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LTE-Advancedに向けたドコモの技術開発とは
LTE-Advancedに向けたドコモの技術開発とは
(2013/3/22 22:31)
開発のスピードアップ進める
NTTドコモ取締役常務執行役員で、研究開発センター所長の尾上誠蔵氏は、ドコモのR&Dセンターでの開発の進め方として、現在“プロセスのイノベーション”を図っていることを紹介する。
具体的には、オープンな技術の導入、自社開発だけにこだわらない開発、そしてフィードバックを得ながら柔軟に対応していく、いわゆる“アジャイル開発”での取り組みとのことで、特にアジャイル開発については、アプリ開発とサーバー開発、そしてビジネス化に取り組むスタッフを1つのチームとして開発工程の最初~最後まで一気通貫で進めているとのこと。
こうした“アジャイル開発 + 一気通貫”の代表例として、「しゃべってコンシェル」が挙げられる。同サービスは、これまでに900万ダウンロード、利用回数が3億回と高い人気を得ているが、開発開始時はβ版のようなアプリを投入してユーザーからのフィードバックを得た上で、正式版がスタート。さらに段階的に改善も図られている。
高度化C-RANとは
次世代の通信規格であるLTE-Advancedに向けた新技術も披露された。そのうちの1つ、「高度化C-RANアーキテクチャ」は、通信量が多い都市部の駅や商業施設での導入が想定されている。
C-RANとは、Centralized Radio Access Network、つまり携帯電話の通信ネットワークのうち、基地局と携帯電話を繋ぐ無線部分を1カ所にまとめて制御するというもの。複数のアンテナ(子局)でサービスエリアが作られ、それらの制御を別の場所にある制御装置(親局)が行う。これをさらに発展させて、より緻密なエリア作りを目指すのが「高度化C-RAN」だ。
これまでの携帯電話のエリアの作り方としては、まず携帯電話の基地局は周囲の数百m~数kmをカバーする。しかし人が多いエリアでは1つの基地局では通信を処理しきれない。そこで基地局の数を増やして、その基地局がカバーするエリアをより小さくする。こうすることで、1つの基地局当たりのユーザー数を減らして、通信しやすい環境を目指す。
一方、最近提唱されている新たな考え方は、広いエリアをカバーする基地局(マクロセル基地局)と、ごく一部だけをカバーする基地局(スモールセル基地局)を混在させるというもの。この考え方はヘテロジニアスネットワーク(HetNet)と呼ばれる。ただし、単純にマクロセルの中にスモールセルを設置する場合、マクロセルと同じ周波数を使っていればスモールセルの境界付近で干渉が発生する。またスモールセルが多く設置されている場所ではマクロセルとの出入りが頻繁になり、いわゆるハンドオーバー処理が多発して安定性が落ちる可能性がある。
そこで活用されるのが、LTE-Advancedの要素技術である「キャリアアグリゲーション(CA)」だ。CAは、複数の周波数帯を1つにまとめて通信できるようにする技術。2GHz帯と800MHz帯で通信サービスを展開する場合、携帯電話は2GHz帯経由で基地局と繋がると2GHz帯だけ、800MHz帯で繋がると800MHz帯だけ使って通信をする。しかしCAが導入されれば、2GHz帯と800MHz帯を1つにあわせた通信が可能になり、より高速な通信も可能になる。
高度化C-RANアーキテクチャでは、CAによって、スモールセル用の周波数帯とマクロセル用の周波数帯を1つにまとめる。このためマクロセルの中にあるスモールセルのエリアに入ったとしても、端末側にとっては、同じセルの中にいるのと同じ状態で、ハンドオーバー処理が発生しなくなる。また将来的に、新たな周波数が割り当てられた場合、その電波を駅などに設置したスモールセルだけで運用すれば、人の多いエリアに、空いている帯域を追加できる。新しい周波数をやや贅沢に使う、という見方ができるかもしれないが、今後はこれまでより高い周波数が割り当てられる可能性が高く、スモールセルという限られたエリアであれば“扱いづらい高い帯域”も活用しやすい。
キャリアアグリゲーションと4×2 MIMO
もう1つ、LTE-Advancedの要素技術として紹介されたのが、複数のアンテナを使うMIMO(Multi Input/Multi Output)だ。MIMOは、基地局と端末の双方に、複数のアンテナを装備して通信する手法。複数用意されたアンテナで、それぞれ別々のデータをやり取りすることで、通信速度を向上できる。ただし、受信したデータをきちんと再現(復元)するためには高い処理能力が必要だ。また、現行のLTE方式では、基地局にアンテナ2つ、端末にアンテナ2つ、つまり2×2のMIMOという形になっている。この場合、基地局が2×2のMIMOで同時にやり取りできる端末は1台だけ。複数の端末がエリア内に存在する場合は、「この時間はこちらの端末、○秒後は別の端末」という形で、時間で区切って通信する。同時に1台の端末だけと通信するため、「Single-User MIMO」、略してSU-MIMOと呼ばれる。
これに対して、今回、ドコモは基地局のアンテナを4つに増やす、4×2というMIMOを披露した。端末側は設置場所が限られることから、これまで通りアンテナは2本。しかし、これは2×2という通信をもう1つ、同時に処理でき、複数ユーザー(Multi User)でのMIMOを実現することから、「MU-MIMO」と呼ばれる。端末が3台以上になると、SU-MIMOと同じく、通信するタイミングを時間で区切って(時分割)処理することになる。
今回室内に基地局装置、端末の役割を果たす装置が2台設置され、先述したCAで100MHz幅、そして4×2のMIMOという通信が披露された。室内という短い距離ながら、さまざまな物が設置されて電波が乱れ飛ぶ状況であっても、1台あたりの通信速度は下り500~600Mbps、2台合わせて1Gbps(1000Mbps)前後となっていた。担当者が試しに端末装置のアンテナのうち1つを手で握ると、電波を受信できなくなり通信速度が一気に下がり、手を離すと通信速度が上がっていた。
このMU-MIMOの実験は、自動車に端末装置を設置して、屋外を時速10kmで移動しながら通信するという形でも行われた。このとき基地局と端末との間の通信速度(下り)は、100Mhz幅で1Gbpsとなっていた。