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スマホも充電、ロームや自治体など固体水素燃料電池の実験へ

 ローム、燃料電池開発のベンチャーであるアクアフェアリーは、固体水素を使った燃料電池の実用化に向けて、自治体と協力して実証実験を行うと発表した。

 今回の実験は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成金を受けるプロジェクトとして実施される。ロームとアクアフェアリーでは、京都大学工学研究科の平尾一之教授のアドバイスを受けて燃料電池の開発を進めてきたが、今回は、自治体での利用に向けた装置を実用化すべく取り組むことになる。開発される燃料電池は、災害時などにおける電源としての活用が想定されている。100Wでの連続出力のほか、USB(5V)で給電してスマートフォンなどを充電できる仕様になる。

世界各地で異なるニーズ

 ロームとアクアフェアリー、京都大学では昨年9月、スマートフォンの充電や非常用電源などに利用できる固体水素の燃料電池の試作品を発表した。これは水と、アクアフェアリーが開発した水素化カルシウムのシートを用いて発電するというもの。水が触れると激しく反応するという水素化カルシウムを樹脂で覆い、急激な反応を抑えながら、水に触れて水素を発生させる。その水素を発電用セルに送り込み、空気中の酸素と反応することで電気が生じる。この時の試作品については、僚誌の家電 Watchの記事も参照いただきたい。

ロームとアクアフェアリーが開発したモバイル向け水素燃料電池の試作品

 ロームとアクアフェアリーでは水素化カルシウムを用いることによって、水素吸蔵合金よりも軽く、水素ボンベのような高圧力の容器が必要ないため、手軽に扱える燃料カートリッジとアピールする。

装置の概要
水素化カルシウムへの給水は電力を使わずに行う
セルで水素と酸素が反応して発電
水素化カルシウムを用いることが全体の軽量化に繋がる

災害向け製品を優先、モバイル向け製品はその後

 9月の段階では、コンシューマ向けの用途を想定し、モバイル用充電機の試作品が披露された。その後、欧州などでの展示会でも紹介したところ、ロームには世界25カ国から100件以上の問い合わせがあった。東南アジアやインド、アフリカでは通信インフラ設備やスマートフォンの給電へのニーズが高く、欧州は医療機器用の補助電源、デジタルサイネージの緊急電源、レジャーなど多岐に渡る用途での問い合わせがあった。

 米国からは電子書籍ほか、問い合わせの半数がミリタリー(軍事)での利用に向けたものだったという。そして、日本国内からは、災害対策に関するものが多かった。

 世界各地で用途が分かれている形だが、部材提供を主に手がけるロームでは慣れ親しんだB2Bビジネスに活路を見出す方針を掲げることになった。今回、NEDOからの補助金は「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発」の実用化に向けたプロジェクトの1つに選ばれたことによるもので、今後2年かけて進められる。

世界中から寄せられたニーズは地域ごとに異なる
国内からは災害関連の要望が強く、ロームではB2Bビジネスの一環としての実用化を目指す

 開発される燃料電池装置は、1台あたりの大きさが340×240×240mm、重さが6~7kgになると見られており、カートリッジはカセットコンロ用のガスボンベ程度になるとのこと。このカートリッジを2本使って、100W出力の場合、120分の連続発電が可能とのこと。5VのUSB出力のほか、AC100V出力も対応し、複数台を連結して、より大きな出力も可能にする。

 4日の会見では、京都市、秋田県、三重県、島根県、京都府の担当者が出席し、実証実験に協力することが明らかにされた。実験の詳細は今後決まる見込みだが、たとえば京都市では「大規模災害発生時の避難所運営について、先般、住民自治の形で自主的な運用で実施する方向にしたところで、現在、避難所ごとの運営マニュアル作りを進めている。今回の燃料電池装置は、避難訓練の担い手だけではなく、地域の方々に評価してもらい、それを事業者側へフィードバックする」(危機管理監の藤原正行氏)としており、補助電源などとして災害発生時に活用できるシーンを見極めることになると見られる。

 ロームでは、B2C向け製品はさらにその後の取り組みと説明。モバイル向け製品はいわゆる途上国でのニーズが高いことから、「相当なコスト競争力がなければだめ」(ローム研究開発本部副本部長の神澤公氏)との見方が示され、国内向けには2~3年先の取り組みになるという。

関口 聖