俺のケータイ of the Year

HTC J ISW13HT

HTC J ISW13HT

石川 温編

 スマートフォン業界にはパワフルで個性的な企業トップが本当に多い気がする。日本でいえば、ソフトバンクの孫正義社長はその筆頭だろうし、KDDIの田中孝司プロも、新商品発表会で独特のフレーズを使ってきたことで、いまではインターネット界隈の人気者になっている。NTTドコモの加藤薫社長も、まだその関西キャラはあまり表に出てはいないが、何度か新製品発表会に登壇していくうちに、一般的にも広まってくるだろう。

 海外企業でいえば、やはり、昨年亡くなってしまったアップルのスティーブ・ジョブズ氏が最も個性的でカリスマ性を持った経営者だ。あの魔法のようなプレゼンは、後世に語り継がれることだろう。プレゼンと言えば、マイクロソフトのスティーブ・バルマー氏も印象深い。彼のプレゼン時の声のでかさには圧倒されてしまうのだ。マイクなんて不要。あの風貌であの大きな声。きっと、朝昼晩、Tボーンステーキを食ってるんだと思う。

 そんななか、私が会う度に気になっているのが、HTCのCEOであるピーター・チョウ氏だ。風貌は、青果店の店主といった感じ。ちょっと強面で、近寄りがたいオヤジだ。昨年までは、海外の記者会見などでしか見かけることはなかったが、KDDIとがっちりタッグを組むようになって、たびたび、日本の会見にも登壇するようになった。田中氏ともとても仲がいいようで、記者会見の後には必ず、一緒にディナーに行くという。

 ピーター・チョウ氏に会ったとき、「日本にはカワイイという言葉がある。それをKDDIから学びたい」と言っていた。彼の口から「カワイイ」という日本語が出てきたことに、軽く違和感を覚えたのだが、それだけHTCとしては、KDDIからさまざまなことを吸収したがっていたようだ。

 HTC Jは日本だけでなく、台湾や香港でも大ヒット。ここ最近、低迷をしていたHTCだが、HTC Jのヒットにより、活路を見いだした感がある。

 HTC Jはなにより、グローバルスマートフォンの良さと、日本市場で受け入れられる要素をうまく融合した商品だと思う。残念ながら防水性能は対応できなかったが、それ以外の部分では、当時は申し分のないスペック、操作性であった。

 日本市場は世界と比べると、やはり特殊な市場であり、グローバルメーカーは本気で取り組まないことには成功しない。サムスンもGALAXYシリーズで日本市場においてシェアが広まりつつあるが、ここにきて勢いが止まりつつある。グローバル端末に日本特有機能を載せただけでは限界があるのかも知れない。

 その点、HTC Jは、日本特有機能を載せただけでなく、KDDIとの協業により、日本のユーザーが好むデザインテイストや色合いを採用。「グローバルでありながらローカライズ」という端末に仕上がった。海外出身なのに日本人ぽい。まさにデーブ・スペクターのようなスマートフォンと言えるだろう。

石川 温