石川温の「スマホ業界 Watch」

アップルの「Mac」がなぜ今売れる? 金融・航空業界が「手元で動くAI」を選ぶ深い理由

Mac mini

 アップルはM6とM5 Proを搭載したMac miniとM5 MaxとM5 Ultraを搭載したMac Studioを9月22日に発売する。ここ最近、やたらとMac miniが人気となり、品薄状態が続いていた。このタイミングで新製品が発売されることで、歓喜に湧くユーザーもいたようだ。

 なぜ、ここ最近、Mac miniが人気なのか。それはローカル環境でAIを動かすのに最適なデバイスとして俄然、注目を浴びているのだ。その理由として言われているのが消費電力を抑えながら、ローカル環境でも巨大なAIモデルを高速にかつ効率的に動作できる点が評価されている。

 Mac miniなどに搭載されているAppleシリコンは、CPU、GPU、AI専用のニューラルエンジンを1つのユニファイドメモリを共有する設計となっている。これにより、プロセッサ間で余計なデータコピーや遅延が発生しないのがアドバンテージとなっているのだ。

 パワフルなMac miniやMac StudioでAIを動かせるとあって、企業内での活用も広がりつつある。先日、ソフトバンクが開催した法人向けイベント「SoftBank World」において、アップルがブースを出展。そのなかで、ふくおかフィナンシャルグループのDX推進担当者が「エンジニアがAIを活用し始めているが、クラウドばかりでトークン(AIが処理するデータ単位)の消費が急増している。今後、ローカルのAIを活用できるようにしていきたい」と語っていたのが印象的であった。

 金融機関と言えば、Windows環境が一般的かと思いきや、ふくおかフィナンシャルグループのエンジニアはMacを使っている人も結構、多いという。

 金融機関ということで、他の業界以上にセキュリティを厳重にしている。AIを活用しようとなんでもかんでもデータをクラウドに上げるわけにもいかず、「セキュリティを確保しながらAIを活用。しかもコストを意識しながら」となると、Mac miniやMac StudioのようなローカルでAIを処理できる環境が望ましいということになるようだ。もちろん、すべてをローカルに移管するというわけではなく、ローカルとクラウドのハイブリッド運用を模索していくことになる。

 アップルによれば、260億パラメータのモデルを1日4時間稼働させ、月1億5000万トークンを生成する場合、クラウドでは1ユーザーあたり月額450~850ドルかかるが、MacBook Proを購入すれば、追加のトークンコストは0ドルで済むという。

 また800億パラメータのモデルを1日12時間、月3億トークン生成するコーディングを行う場合、クラウドでは月額900ドルから1500ドルかかるが、Mac Studioであれば追加のトークンコストは0ドルで済む。これまた、すべてローカルというわけにはいかず、クラウドを併用することになるのだが、Mac Studioなどの初期投資はかかるものの、ランニングコストを考えると「ローカルAI環境を強化しておく」というコスト対策が今後、必要になってくるかもしれない。

法人市場でも多い、AI活用の話

 ここ最近、法人市場でもAI活用の話ばかりが出てくる(というか、AIしか新しい話題はない)。アンソロピック「Claude Cowork」、オープンAI「ChatGPT Work」を筆頭に「いかにAIを企業内で活用するか」というテーマが中心になっている。そんななか、アップルはそうしたモデル競争には距離を置き、「AIを動かすならアップル製品で」というスタンスで法人市場を攻めつつある。

 活用事例として興味深いのが、キャセイパシフィック航空だ。航空会社ではキャビンアテンダントさんがiPadを業務用端末として活用しているシーンをよく見かける。

 特にキャセイパシフィック航空では、70億パラメータのAIモデルを搭載したiPadを導入。パイロットなどが何千ページにもなる航空マニュアルをAIとのチャットによって、瞬時に検索、確認できる仕組みを導入したという。また、フライト中に気象条件が変わった際もiPadのAIを活用し「どのような迂回ルートを通るか」といった意思決定のアドバイスを求めることがあるという。

 当然、上空を飛行中ということもあり、安定した通信環境があるというわけでもない。最近ではスターリンクを導入している航空会社も多いが、緊急時に通信が絶対つながっているという保証はない。しかし、ローカルでAIをぶん回せるiPadのようなデバイスがあれば、瞬時に欲しい情報をAIに頼んで引き出すことが可能というわけだ。

 クラウドのAIにすべてお任せするのに慣れてしまいがちだが、オンデバイスAIが活躍する場面も今後、増えてくることだろう。

石川 温

スマホ/ケータイジャーナリスト。月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。