シャープ、IGZOの新技術を開発しモバイル向けを強化
新IGZO採用の液晶ディスプレイ。6.1インチで2560×1600ドット、498ppiの超高精細パネル |
IGZOの新技術について |
シャープは、半導体エネルギー研究所と共同で、IGZO(酸化物半導体)に結晶性を持たせる新技術を開発したと発表した。現行のIGZO液晶よりもさらに高精細化、小型化、高性能化が可能になるという。現行のIGZO液晶の製造ラインは、2012年度中にもこの新技術を採用したものへ移行が開始される見込み。
IGZO(アイ・ジー・ゼット・オー)はアモルファスシリコンなどに代わる液晶ディスプレイの素材として使用されるもので、IGZO液晶ディスプレイは、高精細化や低消費電力化、タッチパネルの高性能化といった特徴を備える。今回発表された新技術は、従来のIGZOが結晶構造の無いアモルファス構造で、薄膜結晶化が不可能とされていたところを、単結晶構造ともアモルファス構造とも異なる新しい結晶性の構造を持たせるもの。この構造は、結晶のC軸(Z軸に相当)が膜表面に垂直であることから、「CAAC」(C-Axis Aligned Crystal)と名付けられている。
CAACを適用した新IGZOは、IGZOの特徴をさらに安定化させることができ、500ppi(1インチあたり500ピクセル)以上の高精細化が可能なほか、アモルファス・シリコンよりプロセスを簡略化でき、さらには、有機ELのほか、メモリやCPU、イメージセンサーといったディスプレイ以外の半導体製品にも応用が可能になるとしている。
実際の製品の仕様は納入先に応じて異なるが、シャープでは試作としてCAACを適用する新IGZO液晶ディスプレイとして、4.9インチ、720×1280ドット、302ppiのスマートフォン向けディスプレイと、6.1インチ、2560×1600ドット、498ppiのディスプレイを公開した。
また、液晶以外にも新IGZOを展開できる例として有機ELディスプレイも試作。13.5インチ、3840×2160ドット、326ppi、白色LEDにRGBカラーフィルターを組み合わせた有機ELディスプレイと、3.4インチ、540×960ドット、326ppi、パネルを曲げられるフレキシブルタイプの、2種類が公開された。
■新IGZO 6.1インチ、2560×1600ドット、498ppi
■新IGZO 4.9インチ、720×1280ドット、302ppi
■新IGZO 有機EL 13.5インチ、3840×2160ドット、326ppi
■新IGZO 有機EL 3.4インチ、540×960ドット、326ppi
■現行IGZOパネル
IGZOによりさらなる挟額縁化が可能 | 10インチ、2560×1600ドット、300ppi(右) |
32インチ、3840×2160ドット(QFHD)、140ppi(右) | 32インチ、3840×2160ドットのパネルを拡大したところ |
■「IGZOの競争力を100%発揮できるのがモバイル」
シャープ 副社長執行役員 技術担当兼オンリーワン商品・デザイン本部長の水嶋繁光氏 |
半導体エネルギー研究所 代表取締役社長の山崎舜平氏。IGZOの新技術の詳細を解説した |
6月1日には都内で記者向けに発表会が開催され、新技術や特徴が解説された。シャープ 副社長執行役員 技術担当兼オンリーワン商品・デザイン本部長の水嶋繁光氏は、モバイル端末向けの液晶ディスプレイが年率17%と高い成長率であることを示し、「シャープが成長するための重要な領域」と位置づける。また、大きな技術革新が求められており、最終製品自体もさまざまな新しい商品が次々に登場する分野であるとした。
水嶋氏は、こうしたモバイル向けのディスプレイ市場では、「高精細」「低消費電力」「タッチパネルの高性能化」の3つが求められているとし、特に高精細化はモバイル分野で顕著で、タブレット端末向けも同様の傾向であるとする。その上で、「精細度の高さが価値を決める。最も優先される要素」と高精細化を位置づける。
一方、モバイルの分野では低消費電力化への要望も強く、「低消費電力化ができればバッテリーを薄くすることができ、端末を薄くできる」とし、結果的にはディスプレイパネル自体を薄くするよりも効果があるとした。シャープのIGZO液晶(現行のIGZO液晶を含む)では、「パネル駆動」「バックライト」という液晶ディスプレイにおける2大消費電力のうち、1フレーム(1/60秒)の中にフリッカーレスで休止駆動を入れ込める新駆動方式により、パネル駆動の消費電力を大幅に削減している。アモルファスシリコンの液晶と比べて、1/5~1/10の低消費電力化が可能になるという。
また、現行を含むIGZO液晶では、休止駆動といった新駆動方式を採用していることで、タッチパネル検出時のノイズの発生を大幅に抑制できるという副次効果も得られる。タッチパネルのSN比は従来の5倍になるという。これにより、タッチ操作における微細な信号も検出できるようになり、繊細な操作やスムーズな操作を実現しやすくなる。
IGZOによる高精細化 | 低消費電力化のメカニズム |
タッチパネルも高性能化する | 既存の生産設備を流用できる |
IGZOによるタッチパネルの高性能化のデモ。ノイズが少ないため微細なタッチも検出しやすい | 従来の液晶タッチパネルではノイズが多く、微細なタッチを検出しづらい |
水嶋氏は、「IGZOが、まさしくこの要求に応え、より大きな革新をもたらす。モバイル技術の成長には不可欠。IGZOの競争力を100%発揮できるのがモバイル。モバイルディスプレイの根本を変革する」と意気込む。また、製造工程においてはアモルファスシリコンの液晶と同じプロセスが利用でき、亀山第2工場の第8世代マザーガラスのラインで生産できることから、コスト面でも優位性があるとしている。IGZOはすでに量産が行われているが、CAACの新IGZOも早期に量産体制に移行する。
なお、試作の有機ELディスプレイについて水嶋氏は、「モバイルディスプレイの一分野として重要であることは理解している。精細度や消費電力といった要件に応えることがまず重要だが、我々の有機ELも他社に遅れているとは思っていない」とするものの、コストや量産設備などの面では課題が残っていることも認めており「バリエーションとして持つのは大事ではないか」と説明している。
■プレゼンテーション
2012/6/1 15:37