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3分で3000mAh充電可能なモバイルバッテリー、アプライドサイエンスらが量産化

2019年春発売、同年度内にはEVバッテリー量産化へ

 アプライドサイエンスは、マレーシアのKumpulan Powernet(クンプラン・パワーネット)と提携し、3分間でフル充電できるモバイルバッテリーの量産化を発表した。2019年春にスマートフォン向けモバイルバッテリーの販売を開始し、同年度内には電気自動車用のバッテリー量産を目指す。

発表されたバッテリー本体

高速充電可能なモバイルバッテリー内部の仕組み

 今回発表されたモバイルバッテリーには、電池内部の電極表面に塗る「活物質」という電池の“心臓部”に対して改良がされたバッテリーが搭載される。同社らは、この技術を利用した短時間で充電できるバッテリーを「ハイレートセル」として発表した。

 リチウムイオンバッテリーは、リチウムイオンが電解液を通して、電極である正極から負極に相互に移動することで化学反応が起き、充・放電が行われる。

 高速で充電ができる仕組みについて、アプライドサイエンス 代表取締役社長 鵜澤正和氏は、電池内部の電極を作る際には、リチウムイオンの移動のために、表面には“活物質”をまぜたスラリーという状態のものを塗る。そのスラリーを作る際の“水”に対して鵜澤氏の専門分野の技術を利用したと説明。

バッテリーを持つアプライドサイエンス 代表取締役社長 鵜澤正和氏

 利用された技術は、「クラスター微細化技術」というもので、同氏は、水は分子の最小単位でいうとH2Oだが、自然界にある水も含めて、実際には15個~20個程度集まってぶどうの房のような形になっていると考えられていると説明。この形が水分子集団(クラスター構造)とされており、この構造であると、スラリーを作る際に活物質がうまくまざっておらず、“ダマ”になっていることが確認でき、効率的でないという。身近な例として、水で食器を洗うよりもお湯の方が汚れが落ちやすいのは、お湯はクラスター構造が小さいからだということを挙げた。このクラスター構造を同氏の技術により、4~5個程度の分子集団にすることが可能になり、なめらかに混ぜ込むことができたという。

 同技術により、なめらかに混ざったスラリーのおかげで電極表面が平滑化し、効率がよく、低発熱で高速充電が可能なバッテリーができたと紹介した。

 なお、製造にあたっての材料は既存のリチウムイオン電池と全く同じだという。

高速充電モバイルバッテリーの仕様と価格

 モバイルバッテリー本体は、従来のものと大きさは変わらず、価格も少し高い程度と発表された。しかし、充電器は高速充電のために60Aの出力が必要で、専用の充電器が必要。充電器の価格は、1Aなどの充電器に比べて高くなるという。

 また、一般的なリチウムイオン電池の寿命は500サイクルだが、ハイレートセルでは、1500サイクルが寿命となる。1500サイクル利用後でも当初の80%の性能は保持するという。

 なお、モバイルバッテリーは国連勧告輸送試験 UN38.3に合格しており、機内持ち込みが可能。

モバイルバッテリー完成予想図

 大きさは、モバイルバッテリーが6×10×1.5cm、充電器が10×18×4.5cm。重さは、モバイルバッテリーが約200gで、充電器が800g。

3分でモバイルバッテリーが充電されたデモ

 実際に、3000mAhのモバイルバッテリーが、3分間で充電されるデモが行われた。商品化されるモバイルバッテリーは電子制御で充電が行われるが、デモでは手動制御により充電が行われた。

充電するための装置。左から充電装置、モバイルバッテリー本体、電圧計、電池の温度を測る温度計

 充電開始前の電圧は、約2.8Vだったが、3分経過後には約4Vまで電圧が上がっており、ほぼフル充電できていた。充電後の温度も45度程度で触ると温かいくらいだった。

充電装置の一式

 スマートフォンなどの内蔵電池にこのバッテリーを利用することは、基本的に課題はないという。しかし、高速充電のため専用の端子や、充電器が必要であることはモバイルバッテリーと変わらないとしている。

EVへの採用で10分間で300kmの走行が可能に

アプライドサイエンス 代表取締役社長 鵜澤正和氏

 鵜澤氏は、生産にあたっては、まだ検討中としていたが、電極の重要な部分を国内で生産し、その他部品を海外で生産、その後日本で組み込みをし、保証をつけると説明した。また、既存のモバイルバッテリーとの競合については、「十分に時間があるから3分でなくてもいいなどの意見もある。どこと戦うかではなく、値段は高いが便利でいかがですかというところからスタートしたい」としていた。

 また、電気自動車の実現にあたっては、国内自動車メーカーとはまだ話が進んでいないとしたものの、自身が尊敬している日本人エンジニアで、日産GT-R元開発主査の水野和敏氏に話を持ち掛けたいと公言していた。電気自動車の充電に関しては、高速充電を実現するにはやはり、今の整備されている充電器より大きい充電器が必要だという。しかし、電気自動車には、整備されている充電器で充電するモードと専用の充電器で充電するモードを用意するという。

 提携先のKumpulan Powernetについては、今回の発表で量産にあたっての優先的なライセンス権が与えられており、今後、ライセンス権を増やす予定はないと述べた。

Kumpulan Powernet 取締役社長 リャン・テックメン氏

 アプライドサイエンスと提携して、生産するKumpulan Powernet 取締役社長 リャン・テックメン氏は、「リチウムイオン電池は多くの電子機器に利用されており必要不可欠。モバイルバッテリーは最初のステップであり、今後の計画も用意している」と述べた。今後、電気自動車にこの技術を利用すれば、10分間の充電で300km走行可能だという。2020年には高速充電電気自動車を発表するとした。

 Kumpulan Powernetの主業務は、現在は繊維加工などだが、今後はマレーシアやインドなどに4億円を投資し、バッテリー事業やEV事業を推進していくという。