ケータイ用語の基礎知識
第728回:全固体電池 とは
(2015/10/13 12:25)
固体だけで作られる次世代バッテリー
電気を蓄えて放電する「二次電池」いわゆる充電池では、1979年、日本のソニーによってエネルギー密度の高い小型の「リチウムイオン電池」が実用化されました。2015年現在、多くの携帯電話やスマートフォン、デジタルカメラ、パーソナルコンピューター、一部のハイブリッド車や航空機にも搭載されるようになるなど、リチウムイオン電池は、多くの用途で使われています。
リチウムイオン電池は、電解液とよばれるエチレンカーボネートなどの有機溶媒が中に詰められています。つまり、あの堅い電池の殻の中に液体が入っているのです。それよりも前の世代にあたる充電池、たとえば自動車用バッテリーに使われている「鉛蓄電池」でも希硫酸が、そしてかつての携帯電話でも使われたニッケル水素電池でも水酸化カリウムアルカリ水溶液が電解液に利用されています。
今回取り上げる「全固体電池」は、液体を使わず、構成される要素の全てが固体でできているバッテリーです。
液体の電解溶液は気化しやすく、水素ガスのような非常に燃えやすい気体であることも多いので、たとえば安全弁を設けて、ガスを外部に放出するなど、安全装置が必要であったり、取り扱いに注意が必要だったりします。リチウムイオン電池のように、実用化されているものには何重にも安全装置が設けられており、安全に使えるようになっているのですが、不慮の事故などがあった場合、それらの工夫にも関わらず発火したり、悪くすると爆発を起こしたりというようなこともあり得なくはありません。
一方、全固体電池は、原理上、そのような心配がありません。その構成次第では、現在のリチウムイオン電池などと比べても非常にエネルギー密度の高く、寿命の長い電池を作ることができる可能性もあることから、全固体電池は有力な次世代、もしくは次々世代電池の候補の1つになっています。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2010年に作成した二次電池技術開発ロードマップでは、2030年ころにまでに普及すべき革新二次電池の候補の1つとして全固体電池を挙げています。これは全固体電池の中でも電解質に無機固体を使う、無機固体電解質です。安全でかつ小型化、高エネルギー密度も持つ、非常に優れた全固体電池として有望視されていて、いずれは電気自動車を初めとして、大きな電力の充電を必要とする分野に使われるようになることが期待されています。
NEDOのロードマップでは、ノートパソコンやスマートフォンなどの充電池は現状でもある程度満たされている、としていますが、ユーザーの使い勝手を考えるとさらなるエネルギー密度の向上の要求があるともされており、いずれはこれらの電池もこの全固形電池に置き換わる日が来るかもしれません。
電池パックの膨張は起きない
全固体電池が実用化されれば、多くのメリットがあります。1つは「安全性」です。これまでの電解液を使ったリチウムイオン電池とは異なり、電解質が気化しにくいため電池を膨張させるようなガスが発生せず、充放電を重ねても電池の容量が非常に劣化しにくいという特徴があります。電解液が気化しないということは、電池が発火するリスクも抑えられます。
大きさや性能の面でもメリットがあります。リチウムイオン電池を初めとする蓄電池では、内部で電源を直列にした状態になるよう、内部的にいくつもの電池が構成できるように仕切りを作って複数の電池を構成し、電圧を確保しています。この仕組みでは、内部にいくつもの区切りが必要となり、自然と、サイズが大きくなります。
全固体電池であれば、このようなことをせずとも、電池内部の電池の構造を非常に小さくすることが可能です。たとえば、電解質となる物質を蒸着などの技術を使って何層にも重ねていけば、ケースなしでも現在と同じような性能で、なおかつ小型化したバッテリーも実現できます。エネルギー密度の向上も可能になるでしょう。
まだまだ多いハードル
多くのメリットがある全固体電池ですが、実用化にはまだ多くのハードルがあります。その中でも最も困難で、鍵となるのは、イオンが流れやすい固体の材料(高いイオン伝導性の電解質)を見つけることでしょう。
現在、そうした材料として、セラミックスの細かな粒や、強誘電性物質を添加したポリマーや、イオン伝導セラミックス、また無機固体系の全固体電池の電解質としてリン酸リチウムオキシナイトライド(通称LiPON)などの物質が研究されています。特にLiPONは有望視されているのですが、現在のリチウムイオン電池に使われている材料と比べると、性能はまだまだです。
今後、固形で電導度の高い電解質、またその特性に合わせた活性物質の研究が進むなど、技術が発達していけば、いずれ全固体電池の開発は大きな一歩を進むことでしょう。