法林岳之の「週刊モバイルCATCH UP」
「AQUOS sense8」、定番モデルの安心感と進化を続ける“必要十分”
2024年1月30日 00:00
国内で販売されるAndroidスマートフォンにおいて、2017年の発売以来、継続的に高い人気を得ているシャープの「AQUOS sense」シリーズ。
2023年11月には8代目モデルとなる「AQUOS sense8」が各社から発売された。少しタイミングが空いてしまったが、筆者も実機を試すことができたので、レポートをお送りしよう。
「必要十分」を更新しながら進化する定番モデル
スマートフォンは使う人によって、求めるものが違ってくる。デザインやカラーを重視する人もいれば、価格を重視する向きもある。
ゲームもバリバリ楽しめるハイスペックを追求したり、はたまたデジタルカメラを超えるカメラ性能に期待したり、大容量バッテリー搭載と省電力性能で連続稼働時間を稼ぐといった方向性もある。
スマートフォンで“できること”が広がってきたからこそ、求める要素の違いも広がっている。
そんな中、2017年に「必要十分」というキーワードを掲げ、国内市場に投入されたのが「AQUOS sense」シリーズだ。
当時は「ハイスペックなモデルなら、長く使えるだろう」という考えのもとに、フラッグシップモデルが指向されていた時期だったが、スマートフォンの性能がある程度、成熟期に差し掛かっていたことから、シャープは単にハイスペックを追うのではなく、必要十分なスペックを搭載し、リーズナブルな価格を実現した「AQUOS sense」を市場に送り出し、幅広いユーザーのニーズに応えようとした。
この「必要十分」という方針は、当初、一部で「スペックの低い廉価モデル」という誤った解釈がなされていたが、メールやブラウザ、SNS、カメラなどのスマートフォンの一般的な機能を使ううえで、必ずしも「Snapdragon 8xx」シリーズなどのフラッグシップのチップセットが必要ではなく、実利用に十分なパフォーマンスを確保しながら、防水防塵などの耐環境性、耐衝撃性能などの堅牢性などを実現し、セキュリティパッチやOSアップデートのサポート体制も充実させることで、徐々に幅広いユーザーに支持されるようになり、国内市場に着実に浸透してきた。
ただ、スマートフォンはユーザーが求めるトレンドが目まぐるしく変わるため、必要十分の条件も少しずつ変わってくる。
そこで、シャープは世代を重ねるごとにスペックを見直し、それぞれの時期に合わせた仕様や機能を搭載し、国内市場に「AQUOS sense」を送り出してきた。
こうした地道な積み重ねによって、「AQUOS sense」シリーズは「定番モデル」「国民機」などと呼ばれるほど成長し、国内でもっとも支持されているAndroidスマートフォンの地位を確立している。
今回、2023年11月に各社から販売が開始された「AQUOS sense8」は、その名の通り、シリーズ8代目のモデルになる。これまでの「AQUOS sense」シリーズでは、世代によって、「AQUOS sense plus」や「AQUOS sense lite」などの派生モデルが存在したが、今回の「AQUOS sense8」は今のところ、単一モデルとして、販売されている。
販路については、家電量販店やECサイトで購入できるオープン市場向けのほかに、NTTドコモ、au、UQモバイル、楽天モバイル、J:COM MOBILEが扱う。
価格は前モデルの「AQUOS sense7」よりも少しリーズナブルで、6万円前後で購入できる。NTTドコモとauでの購入については、端末購入サポートプログラムを利用することにより、実質負担額を3万円台から4万円程度に抑えることも可能だ。
従来モデルを継承したデザイン
まず、外観からチェックしてみよう。ボディは従来モデルに引き続き、バスタブ構造のアルミニウム製ケースを採用する。ボディ幅は71mmとコンパクトで、重量も159gと軽く仕上げられている。
ただ、デザインも「AQUOS sense7」とほぼ同じで、スペック上は厚みが0.4mm増、高さが1mm増、幅が1mm増という違いはあるものの、見た目も手にした印象もほとんど変わらない。ボディカラーもアルマイト染色が施されているため、長期間利用したときの色落ちや塗装の剥がれなどは心配ない。
耐環境性能としては、IPX5/IPX8準拠の防水(お風呂対応)、IP6X準拠の防塵に加え、MIL-STD-810G準拠の耐衝撃、MIL-STD-810H準拠の耐振動や防湿、高低温動作などの合計16項目にも対応する。
高耐久スマートフォンとしてはauの「TORQUE」シリーズが知られているが、「AQUOS sense8」は外観こそ、一般的なスマートフォンのデザインながら、それに次ぐ耐環境性能を持ち合わせていることになる。
ちなみに、最近は少しコロナ禍の影響が落ち着いてきたため、利用するシーンが減っているかもしれないが、アルコール除菌シートでの拭き取りにも対応している。医療や介護の現場などで使いたいときに、安心できる機能のひとつと言えるだろう。
バッテリーは従来モデルよりも10%増になる5000mAhを搭載する。シャープによれば、動画4時間、音楽ストリーミング3時間、SNS閲覧2時間、ゲーム1時間の利用でも2日間の利用が可能で、動画の連続再生も39時間まで可能としている。
「AQUOS sense」シリーズは従来からロングライフに定評があるが、今回の「AQUOS sense8」も相変わらずのロングライフぶりで、同時期に試用中だった他製品に比べ、バッテリー残量の減り具合がかなり緩やかだった印象だ。
充電は本体下部のUSB Type-C外部接続端子を使い、USB PD3.0に対応する。シャープ独自の機能として、端末本体や周囲の温度に応じて、自動的に充電方法をコントロールする「インテリジェントチャージ」を搭載する。
充電時の最大充電量を90%までに制限し、それ以上は充電器から本体へ直接給電する「ダイレクト給電」に切り替えることで、バッテリーへの負荷を減らし、バッテリーの劣化を防ぐことができる。
これに加え、「画面消灯中のみ充電」も用意されており、画面点灯中はダイレクト給電、画面消灯中は充電という動作を設定することもできる。これらの充電制御により、3年間使ってもバッテリーの寿命は90%以上を確保できるとしている。バッテリーの状態は[設定]アプリ内の[バッテリー]-[健康度]で確認できる。
なめらかで視認性に優れた6.1インチIGZO OLED搭載
ディスプレイは従来モデルに引き続き、フルHD+(1080×2432ドット表示)対応の約6.1インチIGZO OLED(有機EL)を搭載する。10億色表示に対応し、コントラスト比は1300万対1、ピーク輝度は1300nit。リフレッシュレートは最大90Hzだが、黒フレームを挟み、網膜残像を軽減することにより、最大180Hz相当のなめらか表示を実現する。
これまでのシャープ製端末でもおなじみのアイドリングストップも対応しており、画面に表示する内容に合わせ、リフレッシュレートを可変させ、消費電力を抑えることができる。
目の負担を軽減するブルーライトカットについては、シャープ製端末では従来モデルから「リラックスビュー」という機能として搭載され、他機種でも採用例が多いが、多くの機種では画面の色合いが黄味がかってしまい、不自然に見える印象があった。
「AQUOS sense8」に搭載されたIGZO OLEDでは、有機ELに新しい素材を採用することにより、常時有効にした状態でも自然な色合いのまま、ブルーライトを50%軽減している。従来モデルの「AQUOS sense7」や「AQUOS sense6」と並べた状態でもわかるくらいの違いがある。
生体認証は電源ボタン内蔵指紋センサー、ディスプレイ上部の半円ノッチに内蔵されたインカメラによる顔認証に対応する。従来モデルでは「AQUOS sense6」や「AQUOS sense 5G」がディスプレイ内指紋センサーを採用し、「AQUOS sense6」では本体側面に内蔵された静電式指紋センサーに切り替えられていた。
同じしくみは「AQUOS wish2」にも継承されたが、市販の保護ケースを装着したとき、形状によっては指紋センサーがタッチしにくいなどの不満があった。今回の「AQUOS sense8」では一般的な電源ボタン内蔵の静電式センサーに変更され、画面オフの状態からも電源ボタンに触れるだけで、指紋認証で画面ロックが解除できる。
ただし、市販の保護ケースを購入するときは、指紋センサー内蔵の電源ボタンが操作しやすい製品を選ぶことをおすすめしたい。
また、指紋センサーを利用した便利機能として、「Payトリガー」も引き続き、搭載されている。「Payトリガー」はロック解除時に指紋センサーに指を当て続けることで、特定のアプリを起動したり、複数のアプリを登録したフォルダーなどを表示できる機能で、設定を変更すれば、ロック解除時だけでなく、ホーム画面からも同様の操作ができる。
「Payトリガー」という機能名からもわかるように、たとえば、「d払い」や「au PAY」などのコード決済アプリを登録しておき、支払い時にすぐに起動できるように設定するわけだ。
店舗によっては会員カードのアプリを提示するが、そのようなときはコード決済アプリと店舗の会員アプリをフォルダーに登録しておき、それぞれをすぐに提示することも可能だ。「Payトリガー」は[設定]アプリ内の[AQUOSトリック]-[指紋センサーとPayトリガー]で設定ができる。
顔認証については従来モデルに引き続き、マスク装着時の解除にも対応する。コロナ禍が収まり、マスクを着ける機会は減っているかもしれないが、花粉症などでマスクを着ける人にとっては、心強い対応と言えるだろう。
最大3回のOSバージョンアップ、5年間のセキュリティアップデート対応
チップセットは米Qualcomm製Snapdragon 6 Gen 1を採用し、6GB RAMと128GB ROMを搭載する。最大1TBのmicroSDメモリーカードを装着することができる。
従来の「AQUOS sense7」や「AQUOS sense6」などでは長らく米Qualcomm製Snapdragon 695 5Gが採用されてきたが、「AQUOS sense8」ではようやく新しい世代のチップセットに置き換わった。
チップセットのプロセスルールも6nmから4nmになり、省電力性能などが高められたほか、CPUやGPUの性能も30%程度、向上している。実際の操作についてはストレスなく使うことができており、今後、数年間の利用を継続しても問題なく、使うことができそうだ。
SIMカードはnanoSIM/eSIMのデュアルSIMに対応しており、SIMカードスロットにはnanoSIMカードとmicroSDメモリーカードを1枚ずつ装着できる。ネットワークは5G NR/4G LTE/3G(W-CDMA)/2G(GSM)に対応する。
「AQUOS sense8」はNTTドコモやauなど、複数の販路で販売されるが、対応バンドはいずれも同じで、海外メーカーの製品ではサポートされないことが多いNTTドコモに割り当ての5Gバンド「n79」も当然、サポートされている。
オープン市場向けのSIMフリーモデルを購入して、NTTドコモのネットワークを利用したMVNOを利用するようなケースでもしっかりと5Gネットワークが利用できるのは心強い。
プラットフォームは出荷時にAndroid 13が搭載されており、原稿執筆時点では2023年9月版のAndroidセキュリティアップデートが適用されていた。プラットフォームのサポートについては、発売日から最大3回のOSバージョンアップ、5年間のセキュリティアップデートが保証されており、長く安心して使える環境を提供している。
プラットフォームのサポート期間は元々、シャープが積極的に取り組んできたが、最近ではGoogleの「Pixel 8」シリーズが発売から最大7年間までアップデートの提供期限を延長するなど、各社ともロングライフ化を進めている。
長く使いたいユーザーにはうれしいところだが、バッテリーをはじめ、端末の現実的なライフサイクルを考えると、3~4年程度で十分だという意見もある。その点で考えると、「AQUOS sense8」の最大3回のOSアップデート、5年間のセキュリティアップデートはバランスの取れた方針と言えそうだ。
シャープ独自の機能を集めた「AQUOSトリック」
シャープ製端末のユーザーインターフェイスは、Androidプラットフォーム標準をベースにしながら、アプリ一覧画面でアプリをフォルダーにまとめられるようにしたり、「Payトリガー」などの独自の機能を搭載するなど、シャープならではの使いやすさを追求している。シャープ独自の機能については、引き続き、[設定]アプリ内の[AQUOSトリック]にまとめられている。
記事やSNSを自動スクロールで流し読みができる「スクロールオート」、画面の隅を長押しして、スクリーンショットが撮れる「Clip Now」などが用意されており、簡単な説明で内容を確認しながら、設定することができる。
ひとつ残念なのはシャープ独自の日本語入力システムとして、長らく進化を続けてきた「S-Shoin」が搭載されなくなったことだ。
前モデルの「AQUOS sense7」までは[AQUOSトリック]内のメニューからGoogle Playのダウンロードできるようにしていたが、「AQUOS sense8」では「S-Shoin」のメニューもなくなり、Google Playで検索しても「このアプリは、お使いのデバイスでは利用できません」と表示されるようになってしまった。
代わりの日本語入力システムとして、Androidプラットフォーム標準の「Gboard」が搭載されたが、カスタマイズ性なども含め、使い勝手が違い、「AQUOS sense」シリーズのアドバンテージをひとつ失ってしまった感は否めない。
開発や保守のコストがかかるため、しかたないという見方もあるが、「日本のユーザーのためのスマートフォン」という立ち位置を保つのであれば、継続してサポートして欲しかったところだ。
ちなみに、他のシャープ製端末では「AQUOS R8 Pro」や「AQUOS R8」に搭載され、「AQUOS wish3」には搭載されていないことから、2023年度下半期のモデルは搭載されないことになったようだ。
フラッグシップモデルと同クラスのカメラを搭載
カメラについては背面中央に標準カメラ、その隣に広角カメラ、ディスプレイ上部の半円ノッチ内にインカメラをそれぞれ搭載する。
カメラのスペックとしては、背面中央の標準カメラ(23mm)が1/1.55インチの5030万画素イメージセンサーにF1.9レンズ、広角カメラ(15mm)が800万画素イメージセンサーにF2.4レンズ、前面のインカメラが800万画素イメージセンサーにF2.0となっている。
標準カメラは電子手ぶれ補正と光学手ぶれ補正に対応し、広角カメラとインカメラは電子手ぶれ補正のみに対応する。
端末としてはミッドレンジに位置付けられる「AQUOS sense8」だが、カメラのスペックはNTTドコモ向けのフラッグシップモデル「AQUOS R8」とほぼ同等であり、「Leica監修」という冠こそないものの、一連のモデルで培われたノウハウを活かした画質エンジン「ProPix」とも相まって、このクラスとしてはかなり高レベルのカメラに仕上げられている。
撮影モードとしては、「ビデオ」「写真」「ポートレート」「ナイト」「マニュアル撮影」を選べるが、自動的に被写体を判別するAIオートが利用できるため、基本的にはカメラを起動して、シャッターを切れば、クオリティの高い写真や動画を撮ることができる。標準カメラは光学2倍相当のズームにも対応し、少し遠めの被写体を撮影したいときに有効だ。
撮影した写真や動画はGoogleフォトの[フォト]アプリで閲覧でき、編集機能では「切り抜き」や「調整」、「フィルタ」などが利用できる。
端末に設定したGoogleアカウントで、「Google One」を契約していれば、クラウドと連携することにより、Pixelシリーズでおなじみの「消しゴムマジック」などで編集することも可能だ。
さらなる進化で“必要十分”を強化した一台だが……
ここ数年、国内市場ではフラッグシップモデルの売れ行きが厳しいと言われる中、ミッドレンジモデルが売れ行きを伸ばし、なかでもシャープの「AQUOS sense」シリーズは、定番モデルとして、各社で好調な売れ行きを示してきた。
今回発売された「AQUOS sense8」もこの流れを受け継ぎ、チップセットを新しい世代のものに置き換えたり、バッテリーを強化するなど、実使用に結び付く“必要十分”をしっかりと強化してきた。
価格も6万円程度とリーズナブルで、長く使うための耐環境性能などのハードウェア面の強化に加え、OSアップデートやセキュリティアップデートなどのソフトウェア面のサポートも充実している。
各携帯電話会社で購入したときは各社の補償サービスが利用でき、MVNO各社も独自の補償サービスを提供しているが、シャープ自身も購入から1年以内に加入できる「モバイル補償パック」を提供しており、ユーザーが安心して利用できる環境を整えている。
ハードウェアもサポート面もソツなくまとめた「AQUOS sense8」だが、やや気になる点もある。たとえば、本稿で触れた日本語入力システム「S-Shoin」の搭載見送りもそうだが、端末本体のデザインが従来の「AQUOS sense7」とほぼ同じで、側面の指紋センサーなどを除けば、ほぼ見分けが付かないことも気になる。
スマートフォンや携帯電話に限ったことではないが、どうしても「定番」と呼ばれる製品は「変わらない」ことを良しとする傾向にあるが、毎日、手にする製品であり、多くの人が持つ製品であるからこそ、カラーバリエーションなど、ごくわずかな部分でもいいので、「新しさ」を感じさせる要素が欲しかったところだ。
世代的に見ると、おそらく「AQUOS sense 5G」以前のモデルから買い換えが主流になるため、デザインは大きく変わることになるが、店頭に「AQUOS sense8」と「AQUOS sense7」が並び、ショップスタッフが「あまり変わらないんですよ」「どっち買っても大して変わらないですよ」などと話してしまうと、旧モデルが売れてしまったり、新しさを感じさせる他のモデルを選んでしまうかもしれない。
“定番”と言われるモデルだからこその難しさではあるが、贅沢を言えば、そこを超えて、新しい価値をしっかりと追求して欲しいところだ。