ソフトバンクの900MHz帯、iPhoneなど“一気に”改善と孫氏


ソフトバンクの孫氏

 ソフトバンクモバイルは、“プラチナバンド”などと呼ばれる900MHz帯の免許交付を受け、本社で会見を開いた。

 今回、ソフトバンクには900MHz帯の15MHz幅×2が割り当てられた。同社は7月25日より、この900MHz帯を利用した商用サービスをスタートする予定だが、この帯域を利用する既存事業者の移行を待つ必要があり、7月25日のサービス開始当初は5MHz幅×2のみ使える。この5MHz幅利用してHSPA+方式の通信サービスを提供する計画だ。

 なお、サービス開始当初に利用可能なモデルは、「iPhone 4」「iPhone 4S」「iPad 2」のほか、3月発売予定のシャープ製のフィーチャーフォン「PANTONE 4 105SH」となる予定。現時点では、対応方法などについてはアナウンスされていない。

 なお、2012年の夏モデルとして発売されるモデルについては全モデルが900MHz帯をサポートするとしている。

 基地局の開設計画では、2012年度中に約1万6000局を設置し、2016年度中には約4万1000局まで増設するとされているが、この計画は前倒しされる予定で、2012年度中に1万6000局を上回る900MHz帯に対応する基地局を設置する方針という。基地局インフラについては、かねてよりメーカーに対して発注をかけているという。

 また、公衆無線LANサービスについても改善を図っていく方針。従来、Wi-Fiスポットの通信エリアの端では、Wi-Fiに接続されてしまうことで、3Gに接続されることなく、通信ができない、もしくは遅い通信速度になる場合がある。ソフトバンクでは、「世界でも例を見ない技術的な解決策」を極秘で準備中という。

 このほか、夏頃にも免許が割り当てられる予定の700MHz帯については名乗りでない方針とした。



孫氏の会見

交付された免許を手に孫氏

 今日は笑みが止まらない。――ソフトバンクの代表取締役社長兼CEOの孫正義氏は、会見の席でそう切り出した。ソフトバンク“悲願”のプラチナバンドを手に入れたのだ。孫氏は喜びを隠すことはなかった。孫氏は、「新たな電波がないと言われてから10年、だだをこねるような状態から8年、我々にとって長い道のりだった」と900MHz帯獲得までを振り返った。

 ソフトバンクは、2004年8月、総務省の意見募集に対し、募集の締切期日になってから、800MHz帯を既存事業者であるNTTドコモとKDDIに割り当てる不平等なものであると反論のコメントを出し、800MHz帯への参入意思を正式表明した。さらに、締切日に同社のヤフーBBのユーザーにはメールで、新聞各紙には意見広告という形で、パブリックコメントを送るよう訴えかけた。同年10月には、800MHz帯の周波数割当方針案の差し止めを求め、東京地裁に仮処分申請の訴えを起こすなど、土壇場になって“だだをこねる”戦略をとった。

 孫氏は「どこでもつながるソフトバンク」というスライドを見せながら、同社にとってはなじみのない言葉と述べた。2009年度下期の自社調査の資料を紹介し、ソフトバンクの解約理由の1位が「電波の悪さ」であるとし、最大の弱点であるとした。同社の調査では、ネットワークの満足度は2010年3月時点で他社の半分ほどしかなかったという。

 このためソフトバンクでは、ネットワークを拡充するために「電波改善宣言!」というスローガンの元に基地局インフラの拡充をはかった。その結果、基地局の数は現在までに18万局を越えた。孫氏は「2年間で3倍に増やした。ギネスブックに申請してもいい」などと話し笑いを誘った。

 孫氏は、ネットワークの満足度を「接続率×速度」であるとする。接続率という言葉はソフトバンク以外の事業者ではあまり聞かれない言葉だが、一定回数電話をかけて繋がった確率を指すようだ。先の「電波改善宣言」により基地局が増え、「総合接続率」(1カ月に15万回電話をかけた際に接続された確率)において、孫氏は他社と同等まで向上したとアピールした。

 また、スマートフォンの通信速度においては、すでに他社の超えているとの見方を示した。

 「しかし、それでも繋がらない」と孫氏は語る。その要因は、900MHz帯を持っていない「不平等な戦いを強いられた」(孫氏)ためだと言う。孫氏は、900MHz帯の許認可を得ておらず、不利な割り当て状況は「言い訳でなく事実」と話した。このため、非効率な設備投資をせまられることになったという。

 だが、900MHz帯を獲得した今、こうした「繋がらない言い訳」は通用しなくなる。孫氏は「これからはいよいよ言い訳できない状況。平等な戦いになる」と話す。同社の主力であるiPhoneは現在、ソフトバンクの2.1GHz帯を利用してサービス展開されている。900MHz帯を獲得したことで同氏の言う「繋がらないソフトバンク」は、「一気に改善する」(孫氏)という。


総務大臣室に現れた孫氏大臣から免許を受け取る

 会見で孫氏は、「一気に」という言葉を多用した。基地局設備は「一気呵成に展開する」「繋がる場所は一気に増える」「iPhone 4/4Sを既に使っている人は一気に改善する。(iPhoneユーザーが)900MHz帯に一気にバイパスするため、残った2.1GHz帯のユーザーはスカスカな状態。iPhone以外のユーザーにもメリットがある」「一気に急拡大していく」などといった具合だ。

 また、同氏は「一気に」事を進める背景には3月11日の東日本大震災があるとし、「3月11日のあの震災に、身体中が震えた。涙がとまらなくなった。我々が担っている通信はライフライン。もし、あの震災のときに、我々の電波がもう少し先まで届いたならば、亡くなられた命が救えたのではないか。これは我々の責任で、命をかけた責務。心の底から断腸の思いで自分たちの力の足りなさ、責任の重さを痛感した」などと話した。



 このほか孫氏は、今回の900MHz帯の割り当てについて、総務省の判断を平等なものであったとした。同氏は、「総務省というと瞬間的に嫌な思いがあるが、少なくともフェアな意見を言ってきたつもりで、総務省も意見をしっかり主張していた。これからもお互いに主張していくべきことは主張していく。少なくとも不当に、感情的に、不正な事態に陥れられたと受け取ったことはない」などと語った。

 また、4Gを見据えた周波数の割り当てに関して、オークション方式の採用について問われると、「オークションは公平に割り当てる際の1つの手法。中途半端に行うと別の問題がある。スマホのトラフィックは都心において、都心は年間3.3~3.5倍、2年で10倍、4年で100倍、6年で1000倍に増えている。それに対応する電波の許認可をもらえることは絶対にない、電波の有効活用が必要になる。電波を本当に有効活用しているのか、1MHz幅あたりどれくらい活用しているのかもう一度洗い直して欲しい。これは聖域なしでやって欲しい。携帯はライフラインであり、テレビ局やラジオ局も全てにおいて、オークションするというならばそれはそれで理解できる。ぜひフェアに、日経新聞もゆがめずに書いて欲しい」と話した。

 孫氏は、最後「言い訳抜きでがんばります」と語っていた。


 




(津田 啓夢)

2012/3/1 23:31