地下鉄に基地局、WiMAXスマホの電池対策――UQの最新戦略


UQ野坂社長

 21日、UQコミュニケーションズは、報道関係者向けに事業戦略説明会を開催した。同日発表した宅内向けWiMAXルーターや、12月から導入する新プラン、そして都営地下鉄など今後のエリア展開、WiMAX対応スマートフォンのバッテリーへの対策といった内容が、同社代表取締役社長の野坂章雄氏らから紹介された。

2011年度末に200万契約

 野坂氏は、まず10月の純増数を示し、他社との競争の中で業界3位になったと報告。ルーターやスマートフォンなどでこの勢いを持続させて、年度末には200万契約達成を目指すとする。

 そのために必要なラインナップの拡充では、今回、据置型のWiMAX対応Wi-Fiルーター「URoad-Home」(ユーロード ホーム)が発表されている。同製品について、野坂氏は、Wi-Fi出力の増大で2階建ての戸建て住宅でも利用しやすくなり、同時接続台数12台(有線LAN含む)となるなど、家庭内のホームゲートウェイとして最適とアピールする。

 また12月1日開始の「WiMAX ファミ得パック」については、自宅と外出先という利用もさることながら、遠隔地の祖父母など、離れて住む家族とのコミュニケーションにも役立てられると説明、利便性の向上に繋がるとした。また、先週発表のシャープ製WiMAX対応タブレット「GALAPAGOS EB-A71GJ-B」にも触れ、他社とも比較してエリアや帯域制限で優位であること、Wi-Fiのみのモデルと比べればWiMAX対応でどこでも使えることが紹介された。

10月は業界3位の純増に年度末に200万契約
GALAPAGOS、他社との比較URoad-HomeのWi-Fi出力強化

地下鉄でのエリア拡大

WiMAXエリア全力宣言

 今回のプレゼンテーションで最も時間が割かれたのは、エリア展開に関する施策だ。2007年に事業を開始したUQは、携帯電話事業者と比べ、エリアが限られる状況だったが、都心部では改善が進んでいる。さらなる利便性向上をはかるため、エリア展開は重要な取り組みの1つと位置付けられ、今回、UQでは「WiMAXエリア全力宣言プロジェクト」と題し、市区町村の役所・役場だけでカウントする人口カバー率ではなく、実際の人口にあわせた“実人口カバー率”(対象エリア内にいる人口を対象エリアの実際の居住人口で割った数値)という指標を掲げ、今年度末(2012年3月末)までに、エリア内の人口を1億人にする、とした。現在、全国で展開する基地局数は1万7000局近くとなり、年度内には2万局の設置を目指す。

2011年度末に人口カバー率80%今年度中に1億人のカバーを目指す

 また、地下鉄のエリア化について、11月28日にいよいよ着工することが明らかにされた。まずは都営三田線の大手町駅が12月末にエリア化する。三田線の他の駅、あるいは浅草線、新宿線、大江戸線は2012年中に利用できるようになる。駅間については、駅ホームの端の方に指向性の強い出力装置を設置して、駅から電波を発することで、駅間のトンネル内でもWiMAXによる通信ができるようにする。ただし、大きく曲がるようなトンネルでは駅からの電波が届かないため、会見後の囲み取材で野坂氏は「たしか大江戸線だったか、そういった大きく曲がるトンネルでは切れる。いずれはそうした場所でも終電車の後に工事することがあるかもしれないが、まずは早く拡げることを優先して駅構内の設置を進めている」とした。

地下鉄エリア化ホームの端からトンネルへ電波を発射

 この設備は、UQが独自展開するもので、携帯電話事業者とは関わりなく設置されるもの。野坂氏は「UQとしては地下鉄対策を徹底してやりたい」と述べ、東京都交通局や東京メトロのほか、大阪市営交通とも協議中であり、着工すれば順次発表する方針を示した。また、福岡などの地下鉄とも協議を進めたいと意欲を見せた。交渉の上で、行政から駅構内での利用許可を得られれば、スピーディに展開できるとした。

 ほかでは、JR東京駅付近の横須賀線地下区間が既に対策済とのことだが、まずは地下鉄でのエリア対策を優先する。

ビル陰、住宅街でもトラフィック対策

文京区白山、杉並区西永福でのエリア対策

 またエリア化が進む都心部でも、電波環境が優れず、通信速度が低下するような場所がある。そうした場所には、細かく基地局を展開することで、通信速度の向上を図る。今回のプレゼンテーションでは、東京都文京区の白山付近、杉並区西永福付近の地図で、エリア対策の効果を紹介。対策を行う前は、一部エリアで速度が5Mbps以下となっていたが、こうした場所に基地局を設置することで電波環境が改善され、より通信速度の向上が図られた。通常は10階建てマンションの屋上などで基地局を設置することが多いとのことだが、それだけではカバーできない場合、高さ9mほどのポールを建てて、そこに基地局を置いてエリア拡充を図るという。

 住宅地での対策を進める一方、商業地域でのエリア拡充も進められる。また、アーケードのように、人通りが多いものの天井がふさがれ、閉ざされているような空間では小型基地局(ピコセル)を展開する。高層ビルの陰でも同じく、中規模エリアの基地局などで電波環境の改善を図る。

 繁華街の駅前もWiMAX対応スマートフォンの登場で、トラフィックが伸びているとのことで、今後1~3カ月で基地局を増加させたいとした。ただ、設置箇所を確保するのが最も難しいという。

アーケードなどでもエリア対策ビル陰などにも対策
上り速度向上実効速度ナンバーワンを目指す

12月から上り速度を向上、WiMAX対応スマートフォンのバッテリー対策も

 技術的な取り組みについては、技術部門副部門長の要海 敏和氏から紹介された。同氏は今年4月に電波法設備規則が改定され「上り通信における64QAMの導入」「端末送信電力の向上」「端末アンテナ利得の向上」が可能になったと説明する。12月に実施される、UQ WiMAXの上り速度向上は、上り通信での64QAM導入が要因となる。

 64QAMとは、データを電波に乗せるための“変調方式”の1つ。これまでUQ WiMAXの上り通信では、電波環境が優れない場所では安定性のある変調方式「QPSK」を用い、電波環境が良い場所では「16QAM」を用いていた。従来の16QAMは1シンボルで4bitの情報を送出できるのに対し、新たに導入される64QAMは1シンボルで6bitと、50%多いデータを送出できる。この上り速度の改善は多くの場所で利用できる見込みとのことで、既に下り通信で64QAMが導入され、実測で10Mbps以上となるような場所では、上り速度の向上が見込めるという。既存機種の多くで、ファームウェアを更新することで利用できるようになる見込み。

電波法規則の改正によるエリア改善上り通信の64QAM導入について
16QAMと64QAMの比較通信速度が14Mbpsに

 要海氏が紹介した3つの電波法規則の改定のうち、2つ目と3つ目の「端末送信電力の向上」「端末アンテナ利得の向上」では、エリアの端に位置するような場合、より繋がりやすくする施策。屋内でのエリアが改善される可能性が高く、この2つを組み合わせることで、従来の2倍、繋がりやすくなるという。今回発表された「URoad-Home」がその工夫が取り入れられた端末。既存機種への適用は弊害が発生するため、見送られるとのことで、今後登場する機種での屋内での繋がりやすさが向上すると見られる。一方、窓際の設置など、既に繋がりやすい状況では、あまり影響は見られないとのこと。

スマホのバッテリー対策

 このほか要海氏からは、今後期待できる取り組みも紹介された。そのなかで期待が大きいと思われるのは、WiMAX対応スマートフォンに関するもの。auのラインナップで「+WiMAX」として登場したWiMAX対応スマートフォンだが、実際にWiMAXで通信するとバッテリー消費が激しいとの指摘がある。これに対し、要海氏は、スマートフォンに搭載される受信機が通信する間隔を、現行の1.28秒間隔から、5.12秒間隔にすると、待受時間が2倍に拡大したと紹介。通信を行わないモード(アイドルモード)の制御で、消費電力の最適化を図る。これは12月中にも導入されるとのことで、端末のファームウェア更新で適用される見込み。
 ハンドオーバー中の通信環境の改善も検討されている。ユーザーが電車に乗るなど、ある基地局から別の基地局がカバーするエリアに移動する際、端末は“ハンドオーバー”という仕組みを使って、基地局の切り替えを特に意識せず、通信を継続できる。ところが現状のWiMAXでは、ハンドオーバーの際、前の基地局の電波が届かず、受信できなかったデータがあると、いったんスループット(通信速度)を抑えて、データを受信しようと試みてしまう。電波環境が良好でも発生してしまうため、今回検討されている対策では、受信できなかったデータを移動先の基地局に転送して、あらためて受信できるようにする。これは来年度の第2四半期後半のサービス開始が予定されている。

 同じく来年度第2四半期後半の開始に向けて、屋内の利用環境を改善する施策が行われる。これは、データの受信データを再送するHARQ(ハイブリッドARQ、Automatic Repeat reQuest)を活用したもの。HARQは、既にデータ通信のチャネルでは用いられているが、新たに制御チャネルと呼ばれる部分にも適用する。これにより、従来より50~100mほどエリアが広がるような効果が得られるとのことで、屋内で繋がりにくかった場所では、繋がりやすくなるという。

HARQ導入についてハンドオーバー時の対策
屋内での電波改善従来端末で圏外でも、URoad-Homeでは通信可能になった場所も

海外の動向、周波数オークションについて

 会見後の囲み取材では、野坂氏が海外の動向などについて語った。海外では、WiMAXの活用が日本ほど進んでおらず、一部の事業者にはWiMAXからLTEへ乗り換えるような動きを採るところもある。これに対し、野坂氏は「確かに海外でそういう動きがあるのは事実で、特に米国のSprintがそういう動きをしている。日本はLTEもWiMAXも、という形になってきている。LTEやTD-LTEは3GPのRelease 8ベースだが、WiMAXはW-CDMAで言えばRelease 10に近い(進んだ)技術。(トラフィックが逼迫する)日本の状況からすると、携帯から見てもWiMAXを実現させるのは良いこと」と評価する。

 マレーシアのYTL、台湾の事業者などの例を挙げた野坂氏は、アジアを中心にWiMAXの再評価および導入を進める動きがあるとして、WiMAXのエコシステムを活用したいとする。競合とされるLTEについても、国ごとに用いる周波数帯が異なるという事情があり、スケールメリットを活かしづらい状況にあるとも指摘する。WiMAXフォーラムでも、「インテルが若干、以前ほどの意欲がない」(野坂氏)として、アジアでいったん先導するとの考えを示した。

 2015年ごろの4G(第4世代の移動体通信方式)からの導入が見込まれている、日本の周波数オークション制度について、21日に行われた行政刷新会議による「提言型政策仕分け」で「3.9Gから導入すべき」とされたことについて、野坂氏は「日本全体では電波が足りないという状況だが、海外で行われた過去のオークションは成功したという評価もあれば、高騰したことで事業の安定性を害したという評価もある」と述べ、3.9Gではなく、その次からの導入が望ましいとした。

 また、“1/3ルール”で、携帯電話事業者の保有資本を制限した2.5GHz帯の高速無線通信サービスだが、そのうち1社だったウィルコムは事業再生によりXGP事業を受け持つWireless City Planning(WCP)が誕生した。もう1社であるUQコミュニケーションズのサービスがKDDIのサブブランドのような存在になりつつあるのでは、と指摘された野坂氏は「個性化、差別化はしたいが、大きな流れもある。米国のClear WireとSprintのような例もあるが、KDDIの田中孝司社長はWiMAXの本質をよく理解しており、両社の間には人的にも親和性がある。(WCPはほぼ一体のようだ、という指摘に)完全にそうですね。どうせなら取り込んだほうが早いという議論はあるだろうが、個性を伸ばしながらのほうが良いようにも思うが、難しいテーマだ」と述べた。

 データ通信市場での競合となるイー・モバイルについて、「量販現場ではイー・モバイルとの戦い。ミクロ的なところではイー・モバイルが優勢だが、世界での大きな流れである携帯との関連などを考えると、イー・モバイルさんならではの難しさもあるのだろうなと感じている」と深くは述べずに評価した。




(関口 聖)

2011/11/21 17:59