ケータイ用語の基礎知識

第818回:eMTC とは

 今回紹介する「eMTC」は、NB-IoTと同じく、消費電力が少なく、データ通信内容は少ないものの、数百m~数kmまで通信できる無線通信技術です。3GPPなどがこれに合致する規格の策定を進めています。その名は、“拡張された機械型コミュニケーション”を意味する“enhanced Machine Type Communication”から来ています。

 「eMTC」と「NB-IoT」との違いは、eMTCが「移動体通信」であるということです。つまり、ある程度の速度までであれば移動しながらの通信できます。通信する基地局の交代、つまりハンドオーバーも行うことができます。

 ウェアラブル機器や、子供の見守り用タグなどは、これまで主にBluetooth Low Energy(BLE)などで通信してきました。しかし、BLEではせいぜい10m程度までしか届きません。つまり、スマートフォンなどが必要だったのです。しかし、スマートフォンから離れてしまうと、通信できなくなってしまいます。

携帯電話網を使うLPWA

 eMTCは、2016年6月、3GPPが策定した「Release 13」でCat-M1(カテゴリーM1)」として仕様が定められました。カテゴリーM1は、本コーナーの「第811回:LTEカテゴリーM1 とは」でも解説しましたが、低消費電力化、長距離通信化、そしてローコスト化のため、LTEカテゴリー1をベースに、LPWAへ適した形にした規格です。利用する帯域は1.4MHz幅で、通信速度は最高で1Mbpsです。

 また、3GPPのRelease 14では、「カテゴリーM2(Cat-M2)」の検討も進められています。カテゴリーM1と互換性を持ちつつ、さらなる消費電力の低下と、遠距離の通信を可能にするとされています。そのカテゴリーM2は、“feMTC(further enhancement MTC、さらに拡張したMTC)とも呼ばれ、上り送信帯域幅として5MHz、下り送信帯域幅として5MHz/20MHzを追加することで上り下りの最大通信速度を向上させるほか、マルチキャスト(一対複数)通信のサポートなどが取り込まれると考えられています。

 IoT向けの通信規格は、LPWA(Low Power、Wide Area)と総称されますが、携帯電話のネットワークを使うものもあれば、使わないものもあります。eMTCは、携帯電話のネットワークの仕組みを利用するものです。FDD-LTEのみでなく、TDD-LTEでも利用が可能な仕様になっています。そのため、WiMAXフォーラムやXGPフォーラムでも同様の規格が追加される予定です。いずれは、これらに準拠したM2M通信機器も登場することも考えられます。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)