第430回:アンビエント社会 とは

大和 哲
1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我 ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連の Q&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)


ユビキタスの進化は「アンビエント」

 「アンビエント情報社会」、あるいは「アンビエント社会」とは、将来の情報社会像を表す概念です。「ユビキタス情報社会のさらに進化した段階」という意味で使われます。

 “アンビエント”とは、周囲を取巻く、環境のなどを意味する英単語「ambient」から来ています。その名前が示すとおり、人間の周囲、環境のあらゆる場所にコンピューターやIT機器が存在し、意識せずにそれらの機器を使える社会を「アンビエント社会」と呼びます。

 この用語は、1998年、米Palo Alto VenturesのEli Zelkha と Brian Epsteinがフィリップス向けに「2010年~2020年ごろの社会」を想定して作成したプレゼンテーション中で使われたのが最初である、とされています。コンシューマエレクトロニクス、テレコミュニケーション、そしてコンピューティング分野での将来像を「アンビエント社会」と呼び、アンビエント社会を支え、人の存在に敏感に感応するコンピューターを「アンビエントインテリジェンス」(Ambient Intelligence、AmI)と呼びました。

 最近では、研究所やメーカー、IT関連企業が「アンビエント社会への取り組み」といった使い方をしています。たとえば、KDDIの小野寺正社長兼会長は、株主総会や新機種発表会などの場で、同社の「アンビエント社会」への取り組みを説明しています。それによれば、「アンビエント社会はユビキタス基盤上で進化・成熟した社会」と定義し、インターネットなどの技術が社会へ自然に溶け込みながら、ユーザーが意識せずとも、安全・安心・快適な生活を実現するための一翼を担うような社会を目指すとしています。

ユビキタスとの違いは、コンピューターから人間に働きかけること

 「ユビキタス社会」と「アンビエント社会」は、どちらも情報社会を示す概念ですが、同じような概念でも、「ユビキタス」では人間側からアクションを起こしてコンピューターにアクセスすることを想定しているのに対し、「アンビエント」は、さらに進化しセンサーなどで機械側が人間を感知し、機械側から自律的に働きかけるような社会を想定しているのが特徴です。

 アンビエント社会では、次のようなネットワークに繋がったコンピューターが存在します。

 



  • センサーなどを使って情報を収集し、ユーザーの状況を見守る。

  • ユーザーの情報を集積、解析し、理解する。

  • 解析したニーズに合致したサービスを提供する。


 このような3つの機能をうまくつなげることによって、情報を知識として、サービスとして有効なものにするひとつのサイクルを形成することが必要となります。

 たとえば、



  • ユーザーが普段購入するアイテムを確認する。

  • ユーザーが購入するものの傾向を解析する。

  • あるショッピングモールにユーザーが足を踏み入れたときに、「今日はあの店でピンクのかわいいアイテムが安いですよ」と知らせる。



といったサービスを、アンビエント社会では提供できます。

 アンビエント社会では、最初の「ユーザーの情報をセンサーで収集する」ことも特徴の1つです。ひとりひとりのために適切なサービスを提供するには、その人に最も適した情報を提供することが重要です。そうでなければ、無用の情報をユーザーに押し付けることにもなりかねないからです。

 KDDIでは、アンビエント社会について、同社が提供すべきアンビエント社会向けの商品、サービスの例を挙げています。お洒落好きの若い女性には、最寄の人気ショップのセール情報を配信したり、読書好きのシニア層には、近くでゆっくり本が読める喫茶店の情報したりする、というようにユーザーの性別や年齢層、趣味などを考慮し「いまだけ、ここだけ、あなただけ」という情報提供を携帯電話から行うことが「KDDIの役割であり、求められている商品、サービスである」としています。



(大和 哲)

2009/7/21 13:35