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SL-C700を巡る冒険
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山田道夫 1996年に開設したサイト「携帯電脳」を模様替えし、1999年1月スタートしたWeb&メールマガジン「MOBILE NEWS」編集長。モバイルノートPCからデジタルガジェットまで「小さくてデジタルなもの」にこだわった最新情報を提供している |
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SL-C700を発売日初日に購入して使い出してから、すでに4週間近くが過ぎた。SL-C700はいまだに入手困難な状態が続いているようだ。筆者が購入する時にも、予約してあったにもかかわらず、専門店への入荷が遅れて秋葉原中をかけずり回ることになってしまった。そんなわけで今回は、筆者が実際に4週間近く毎日使ってみた実際の印象を紹介する。
現在のところ、筆者はPDAは1台しか持たない派なため、SL-C700の他に持ち歩くPDAはない。しかし、それは少し無理をした使い方かもしれない。筆者はSL-C700に満足しているが、それは筆者個人の用途に合っていること、まだラブラブな期間が続いているからなのかもしれない。本誌の読者はとっくにご承知かもしれないが、筆者は熱しやすく飽きっぽい性格なのだ。読者の選択肢の助けになれば幸いである。
SL-C700はPDAか?
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ザウルスSL-C700。店頭価格は6万円を切る程度
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現状では少し疑問だ。厳密に言って従来のいわゆるPDAの範疇からは少しはみだしているのではないかと思う。ただし、アメリカでほぼ日本で言うPDAと同義で使われている「ハンドヘルド」の範疇には十分入っているとは思う。ただし、SL-C700の場合、これまでPalmなどを使ってきたユーザーが、美しい液晶に惹かれて購入したりすると、後悔することもあるかもしれない。
プログラムの切り替えは高速とは言えない。通常、プログラムを切り替える場合は、少し遅いなというくらいだが(筆者はまったく気にならない。慣れてしまっただけかもしれないが)、液晶を縦から横に切り替えたりすると、少し待たされる感がある。
また、再起動には2分強かかる。一般的な利用方法では、再起動するということはまずないのだが、2分ちょっとというのは、出先で使うことが前提となるハンドヘルド機の場合は微妙な時間だと思う。
バッテリー駆動時間については、持たないと思っている人が多いようだが、実際使ってみるとそれほどでもない。たとえば、液晶の輝度を真ん中にしてAirH" AH-N401Cで通信してみたら、2.5時間程度の連続使用が可能だった。さらに通信ができなくなった後、テキストを入力し続けたら20分程度は利用が可能だった。PDAとして考えると長いとは言えないが、通信時はバッテリーを消費するのが当たり前でもある。十分合格点だと思う。
実際、筆者がこの4週間近く日常的にWebを見たりメーラーを利用したり、ゲームをしたり、ブンコビューア(テキストブラウザ)を利用したりしてきたが、替えのバッテリーに取り替えたのは新幹線などでの長時間利用時を除くと2回だけだ。もちろん、どういった使い方をするのかでも全然違ってくるが(無線LAN使用時はかなり持たないようだ)、筆者の利用法であれば特にバッテリーがもたないということもない。逆にENAXのSL-C700対応の外部バッテリ「PowerBattery」を借りて使っているのだが、なかなか試す機会がなくて困っているくらいだ。
ちなみに、バッテリーを交換時に再起動されてしまう点は困った点だ。2分程度ぼーっと待っていないといけないことになる。これはAC電源接続時でも一緒なのはさらに困った点だといえる。そのため、AC電源接続時と同じように使用できるPowerBatteryの利用価値はけっして低くはない気がする。
PIMの完成度は今後に期待
PDAとして必須とも言えるPIMの完成度は高いとは言えない。ざっと思いつくだけでも、メモ帳に検索機能がなく分類もできない、カレンダーの月表示で前月と次月のデータが入力されていても表示されない、といった機能不足がある。特にメモ帳に検索機能がないのは痛い。筆者はメモ帳に500件程度のデータを入れているのだが、必要なデータを即座に見つけだす方法が今のところない。表示は名前順か作成順に表示されるだけで、これはPIMとしてはもう少しなんとかしてほしいところだ。Palm OS搭載機やPocket PCでも標準バンドルされているPIMの機能は高いとは言えないが、代替ソフトウェアがあったり検索はできたりするのでそれほど困らない。SL-C700のPIMソフトウェアの個々の印象は標準の物としてはなかなかの出来だと感じるが、逆に検索できなかったり分類できないのはPDAとしてはかなりつらいと思う(さすがにアドレス帳では検索も可能だ)。
MIシリーズで培ったPIMのノウハウをまったく取り入れなかったことはかなり疑問だ。こういった機能不足はソフトウェア的に解決可能だと思うが、PalmユーザーなどがPIM目的で購入するのは現状ではやめた方がいいと思う。
PCのテキストデータやウィンドウのイメージをSL-C700に保存できるザウルスショットも非常に便利だが、SL-C700をPCにつなぎっぱなしにしておかなければならない点は、使い勝手の点でいまひとつだ。次回接続時に自動的に同期してくれる方が便利だと思う。
文字入力について言えば、キーボードからの入力は筆者は親指でしかできないが、なかなか気に入っている。小型デバイスでもあり、キーボードの配置はPCとはずれているところもあるが、筆者はあまり気にならない。また、手書き入力は筆者の崩し字でも入力してくれる。ビュースタイルで多少入力するくらいだったら、これでもいいかなと思わせる。日本語環境は悪くはないが、PCでの入力に慣れたユーザーからすると物足りない部分もあるだろう。
また、メモリ不足もよく指摘されるが、プログラムの高速起動を外すとそれなりに解決する。また、同時起動するプログラムは1個だけといった使い方がメモリ不足を呼ばないコツのようだ。
ちなみに、SL-C700を使う場合、Linuxの知識が必要かと言えば、筆者はいらないと思う。PDAとしてプログラムを利用するだけだったらまったく必要がない。ただし、知識がある方が広がりのある体験ができることは確かだ。
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PIMの機能は少し物足りない。せめて検索機能は必須だと思う
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入力は手書きも思ったほど悪くはないが、やはり親指入力が一般的だろう。高速というのは筆者の場合は難しいが、かなり自由に入力できる
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ハンドヘルドとしてのSL-C700
さて、細かな不満点を先に述べたが、では、SL-C700を買って後悔しているのかというとまったくそんなことはない。なんといっても、Webブラウズ環境がすばらしい。ポケットから取り出して、Webブラウズを始めるのに実測値で15秒以下で可能だ(前回終了時、NetFront 3を起動したまま電源OFFした場合)。AirH" AH-N401Cの認証を含めて15秒以下でアクセスできるというのは本当にありがたい。
たとえば、筆者はカミサンと道を歩いていてある言葉が実際に存在するか議論になった時に、歩きながらGoogleで検索して『グリスビー』が造語ではなく人名であることを知った。そういったことが思いついたときにすぐにできる。AirH"は新幹線内での移動中や地下鉄の駅でも利用できる場合が多いため、それこそどこでもすぐに利用可能なのだ。
NetFront 3はPCほどの機能や速度はさすがにないが(たとえばフラッシュは利用できない)、これまでに使ってきたさまざまなPDAやハンドヘルドPCのどのWebブラウザよりも高速で使い勝手がいい(ただし、個人的にはいまだにキーボードからのページジャンプ機能が見つけられずにそれだけは困っている。それから、PCのブックマークと同期が取れた方が便利だとは思う)。
なお、ビュースタイルからインプットスタイルに切り替えたり、その逆の場合もネットとの接続が切れてしまう。蓋を閉じても同様だ。仕様なのかもしれないが、ビュースタイルで見ていて急に入力したいという場合もよくある。手書きも悪くはないが、パスワードなどはキーボードで入力したい。そういった場合に、再度接続し直すのは、いくら10数秒で可能とはいえめんどうに感じる。
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Webブラウザはかなり広い領域を表示することができる。ビュースタイルでも、インプットスタイルでも十分だ
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全画面で見ることができるのは結構迫力がある。写り込みはするが目視ではさほど気にならない
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SL-C700の長所としては、あちこちで語られていることだがなんといっても640×480ドットのシステム液晶の表示は非常にきれいだ。従来比明るさ2.5倍ということだが、使っていてその美しさにほれぼれしてしまう。写真などを表示していると、モックで印刷物を貼ってあるように思えてしまうほどだ。
反射型や半透過型液晶ではないため、直射日光の下では見えにくいが、輝度を最大にすれば見えなくて困るといったことはない。ちょっとした日陰や曇り空であれば、屋外でもまったく問題はない。
また、その美しい液晶ディスプレイを使ったデジタルカメラの画像の表示にも最適だろう。最初にサムネイルを作る時はサムネイル表示はゆっくりだが、2回目以降は高速な表示が可能だ。サムネイルでも十分雰囲気がわかるほど美しい表示になる。ただし、サムネイルはメディアに.icons××として作成されるため、容量が少ないメディアだと多少迷惑かもしれない。500KB程度のファイル79枚のサムネイルとフォルダ全体の容量が実測値で480KB程度だった。
イメージノートでスライドショーを楽しむこともできる。さすがに大容量の生のデータだと切替に時間がかかって逆になかなかいいかもしれない。700KB前後のデータを10秒前後表示する。画像を切り替える時には、6秒強ブラックの画面となる。SL-C700の液晶は非常に美しく、ちょっと画面は小さいがフォトスタンド代わりにもなかなかいい。
また、NetFront利用時でも、他のプログラムの高速起動オプションを外しておけば、それほどメモリ不足になることはないと思う。そういった警告が出ても、リロードすれば表示される場合もある。どうしてもメモリ不足だと感じる場合には、SDカードなどにswapを作ってメモリ不足をしのぐ方法もあるが、取り外し可能なメディアにswapを作るということは、SDカードがはずれてしまった場合、最初からインストールしなおしたりする可能性が高い。SDカードの寿命を縮めたりする可能性もある。よくリスクを理解して自己責任でやるしかない。ターミナルの使い方がわからない人は利用しない方が無難だろう。また、少なくとも自分でそういったページを見つけるくらいのネットへの知識は最低必要だと思うので、具体的なリンク先は紹介しない。
アクシデント
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1mくらいの上から新幹線内で落下させてしまったために、IrDAポートの下に傷を作ってしまった
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PDAを使っているとさまざまなアクシデントに出会う。落としてしまったり、置き忘れたりといったことは常に可能性としてある。SL-C700にもバックアップ機能はあるが、それほど高機能というわけではない。ディレクトリ単位のバックアップとかはできずに、本体のRAMの中身を全部バックアップするようだ。SDカードに保存したら、再起動時に「2分程度お待ちください...」画面が出るのには少しはらはらさせられる。実際に再起動しているようで、前に利用していたプログラムはすべて終了してしまっている。筆者の場合は2分40秒強でバックアップができた。
ただし、SDカードだと本体に装着していて一緒に落としたり紛失してしまう可能性もあるので、たまにはPCにもバックアップしておいた方がいいだろう。データは同期されているはずだが、自分でインストールしたプログラムを再度インストールしたりして、環境を再構築するのは結構めんどうなものだ。
先日、筆者は、新幹線車中でWebサイトを見ていたら、いろんなことを同時にやろうとして手が滑ってSL-C700が1mくらいの高さから落下してしまった。真っ青になって筐体を見たら、赤外線ポートの下あたりがほんの少し剥がれていた。不運だったのか、この程度ですんでよかったのかは難しいところだが今のところ実害がないようなのですなおに幸運だったと思うことにする(筆者は大体楽観的な人間なのだ)。
デジタルカメラユニット
デジタルカメラユニットをお借りして使ってみた。ドライバのインストールはPC経由でSL-C700付属のCD-ROMから行なう。使ってみた率直な印象としては、デジタルカメラは画質も機能も古すぎる。最新の携帯電話のデジタルカメラ機能やムービー機能と比較しても見劣りする画質と機能だ。ただし、写真はイメージリンクのサムネイルだと美しく、SL-C700の大きな画面で見るのはそれなりに迫力がある。
画質は悪いがデジタルカメラユニットを使ってみると、なかなか楽しい。しかし、美しい液晶で画像を楽しむのも、デジタルカメラで撮影した写真をSL-C700で見るといった使い方が現状では正しい気がする。デジタルカメラユニットは正直、性能面からお薦めできない。
ボイスレコーダーキットを購入
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イヤホンがないとSL-C700では録音できない。純正のボイスレコーダーキットとオーディオテクニカのモバイルマイクロホンAT9641
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散々迷った末に、ついついボイスメモ用のマイク「ボイスレコーダーキット」(CE-VK1)を購入してしまった。1999年12月に発売されたMI-C1などの時代から発売されていた製品だ。スピーカーとマイクがないというのは、SL-C700の欠点の1つかもしれない。ボイスレコーダーキットのマイクは小型でなかなかかわいいデザインだ。価格は販売店によってかなり違うようで、筆者は3,800円で購入してしまったが、1,580円くらいで売っているところも多いようだ。
筆者にとってボイスメモは必須の機能だが専用機が必要というほどではない。イベントで何件も回る時に採ったりするくらいだ。また、発表会では録音機代わりにすることもある。
ボイスメモを聞きながら他のアプリケーションも利用可能だ。実際、このメモもそうしたメモが元になっている。ボイスメモで録ったものを聞きながらメモに書いたものをまとめたり追加したものだ。マイクはSL-C700に直接取り付けるものと、イヤホンタイプの2種類が付属しているが、両方ともあまり良くない。音は割れるしバリ音も結構ある。
データは、デフォルトの状態で、60秒録音したら1,889KB、44秒で1,361KBとかなり大きい。「オプション」→「録音設定...」で、保存先を「本体メモリー」、「SDカード」、「CFカード」から選べたり、音質をかなり細かく設定できる。デフォルトでは、10分録音したら20MB近くになってしまうので、ある程度の時間録音する場合は音質を落とした方がいいだろう。
音質については、普通に聞くと結構いい音質と思えたが、静かな屋内で聞いたりすると、かなり音割れなどが目立つ。イヤホンではなく、PCなどでスピーカーで聞いた方がいいかもしれない。やはり、ちょっとしたボイスメモとしての利用がメインだろう。
シャープのマイクロホンの音質の悪さから、オーディオテクニカのモノクロのマイクロホンを購入したが、これは失敗だったかもしれない。ボイスメモとして録音した音質は、気持ち程度よくなった気がするが、聞き比べてはっきりわかるほどではない。ややノイズがするし、シャープ製のマイクロホン2機種と比べてどちらがどちらという程度の向上は感じられない。さらに良いマイクロホンだと違うのかもしれないが、ボイスメモとして使えないことはないので、筆者はこんなものと思って使うことにしている。
結論に代えて
今回は、ソフトウェアの具体的な使い勝手や、他の周辺機器、便利なフリーウェアなどの紹介、便利なWebサイトの紹介までたどりつかなかった。次回以降で紹介していきたいと思う。フリーウェアなどは、数はそれほど多くはないが、SL-C700の熱気で更新著しい分野でもある。
筆者はSL-C700を購入して満足しているが、ご紹介したように細かな不満点や多少の不具合も感じる。しかし、それはPDAに限らず新しい意欲的な製品が登場してきた時には必ずあることだ。シャープは対応のいいメーカーなので、細かな不具合も修正してくれるものと確信している。
SL-C700をどういったユーザーに勧められるかというと、なかなか難しい。他のPDAをまったく使ったことがないユーザーには、なかなかいい選択だと思う。PIMの不満や切り替えの遅さといったことは、逆にPCだけを使っていればあまり感じないと思うからだ。また、Webブラウズ目的でもいいと思う。メーラーはくわしく紹介できなかったが、機能的にやや不足し、ダウンロード可能なファイルの大きさにも制限があるようだが、PDAのメーラーとしては悪くないと思う。液晶が高解像度で表示が美しいため、デジタルカメラで撮影した写真画像などの携帯ビューア用途としてもなかなかいいと思う。
バッテリー連続駆動時間は、一般に言われているほどは使っていて気にならない。不具合もないとはいえないが、筆者には致命的なものはない。ただし、PIMについては改良の余地はまだまだあると思う。これ1台で運用しているが、何かをすぐに知りたいといった用途ではきびしい気がする。すべての人に向いたPDAのようにやハンドヘルドはありえない。自分の嗜好をまず把握するところから始めるべきだろう。筆者はとても気に入っている。
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デジタルカメラユニットは、まだまだ価格が高いが機能として見合っているとは思えない。シャッターボタンで撮ることはできる
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ここから撮影することもできる。ソフトウェアの作り込みは今ひとつだと思う
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・ ザウルス SL-C700製品情報
http://www.sharp.co.jp/products/slc700/index.html
・ デジタルカメラなど周辺機器製品情報
http://www.sharp.co.jp/sc/eihon/mic1/text/p3.html
(山田道夫)
2003/01/17 16:30
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