第551回:HARQとは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


UQの事業戦略説明会(2011年11月)で示されたHARQ導入の資料

 「HARQ(Hybrid ARQ)」は、HSDPAやWiMAX、LTEといった最近の通信規格で採用されている“データの誤り訂正手法”です。この技術はさまざまな無線通信で使われ始めています。

 たとえば、本誌のニュース記事「地下鉄に基地局、WiMAXスマホの電池対策――UQの最新戦略」で、この単語が使われています。UQでは、WiMAXでの制御信号に「HARQ」を活用し、従来より50~100mほどエリアが広がるような効果が得られ、屋内で繋がりにくかった場所でも繋がりやすくなるだろうとしています。

 ちなみにW-CDMA系の通信技術では、2002年に標準化が始まったHSDPA(W-CDMA Release 5)から、HARQが採用されています。

エラーを修正する技術

 「HARQ」の“ARQ”は、通信データの誤り訂正技術を示す言葉で、「自動的な再送要求」を意味する英語“Automatic Rrepeat reQuest”から来ています。

 誤り訂正技術とは、その名の通り、“誤り”、つまりエラーを修正する技術です。通信、特にさまざまな場所・状況で使う携帯電話・モバイルデータ通信といったサービスでは、100%完璧にデータがやり取りできるとは限りません。場合によっては、ある程度データの送受信にノイズや干渉でエラーが発生することがありますから、そうした場合でもエラーを修正して、きちんと正しいデータをやり取りできるようにする必要があります。

 携帯電話のパケット通信などでも、こうした仕組みが使われていて、通信途中にデータが途中で欠けて、エラーが起こったときに、端末が送信元に「エラー発生」を通知し、途中でおかしくなったパケットデータを再送信させる、というように使われています。

より効率的にエラーを訂正するHARQ

 今回紹介する「HARQ」は、ARQとフィードフォワードエラー訂正(FEC)という技術とを組み合わせた(ハイブリッド化した)技術です。

 有線通信にも使われる「ARQ」には、無線通信にとってデメリットとなる点がいくつかあります。その中でも特に厳しいのは、データを送り直すということで、本来データ通信ができるはずの時間と電波(帯域幅)を、エラーを訂正することに使ってしまい、結果的に通信速度の低下を招いてしまうことです。

 そこで考えられた手法が「HARQ」です。「HARQ」では、まず最初にデータを送信する際、ある符号化(エンコード、規則に従ってデジタルデータに変換すること)を行ってデータが送出されます。この際、少し特殊な符号化が行われており、ある数値が送られたときには、そのデータが壊れていたことがわかり、あらかじめ決めておいた特定のパターンのままで送られてくれば、それは正しいデータであるとわかるようにしています。

 受信側は、データを受け取ったときに正しいデータならば「正しく受信した」と返事し、そうでなければ「正しく受信できなかった」と返事します。もしエラーが起きて、正しく受信できていなければ、データの再送信を行うのですが、ここでHARQでは、本来送るはずだったデータに少し工夫して再送信します。

 受信側から「エラーが起きた(正しく受信できなかった)」と返ってきたら、送信側は、本来送るはずのデータをまずいくつかのパートに分解します。そして、その一部だけをもう一度送り直します。

 再送された一部のデータを受け取った受信側は、最初に受け取ったデータに、今受け取ったデータを組み合わせてみます。この時に、組み合わせたデータが正しいものだと判断すると、「今受け取ったデータは正しい」と返事します。もし正しくないデータと判断すると、送信側は別の部分を送ります。こうして、「正しくデータを受信できた」と受信側が判断できるまで繰り返します。

 この繰り返しが、何回も何回も行われ、ある程度の回数以上続いてしまうと「HARQ」の前身の技術である「ARQ」のように、受け取れなかったデータを丸々送り直したほうが良いケースもありそうです。しかし、実際のモバイルデータ通信で、送受信の状況によって、ある程度の信号の品質を保っているので、そこまではいきません。つまり、結果として「HARQ」は、ARQと比べて仕組みは多少複雑になりつつも、効率的にエラーを修正して、より通信を高速化することができるのです。




(大和 哲)

2012/2/7 12:04