ケータイ用語の基礎知識

第849回:マルチプロファイルSIMとは

一枚のSIMに複数の「通信プロファイル」

 マルチプロファイルSIMは、携帯電話会社や契約内容など、通信に必要な「通信プロファイル」を1枚のSIMにあらかじめ複数、格納したSIMカードのことです。

 SIMカードは、携帯電話やスマートフォンに格納されているICチップです。規格によって呼び名が多少異なっており、たとえばW-CDMA(UTMS)ではU-SIM、CDMA2000規格ではR-UIMなどとも呼ばれますが、一般的に「SIMカード」とされています。

 ところで、SIMカードは、単に通信プロファイルを保有するだけの存在ではありません。たとえばnanoSIMカードは8.8×12.3mmというサイズで、CPUとOSを搭載した、立派なマイクロコンピュータです。外部から電源とクロックを供給することでコンピュータが動作します。たとえば、SIMカードが挿入されたスマートフォンから「どのネットワークに接続すればいいのか?」と問われれば、SIMカード内のコンピュータが、接続する事業者のMNCというコードなどを回答するようになっています。

 このとき、SIMカード内のコンピュータのプログラムが「この国ではこの通信網を使う」などと、状況によって異なる返答をするようになったらどうなるでしょう。その答えが、今回紹介する「マルチプロファイルSIM」です。

 「マルチプロファイルSIM」は、1枚のSIMカードに複数の携帯電話会社の加入者情報(電話番号や契約内容など)を格納します。従来は、滞在国が異なればローミングで繋がるか、滞在国の携帯電話事業者のSIMカードへ挿しかえることになりますが、そうしたことをせずに、自動的に国や地域に応じた情報が切り替えられるようになるのです。

 マルチプロファイルSIMは、NTTドコモがSIMカードを初めとしたICカード製造の大手「ジェムアルト」の協力のもと開発されました。2016年2月から「コネクサス・モバイル・アライアンス」に加盟する通信事業者と技術検証が進められています。2018年3月末まで、ドコモは、タイのTrueMove、ベトナムのVNPTを提携先通信事業者とした実験を行っており、現地での業務利用について使用感やネットワーク品質の評価を確認する予定です。その上で、ドコモでは2018年度内にもマルチプロファイルSIMの一般向けサービスの提供を目指す方針です。

必要な分だけ内蔵

 マルチプロファイルSIMと同じく、一枚のSIMで複数の異なる通信業者を利用できる仕組みには、「eSIM」があります。

 たとえば「マルチプロファイルSIM」が接続する可能性のある事業者の分だけ複数の通信プロファイルがあらかじめSIM内に格納され、手動のほか、自動的な切り替えをサポートしています。一方、「eSIM」では使用国やネットワークが変わるたび、接続用の情報(通信プロファイル)をリクエストする必要があります。

 一般ユーザーがスマートフォンを海外で使う場合、2018年3月現在、どちらの仕組みもまだ正式なサービスとして登場していません。実際の料金体系や対応機種を含めたサービス内容、それらを踏まえた使い勝手が異なる形になるのか、似た形になるのかまだわかりませんが、何かしらの違いが出てくるかもしれません。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)