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“スマホは公共インフラ”、61の自治体がスマホ活用を本格検討へ

「自治体スマホ連絡協議会」発足、群馬県下仁田町はスマホ全戸配布へ

 全国から61の自治体が参加する「自治体スマホ連絡協議会」が、18日に正式に発足した。都内では第1回の総会が開催され、概要が説明されるとともに、役員の選出や議案の可決といった議事も執り行われた。これに合わせて、総会後には、群馬県下仁田町が、ふるさとスマホ、Tポイント・ジャパンの2社とスマートフォンを活用する取り組みで協定を締結する記者会見も開催された。

「自治体スマホ連絡協議会」第1回総会

 「ふるさとスマホ株式会社」の設立については、7月28日にニュース記事を掲載している。佐賀県武雄市の元市長で、同社の代表取締役社長を努める樋渡啓祐氏は、自治体スマホ連絡協議会の顧問に就任した。同社は自治体と連携して、アプリ開発を中心に取り組んでいく。

 「自治体スマホ連絡協議会」は、富山県南砺市の市長が発起人代表となり組織されたもので、18日の設立までに61の自治体が参加した。協議会は、高齢化や人口減少など課題も多い地方自治体において、スマートフォンを活用して、高齢者を中心とした問題の解決や、生活の利便性の向上に取り組んでいくというもの。健康、見守り、地方創生の分野が具体的に挙げられている。トーンモバイルのMVNO「TONE」が活用されることがすでに明らかにされており、各自治体で実際にどう提供していくのかや、アプリの選定や開発といった具体的な取り組みが、ふるさとスマホと連携しながら検討されていく。後述する群馬県下仁田町を含め、年度内に2~3の自治体で実証実験を開始する。

 協議会は、こうした各自治体の取り組みの成功事例、あるいは失敗事例の共有に活用され、各自治体に展開していくプラットフォームになる。また、ふるさとスマホのWebサイトでは、各自治体から事例や取り組み内容を記事として投稿できる仕組みも用意される。

 ふるさとスマホのグループ会社として、Tポイント・ジャパンからは、Tポイントを地方自治体で活用できる仕組みの提供を検討していくことが表明された。「道の駅」とTポイントとの連携や、商店街のポイントをTポイントへ統一するといった提案のほか、高齢者の健康増進として、散歩などでの歩数計の計測結果をTポイントに変換して付与するなど、さまざまな形が考えられるとしている。Tポイント・ジャパンからは、地域経済の活性化に社として取り組んでいく方針も示されている。

 「自治体スマホ連絡協議会」の設立総会ではまた、総務省 地方情報化推進室の梅村研氏が祝辞を述べたほか、Google 執行役員の阿部伸一氏なども出席。慶應義塾大学大学院 特任准教授の菊池尚人氏からは地方自治体におけるICT活用の事例が紹介された。ほかにも特別講演としてUber Japan執行役員社長の高橋正巳氏が登壇し、同社の配車サービスが自治体や高齢化社会でも活用できることが紹介された。Uber Japanは協議会と正式な連携は行っていないが、連携やサービス開発のための門戸は開かれているという姿勢が示された。

慶應義塾大学大学院 特任准教授の菊池尚人氏
総務省 地方情報化推進室の梅村研氏
Uber Japan執行役員社長の高橋正巳氏

「自治体スマホ連絡協議会」は情報交換プラットフォーム

 富山県南砺市の市長で、自治体スマホ連絡協議会の発起人代表、協議会の会長にも選任された田中幹夫氏は、「縮小化していく地域や町で、どう市民の満足度や幸福度をあげていくか。スマホを使うことで、どういうことができるか」と、これまでも検討を重ねてきたことを振り返る。その上で、ふるさとスマホと連携するきっかけについて「住民がどう使えるかが大切で、それが分かるのは私達、市町村ではないかと思った」と経緯を語る。「市町村が一番使いやすい機種やアプリ、情報、それを考えていくのが重要で、課題解決に向けてのツールにしていきたい。いろんなことが考えられるのがスマホの良さ。(連絡協議会は)情報交換のプラットフォームにしていきたい」と意気込みを語った。

富山県南砺市 市長の田中幹夫氏。自治体スマホ連絡協議会の発起人代表で、協議会の会長にも選任された

スマホで行政コストを削減「新しい公共インフラになる」

 ふるさとスマホ代表取締役社長の樋渡啓祐氏は、「これまで自治体のインフラ整備といえば道路だったが、スマホは、新しい公共インフラになるのではないか。地方と都市だけでなく、地方to地方の結びつきも起こる」と、スマートフォンの活用がインフラレベルの重要なものになると位置付ける。

ふるさとスマホ代表取締役社長の樋渡啓祐氏

 同氏は、武雄市長時代の経験から、防災や情報配信などの住民向けの設備コストが、個人の負担金を含めて高くなる傾向を指摘する。「私もさんざん怒られた。防災無線を5億円をかけて整備したが、二重サッシの住居が増えており、防災無線が聞こえない、本当に整備したのかと言われた。こうしたことに忸怩たる思いを、反省点として持っていた」と、高くなりがちな設備や、各戸に情報を届けることの難しさを語る。

 「行政コストは、スマートフォンを使うと安くできる。独居老人の安否確認に使え、高齢者の健康維持にも活用できる。歩くとTポイントが貯まるといったことができ、計測結果は健康診断に活用できる。バラバラに提供されている各商店街のポイントをTポイントに集めるといったことも可能」と樋渡氏はさまざまな可能性を示し、「自治体と組むことで、住んでいる人が住んでよかったといえるようなものを、スマホで形にしていきたい」とした。

群馬県下仁田町、スマホを全戸配布へ

 この日、群馬県下仁田町と、ふるさとスマホ、Tポイント・ジャパンの間では、スマートフォンの活用に関する基本協定が締結された。上記にもある協議会やふるさとスマホによる取り組みにおいて、実証実験の第1弾となるほか、下仁田町では全戸にスマートフォンを配布する方針。

基本協定の締結と調印式
使用されたボールペンは下仁田町の特産品であるネギ(殿様ネギ)を模したものだった

 下仁田町における取り組みでは、ふるさとスマホと連携する形で、1)各戸への自治体からの連絡や災害時の連絡手段の確保、2)子供や高齢者の見守りネットワークの創出、3)歩数計アプリによる健康増進の取り組み、4)買い物難民など高齢者の問題の解決、5)世界遺産の富岡製糸場を構成する荒船風穴、ジオパークなど観光の促進、の大きく5つの分野について、スマートフォンの活用が具体的に検討・実施される。

 また、ふるさとスマホとTポイント・ジャパンの2社からの提案として、1)道の駅や商店街の活性化とマーケティング、2)Tポイント提携企業との連携、3)歩数に換算したTポイントでの健康ポイント付与、4)ふるさとスマホが開発するアプリの無料提供の大きく4点が提案されている。

 下仁田町では、スマートフォンの全戸配布(全3413戸)を前提に、実証実験としてモデル地区への配布(300~500戸)を開始する。ふるさとスマホからは、初期に導入される端末はモニターとして提供され、アフターサポートも提供される。実証実験では月額の利用料は町側が負担する。

ふるさとスマホ 取締役の杉山隆志氏

 同町の人口は8172人で、3413戸のうち約500戸に独居老人、約500戸に65歳以上の夫婦が暮らすなど、高齢化とその課題に直面している。加えて、戸数に対して町の面積が広く、ケーブルテレビの敷設は補助金を考慮しても数億円のコストがかかることから、ケーブルテレビの敷設を先送りしてきた経緯があり、各戸に連絡する手段が防災無線のみという課題も抱えている。

 こうした中、幸福度や暮らしの質の向上を目指す下仁田町の5カ年計画の一環として、今回の協定が締結された。下仁田町の町長、金井康行氏は「ネギとこんにゃくが美味しい季節」と特産品に触れながら挨拶し、「スマホを活用した、時代に沿う街づくりを行っていく。地域の先達として、成功に終わるようにしたい。住民8200人だからこそできる強みを活かし、最大限努力していく」と意気込みを語っている。

群馬県下仁田町 町長の金井康行氏

スマホ活用は公共インフラ、Tポイントの地方展開を加速

 ふるさとスマホの樋渡社長は、「各自治体には強みも弱みもあり、寄り添ってカスタマイズしていく。町が全戸配布の宣言をするという、歴史的な日になった。公共インフラに対する考え方そのものが変わっていく。紆余曲折あるだろうが、信頼関係を基に、オール地方自治体として後押ししてもらえればありがたい」と、具体的な取り組みを前に協力も呼びかけた。

 Tポイント・ジャパン 取締役副社長の北村和彦氏は、Tポイントの会員数や規模を紹介する一方、「今までは日本全国の百何社とアライアンス、と紹介してきたが、そういう時代ではない。東日本大震災の後は、地域の児童館の建築を支援するなど、地方にも目を向けている。“みんなのポイント”“住民のポイント”にシフトしていきたい。住民の視点にたった支援をこれからできればと思っている」と述べ、地方での取り組みも強化していく方針を明らかにした。

Tポイント・ジャパン 取締役副社長の北村和彦氏
下仁田町のT会員率

太田 亮三