俺のケータイ of the Year

Xperia Z Ultra SOL24

Xperia Z Ultra SOL24

石野純也 編

 例年、「俺のケータイ of the year」に選ぶ機種は、スムーズに決まっていた。なんとしても手に入れたい機種は年間最低1台はあり、複数あった場合も、その中からどちらがいいかを選ぶだけだ。これに対して、今年はマイベストの1台を選出するのが、非常に難しかった。

 購入して、よく使ってきた機種を振り返ると、どれも一長一短。「iPhone 6」はバランスもよく、海外でもすんなりLTEにつながるネットワークとの相性のよさは気に入っているが、iOSのトラブルが多く、今までのiPhoneと比べてバグツンにいいかというとそうでもない。また、おサイフケータイが必須の自分にとっては、どうしてもベストに推しづらい。

 現在メイン機として使用中の「GALAXY Note Edge」も、コンセプトや形状はストライクだったが、いかんせんレスポンスが悪く、トータルでの完成度を詰めきれていない印象を受ける。おもしろさではトップクラスだが、使うとストレスを感じる点で、「俺のケータイ of the year」にはふさわしくない気がする。これに対して、夏から秋にかけてメインにしていた「Xperia Z2」は完成度が高かったものの、コンセプトという点では目新しさに欠ける。

 良くも悪くも、スマートフォンのコモディティ化が進む中で、端末の個性が失われている気がする。iPhone 3Gの登場が2008年だったことを考えると、それも致し方ない気がするが、直線的な進化ではない何かを見てみたい。今年は「格安SIM」「格安スマホ」がブームになったが、月額使用料が高いポストペイド回線を前提にしなければ、もっとおもしろい端末が作れる気もする。パナソニックが海外で発売した「LUMIX CM1」は、そうした製品の一例と言えるだろう。

 少々前置きが長くなったが、そんな中であえて1台を選ぶなら、紆余曲折を経てau端末として発売された「Xperia Z Ultra」を挙げておきたい。名称を見れば分かるように、この機種は「Xperia Z」世代のモデル。海外では2013年6月に「Mobile Asia Expo」で発表されており、厳密に言うと「今年のモデル」とは言えないかもしれない。国内投入が半年以上遅れたこともあり、機能も同時期に出たモデルに比べるとやや見劣りする。特に、カメラをセンサーから抜本的に進化させた「Xperia Z1」の後に出たのは痛かったと思う。実際、自分もタイミングが合わず、端末の購入は泣く泣く見送ってしまった。

auの「Xperia Z Ultra SOL24」

 では、なぜそんな機種を「俺のケータイ of the year」に選んだのか。答えは簡単で、ほかにない強烈な個性を持っていたからだ。KDDIは春モデルでファブレットをプッシュしていたが、ご存知のとおり、海外では大画面化が急速な勢いで進んでおり、やや後れを取る形で、日本のトレンドもこれに引っ張られている。とは言え、どれも5~6インチの間。GALAXY Noteシリーズのようにペンをつけ、両手持ちを提案しているモデルもあるが、どれも何とか片手操作をさせようと、ソフトウェア面でさまざまな工夫をしている。そうした努力は否定するものではないが、大画面で無理やり片手操作させようとするところに、どこか中途半端さを感じてしまうのも事実だ。

 一方でXperia Z Ultraを見て、片手操作しようと思う人は少ないだろう。「パスポートサイズ」をうたっているが、片手ではあくまで持ち運べるだけ。ディスプレイが6.44インチもあるため、両手で操作しないと、通知を開くのすら難しい。ライバルが6インチ以下でしのぎを削る中、潔く約1インチ大きなディスプレイを提案して、片手操作をあきらめさせた点は非常におもしろい。そのぶん、ディスプレイが大きく、動画などの迫力はタブレット並みだ。

 また、このサイズで電話するのはちょっとという声を想定して、きちんと対になるヘッドセットも提案してきたところも抜け目がない。周辺機器にも力を入れるソニーモバイルならではの世界観とも言えるだろう。

 入力面での工夫も評価したい。GALAXY Noteシリーズは筆圧を感知する「Sペン」が売りだが、専用のペンになってしまうため、常に持ち運ぶ必要がある。ペンの替えがきかないのも、この方式のデメリットだ。これに対してXperia Z Ultraは、タッチパネルのセンシングを工夫することで、鉛筆などのその辺にある道具で入力できるようにした。ペンで通知を開くと、関連するアプリが表示されるのも、細かな点だが「おお」と感心した部分だ。もちろん、書き味はGALAXY Noteシリーズには及ばないが、専用のペンを常に持ち歩かなくてもいいというのはやはり気軽だ。

 そして何より、デザインが秀逸だった。6.5mmという厚さは、販売中の「Xperia Z3」と比べても薄く、スタイリッシュに見える。全体的なテイストはXperia Z1に近いが、「1枚のガラス板」というXperia Zシリーズのコンセプトの理想に近いのは、Xperia Z Ultraの方だろう。

 Xperia Z Ultraのコンセプトや見た目、そして画面の大きさがもたらす大迫力な映像は、今年1番だと思う。2013年の発表時に、端末開発を統括するソニーモバイルの黒住吉郎氏(現在はソフトバンクモバイルに在籍)にインタビューを行ったが、その話の1つ1つに感心したことは今でもはっきりと覚えている。一方で、先に述べたように、やはりこのモデルは2013年に発表されたもので、機能面で物足りない部分は残る。また、XperiaシリーズがZ3まで順当に進化していく中で、後継機が出ていないのも不満な点だ。8インチの「Xperia Z3 Tablet Compact」もあるとは言え、やはりここまで大きくなるとタブレットと思わざるを得ない。そもそも、日本では通話もできるLTE対応モデルが発売されていない。

 残念なことに、ソニーモバイルは現在、販売台数の下方修正に伴い、経営戦略を大きく見直している。海外で販売しているローエンドモデルに割くリソースを減らし、プレミアムモデルに注力していくのが、基本的な方針だ。端末ではXperia Zシリーズにより力を入れていく格好だが、プレミアムモデルの分野では、完成度の高さだけでなく、“先鋭的なコンセプト”も求められる。確かに数は取れないかもしれないが、ソニーモバイルの目指す世界観を見せていく上で、Xperia Z Ultraのような端末は今後も絶対に必要だと感じている。

石野 純也