けはWi-Fiモデルのみが販売される。携帯電話事業者との関係にも影響があるかもしれないが、国内市場向けにSIMフリー版3G搭載モデルの販売も期待したいところだ。

 一方、スマートフォンのXperiaシリーズだが、グローバル展開を狙ったフラッグシップモデルの「Xperia T」、LTEに対応した「Xperia V」、防水機能を備えた「Xperia J」の3モデルに加え、Xperia Tの派生モデルとなる「Xperia TX」が発表されている。これらの内、Xperia TXはNTTドコモから販売されている「Xperia GX」とほぼ同じものであり、日本向けに登場したXperia GXがXperia TXとして、グローバル市場向けに展開される、あるいは日本市場のみが先行して投入されたという位置付けのようだ。


今回のIFA 2012では、Xperia T、Xperia V、Xperia Jの3機種が発表されたフラッグシップに位置付けられるXperia T。ボディはアーク形状を採用

 これに対し、新たに登場した3機種は日本市場への投入が未定とされているが、NTTドコモがXiを展開しているうえ、Xperia Vが対応するLTE方式の周波数帯に日本で使われているバンド1(2.1GHz)が含まれていることを考え合わせれば、日本市場に投入される可能性はかなり高そうだ。

 また、デザイン的にはCESやMWCなどで発表されてきたXperia Sなどが背面側をラウンドさせ、手にフィットする形状を採用していたのに対し、今回の3モデルはいずれもXperia arcから受け継がれたアーク形状を採用している。手に対するフィット感はどちらも甲乙付けがたいが、今回のモデルはCPUをはじめ、本体を構成するパーツが小型化したことなどもあり、Xperiaらしいアーク形状が実現しやすかったという背景もあるようだ。


日本市場投入が期待されるLTE対応のXperia V。防水仕様に対応する

 細かい部分の仕上げも含め、非常にクオリティの高いXperiaシリーズのデザインだが、個人的に気になっているのは、本体前面から見たときのデザインだろう。Xperiaに限った話ではないが、最近のスマートフォンはディスプレイ面を大きく見せるため、前面をブラックで仕上げる機種が多く、正面から見たときの印象がどれも同じに見えてしまう。特に今回の3モデルはXperia Sのときのようなクリアパーツも備えられていないため、ちょっと見分けが付きにくい印象だ。これを良しとするか否かは人それぞれだが、次期モデルではソニーらしい何らかの解を期待したいところだ。

 機能やソフトウェア面でも注目できるものが多いが、ソニーとの関わりという点において、興味深いのがXperia TとXperia Vに搭載された近距離無線通信規格「NFC」による連携機能だ。


Xperia T、Xperia Vに搭載されたNFCとBluetoothを使い、端末で再生中の音楽をワンタッチでBluetooth対応スピーカーに転送可能Bluetooth対応スピーカーの先端部に格納されたNFCのアンテナ部に端末でタッチする

 たとえば、Xperiaで再生している音楽をBluetooth対応スピーカーやBluetooth対応ヘッドホンにタッチして、それぞれの機器で再生できるようにする機能だ。「そんなのBluetoothでペアリングすれば、いいだけじゃないか」と考えるかもしれないが、NFCを使って、その作業を格段に簡単にしたことに加え、NFCとはほとんど縁がないとも言えるAVアクセサリーにNFCを搭載したことは、今までの展開ではなかなか考えられなかった取り組みだ。今後、ソニーがNFCをどう活用していくのかは未知数だが、こういう取り組みができるのであれば、NFC連携でテレビのブラビアに映像を簡単に出力したり、番組録画を設定したり、コンテンツ決済にXperiaを利用するなど、さまざまな活用が期待できそうだ。

Note戦略を拡大、進化させるサムスン

 29日はソニーのプレスカンファレンスに続き、サムスンがベルリン市内で「Samsung Mobile Unpacked 2012」を開催した。ちなみに、サムスンのプレスカンファレンスは翌30日に開催されたが、こちらはモバイル製品だけでなく、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電も含むプレスカンファレンスで、モバイル製品のみをお披露目したのは29日のSamsung Mobile Unpacked 2012ということになる。


サムスンはベルリン市内のイベントホールで「SAMSUNG MOBILE UNPACK 2012」を開催

 日本をはじめ、世界各国でGALAXYシリーズが好調のサムスンだが、ここのところは米Appleとの訴訟の判決がいくつか下されたこともあり、そちらの話題に注目が集まっている。とは言うものの、そんなことはまったく感じさせないほど、今回のサムスンの発表には力が入っていたという印象だ。

 まず、スマートフォンについては国内でも販売されているGALAXY Noteの後継機に相当する「GALAXY Note II」、光学ズームを搭載したデジタルカメラ的な「GALAXY Camera」の2機種が発表された。

 GALAXY Note IIについては、基本的にGALAXY Noteのコンセプトをそのまま受け継いでいるが、ボディは少しスリムになり、持ちやすくなった印象だ。しかし、外見よりも大きく進化を遂げたのがGALAXY Noteシリーズ独自のソフトウェアやアプリだ。


GALAXY Note IIのフロントデザイン。従来モデルよりもわずかにボディ幅が抑えられたGALAXY Note IIの背面デザイン。ディスプレイ周囲と同じように、背面パネルもヘアライン仕上げ

 たとえば、GALAXY Noteシリーズでは「Sペン」と呼ばれる独自のタッチペンを採用しているが、今回はSペンのボタンを押しながら画面に近づけたとき、画面上にポップアップ表示する「Air View」という機能が追加されている。具体的には、写真を保存したギャラリーを起動したとき、イベントごとなどにまとめられた写真のタイトルにSペンを合わせると、画面に触れなくてもそのイベントに含まれるサムネイルが展開して表示されたり、スケジュール管理アプリのSプランナーではスケジュールが記録された日にSペンを合わせると、画面に触れなくてもそのスケジュールの内容がポップアップで表示される。

 パソコンなどで言うところのバルーン表示などに近い印象だが、画面に触れないSペンの動きで、[戻る]キーや[メニュー]キーをタップしたときと同じ操作ができるなど、パソコンのマウスジェスチャのような使い方もできる。実際の使用感はSペンのボタンを押す操作が伴う場合は、ちょっとクセがあるが、GALAXY Note向けにも販売されていたペンタイプのアダプタなどを装着すれば、はじめての人でも操作に慣れやすそうだ。


Sペンを画面上に近づけると、ポップアップ表示される「AirView」Air Viewによるコマンドのガイド表示。ペンによる操作をさらに拡げる狙いだ
ギャラリーアプリなどではフォルダにSペンを近づけると、フォルダ以内の写真がサムネイルでポップアップ表示される

 ところで、サムスンでは昨年のIFA 2011で発表した初代のGALAXY Note以来、世界各国に製品を展開し、今年2月のMWCでは「GALAXY Note 10.1」を発表し、8月から海外で販売を開始。そして、今回のIFA 2012で後継モデルの「GALAXY Note II」を発表し、GALAXY Noteシリーズの路線をかなり強化しようとしている。これはSペンで何かを描く、あるいは文字を書くというユーザビリティが一定のユーザー層に支持されているからだろうが、その一方で前述のAppleとの訴訟合戦において、操作性から明確に違うものを打ち出したいという意図も見え隠れする。今後、サムスンがGALAXY Noteシリーズをどのように展開し、ユーザーにどのように受け入れられていくのか注目したい。

 もうひとつの「GALAXY Camera」についてだが、読者のみなさんは率直にどう捉えられただろうか。ちょっと詳しいユーザーなら、かつてフィーチャーフォン全盛の時代にも光学ズーム付きカメラ機能を搭載したモデルをサムスンやLGエレクトロニクスが販売したことがあり、今ひとつ芳しい結果を残せなかったことを覚えているだろう。今回のGALAXY Cameraも同じ路線の製品で、既存のスマートフォンから見ると、やや異端な製品という捉え方をしてしまうかもしれないが、実際に触ってみると、意外にカメラとしての機能も充実しており、予想以上に使える製品だという印象だ。


新ジャンル製品として、GALAXY Cameraを発表正面からの印象はデジタルカメラそのもの。ボディは少し大きめだが、質感は良好

 ただ、ディスプレイがGALAXY S IIIとほぼ同等の約4.77インチと大きいため、ボディサイズもが128.7×70.8×19.1mmとやや大きく、コンパクトデジタルカメラとしては、かなり大ぶりな印象は否めない。タッチパネルで操作している感覚はGALAXY S IIIなどとほぼ変わらず、非常にスムーズかつサクサクと動いてくれるが、コンパクトデジタルカメラとしてはちょっと大きすぎる印象なのだ。

 カメラのサイズ感はなかなか伝えにくいが、筆者自身や周囲の人が使っている人たちのカメラと比較すると、リコー CX5やキヤノン PowerShot S100などのようなコンパクトサイズではなく、キヤノン PowerShot G1 Xやパナソニック LUMIX DMC-LX7などのように、少し大きめのコンパクトデジタルカメラを厚さ20mmを切るサイズでまとめたものという印象に近い。特に、カメラ側から見た本体の120mmを超える幅(スマートフォン側では長さと表記される)は、机の上に置いてもかなりの存在感がある。


21倍まで拡大できる光学ズームを搭載。レンズ側のズームの動きはスムーズだが、端末側の動きはまだちょっと不安定な印象も残ったディスプレイは4.8インチサイズとかなり大きい
上部には光学ズームを操作するためのスイッチなども備える。このあたりのデザインもデジタルカメラそのもの

 ただ、カメラの各機能のユーザーインターフェイスについては、操作性はスマートフォンで慣れている分、比較的わかりやすく、あまり異端な製品を触っているという印象はない。カメラのアクセサリー類も充実しており、サムスンがスマートフォンとデジタルカメラを融合させた新しいジャンルの商品として、GALAXY Cameraを積極的にプッシュしていこうという姿勢がうかがえた。

 デジタルカメラでは先日もニコンからAndroid搭載のデジタルカメラが発表され、話題になっていたが、これまでのデジタルカメラは画質をはじめ、カメラとしての「撮る」性能に注力されていた状況に対し、ここ数年は「Eye-Fi」をはじめ、他の機器と接続する機能が使われるようになり、デジタルカメラの世界も少しずつ変化の兆しが見えている。たとえば、ソニーが発表したデジタルカメラの「NEX-5R」もWi-Fi対応に加え、カメラ機能を拡張するアプリが提供されたり、パナソニックはスマートフォンを使い、コンパクトデジタルカメラのリモコン操作を可能にするデモをIFA 2012で披露するなど、今までのデジタルカメラにはなかった取り組みが見てきている。サムスンのGALAXY Cameraはこうした状況において、スマートフォン側からデジタルカメラにアプローチした製品ということになる。高性能カメラを搭載したスマートフォンやコンパクトデジタルカメラ、ミラーレス一眼レフなどが普及した日本市場では、ちょっと展開が難しそうだが、こうした新しいジャンルの製品が世界市場でどのように受け入れられていくのかは注目される。

Windows 8でパソコンが変わる

 サムスンがベルリン市内で開催した「Samsung Mobile Unpacked 2012」では、GALAXY Note IIとGALAXY Cameraに続き、Windows 8を搭載したノートPCやタブレットのラインアップ「ATIV」シリーズも発表された。ATIVシリーズには、スタンダードなノートPC「ATIV Smart PC」、ディスプレイが着脱可能な「ATIV Smart PC Pro」、タブレットタイプの「ATIV Tab」、そして、Windows Phone 8搭載の「ATIV S」がラインアップされており、本誌としては「ATIV S」に注目したいところだが、残念ながら、イベントのステージ上でお披露目されただけで、イベント終了後のタッチ&トライでは展示されなかった。


ステージ上のデモのみで引っ込められてしまったWindows Phone 8搭載の「ATIV S」ディスプレイを着脱して、タブレットとしても使えるサムスン「ATIV Smart PC Pro」

 Windows Phone 8搭載端末については、また別の機会に取り上げたいが、このサムスンのイベントだけでなく、今回のIFA 2012を通して、個人的に気になったのが「ATIV Smart PC Pro」をはじめとしたWindows 8搭載パソコンの存在だ。

 Windows 8が10月に発売されることは読者のみなさんもご存知の通りだが、今回のWindows 8は従来のWindows 7からユーザーインターフェイスを大きく変更し、アプリなどを表わすパネルをタイル状に並べた「モダンUI」(開発時は「メトロUI」と呼ばれていた)という新しいユーザーインターフェイスを採用している。このユーザーインターフェイスはその外見からもわかるように、Windows Phone 7.5などの流れをくむもので、タッチパネルでの操作を強く意識したものとなっている。Windowsのタッチ操作は比較的、古いバージョンから取り込まれてきたことだが、今回は昨今のスマートフォンやタブレットの隆盛に対抗するためか、標準のユーザーインターフェイスからタッチ操作を中心に据えている。Release Preview版が公開されているため、すでに試した人もいるかもしれないが、実際に使ってみると、マウスやタッチパッドでの操作よりも明らかにタッチパネルでの操作が優先されていることがよくわかる。


東芝はディスプレイをスライドさせながら起こしてノートPCスタイルにする「Satelite U930t」を発表ソニーのVAIOにもディスプレイをスライドさせながら起こすデザインの「VAIO Duo 11」が登場

 こうした状況もあり、各PCメーカーからはタッチパネル対応のパソコンが計画され、今回のIFAでも各メーカーから新製品が発表されている。たとえば、サムスンの新ラインアップで言えば、「ATIV Smart PC Pro」と「ATIV Tab」がタッチ操作に対応しているが、注目されるのは「ATIV Smart PC Pro」のように、タッチ操作だけでなく、既存のキーボード操作やマウス操作を両立させようとしているパソコンだ。

 「ATIV Smart PC Pro」はディスプレイ部を着脱し、タブレットのように使えるようにしているが、東芝の「Satellite U920t」はケータイのスライド式ボディのように、ディスプレイ面をスライドさせながら立てるようにすると、ノートPCのように使えるスタイルを採用している。ソニーが発表した「VAIO Duo 11」も同様のスタイルを採用している。普段、仕事などでパソコンを持ち歩いているユーザーの中には、手軽に操作できることから、iPadなどのタブレットをいっしょに持ち歩いていたり、持ち歩くことを検討している人もいるかもしれないが(筆者自身もときどき、いっしょに持ち歩いている)、こうしたタブレットとノートPCのハイブリッド的なPCが登場することで、それが1台で済ませられることになるかもしれない。そうなってくると、今度はスマートフォンに求められるものを少しずつ変わり、人々が持ち歩くデジタル製品にも変化が見えてくることも考えられそうだ。


Windows RTを搭載するデルの「XPS 10」はディスプレイ着脱式のデザインを採用ディスプレイ部を回転させることで、通常のノートPCスタイルからタブレット型に変身できる(?)デルの「XPS Duo 12」

 ただ、注意しなければならないのは、Windows 8そのもののユーザビリティだろう。Windows 8は発売前であり、多くの人にとっては未体験の操作環境になるが、今回、IFA 2012の各社のブースでは、来場者がWindows 8の操作にかなり戸惑っている光景を何度となく見かけた。Windows 8のユーザーインターフェイスがダメということではないが、あまりにも操作感が変わってしまっているうえ、タッチ操作のお作法もiPadやAndroidタブレットと違うので、なかなか思うように操作できないという状況だ。ここ数年、スマートフォンやタブレットの盛り上がりに対し、パソコンは必要性こそ、誰もが認めているものの、存在感や個性という面ではあまり注目されなくなっていた状況がWindows 8の登場や前述のハイブリッド的なパソコンの登場によって、どのように変わってくるのかが注目される。

IFA 2012はデジタル製品の新時代の幕開け

 わずか数年前まで、日本のユーザーにとって、海外のモバイル製品の市場は、あまり身近なものとは言えなかった。しかし、スマートフォンやタブレットが普及してきたことで、グローバル市場との関わりも増えてきている。今回のIFA 2012で発表されたソニーのXperiaシリーズやサムスンのGALAXYシリーズ、間もなく次期モデルの発表が噂されるiPhoneなどは、その中心的な存在と言えるだろう。

 日本の市場から見る『海外』というと、どうも米国市場ばかりを思い浮かべてしまいそうだが、ケータイやスマートフォンを中心としたモバイル製品ではGSM全盛の時代からの流れもあり、欧州市場もかなり大きく、各社の動向も気になる。以前、2012 International CESのレポート記事で、スマートフォンやタブレットが普及し、Windows 8が登場することで、パソコンやモバイル、他のデジタル製品群の市場がさまざまなレイヤーにおいて、一段とクロスオーバーしてくることが予想されるという話を書いたが、まさに今回のIFA 2012はその傾向がいよいよ本格的に見えてきたタイミングと言えるだろう。

 たとえば、ソニーは関連会社だったソニー・エリクソンを完全子会社のソニーモバイルとし、Xperiaのブランド力をタブレットに活かそうとしたり、NFCというモバイル業界の技術をオーディオ製品に搭載することで、本格的な連携をスタートさせている。サムスンもGALAXY Noteを進化させるだけでなく、GALAXY Cameraという新ジャンル製品を投入すると共に、ATIVシリーズというWindowsを軸にした新しいラインアップ展開を発表している。

 そして、パソコンに目を移せば、Windows 8の登場に合わせ、今までのノートPCにはなかったユニークなデザインを採用したタブレットとのハイブリッド的なモデルが各社から登場している。ユーザーが「タッチパネルで操作する端末が欲しい」と考えたとき、AndroidスマートフォンやiPhone、Windows Phone 8、Androidタブレット、iPad、Windows 8タブレットなど、実に多彩な選択肢から選べることになるわけだ。今後、これらの製品群が国内市場向けに、どのように展開され、どのように受け入れられているのかに注目していきたい。

 




(法林岳之)

2012/9/7 19:45