ケータイ用語の基礎知識

第819回:トンネル内不感対策 とは

 携帯電話の電波は、厚い土を通り抜けたりはできません。ですから、列車や自動車でトンネル内を通る時には、本来なら携帯電話は電波が届かず不通になります。

 最近では各所で「トンネル内不感対策」が取られるようになり、トンネル内を通過する場合も携帯電話の音声が途切れたり、データ通信ができなくなることは少なくなっています。携帯電話分野における「不感」とは、電波が届かない、といった意味です。不感地帯、不感対策などといった形で使われます。

 不感対策としては、過去、本コーナーでもご紹介した「漏洩同軸ケーブル」が最もよく使われます。これはトンネル内に、電波が漏れるように作られたケーブルを這わせるというもので、トンネルの形に沿った長細い携帯電話のエリアを作ることができます。

 ケーブル内の先端でも元でも同じエリア(セル)内となるので、携帯電波の基地局からの位置同定が不正確になりますし(しかもGPSの電波も受信できない)、トンネル内での工事が必要というような、いわば弱点と言える部分はあるものの、確実にエリア対策ができる方法です。

 「漏洩同軸ケーブル」の次によく使われるのが「吹き込み方式」です。これは、地下鉄のように長いトンネルではなく、山間の鉄道トンネルのような比較的短い区間で使用されます。吹き込み方式では、指向性の高いアンテナを使った基地局をトンネルの入り口、出口に設置します。そして、その名前の通り、電波を吹き込むことでトンネル内に携帯電話のエリアを構築します。たとえば、ソフトバンクが2017年4月からJR瀬戸大橋線 「岡山駅~高松駅」区間のトンネル内4カ所で、吹き込み方式を利用してエリア化しています。

 他にも、トンネル内に基地局とレピーターを設置し、電波を分割、増幅して発信するようなやり方もあります。この方式では有線回線を利用し、トンネル内にごく小さい基地局を設けて、そこまで通信させ、それぞれ携帯電話のエリアとする方法です。一般的にネットワーク回線には光ケーブルが利用されるため「トンネル内光中継方式」などと呼ばれることもあります。鉄道のトンネルのほか、商店街なども入った地下街ではこの方式が利用されることがあります。同時に利用する利用者が多い場合、この方法が他の方法と比較して有利になるからです。

JMCIAが敷設、維持管理の中心に

 不感対策は、多くの場合、携帯電話会社が単独で進めるわけではありません。各社がばらばらに工事しようとすると、鉄道会社や高速道路会社にとってトンネルや道路上での工期が長引きますし、設置する機材が増えてしまいます。たとえば狭いトンネルでは、そうした多くの設備を置くことは難しいでしょう。

 そこで日本では「移動通信基盤整備協会」(JMCIA)という公益社団法人が中心となって、設備の敷設や、維持、管理しています。JMCIAはかつて「道路トンネル情報通信基盤整備協会」と呼ばれていたこともありました。現在では道路のトンネルだけでなく、鉄道、地下街、それから医療機関などでも通信設備の構築をJMCIAが中心となって進めています。

 不感対策の費用は、国や協会らが折半して出し合っています。たとえば鉄道トンネルの場合は国が1/3、協会など関係各所が2/3を負担しています。国では「電波遮蔽対策事業」として予算化しており、毎年計画を立てて不感対策をさまざまな地域で進めています。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)