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今、PDAは買いか待ちか
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山田道夫 1996年に開設したサイト「携帯電脳」を模様替えし、1999年1月スタートしたWeb&メールマガジン「MOBILE NEWS」編集長。モバイルノートPCからデジタルガジェットまで「小さくてデジタルなもの」にこだわった最新情報を提供している |
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このところ、年末のボーナスシーズンに向けてか数々のPDAの情報が登場している。これまでにないユニークなものが多い。そこで今回は、この秋から年末のボーナス商戦にかけて発売が予定されているPDAを中心に、買いか待ちかを見ていこう。もちろん、PDAというのは個人の嗜好や使い方で最適なものというのは大幅に異なってくるので、ひとつの見方と思っていただければ幸いだ。
横型Linuxザウルス
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CEATECで参考出展されていたLinuxザウルスのモックアップ。液晶部分を回転させ、キーボードを隠し液晶だけで利用することも可能なようだ。かなり小型なためタッチタイプは無理だろう
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10月9日から開催された展示会「CEATEC JAPAN 2002(以下CEATEC)」でのPDA好きの話題は、なんといってもLinuxザウルスの横型機が参考出展されたことだろう。透明な箱に入ったままの展示だったため詳細はよくわからないが、VGA表示が可能というCGシリコン液晶の美しさが目立った。
キーボード付きで一見ハンドヘルドPCのようだが、かなり小型なためタッチタイピングはできないだろう。親指で入力するか、片手で支えて片手で入力することになると思う。展示機では、CFカードスロット、SDカードスロットをそれぞれ1基搭載していた。CGシリコン液晶では、解像度を簡単に変えられるが次期ザウルスは、VGA解像度だけのようだ。
すでに発売されているSL-A300とは異なり、Webブラウザやモバイルオーディオプレーヤーなども同梱するらしい。説明員の方の話では、ソフトウェアもかなり使い勝手の良いものになるようだ。
SL-A300は、Linux、Javaが利用可能なPDAとして人気もそれなりに高いが、MI-E1以来のキーボードが搭載されなかったため、購入を躊躇したユーザーもいたようだ。キーボード利用は個人の好みの範囲内だが、これだけPCの利用が一般的になると、キーボードを苦にしないユーザーも増えていると思うので、期待したい一品だと言える。
唯一の不安材料は、発売時期が不明なことだろう。最初の縦型でキーボードを内蔵したMI-E1も2000年の10月にやはりCEATECで参考出展されたが、発売は12月中旬だった。今回の試作機がどうなるかはわからないが、年内の発売を期待したいところだ。10月16日から開催されるWPC EXPO 2002でも実機に触れることはまだできないらしいが、展示機は増えるらしい。
なお、CEATECでは、PCカード型PDA「データスリム」で知られるシチズンCBMが横型のハンドヘルドタイプの企業向けPDAプラットフォーム「Polaris」を参考出展していた。キーボードをスライドさせて液晶だけで利用できたり、非常に興味深いものだが一般売りの予定はまったくない。企業などでロット単位で受注するだけのようだ。キーボードやWebブラウザの使い勝手が良かっただけにちょっと残念だ。
ソニー CLIE PEG-NXシリーズ
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PEG-NXシリーズも非常に魅力的な製品だ。ブラウズだけだったらターンスタイルが便利だろう。デジタルカメラにはマクロが欲しい場合は、外付けタイプのマクロ用レンズを利用する手もある
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ソニーマーケティングは、Palm OS 5を搭載し、本体に通信専用のCFカードType2スロットを装備したCLIE シリーズ「PEG-NX60」と、「PEG-NX70V(約31万画素260度回転式カメラ搭載)」を10月19日に発売する。価格はPEG-NX60が5万円前後、PEG-NX70Vが6万円前後だという。
PEG-NX60/70Vは、PEG-NR70シリーズの後継機種に当たる。筐体のデザインは底面にCFカードスロットが突き出ているだけでまったく同じだ。
OSが変わっただけでなく、CPUも変更されている。新マシンは、Palm OS 5のネイティブなモードではなく、ほとんどエミュレーションでPalm OS 4以前のソフトウェアを動作させるようだ。試作機を触った印象だと、画面の切り替えやスクロールも非常にきびきびしていて小気味よく、ソフトウェアはかなり高速に感じられる。
WebブラウザNetFrontなどを搭載しているので、CFカードタイプのPHSか無線LANを利用して、簡単にWebブラウズやメールのやりとりがCLIEからだけで可能になる。ただし、動作確認済みの通信カードは、PHSデータ通信カードではNTTドコモの「P-in m@ster」と「P-in Comp@ct」、DDIポケットの「C@rd H" 64 petit」、「Air H" card petit」の4種で、128kbpsも対応予定だが時期やメーカーなどは未定だという。その他の通信カードとしては、ソニーの無線LANカード「PEGA-WL100」、アナログモデムカードではTDK「DF56CF」、Billionton「CF56R-BJ」、加賀電子「iTAX-56K」とまださほど多くはない。新OS、新CPUを採用のため、実際に検証しなければいけない部分も多くあるのだろうと思う。
ディスプレイは、6万5536色表示に対応した320×480ドットの3.8インチの縦型TFTカラー液晶パネルを搭載しており、表示は鮮やかだ。また、ようやくバンドルされているソフトウェアが、320×480ドットの液晶に対応したこともユーザーには大きなポイントだ。
ただし、いくつか気になる点もある。まず、なんといっても大きいということだ。72.3×136.0×23.5mm(横×縦×厚/クローズスタイル時)、重量約220とPDAとしては気になるサイズではないのだが、これを縦に開いて使うため、見た目も持った印象も非常に大きくなる。また、キーボードが本体ヒンジ部と反対側に寄った位置にあるため、テコの原理でさらに重く感じられる。キー配列は従来機種と同様だが、試作機ではややPEG-NRシリーズより硬く感じられるようになった気がする。持った時に縦が長すぎてややバランスを取りにくいことを除くとなかなか入力しやすいキーボードだと思う。
また、新OS、新CPUを採用するため、気になるのがソフトウェアの互換性だ。もちろん、バンドルされているソフトウェアだけでも十分豊富なので、これで十分というユーザーも多いと思う。発表会では従来のソフトウェアの60%以上が動作することを確認しており、最終的には80%は動作する見込み、とされていた。これは逆に言えば、20%は動かないということになり、ソフトウェア資産をたくさん持っている既存ユーザーにとってはけっこう大きい問題となる可能性がある。
発売前の現時点では、どのソフトウェアが動くのか、あるいはどのソフトウェアが対応予定であるかなど具体的な情報がない状態だ。もっとも、PEG-NXシリーズには豊富なソフトウェアがバンドルされているので、それで十分という人も多いかもしれない。
とにかく高速なPalmのマシンが欲しいというユーザーには非常にいい選択だろう。繰り返しになるが、内蔵ソフトウェアだけでも十分魅力的だ。主要なソフトウェアも最初から使えるか、おいおい対応していくと思われる。新製品でOSやCPUが一新されるため、致命的な問題は製品として出荷される以上ないだろうが、細かな点で不具合が出る可能性は枯れた製品より高い。その点は覚悟の上で、高速で解像度が高いPalm OS搭載機が欲しいユーザーには最適だろう。
Palm社系の新製品?
Palmも営業部門などは移管してしまったが、元気に販売を続けている。新製品の低価格なPalm Zireについては、パームの日本における広報部門に問い合わせたところ、「日本での発売は未定」との回答だったが、日本ではモノクロで低解像度のPDAは見合わせるということなのかもしれない(Palm m130やm515のように、今後日本で販売される可能性もないわけではないと思うが)。
ワールドワイドでは、Palm OS 4.1搭載の廉価モデル(これがPalm Zireだと思われる)、CPUにARM系を使用したPalm OS 5搭載モデル、携帯電話内蔵モデルの発売が予定されているようだ。携帯電話内蔵タイプは、通信規格の違いなどから日本市場投入は厳しいと思われるので、ARM系のCPUを採用したPalm OS 5搭載モデルが発売されると思われる。Palm社のPDAは、PDAとしての完成度は非常に高いが、日本のように高機能な携帯電話が普及した地域では、なかなか魅力的で多機能とは見なされないのが残念なところだ。
HandspringなどもTreo 270などを発表したが、携帯電話の方式が日本とは異なることもあって、日本での発売は難しいだろうと思う。
iPAQ Pocket PC H3900シリーズとPocket PC 2002
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コンパックiPAQ Pocket PC H3900は、従来機種からデザインの変わっていないが、CPUや液晶は変更されている。液晶は初めて微透過型になり鮮明で見やすくなった。小型のキーボードを本体に取り付けられる
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コンパック(もう少し先には統合されて日本ヒューレット・パッカードになってしまうが)からはようやく、アメリカでは6月末に発売されたiPAQ Pocket PC H3900が発売される。
外観は従来のH3800シリーズから大きな変更はないが、CPUにインテルPXA250 400MHzを採用し、半透過型カラーTFT液晶を搭載するなどハードウェア仕様を一新。液晶は鮮明で色味の再現性も良い。H3950は戦略的な価格付けとなっており4万9800円、Bluetooth通信モジュールを搭載したH3970が6万4800円。10月上旬から出荷開始し、H3970については10月下旬発売が予定されている。
比較的安くて最新スペックのPocket PC 2002マシンが欲しいというユーザーにはいいかもしれない。相変わらずのジャケットシステムのため、拡張スロットはSD I/O対応のSDカードスロット1基しかないが、DDIポケットがSD I/O対応のカード型端末のリリースを予定しており、ようやく拡張ジャケットなしで、本体だけでの通信が可能になる。メモリを64MB搭載しているため、メールなどが主な用途であれば、本体だけでもなんとかなるというユーザーも多いかもしれない。
ただし、海外のニュース誌では新製品の噂も出ており、時期は来年くらいということだ。噂ではあるが、もう少し待つか今買うかは、なかなか難しい選択かもしれない。
また、日本のPDA全体の売り上げで大体ベスト3に入っている東芝のGENIO e550Gが販売店の店頭価格で値下がりしているようなので、新製品を期待するむきもある。5月に発売された製品なので、そろそろ新製品があっても不思議ではないだろう。
このところあまり元気のなかったPocket PCだが、今後に期待したいところだ。
バイオUも新製品が
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バイオUの新製品も非常におもしろい。PDAとは使い勝手は異なっているが、用途によってはこちらの方が使い勝手がいい場合もあるだろう
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ソニーのバイオUは、なかなかPDA好きをくすぐるマシンだろう。PCG-U3は、そんなバイオUの第2世代目の製品だ。10月26日発売予定で価格は15万円前後だ。
PDAとノートPCは、これまでは直接比較の対象になる場合は比較的少なかった。まず、ノートPCでは起動までに時間がかかり、なかなか思い立った時に入力したり、データを見るということが難しい。また、バッテリー駆動時間も大幅に異なっていた。外で利用することが大前提のマシンと外でも使うマシンの差だろう。しかし、Crusoeのように低消費電力なCPUが登場したことで、ノートPCでも外で使うことを前提としたマシンが登場している。その代表格が非常に割り切った製品とも言えるバイオUだろう。本体サイズは、約184.5×30.6~46.1×139mm(幅×高×奥行)、重量約820g(標準添付バッテリー装着時)。
これまでの小型のノートPCの欠点の1つであったバッテリーは、標準バッテリー利用時で2~4時間(カタログスペック)だが、別売(3万5000円)の大容量バッテリーを利用することで最大12時間利用可能だ。
PDAやハンドヘルドPCでWebブラウズした場合、どうしても速度が遅かったり、利用可能な機能に制限があったりした。ノートPCの場合、Crusoeマシンはそれほど高速ではないが、それでもPDAやハンドヘルドPCよりははるかに利用しやすい。安くはないが、ユーザーによってはバイオUが最適という人もいると思う。
ただし、すぐにどこでも使いたいといった用途には向かない。ハードディスクを内蔵しているわけで、PDAよりも取り回しにはよりいっそうの注意が必要だろう。ノートPCとしては価格はそれなりに安いが、PDAと比較するとまだまだ高いとも言える。PDAの代わりにはならないが、非常に魅力的な製品だ。小さなノートPCが欲しいという人向けなことは確かなことだが。
今、PDAは買いか待ちか
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NECインフロンティア製AH-N401Cは、Pocket PC 2002マシンで音声通話も可能なAirH"端末。GENIO e550Gであれば待ち受けも可能だ
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PDAが売れていない。日本では販売台数では微増のようだが、金額ベースでは、大幅減のようだ。Visorで人気があったハンドスプリングなどは完全に日本市場から撤退してしまった。もっとも、ハンドスプリングは、携帯電話と一体型のコミュニケーターの方へ行ってしまったので、GSMではなく世界中でも独自のPDCがまだまだ中心の日本では、発売のメリットがないということかもしれない。
Pocket PCも思ったほど売れていないようだ。GENIO e550Gは好調なようだが、あれだけ価格の高いマシンが上位にいるということは、他がそれほど売れていないということでもある。日本においては、携帯電話が非常に発達していることで、逆にPDAのメリットのうち、かなりの部分は携帯電話で事足りてしまうということなのかもしれない。若者では、手書きよりも携帯電話のキー入力を好む人が多い。PDAでも、一層の努力が必要な部分かもしれない。台数ベースで考えれば、PDAは、携帯電話の2%以下の市場でしかない。
だが、そうはいってもPDAがどんぴしゃという人たちもいる。頻繁にスケジュールを変更したり、1日何件もスケジュールが入ってしまうといった従来のPDAユーザーだけではない。音楽を聴いたり、電子書籍を読んだり、電車の中でメールやWebブラウズしたりといった用途だ。PDAは、携帯電話に比べて液晶が大きい分、テキストや画像などの閲覧用途には向いていると思う。同じ解像度でも、液晶が大きい方がやはり見やすい。CFタイプのPHSカードも128kbpsによる定額サービスが提供されたり、SD I/O対応のカード型通信端末が登場したり、通信環境は大幅に整ってきた。PDAでもバッテリーの問題を除けば、常時接続が身近になってきたと言える。
NECフロンティアのAir"H端末を利用すれば、Pocket PC 2002マシンでは直接音声通話も可能だ。もちろん、携帯電話ほどの使い勝手の良さはないだろうが、輻輳の場合の非常用とか、携帯電話を忘れた場合のバックアップには十分なると思う。GENIO e550Gの場合は待ち受けも可能なため、外部バッテリーなどを利用して、携帯電話代わりに使えないこともない。
また、PDAは、紙の書籍には一覧性や文字やフォントの美しさなど、かなわない部分も多いが、著作権が切れたりフリーになった書籍を無償でダウンロードできるサイトもあるので、暇つぶしに読むものを探すにはちょうどいい。また、最近では各社が本格的に取り組み始めたようで、さまざまな有料コンテンツ(書籍)も登場しつつある。まだまだ、数やジャンルは少ないが、今後に期待したいところだ。
「立ちながらメモを取ったりといった用途にも向く」というような、PDA本来の使い勝手がこれからますます問われていくのかもしれない。
そういった従来からの用途と新しい用途も出てきているが、この時期ではどれがいいのかというのは、かなり難しい。ユーザーの好みによる差異も大きい。従来機種も、新製品の登場によって、また、新製品が登場する前にかなり安価になっている場合もある。現行機種(場合によっては型落ち製品)でも機能的に十分というユーザーも多いと思われるので、自分の用途がわかっているユーザーの場合は、そういった製品を購入するのも手かもしれない。
・ シャープ、新型ザウルスのモックアップを展示
・ CLIE PEG-NX60/70Vニュースリリース(ソニー)
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200210/02-1002/
・ Palm OS 5を搭載した新型CLIE「PEG-NX70V」
・ 米Palm、デザインを刷新したエントリーモデル「Palm Zire」
・ iPAQ Pocket PC H3900ニュースリリース(コンパック)
http://www.compaq.co.jp/press/press872.html
・ コンパック、XScale搭載の「iPAQ Pocket PC H3900」シリーズ
・ バイオU PCG-U3製品情報(ソニー)
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/PCG-U3/
・ Air H" AH-N401Cニュースリリース(NECインフロンティア)
http://www.necinfrontia.co.jp/press/new/020919.htm
・ アンテナが取り外せるAirH"向けCF型端末「AirH" AH-N401C」
(山田道夫)
2002/10/11 11:03
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