エリクソン、2017年までの市場予測やトラフィック対策を解説


エリクソン・ジャパン CTOの藤岡雅宣氏

 エリクソンは、2017年までの世界の携帯電話ネットワークや市場動向を調査・予測したレポートを発表し、記者向けの説明会を開催した。合わせて、スマートフォンのトラフィック対策についても解説が行われた。

 エリクソンは世界の市場を対象にしたネットワークや市場動向のレポートを6月11日に発表している。今回、エリクソン・ジャパン チーフテクノロジーオフィサー(CTO)の藤岡雅宣氏から、同レポートの解説に加えて、今後のスマートフォンのトラフィック対策や課題などが説明された。


加入者数、通信方式

今後W-CDMA/HSPAが主流になるも、GSM/EDGEも残る。加入者数はアジア太平洋地域が中心になる

 レポートによれば、携帯電話の契約数は2011年末に60億だったところが、2017年末には90億に達する。このうちモバイルブロードバンドの契約数は10億から50億に増加するとしている。また、データ通信端末や組込のモジュール、通信機能付きタブレットの契約数は2億から6.5億に増加し、固定ブロードバンドに匹敵する数にまで伸びる。

 通信方式でみると、世界市場全体では2014年頃まではGSM/EDGEの加入者数が最大となる見込みで、これには途上国の動向が大きく影響している。途上国では端末の買替サイクルが長いことや、GSM/EDGEのコストが相対的に低く導入しやすいこと、ネットワークインフラの減価償却の観点などからも、今後もしばらくはGSM/EDGEが主流になるとみられている。一方、W-CDMA/HSPAは今後世界の主流となり、またLTEは世界的な展開が進み2017年には契約数が10億になる見込み。LTEについては、しばらくは先端的なユーザーによる市場が続くことになる。

 地域別の加入者数の予測は、北米・西欧での増加が限定的となる一方、アジア太平洋地域はGDPの成長する国が多く、加入者数の大幅な増加が続き、世界の携帯電話市場の中心になる。ただし方式別では、アジア太平洋地域は2012年でGSM/EDGEの加入者数が最大になり、その後は減少するものの、2017年時点でも半数近くがGSM/EDGEとして残る。2017年では、西欧はW-CDMA/HSPAが主流となりLTEは25%に、北米はLTEへの移行が急速に進み、1/3がLTEになるとみられている。


トラフィック量

世界のモバイルトラフィック量の予測

 世界のトラフィック量については、これまでの実績値として、音声トラフィックはアジア太平洋地域の加入者数の伸びに対応して着実に増加している。一方、データトラフィックは音声トラフィックと比較して急速に増加しており、2012年第1四半期は過去1年間で2倍のトラフィック量になった。現時点ではモバイル環境のパソコンなどによるトラフィックがスマートフォンのトラフィックを上回っているが、伸び率はスマートフォンが勝り、2017年時点でこの2つがトラフィック量を二分するとみられている。そのデータトラフィック量は全体で、2011年と比較して15倍にも上ると予測されている。また、西欧を中心に、データ通信端末による通信が普及していることもあり、スマートフォン以外によるデータトラフィックは2017年時点でも多くの割合を占めると予測されている。

 こうしたトラフィックの増加にはさまざまな要因があり、データ通信の料金プランや、ビデオ配信の有無、端末の画面サイズや解像度、トラフィックおよび通信量制限の有無、ネットワーク品質、固定ブロードバンドの普及度合いなどが影響し、ネットワークごとにトラフィックパターンが異なる結果となっている。こうしたことから、藤岡氏は「調査しても一般論は無く、ネットワークごとに異なるのが現実」としている。

 同社のレポートでは、モバイルパソコン(USBデータ通信端末)、スマートフォンなどデバイス別のトラフィック量の調査も実施しており、全体では1~16%のシェアとなっているモバイルパソコンのトラフィック量が全体の8~88%を占めるなど、西欧を中心にパソコンの利用がトラフィック量において大きな割合を占める結果となっている。

 スマートフォンでは、iPhone、Androidのデータトラフィックが大きく、Androidは端末バリエーションの広さから、トラフィック量にもばらつきがみられる。利用用途別では国や地域の差が大きく、動画、P2Pによる動画が大きな割合を占めるものの、P2P動画の利用はアジア地域で顕著になっている。


トラフィック対策

スマートフォンのトラフィック特性

 スマートフォンによるトラフィックの増大は日本でも話題になることは多いが、世界のキャリアが対策を急いでいる問題でもある。トラフィック量の増加といっても、実際にはデータ通信量の増加のほかに、端末の内部の状態やアクションを起こす際に各種の要求をやり取りする「制御信号」が増加している点も問題とされている。制御信号に限れば、その影響は無線通信エリアだけでなくコアネットワークにまで及び、パケットの信号処理負荷が劇的に増加することから、パケット交換システムの容量増強が必要になる。また端末の数がパソコンと比較して多いことから、スマートフォンの増加がそのまま問題の大きさにつながっている状況だ。

 日本ではスマートフォンの普及率が20%程度という段階だが、例えば北米のAT&Tでは57%と、すでに過半数がスマートフォンで、シンガポールでは54%が、カナダでも39%がスマートフォンになっている。世界的には無線ネットワークへの負荷の増大が問題の中心だが、北米のキャリアでは制御信号の増大による問題もすでに表面化し、一部でパケット通信の定額制をやめる一因になったとされる。またこの制御信号の問題はドコモの通信障害でも一因として注目を集めた。

 制御信号のうち、パケット接続の設定を要求するService Requestでみると、過去3年間で約5倍などに膨らんでいるのが実際だ。こうした制御信号はパケット通信がアクティブな状態として接続されている状態では不要で問題にはならないが、スマートフォンがスリープから復帰したり、アプリを起動したりといったさまざまなタイミングでアプリなどからService Requestsが発生することが多い。こうしたアプリの挙動を予測しきれない点が、制御信号増加では問題となっている。

 一方、通信の無い状態が続いた際にどの時点でアクティブな接続を切るとかといったタイマー設定など、パラメータ設定の最適化や、リアルタイムのトラフィック監視でこうした問題にある程度は対処することが可能という。

 エリクソンでは「スマートフォン・ラボ」としてチップセットベンダーから端末メーカー、OSまでを含めて各社と協力する仕組みを構築しており、例えばAndroidの開発者向けガイドには、制御信号の発生を抑える仕組みや、ネットワークの負荷を低減する通信の仕組みが、ガイドラインとしてアプリ開発者に提供されている。詳細は不明だが、アップルも同様の統制をアプリ開発者に対して行っているとされる。


3GPP Release 8 Fast Dormancyでは端末の状態遷移にURAが追加され、制御信号の抑制が図られている
3GPP Release 8 Fast Dormancy対応の端末

 こうしたパラメータ設定やアプリの最適化のほかにも、スマートフォンの無線状態の遷移に新たな仕組みを導入する動きも始まっている。これは、URA-PCH(ユーラ/URA:UMTS Registration Area)とよばれる仕組みで、3GPP Release 8 Fast Dormancy(ファストドーマンシー)として規定されている。

 URAが規定されていない従来の仕組みでは、HSPAの高速通信から通信をしないIDLE(アイドル)にまで強制遷移するため、再び通信を行うためIDLEからHSPAへ遷移すると基地局との間で30以上の信号が発生し、実際に約2秒程度の時間も必要になる。

 URAとは複数のセルで構成されるエリアを指し、データ通信が無い状態でも、無線ネットワーク側からは端末の位置を認識できる。URAは新たなIDLEに相当し、URAの遷移を利用できる端末では、制御信号の発生を抑制でき、URA→HSPAの遷移も約1秒と半減できる。こうした仕組みが導入されると、無線ネットワーク側は負荷を低くでき、全体の速度も向上するという。

 現在、2011年の半ばから発売された一部のスマートフォンや、最新のiOSでは、3GPP Release 8 Fast Dormancyがサポートされている。一方、ネットワーク側において、3GPP Release 8 Fast Dormancyのサポートは世界で3割ぐらいの普及にとどまっているとのことで、この仕組みがより普及すれば、スマートフォンによるネットワークへの負荷がかなり減らせるという。なお、日本のドコモは同様の仕組みをCELL-PCHとして導入済みで、複数セルではなくセル単位での制御となっている。このほかの日本のキャリアでも一部ネットワーク側については利用可能な状態とのことだが、実際に利用されているかどうかは明言されていない。

 制御信号に関しては、Keep Aliveとよばれる接続についても触れられた。Keep Aliveはパケット接続のある状態であれば問題にはならないが、IDLEからKeep Aliveを要求すると、さまざまな制御信号が発生するため、タイマー設定などKeep Aliveのタイミングをどう制御するかといった設定が重要になるという。

 スマートフォンの進化という面では、今後もCNC(Continuous Packet Connectivity)と呼ばれる通信状態の維持に関する仕組みや、HS-FACHなどトラフィックの削減を目的とした技術が開発されている。また、LTEではRNC(Radio Network Controller)が無くなり、端末の状態遷移などの信号がネットワークに影響を及ぼしやすくなっているが、これについても、パケット接続を維持していると発生するハンドオーバー信号の増加などを考慮し、IDLEのタイマー設定を最適化(約60秒でIDLEに遷移)することで、制御信号数の増加を抑えられるとしている。

 エリクソンではこうした一連の最適化をキャリア向けに提供しており、最適化されたネットワークでは、50%のユーザーについて、通信速度が最大3倍になったという例も示している。


プレゼンテーション


 




(太田 亮三)

2012/6/19 19:21