iPhone片手に天体観測

2012年5月28日 06:00
(白根雅彦)
iPhoneで撮影した日食の投影像

 去る2012年5月12日、日本の広範囲において金環日食が観測できた。これだけの広範囲で金環日食が見られるのは珍しかったので、ご覧になった方も多いのではないだろうか。

 筆者はというと、カメラのフィルタも日食用サングラスも買い損ねたので、天気も悪そうだし朝も早いし、とあきらめ気味だった。しかし前日夜、Twitterなどが盛り上がっているのを見て元天文部の血が騒ぎ、即興でピンホール観測器を作ってみることにした。

 即興すぎて遮光が甘く、あいにくの曇り空ではあまりはっきりとは投影できなかったが、それでも雲が晴れた瞬間には、比較的はっきりとした日食の像を見ることができた。投影面を見るための穴の位置が悪く、レンズ交換デジカメではうまく撮影できなかったのだが、iPhoneで撮影することもできた。

 こうした天体観測では、スマートフォンが意外と役に立つ。今回の日食では、専用のiPhoneアプリがいくつか出ていたので、そのうちの1つ「金環食2012」を利用した。日食は、観測場所と時刻が重要なのだが、こうしたアプリを使うと、どの時間にどのくらい欠けるのか、どの方角に太陽があるかなどを簡単に知ることができる。今回の日食では天候も曇りがちで、そもそもわたしは日食用サングラスを持っていないから太陽を直接見られなかったので、どれだけ欠けているかをリアルタイムで知れるのは非常に助かった。

 日食だけでなく、まざまな天体観測用のアプリが配信されている。

 天体観測の基本となる星図アプリは、iPhone・Androidともにいくつかのアプリが配信されている。紙の星図と違い、常に変化する惑星の位置も正確に表示されるのがまた便利だ。一部の惑星は非常に明るく、都会でも見えやすいので、役に立つ機会は意外と多い。多くのアプリは、センサで傾きと方位を検知し、本体を向けた方向にある星空を表示するAR機能があるので、方位磁針などの扱いに慣れていなくても星座を見つけるのも簡単だ。

 スマートフォンならではのユニークな天文アプリとしては、「ToriSat」が面白い。これは、国際宇宙ステーション(ISS)をはじめとした大型人工衛星の見える位置を表示してくれるアプリだ。やはりAR機能を搭載している。とくにISSは、長さ73m、幅108mと非常に巨大で明るく、観測対象としても面白い。

 しかしISSの観測は簡単ではない。ISSの軌道は高度400km前後なので、少なくとも日本の上空にさしかかったときにしか見られない。軌道は公開されているが、どの時間にどの角度で見えるかを計算するのは手間がかかる。また、90分程度で地球を1周する速度で周回しているので、時間にもシビアだ。そのくせ夜中は地球の影に入ってしまうので見ることはできない。

 そうした条件を自動で計算してくれるWebサービスなどもあるが、「ToriSat」なら、観測する場所で、GPSの位置情報を元に計算されたISSの位置をAR表示できる。現在時刻以外の表示も可能なので、観測しやすい日時を調べることも可能だ。「ToriSat」は有料アプリだが、iPhone・Androidの両方で提供されている。

 惑星やISSは、観測しやすいわりには面白い観測対象だ。日食ほどの派手さはないが、好天の夜に空を見上げるときは、こうしたアプリを片手に惑星やISSを探してみるのはいかがだろうか。

金環食2012。今回の日食専用のアプリだToriSatのAR画面。これは2012年6月6日のシミュレーション