第573回:半導体方式放射線センサー とは
ソフトバンクモバイルが発売したAndroidスマートフォン「PANTONE 5 107SH」には、簡単な操作で、日常生活における空間の放射線量を測定できる機能が搭載されています。
このためシャープ製の「半導体方式」の放射線センサーを搭載しています。この放射線測定機能で、スマートフォンを使って、家庭で身のまわりの空間のガンマ線の放射線量を簡易に把握することができます。
ちなみに、放射線には、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線などいくつかの種類のものがありますが、シャープの半導体方式による放射線センサーは、ガンマ線を測定できます。ガンマ線とは電磁波の一種で、コバルト60やセシウム137などの放射性物質の自然崩壊により発生します。コバルト60のガンマ線は人体の深部まで透過でき、がんの放射線治療に広く使用されています。
■感度は低いが補正の必要のない超小型放射線センサー「半導体方式」
放射線を検出する機器には、よく「ガイガーミューラー管」「シンチレーション」といった方式が使われています。
一方、半導体方式の放射線センサーの特長のひとつは、比較的、小型化に適しているということが挙げられるでしょう。「PANTONE 5」に搭載されている放射線センサーチップは、25×20×2.5mmという非常に小さいサイズのICとなっています。
ガイガーミューラー管方式は、不活性ガスを閉じ込めた管(ガイガーミュラー管)を備えており、そこに放射線を通すと電流が流れることで、放射線の存在を検知できます。しかし、このガイガーミューラー管は、物理的にある程度の大きさが必要なうえに、計測には数百ボルトの高電圧を発生させる回路も搭載させる必要があります。ある程度の小型化は可能とはいえ、ガイガーミューラー管はスマートフォンの小さな筐体に載せるには不向きであるといえるでしょう。
さらに言えば、このガイガーミューラー管は、不活性ガスが抜けたり変質したりするため、放射線にさらされるたびに徐々に計測値に狂いが生じてきます。そのため、定期的に測定する放射線値を正確にする“校正”と呼ばれる作業が必要です。
もう1つの放射線測定の代表的な方式、シンチレーション方式は、感度の高い放射線測定装置によく使われています。これはシンチレーターと呼ばれる“放射線を光子に変換する物質”を使って、そこから受光素子を用いて、電流の大きさで放射線を測ることができます。しかし、このシンチレーション方式も、人工的な結晶をシンチレーターに使うため、結晶が徐々に溶けて性能が劣化していきます。こちらも定期的な校正が必要となります。
「PANTONE 5」で採用されている半導体方式の放射線センサーは、シリコンを使った半導体で、放射線を電流に変えてその大きさを測定しています。シリコンは基本的に変質しませんから性能劣化が起きません。つまり、長い間使い続けても、校正して正しく放射線量を測れるようにするという作業は不要なのです。シンチレーション方式ほど感度は高くないのですが、一般向けに使われるには適した方式であるといえるでしょう。
■「電離作用」をフォトダイオードで捕まえる
半導体で放射線を検出する仕組みですが、まず、基本原理として、「電離作用」というものがあることを知っておく必要あるでしょう。これは、放射線が物質を通過するときに、放射線が持っているエネルギーで、原子の電子と陽子イオンと分かれさせる作用があるということです。ちなみに、電子は“-(マイナス)の電荷”、陽子イオンは“+(プラス)の電荷”を帯びています。
半導体方式の放射線センサーでは、フォトダイオードと呼ばれる半導体を使います。このフォトダイオードに放射線が通過すると、電離作用で半導体内部に電子と陽子が発生し、フォトダイオードの+の電極側、-の電極側に流れていきます。つまり、ここで、非常に微弱ですが、電流が流れるのです。
シャープのモジュールでは、フォトダイオードで発生した、非常に微弱な電流を効率よく増幅しつつ、ノイズを除去するようなICを付属させることで、放射線を検知します。ちなみに、ガンマ線を受けたときのフォトダイオードの非常に微弱な電流には個体差があるため、ICの生産時に測定用の放射線源を使って、1台ごとに校正し、モジュール内のメモリに補正値が書き込まれます。
ちなみに「PANTONE 5」に搭載されている放射線センサーの場合、通常動作時で電力は7.5mW程度しか消費しません。この低電力消費もスマートフォンにはありがたい特長であるといえるでしょう。
2012/7/24 12:34