夏のau、「うたパス」「ビデオパス」でエンタメ拡大

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 5月15日、KDDIは2012年夏モデル9モデルと新サービスを発表した。いち早くAndroidスマートフォンに着手し、2011年10月からはiPhoneもラインアップに加えたauは、昨年来、MNP転入も連続でプラスを記録し続けており、好調ぶりがうかがえる。この春は「auスマートパス」と「auスマートバリュー」の施策がヒットし、さらにユーザーの注目度も高まっている。

 今回の発表ではAndroidスマートフォン、フィーチャーフォンに加え、auスマートパス構想のSTEP2として、「うたパス」と「ビデオパス」という新サービスを発表し、さらに勢いを増そうとしている。発表会の内容については、本誌レポートで詳しく解説されているので、そちらを参照していただきたいが、ここでは筆者の目で見た今回の発表内容と全体の捉え方などについて、説明しよう。

勢いを取り戻しつつあるau

 国内の携帯電話市場において、NTTドコモに続く、2番手に位置するau。しかし、ここ数年はアグレッシブな販売施策とiPhoneを武器に、3番手のソフトバンクが急速に追い上げている。2010年に破綻したウィルコムを傘下に収めたことで、グループとしての契約数の差は縮まりつつある。

 これに対し、auは田中孝司代表取締役社長の新体制に移行して以来、さまざまな形で施策を見直し、ライバル各社に対し、攻勢を強めている。端末では国内メーカーのラインアップに加え、HTCやサムスン電子、LGエレクトロニクスなどのグローバルメーカーの人気モデルを採用し、iPhoneもラインアップに加えるなど、積極的にテコ入れを図ってきた。



 今年1月の発表会では、新たに「auスマートパス」と「auスマートバリュー」という施策を打ち出し、アプリと販売面における新しい取り組みを成功させている。月額390円でアプリが取り放題になるというauスマートパスは、はじめてスマートフォンを手にするユーザーだけでなく、すでに利用中のユーザーからも支持され、提供開始からわずか2カ月で100万契約を突破している。コンテンツプロバイダーからの評価も高く、スマートフォン時代における携帯電話事業者のアプリに対する取り組み方を示すものとして、注目される。

 auスマートバリューは、auのスマートフォンのユーザーがauひかりをはじめとするFTTH/CATVサービスを契約することにより、auスマートフォン1回線につき、最大24カ月、毎月1480円を割り引く(24カ月目以降も月額980円を割引)という割引サービスだ。固定サービスと移動体通信サービスを持つKDDIらしいサービスであると同時に、FTTH事業者では関西で「eo光」を展開するケイオプティコム、CATV事業者では東京のイッツコムなどのように、直接的な資本関係を持たない事業者とも提携することで、従来のような事業者グループだけにとらわれない幅広いサービスを実現している。ユーザーの反響の良さは、受付開始からわずか2カ月半で100万契約を突破したことからもうかがえる。



 勢いを取り戻しつつあるauだが、MNPサービス開始時に移行ユーザーを独占するほどの勢いを見せていたときに比べ、まだまだ足りない要素がある。かつてauが市場をリードしていたときは、着うたやLISMOをはじめ、EZナビウォークやEZ助手席ナビ、au SmartSportsなど、次々とユニークなサービスを提供し、ユーザーに新しいケータイのライフスタイルを提案してきたが、市場のトレンドがスマートフォンに移行したことで、今の時代、これからの時代に合った新しい提案が求められるつつある。

 その答えとなるのが今回の発表会で多くの時間を割いて説明された「うたパス」と「ビデオパス」という新しいサービスだ。

 auは元々、音楽業界とは密接な結びつきを持ち、着うたやLISMOなどのサービスを積極的に展開してきた。うたパスは、月額315円で洋楽や邦楽などの音楽が聞き放題になるというものだ。50チャンネル以上のセレクトチャンネルからチャンネルを選び、気に入った楽曲を登録していくと、自分好みのチャンネルに成長していく。こうしたサブスクリプション型の音楽サービスは、米国のPANDORAなどが人気を集めており、auも月額1480円の「LISMO unlimited」を提供しているが、うたパスは月額料金を抑え、ソーシャルフォトーやセレブリティチャンネルなどの機能も提供することにより、今までこうしたサービスを利用したことがないユーザーでも入りやすくしている。

 もうひとつのビデオパスは、映画やドラマ、アニメなどを月額590円で見放題になるサービスで、視聴できるデバイスはスマートフォンやタブレット(7月下旬)、パソコン(6月上旬)に加え、今後、専用セットトップボックスを接続したテレビにも対応する。

 同様のサービスとしては、今年4月に月額980円に値下げして、注目を集めている「hulu」があり、NTTドコモの「VIDEOストア Powered by BeeTV」、ソフトバンクの「ムービーLIFE」なども提供されているが、ビデオパスはマルチデバイスでの再生に対応するうえ、毎月1本の新作が視聴できるなどの違いがあるという。

 こうしたビデオオンデマンドのサービスは、ここ数年、家庭用テレビなどでも着実に市場が拡大しており、スマートフォンでもhuluのプロモーションが注目を集めている。外出先での利用については、電池の持ちなどが気になるところだが、機種によってはHDMI接続でテレビにも出力できるため、自宅などでも楽しむことができる。



今秋、4G LTEサービスを前倒しで提供

 スマートフォン向けに音楽や映像を楽しむサービスを提供するとなると、心配なのはネットワークだが、auでは4月10日から「EVDO Advanced」を提供しており、約3カ月で全国展開を完了する見込みだ。EVDO Advancedは隣接する基地局と混雑度合いの情報を交換することにより、低負荷の基地局に接続を切り替えるというものだ。

 また、注目すべきは今年12月からサービスの提供が開始される見込みだったLTEサービスが「4G LTE」という名称で、前倒しで提供する意向が明らかにされた。新しいデータ通信サービスはユーザーとして、エリアが気になるところだが、auは以前からネット上でも指摘されていたように、すでにかなりの数のLTE対応基地局を整備しており、正式サービス開始時から一気に全国展開をする構えだ。実際にはどの程度のエリアで使えるのかは正式サービスを待つしかないが、KDDIでは今年度末に実人口カバー率で約96%のエリアを実現するとしている。

 一部では、すでに同じLTE方式によるサービスを開始しているNTTドコモやイー・モバイルよりも広いエリアで利用できるのではないかという指摘もあるくらいだ。ただ、今回、発表された端末には、当然のことながら、4G LTE対応のものはないため、4G LTEサービスを利用したいのであれば、秋冬モデルまで『待ち』という考え方が正解と言えるかもしれない。



 一方、Wi-Fiへのオフロードについては、昨年のサービス開始時に目標に掲げていたとおり、3月29日には10万スポットを達成し、今年2月から配布を開始した家庭向けの無線LANアクセスポイント「HOME SPOT CUBE」も好調な伸びを示しているという。HOME SPOT CUBEについては、動作で少し気になるところも残されているが、デザイン性や初期設定のしやすさ、導入のしやすさという点においては十分なレベルに達している。

 これに加え、今回の発表では端末レベルで、3GとWi-Fiの切り替えの最適化、待受時のWi-Fi信号受信間隔の最適化などの改善が図られている。説明員によれば、Androidプラットフォームは元々、Linuxベースであるため、通信周りについて、必ずしもモバイル環境での利用に適したパラメータになっていない部分があり、その部分を調整し、auとして、各メーカーの最適なパラメータでWi-Fi機能を搭載することをお願いしているという。こうした取り組みが各メーカー独自ではなく、共通仕様として、各メーカーに依頼されているのは、かつてのケータイ時代の共通仕様を展開してきた姿勢が活かされていると言えそうだ。



Android 4.0対応スマートフォンを中心にラインアップ

 さて、端末のラインアップについてだが、今回はスマートフォン5機種、フィーチャーフォン3機種、タブレット1機種が発表され、これに4月発表の「HTC J ISW13HT」を加えた10機種が夏商戦に順次、投入されることになる。

 今回のラインアップにはいろいろと注目すべき点があるが、まず、最初に挙げたいのがスマートフォンについては全機種Android 4.0に対応している点だ。昨年11月に公開されたAndroidプラットフォームの最新版「Android 4.0」は、リードデバイスとして開発されたサムスン製「GALAXY NEXUS」がNTTドコモから「GALAXY NEXUS SC-04D」として発売され、国内ではシャープ製「AQUOS PHONE 104SH」が2月に発売されている。世界的に見てもまだそれほどAndroid 4.0が大多数を占めているわけではないが、auとしてもスマートフォンの業界標準的な位置付けにあるAndroidにはしっかりキャッチアップしていこうという姿勢のようだ。

 同時に、auに限った話ではないが、一般的に各携帯電話事業者が販売するスマートフォンについては、各社サービスに対応したアプリを開発し、搭載する必要があるため、ある程度、プラットフォームが揃っている方が提供しやすい状況にある。その点を踏まえ、プラットフォームをAndroid 4.0に揃えてきたという見方もできる。もしかすると、今後、Androidではバージョンアップできない端末は各社が提供する新サービスに対応できないといったことが起きてくるかもしれない。

 そうなると、これまでに発売された端末のバージョンアップがどうなるかが気になるところだが、今のところ、一部のメーカーからはAndroid 4.0対応の意向が明らかにされているものの、auからはどのモデルをいつのタイミングでAndroid 4.0にバージョンアップするかという情報が明確にアナウンスされていない。ただ、今回発表されたモデルの内、7月下旬以降に発売される「AQUOS PHONE CL IS17SH」が昨年末に発売された「AQUOS PHONE IS13SH」をベースに、RAMを1GBに倍増することで、Android 4.0を搭載している。その他のスペックがほぼ共通であることを考え、他社の対応状況なども鑑みると、このRAM 1GBあたりが従来モデルのAndroid 4.0搭載の可否を左右するひとつの目安になってくるのかもしれない。


AQUOS PHONE CL IS17SHAQUOS PHONE SERIE ISW16SHのユーザーインターフェイス

 また、GALAXY NEXUSなどを見てもわかるように、Android 4.0は従来のAndroid 2.3とタブレット向けのAndroid 3.xを融合させたこともあり、ユーザーインターフェイスが刷新されている。携帯電話事業者やメーカーとして、Android 4.0標準のユーザーインターフェイスを採用するのか、何らのカスタマイズを加えるのかは判断が分かれるが、今回発表された端末を見る限り、auは基本的に各メーカーの仕様を受け入れる姿勢のようだ。翌16日に発表会を行なったNTTドコモが「docomo Palette UI」を初期設定に統一している状況とは対照的だ。

 ところで、auの今回の端末ラインアップを見ると、少し内容的に物足りなさを感じるのは、おそらく読者のみなさんも同じだろう。これにはいくつかの理由がある。ひとつは前述のように、auは今秋以降にLTEサービス開始を控えているため、少し力を温存しているという見方だ。サービス開始時にエリアを一気に全国展開することからも想像できるが、当然、端末ラインアップも一気に揃える構えのようだ。

 もうひとつの理由は、ベースバンドチップセットの供給状況が厳しいことが挙げられる。これは今年に入って、業界内で噂されていたことだが、今夏の各社のモデルに搭載される予定の米QUALCOMM製Snapdragonの第四世代のベースバンドチップセット「S4」の供給が不足し、各社が端末を十分に生産できない状況にあるという。auの場合はLTEをサポートしない「MSM8660A」、NTTドコモの場合はLTE対応の「MSM8960」がこれに該当する。

 Snapdragonについて、少し補足しておくと、Snapdragonは2010年春頃までのモデルに搭載された「QSD8650」や「QSD8250」が最初の世代で、製造プロセスは65nmを採用していた。2010年後半から2011年半ばまでのモデルには45nmプロセスで製造されたシングルコアの第二世代「MSM8655」「MSM8255」、2011年後半から今年の春モデルまでは同じく45nmプロセスで製造された非同期デュアルコアの第三世代「MSM8660」「MSM8260」が搭載されてきた。そして、S4は28nmプロセスで製造され、今年の夏モデルには非同期デュアルコアの「MSM8660A」や「MSM8960」などが搭載されているが、このチップの供給が需要に追いついていないというわけだ。

 その結果、各メーカーはモデル数を減らしたり、場合によってはカラーバリエーションを少なくすることで、何とか1モデルあたりの供給量を増やしている。なかでも国内メーカーと海外メーカーでは元々、チップの発注数が大きく違うため、大口の海外メーカーの方がチップを確保しやすく、国内メーカーはラインアップを縮小せざるを得ない状況にあるようだ。ただ、海外メーカーも日本向けモデルだけを優先的に生産できるほどの状況ではなく、各社とも最終的な仕上げや発売日の調整などに追われているという。auの夏モデルのラインアップでは、シャープ製「AQUOS PHONE SERIE ISW16SH」と4月発表のHTC J ISW13HTがMSM8660Aを搭載し、その他のモデルはS3以前のベースバンドチップセットか、他メーカーのアプリケーションプロセッサを採用している。

 スマートフォンのラインアップでは、HTC J ISW13HTを含め、6機種中、3機種がWiMAXを搭載し、1機種が昨年に引き続き、ダイヤルキーを備えたスライド式ボディという構成になっている。auのオトナ向けフィーチャーフォンとして、ラインアップされてきた「URBANO」が初めてスマートフォンに名前が冠され、ユーザーの幅広いニーズに応えていこうという構えだ。

 また、スマートフォン以外では、フィーチャーフォンを3機種、ラインアップに加えてきた。市場がスマートフォン全盛であることは間違いないが、フィーチャーフォンを使っているユーザーからは「もう自分が買えるケータイはなくなってしまうのでは?」といった不安も聞かれる。こうしたユーザーのために、きちんとフィーチャーフォンもラインアップに加え、しっかりと応えられる体制を整えようという考えだ。この点についてもiモード端末を1台もラインアップしなかった16日発表のNTTドコモの夏モデルと対照的と言えそうだ。



スマートフォン5機種とフィーチャーフォン3機種をラインアップ

 さて、ここからは今回発表されたスマートフォン5機種とフィーチャーフォンの3機種に加え、4月発表のHTC J ISW13HTについても印象を踏まえながら、説明しよう。ただし、いずれも開発中の製品であり、タッチ&トライコーナーで試用した印象に過ぎないため、実際の製品とは差異があるかもしれないことをお断りしておく。また、本誌にはすでに各端末の詳しいレポート記事が掲載されているので、そちらも合わせて、ご覧いただきたい。

【スマートフォン】

AQUOS PHONE SERIE ISW16SH(シャープ)

 シャープ製スマートフォンとしては初のWiMAX搭載端末。冬モデルのAQUOS PHONE IS13SHはコンビネーション液晶を搭載したミッドレンジ向けのモデルという印象だったが、今回のAQUOS PHONE SERIE ISW16SHはディスプレイサイズも約4.6インチと大きくなり、無線LANは5GHz帯のIEEE802.11aをサポート、16GBの本体メモリを搭載するなど、ハイスペックを追求したモデルとなっている。

 CPUはSnapDragon S4のMSM8660Aを採用する。ディスプレイ周囲を狭額縁で仕上げているため、4.6インチというサイズの割に、ボディ幅も66mmとそれほどワイドではなく、意外に持ちやすい印象だ。タッチパネルは今年2月にソフトバンク向けに供給されたAQUOS PHONE 104SHで採用されたダイレクトトラッキング技術が採用されており、非常になめらかでレスポンスのいい使い心地を実現している。新たに採用されたユーザーインターフェイス「Feel UX」は、スマートフォンがはじめてのユーザーでもなじめるように、使いやすさを追求したもので、ロック画面で壁紙を切り替えたり、株価や天気などのウィジェットを表示できるようにするなど、ユニークな仕様となっている。

 ロック画面を解除すると、すぐにアイコンが並ぶアプリ一覧画面が表示され、縦方向のスクロールでアプリを選ぶ。左方向にフリックすると、ウィジェットやショートカットの画面に切り替えることができる。筆者のように、すでに多くのAndroidスマートフォンを触っているユーザーは、やや戸惑うかもしれないが、幅広いユーザーにアプローチする取り組みとして、期待できる。また、NFCとFeliCaの両対応も注目されるが、NFCで利用できるのはAndroid Beamなどに限られており、実質的には当面、FeliCaを使い、将来的に便利なサービスが登場したときにNFCを使えると捉えるのが確実だ。



ARROWS Z ISW13F(富士通)

 昨年末に発売された「ARROWS Z ISW11F」に続く、WiMAX搭載のハイスペックモデルで、国内で販売されるスマートフォンでは初となるNVIDIA製クアッドコアプロセッサ「Tegra3」を搭載する。Tegra 3はCPUが4つのコアと1つのコンパニオンコア、12コアのGPUで構成され、負荷が少ないときはコンパニオンコアのみで動作し、負荷に応じて、4つのコアが動作するしくみとなっている。

 ボディはISW13Fに比べ、少し丸みを帯び、手にフィットする感覚は良くなったが、全体的に大ぶりになり、少し厚みや重量感も増した印象も残る。従来のARROWS Z ISW11Fでは、発熱や充電によるトラブルが非常に多く指摘されていたこともあり、コア数が増え、初物でもあるTegra3搭載は少々、不安が残るところだが、auとしては防水性能を維持しながら、排熱などについてもしっかりと検証したいとしている。今回試用した開発中のモデルでは、通常の利用こそ、それほど気にならないものの、Tegra3用ゲームアプリなどを利用すると、背面側がすぐに温かくなり、まだ今後の改善が期待される印象が残った。背面に指紋センサーが装備され、スリープ中でもセンサー部の押下で解除画面を表示し、指でなぞって、ロックを解除するといった使い方ができる。

 メールソフトは独自の「NX!メール」を搭載し、auのEメール、Gmail、プロバイダのメール、Cメールを統合的に扱えるようにしている。auのEメール環境については、昨年、標準アプリが提供され、今後は統一されることが予想されていたが、富士通製スマートフォンはプライバシーモードなどの実装もあり、独自のメールソフトを採用したようだ。



URBANO PROGRESSO(京セラ)

 auのオトナ向け端末のラインアップ「URBANO」シリーズ初となるスマートフォン。フィーチャーフォンのURBANOはシャープやソニー・エリクソンが開発を担当してきたが、今回は京セラが開発を担当する。

 京セラとしては、2011年冬モデルの「DIGNO ISW11K」に続き、au向けでは2機種目のスマートフォンということになり、商品名は「URBANO PROGRESSO」になっているものの、本体背面には「DIGNO」のロゴがレイアウトされている。デザイン的には従来のURBANOシリーズ同様、非常に品のいい落ち着いたデザインで、手に持ったときのフィット感も良好だ。背面パネルはマットな仕上げになっているため、指紋などの汚れもあまり気にならない。

 URBANO PROGRESSOで特徴的なのは、受話口のないスピーカー「スマートソニックレシーバー」だろう。しくみとしては、端末に内蔵された振動発生素子でディスプレイを振動させ、相手からの声を耳に伝えるというものだ。スマートフォンの場合、スレート型のボディを採用する機種が多いため、フィーチャーフォンのときと違い、受話口のスピーカーの位置がうまく耳に当たらないといったことが起きやすいが、スマートソニックレシーバーはディスプレイ全体から聞こえるため、非常に聞きやすい。耳にピッタリディスプレイを押しつければ、より密閉した状態で相手の声を聞くことも可能だ。三種の神器もきっちりと揃え、防水にも対応し、グローバルパスポートもCDMA/GSM/UMTS/GPRSに対応するなど、内容的にもかなり充実したモデルと言えそうだ。



AQUOS PHONE SL IS15SH(シャープ)

 昨年発売されたAQUOS PHONE IS14SHなどに続く、テンキーを装備したスライド式ボディのモデル。フィーチャーフォンからの移行を考えるユーザーにとって、テンキーを備え、タッチパネルの操作ができることは、やはり、魅力的ということで、あまり目立たないものの、従来モデルも堅実に売れたと言われている。

 少しスクウェアなデザインで仕上げられていた従来のAQUOS PHONE IS14SHに対し、今回のモデルは丸みを帯びたデザインに変更し、背面側も少し曲線を付けることで、持ちやすいデザインに仕上げている。ボディサイズは従来モデルとそれほど大きく変わらないが、テンキー部分のかなり広くなった印象で、それぞれのキーも約1.2倍に拡大したことで、押しやすくなっている。

 また、従来モデルではAndroidプラットフォームの制約上、DELキーとバックキー(戻るキー)が別々に装備され、フィーチャーフォンのクリアキーと少し使い勝手に違いがあったが、今回はこれらが統合され、フィーチャーフォンとほぼ変わらない使い勝手を実現している。フィーチャーフォンから移行するユーザーなら、最初に検討したい一台と言えそうだ。



AQUOS PHONE CL IS17SH(シャープ)

 昨年の冬モデルAQUOS PHONE IS13SHをベースにしたモデル。2.1インチのメモリ液晶を組み合わせた4.2インチのコンビネーション液晶を搭載する。ハードウェアの基本構成はほぼ同じだが、RAMが1GBに拡張され、プラットフォームはAndroid 4.0が採用される。

 タッチパネルも他の夏モデルのAQUOS PHONE同様、ダイレクトトラッキング技術によるものが搭載され、ホームアプリもFeel UXが採用される。今回はモックアップのみの展示だったが、ソフトウェアは基本的に夏モデル以降のものが採用される予定だ。IS03の発売から約1年半が経過しているが、早めの機種変更を検討しているユーザーにも魅力的なモデルだ。基本構成が変わらない冬モデルをベースにしているだけに、手堅い選択をしたいユーザーにもおすすめできる一台と言えそうだ。



HTC J ISW13HT

 今年4月に発表されたHTC初の日本仕様搭載モデル。基本的な構成は今年2月のMWC 2012で発表されたHTC one Sをベースに、おサイフケータイ、ワンセグ、赤外線通信を搭載している。ボディデザインもHTC one Sと異なっており、同じようにボディ周囲が曲線で仕上げられながら、HTC J ISW13HTの方がスクウェアなイメージで仕上げられている。

 いわゆるHTC端末らしさはなく、見た目のインパクトもかなり抑えられているが、細かい部分の仕上げは非常にきれいで、フィーチャーフォン時代のauケータイの仕上りの良さを再現しているように見える。手に持った印象はあまり大きすぎず、手の大きくない人でも十分に使えそうなサイズ感にまとめられている。HTC製端末でおなじみのHTC Senseも日本仕様に合わせてアレンジされるなど、細かい部分も工夫が加えられている。ただ、ここまで日本向けにカスタマイズしていながら、ストラップホールがないのはちょっと惜しい印象が残った。



【フィーチャーフォン】

PT003(パンテック)

 IPX5/IPX7相当の防水、IP5X相当の防じんに対応したコンパクトな折りたたみデザインのモデル。トップパネルにマトリクス型のLEDを内蔵することで、着信などのインフォメーションをイルミネーションで表示できる。ワンセグやおサイフケータイ、赤外線通信など、ひと通りの機能を備えており、フィーチャーフォンの標準的な仕様のモデルとして仕上げられている。今回はモックアップのみの展示だったが、シートキーが独立キーを採用しているものの、キーの突起がやや少なめであること、外部接続端子がスマートフォンなどと共通のmicroUSB端子であることなどが気になった。



K011(京セラ)

 使いやすさを追求したコンパクトな折りたたみデザインのモデル。3.2インチのフルワイドVGA対応IPS液晶や808万画素カメラ、CPUにSnapDragonなど、フィーチャーフォンではもっともハイスペックを実現している。ユニークな機能としては、auの子ども向け端末「mamorino」を遠隔操作するための「mamorinoナビ」が挙げられる。mamorinoの遠隔操作にはコマンドを入力したCメールを作成する必要があったが、mamorinoナビでは本体のメニューから操作することで、遠隔操作のコマンドを入力したCメールを作成することができる。K011がマナーモードに設定されている状態でもmamorinoで防犯ブザーが操作されれば、マナーモードに関係なく、通知音を鳴らせることができるなどの工夫も盛り込まれている。mamorinoを子どもに持たせているお母さんユーザーに適したモデルと言えるだろう。



簡単ケータイ K012(京セラ)

 auのエントリーユーザー向け「簡単ケータイ」の最新モデルで、昨年発売された「簡単ケータイ K010」の後継モデルに位置付けられる。使いやすさを追求する簡単ケータイのコンセプトはそのまま継承されるが、新たにURBANO PROGRESSO同様、スマートソニックレシーバーが搭載され、雑踏の中でも聞きやすい環境を実現する。聞こえ方を調整できる「はっきり通話」、自然に聞こえやすい「なめらか通話」、周囲の音を聞こえやすくする「聞こえアシスト」など、音声系のサポート機能も充実している。



【タブレット】

REGZA Tablet AT500/26F(東芝)

 5月14日に東芝から発表された「REGZA Tablet」のau向けモデル。3GやWiMAXなどのモバイルデータ通信機能を備えていないため、自宅やオフィスなどの無線LAN、DATA08WのようなモバイルWi-Fiルーターや+WiMAX対応スマートフォンと組み合わせて利用する。

 基本的な仕様は東芝が一般向けに販売するモデルと同じで、CPUにはNVIDIA製Tegra3を搭載するが、au向けに供給されるモデルはau IDが設定できるため、auスマートパスに対応し、「ビデオパス」を利用することができる。携帯電話事業者以外が販売する製品も含め、Android 4.0搭載タブレットはそれほどバリエーションが多くないため、他製品との比較が難しいが、重量が590gと他の10インチクラスのタブレットよりも軽いものの、ディスプレイ周囲の枠が広いこともあり、やや大ぶりな印象で、手に持ったときのズッシリ感も残る。Wi-Fiが5GHzに対応しておらず、防水/防じん対応でないところもやや気になるポイントだ。

少数精鋭の夏モデルでauスマートパスを後押しできるか?

 田中孝司代表取締役社長の体制になって以来、少しずつ一時期の勢いを取り戻しつつあるau。特に、今年発表された「auスマートパス」は、割引サービスの「auスマートバリュー」とも相まって、店頭での反響もかなり良く、販売店のスタッフからは「以前みたいに忙しくなってきた」という声も耳にするようになってきた。

 携帯電話というと、どうも端末ばかりがイメージされる傾向が強いが、実際に使っているユーザーにとっては、端末だけでなく、そこで利用できるサービスや月々の料金体系が気になってくるものだ。冒頭でも説明したように、かつてauが市場をリードしていたときは、端末だけでなく、「LISMO」や「EZナビウォーク」といったサービス、「パケ割」から「ダブル定額」と進化していったパケット通信料割引サービス、基本使用料を割り引く「誰でも割」など、他社に先んじたサービスや料金体系を提案していたが、auスマートパスに始まった最近の発表は一時期の勢いを彷彿させるものであり、今回発表された「うたパス」や「ビデオパス」もこの流れに沿ったものだ。


端末ラインアップ

 端末ラインアップについては、本稿でも説明したように、今秋に「4G LTEサービス」を控えていることもあり、ややモデル数の少ない発表に留まった。しかし、春モデルとして登場したサムスン製「GALAXY S II WiMAX ISW11SC」やソニーモバイル製「Xperia acroHD IS12S」に新色が追加されるなど、店頭のモデル数は一定を確保をできることになりそうだ。

 また、昨年末の冬モデルのように、重量級モデルばかりが並んでいるわけではなく、硬軟を取り混ぜたバランスのいいラインアップになっているのも好印象だ。主軸はカラーバリエーションも豊富なHTC J IS13HTと実力派のAQUOS PHONE SERIE ISW6SHが担い、ハイスペックはARROWS Z ISW13F、幅広いユーザー層はURBANO PROGRESSO、フィーチャーフォンからの移行ユーザーでテンキーを求める人にはAQUOS PHONE SL IS15SH、IS03のコンビネーション液晶を継承したい人にはAQUOS PHONE CL IS17SHと揃え、フィーチャーフォンもビギナー向けでなく、従来の通常モデルに相当する新機種もラインアップに加えている。モデル数は限られているが、少数精鋭のモデルをうまく配置したという印象だ。

 さて、今回発表された2012年夏モデルは、5月下旬から順次、発売される予定だ。従来同様、発表されたモデルは、東京・原宿のKDDIデザイニングスタジオと愛知・名古屋のau NAGOYAで展示が開始されている。端末を購入する前に、ぜひともデモ機を一度試し、実際の動作を確認することを強くおすすめしたい。また、本誌でもインタビュー記事やレビュー記事などが掲載される予定なので、こちらもじっくりと読んでいただき、自分に合った一台を選んでいただきたい。

「GALAXY S II WiMAX ISW11SC」と「Xperia acroHD IS12S」には新色追加

 




(法林岳之)

2012/5/18 19:42