サムスン、成層圏にGALAXY S IIを打ち上げる


 サムスン電子は、7月15日から3日間、特殊なバルーンを用いて「GALAXY S II SC-02C」を上空約3万メートルまで飛ばす「Space Balloonプロジェクト」を実施した。

 Space Balloonプロジェクトは、アメリカ・ネバダ州にあるブラックロック砂漠で行われた。バルーンは、1万5000リットルのヘリウムガスで上空約3万メートルまで飛んでいく。約60分で上昇した後、20分ほど滞留、バルーンが割れて、地上に落ちてくる。どこに落ちても回収できるよう、広大な土地が必要なため、ブラックロック砂漠が選ばれたのだった(ブラックロック砂漠はネバダ州の小都市・リノからクルマで2時間。わずか160名しかいない村からクルマで30分の場所にある)。

 Space Balloonプロジェクトは単にバルーンにGALAXY S IIをくっつけて上空約3万メートルに飛ばすというだけのものではない。GALAXY S IIの画面にユーザーから集めたメッセージを表示させ、同じく搭載したHDビデオカメラで撮影。その映像を地上に向けて送出し、打ち上げ基地から受け取った映像を衛星回線経由にてUstreamで配信するという壮大なものだ。

 現地時間の7月15日午前2時、ブラックロック砂漠では日米のスタッフ約50名が4時間後の打ち上げに向けて慌ただしく準備を始めていく。前日のリハーサル打ち上げは強風が吹く中で行われたが、この日の風は弱く打ち上げには最適なコンディション。やや雲は多かったが、天気予報も「晴れ」ということもあり、順調にいくかと思われた。

 しかし、午前4時半頃、大粒の雨。「長年、このあたりに住む人もこんな雨に降られたことはないと驚いていた」(Space Balloonプロジェクトスタッフ)。まさに現場にはプロジェクトが暗雲が立ちこめたようだった。だが、雨も10分ほどで上がり、中断されていた準備も再スタートとなる。

 5時45分、サムスンテレコムジャパン・富沢修一氏がUstream視聴者に向けて「人と人をつなぐケータイだから実現できたプロジェクト。宇宙に向かっていくGALAXY S IIから皆さんのメッセージが世界中に向けて発信されていく」とコメント。打ち上げに向けて、現場は一気に緊張感に包まれていく。

 だが、予定時刻に6時になっても、バルーンは打ち上げられなかった。上空に雲が多く、様子を見ることになったのだ。バルーンが雲の中を抜ける際、割れることもあるため、予備を用意した上での打ち上げとなった。定刻から10分遅れて、バルーンは上空約3万メートルの成層圏に向けて飛び立った。

打ち上げられるGALAXY S II。背面にヒーターが装着されているが、本体は市販品と同一のものだ気球に装着するユニット。GALAXY S IIだけでなく、地上と交信するためのアンテナ、Bluetooth、バッテリー、HDビデオカメラなどを搭載する。約30キロとなっている
GALAXY S IIから受け取った映像をUstream配信するための衛星中継車落下時に使うパラシュートを収納するクルー。バルーンが割れて地球に落下する際、マッハ1の速度となるため、パラシュートが必要なのだ
風に流されていくバルーンをGPSで管理。位置情報の飛行データは地上で把握でき、Googleマップですぐに確認できる砂漠の真ん中に設置された打ち上げ基地。深夜2時から作業が始まる。突然の降雨や雷雲など、通常の砂漠ではあり得ない気象条件と戦った
Ustream視聴者に向けてコメントするサムスンの富沢修一氏バルーンの打ち上げシーン。バルーンは飛ばされないようにシートで覆っておく。カウントダウン後、シートをめくることでバルーンが飛んでいく

 

 順調に上昇を続けていくバルーン。次々とメッセージが表示されていく。実際にTwitter、Facebook、mixiからメッセージは7600件以上集まった。NTTドコモの山田隆持社長や宇宙飛行士の野口聡一氏、海外からはパリス・ヒルトンからの投稿もあった。投稿のうち、1日あたり1000件がGALAXY S IIに表示される。

 6時20分頃、雲を抜け、成層圏近くまで飛んでいくバルーン。途中、雲によって映像が乱れることもあったが、ほぼ予定通りに上空3万メートル付近まで達した。約90分のフライトを終え、バルーンが破裂。装置は地上に向けて落下していった。バルーンにはGPSが搭載されており、上空のどこを飛んでいるかがリアルタイムで把握できる。受け取った位置情報は、グーグルマップで表示できるようになっているのだ。落下地点は打ち上げ基地から50キロ離れた場所で、プロジェクトチームが無事に回収した。バルーンに搭載されているHDビデオカメラの映像は8月上旬にネットで公開され、投稿者は自分のメッセージを撮影されたシーンを静止画として切り出して、ダウンロードできるようになる。

 2回目の打ち上げとなる翌16日は、準備前の段階でブラックロック砂漠に雷雲が襲来。まわりに高い建物などがない砂漠であるため、打ち上げ基地に落雷する可能性があったために準備が遅れたが、なんとか30分遅れで打ち上げに成功した。2回目ということもあり、フライトは順調に進んでいく。前日は実現できなかった、地上からコマンドを送り、「3000m到達」といった高度情報をGALAXY S IIに表示させたり、フライト前や途中に受け取ったメッセージを地上からデータとして送信し、リアルタイムに表示させると言ったライブメッセージ対応にも成功した。

 この様子はTwitterでも盛り上がり、また、米国の地元テレビから全国ネットのニュース番組でも取り上げられた。ちなみに今回搭載されたGALAXY S IIは、店頭で売られている商品と同じものだ。背面に本体を温めるものが装着されているが、成層圏のマイナス60~70度にも耐えられることが証明された。

NTTドコモ 山田社長のメッセージもGALAXY S IIに表示された衛星中継車は、現地でニュース番組報道などで使われるもの本格的なものだ
GALAXY S IIからの電波を受信するユニット。フライト中もよりよい受信状況をするため、微調整が続く打ち上げ基地からバルーンを見守るクルーたち。2日目にはメッセージを地上からダイレクトに送ることに成功した
打ち上げ成功後、Ustream視聴者に挨拶するクルーたち上空3万メートル、さらには打ち上げ基地から50キロの落下地点から回収されて帰ってきた宇宙飛行士

 

日本ではカウントダウンイベントを開催

 日本国内では「Space Balloonプロジェクト」の打ち上げの模様を映像で見ながらカウントダウンを行うイベントが開催された。

 打ち上げ前にはトーセッションが開催され、同プロジェクトのサポート企業から、ミクシィの辻正隆氏、デジタルガレージ Twitterカンパニーの佐々木智也氏、そしてサムスンテレコムジャパンの阿部崇氏が登壇した。辻氏は、「宇宙に非常に憧れを持っていた。こういった形で関われたことを嬉しく思う。男のロマンですね」と語ると、佐々木氏は、「暗いニュースがある中で、みんなでメッセージを送り、みんなでの宇宙からの取り組みを応援しようということに非常に感銘を受けた」とプロジェクトに参加した理由を語った。阿部氏は、「人と人をつなげる携帯電話をつくる会社。ソーシャルメディアの企業の方々には、たくさんの言葉を宇宙に打ち上げられることに協力していただいた」とサムスンだけではないプロジェクトになっていることを説明し、さまざまな試験を経て実施に至った様子を解説した。

 打ち上げ直前になると、カウントダウンイベントとしてタレントの南明奈が登場。打ち上げの瞬間に「スペースバルーン!」の掛け声がかかると、会場からは「おお~」という歓声とともに拍手が起こり、南明奈も「泣きそうになりました」と感激した様子。上空3万m付近まで上昇し下降が始まるまで約90分のフライトになるが、第1号のメッセージ(南明奈のメッセージ)が無事に表示されると、会場からは再び歓声と拍手が。「第1号のメッセージということで緊張しましたが、感動しますね」と興奮した様子で、Ustreamで映像を観ているユーザーにもメッセージの投稿を呼びかけていた。

左からミクシィの辻氏、デジタルガレージの佐々木氏、サムスンの阿部氏Ustream視聴者に向けて現地のサムスン富沢氏からレポートも
 カウントダウンに登場した南明奈
画面に発射までの秒数が表示された「スペースバルーン!」の掛け声とともに打ち上げ
端末は回転しながら上昇していく 
イベント会場からもメッセージを投稿できたプロジェクトに楽曲を提供したアーティストも登場
会場は関係者でごった返していた成層圏が近くなると上空は宇宙の雰囲気。次々にメッセージが表示される

 




(石川 温)

2011/7/19 12:08