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犬やネコに心拍センサー、組み替えできるスマートウォッチ~「第4回ウェアラブルEXPO」

 1月18日〜1月20日の3日間、東京ビッグサイトでウェアラブル技術の展示会「ウェアラブルEXPO」が開催された。今年で3回目となる展示会で、ウェアラブルに関連する最新の技術や製品が展示されている。

 要素技術や業務向けソリューションの展示が主で、コンシューマー向けデバイスは少ないが、その中でもユニークなものをレポートする。

普段使いのメガネにデバイスをマウントする「ネオプラグ」

ネオプラグ採用製品

 福井県鯖江市のメガネデザイン会社、ボストンクラブは、一般販売も予定している同社が開発したメガネにデバイスをマウントするシステム「ネオプラグ(neoplug)」を展示している。

 ネオプラグは、メガネのこめかみ側のフレーム(テンプル)の断面形状を、デバイス固定具を挿入できるようにするという仕組み。固定具を外すと普通のメガネにしか見えないため、普段使いのメガネに必要なときだけデバイスを装着する、といった使い方ができる。

 2016年のウェアラブルEXPOでは試作デザインが何点か展示されていたが、今回は実際に販売されるネオプラグ採用のメガネフレーム「np-001」が展示されていた。

 現在、クラウドファンディングサイト「FAAVO」においてクラウドファンディングプロジェクトを進行中で、np-001と小型ヘッドマウントディスプレイ「Vufine+」のバンドルセットの支援コースが5万円となっている。

黒い部分がフレームの断面で、白い部分が固定具(写真は試作品)
ディスプレイ位置は上下左右に微調整可能

 np-001はセルフレームタイプで、メガネデザイン会社が手がけるだけに、自然なデザインで軽量、かけ心地もよい。フレームカラーはマットブラックの1色で展開する。

 セットで販売される「Vufine+」は、北米のスタートアップ企業によるHDMI入力の片眼フルカラー非透過のヘッドマウントディスプレイ。旧モデルは日本でも販売されている(2万5800円)。旧モデルは16:9だったアスペクト比が3:2となり、スマートフォンの縦画面表示時の視認性が向上した。

Vufine+の映像

 Vufine+は昨年末にクラウドファンディングプロジェクトが終了したばかりで、出資者向けに1月から出荷が開始されたばかりの段階だが、ボストンクラブは特別にコラボレーションすることで本プロジェクトオリジナルカラーのVufine+をバンドルしている。

 ちなみにオリジナルのVufineシリーズは、メガネフレームにバンドで固定具を設置する仕様で、使っていないときもメガネ側に固定具が残り、やや目立つデザインとなっている。

先ごろクラウドファンディングが成功した「Blincam」の固定具の試作品

 ボストンクラブのブースでは、ほかのヘッドマウントデバイスをネオプラグに対応させるコンセプト展示もなされていた。固定具を作れば、同じメガネフレームに別のデバイスを簡単にマウントできるのも、ネオプラグの特徴だ。

 ただし第1弾フレームであるnp-001は、重たいデバイスの装着には不向き。たとえば「Telepathy Walker」や「InfoLinker」といった60gクラスのデバイスでは、着用時にメガネが左右に傾いてしまう。

 ボストンクラブではネオプラグ対応のフレームを引き続き開発するとともに、今回Vufineと連携したように、他社と連携してほかのデバイスのネオプラグ対応も推進し、ネオプラグのプラットフォーム化を目指していくという。

Telepathy Walkerのネオプラグ対応の試作品
InfoLinkerのネオプラグ対応の試作品。固定方法が若干異なる

ヘッドマウントデバイスの展示は業務向けが中心

 メガネ型のヘッドマウントデバイスは、もともとコンシューマー向け製品が少ないジャンルではあるが、今回のウェアラブルEXPOではほぼ業務向けの製品やソリューションの展示となっていた。

BT-300

 コンシューマー向けのヘッドマウントデバイスMOVERIOシリーズを展開中のエプソンは、コンシューマー向け製品の「BT-300」の業務向けバージョンである「BT-350」を展示していた。

 BT-350の基本的なスペックはBT-300と同等だが、博物館や映画館、旅行ツアーなどで「不特定多数の人に貸し出して使ってもらう」というような用途を想定し、仕様が変更されている。たとえば、堅牢性の向上や生活防水、さまざまな大きさの顔にフィットするフレーム、リモート管理機能などの機能を追加。その一方で、折りたたみ機構やMOVERIO用のアプリマーケット機能など、業務に不要な機能は省いている。

 MOVERIOシリーズでは、前モデルの「BT-200」は工場などで使うためのヘルメットマウントタイプの「BT-2000」を発売している。しかしBT-200を2モデル展開している中で、不特定多数の人に使ってもらうという用途のニーズが強いことがわかったため、BT-350を製品化したとのこと。BT-350は一般向けには販売されない見込みだが、BT-2000はAmazonなどでも販売されているため、BT-350もAmazonなどで販売される可能性は高い。

b.g.

 メガネスーパーは同社が開発中のヘッドマウントディスプレイの「b.g.」を展示。こちらも基本的にB2B製品として開発されていて、来春ごろの製品化を目指している。10万円を切るくらいの価格帯を目指しているとのこと。

 メガネスーパーは昨年も「b.g.」のプロトタイプを展示しているが、今年の展示モデルはデザインが変更され、ディスプレイ部も新しいものになっている。

 両眼フルカラー非透過のディスプレイで、両目を使うことによる疲れにくさや立体視などが特徴となる。ほかの機器を接続して利用するが、ニーズによってはスマートデバイスとセットでの提供もあり得るという。

 ウェアラブルEXPOではメガネフレーム産業で知られる鯖江市のある福井県のコーナーがあり、中小企業によるウェアラブル製品も展示されている。そのコーナーの中で博眼は、フレームの中にArduinoベースのコンピュータを入れたメガネフレームとセンサーとLEDを搭載したメガネフレームを展示していた。これらはコンセプト試作的な展示だが、実際に稼働する実機が展示されていた。

 Arduino内蔵メガネフレームは、有機ELディスプレイ付きのArduinoマイコンをフレーム内に内蔵していて、着用者がディスプレイを見られるわけではないが、Arduino開発環境でプログラミングができる。LED搭載フレームに搭載されるLEDは非常に高輝度なもので、コンサート会場などでの利用も想定しているという。

Arduino内蔵のメガネフレーム。左右に1個ずつArduinoが搭載されている
LED搭載フレーム。かなりまぶしい(着用者は大丈夫だろうけど)

リストデバイスはコンシューマー向け製品多数

BLOCKS。実際に動くモノが展示されていた

 リストデバイスとしては、現在makuakeでクラウドファンディングプロジェクトが進行中の「BLOCKS」が展示されていた。

 これはモジュールで拡張できるという腕時計型のウェアラブルデバイス。バンド部分に拡張ポートがあり、バンドを継ぎ足すようにモジュールを追加し、機能を拡張できる。最初のモジュールとしては拡張バッテリや心拍センサ、GPS、高度/気圧/気温モニタが用意される。

バンドの節が1つ1つ別のモジュールになっている

 本体はAndroid 6.0ベースのスマートデバイスとなっていて、Wi-FiやBluetoothでAndroidやiOSのスマートフォンと連携することもできるが、ある程度は単体でも動作するのが特徴となっている。

 年内にはモバイル通信を行なうためのモジュールの発売も予定しているとのことだが、イギリスとアメリカでの展開が先行するため、日本で販売されるかは未定とのこと。

モジュールのロードマップ

 もともとロンドン発のプロジェクトで、Kickstarterにおいて2015年にクラウドファンディングプロジェクトが行なわれ、今年ようやく出荷が開始されるというもの。通常価格は5万9800円となる予定だが、makuakeでは割引価格で支援を受け付けている。

 現在はまだ開発中のため未取得だが、少なくともmakuakeで出資した人に送られる製品については、日本での電波関連の認証を取得したものになるという。

左の2台がMio SLICE

 ウェザリージャパンは同社が国内代理店となっているMioの新製品、「Mio SLICE」を展示していた。Mioは腕で心拍を測定するセンシング技術を持つ会社で、他社に技術提供もしているが、自社でもリストバンド型デバイスを展開している。

 最新モデルとなるMio SLICEは、非常にコンパクトなデザインながら心拍センサを搭載していて、心拍数と運動量から算出される「そのユーザー個人にとって必要な運動量」である「PAI」をベースとした活動量測定が可能となっている。

 Mio SLICEはスマートフォン上のLINEなどサードパーティアプリを含む通知を受けることも可能だが、スマートフォンとの連動だけでなく、データをCSVで出力したり、ANT+でサイクルコンピュータと連動するといったこともできる。

 Mio SLICEは未発売の商品だが、1月中は割引価格(1万7800円)での予約を受け付けている。

POLAR M600

 PolarはAndroid Wear搭載の最新モデル「M600」を展示していた。スポーツ用途にフォーカスした製品で、心拍センサや水泳にも使える耐水性能、内蔵GPSを搭載するほか、より高精度なPolarの「H7」心拍センサとも連動できる。M600は4万4800円で発売中。

Cygnus

 業務向け製品ではあるが、トランザスは腕に装着するAndroidベースのデバイス「Cygnus」を展示していた。こちらは2.8のVGAディスプレイを搭載した、「腕に巻くスマートフォン」とも言うべきデバイス。さすがに3G/4Gの通信機能は持たないが、より高機能なアプリを動作させられる。レストランでのオーダーなど、各種業務における端末を想定している。一般向けには販売されていない。

ペット用の心拍センサ搭載のウェアラブルトラッカー

製品名の由来ともなっているコルさん。胴に巻いているのがセンサーと通信モジュールの入ったペット用ハーネス

 動物向けのウェアラブルセンサーを提供しているAnicallは、開発中の心拍数を計測する犬猫向けのシステムを展示していた。

 Anicallでは犬猫向けの活動量計「つながるコル」や「しらせるアム」を提供しているが、開発中のシステムはそれをさらに拡張したもの。従来は活動量から犬猫の健康状態などを推測していたが、それに心拍数を加えることで、より正確に健康状態や精神状態を推測する。

Bluetoothでスマホアプリに接続し、そこからWebサーバーにデータが転送されて解析される

 こちらのシステムは、すでに商用化している競走馬向けのトラッキングシステム「Horsecall」をベースとしている。Horsecallは馬の活動量と心拍数を計測し、そのデータを解析して競走馬のコンディションを推測し、トレーニングやレース出場の判断に利用する。

 犬猫向けのものも、ハードウェア的には競走馬向けのものと同じで、センサーの大きさだけが異なる。センサーは人間向けにも使われている電気式。犬猫向けでは、職業犬の訓練やペットの健康状態チェックなどの用途を想定している。今春、クラウドファンディングにて商品化を予定しているという。

小型犬でも着用可能。小型犬は体温調整のために衣類を着慣れていることが多い
展示員のにゃっふぉーさんは「しらせるアム」のみ着用

ディスプレイやバッテリなどの部品も展示

 ウェアラブルEXPOでは機器製品となっている展示は少なく、要素技術やウェアラブル機器に使われる部品の展示も多い。

Withings Goにも採用されている円形の電子ペーパー

 丸文は同社が国内での販売代理店を務める、E Inkの電子ペーパーを展示している。電子ペーパーは低消費電力で紙のような見え方をするディスプレイ方式で、AmazonのKindleなどの電子書籍端末で広く使われている。ウェアラブル機器ではあまり使われていないが、ソニーの「SmartBand Talk」やWithingsの「Go」などの小型デバイスに用いられている。

 電子ペーパーはその低消費電力性能でウェアラブル機器への適性も高いが、小型機器向けの小さな電子ペーパーは受注生産となるため、万単位のオーダーが必要となり、ウェアラブルやIoT機器を展開する中小スタートアップ企業には採用しづらいという事情もあるとのことだ。

ULSiONのバッテリーパック。非常に小さいが400mAhの容量がある

 日立マクセルは小型機器向けの新しい方式の二次電池「ULSiON(アルシオン)」を展示している。ULSiONは2015年12月に発表された技術で、Kopinのサングラス型デバイス「Solos」の内蔵バッテリに採用されているという。

 ULSiONはリチウムイオン電池の負極にシリコン化合物を使うことで、従来の黒鉛負極よりもエネルギー密度を高めているのが特徴。バッテリとしたときには同じサイズでも数割の容量増が見込めるという。

 なおULSiONは現在のところ、積層構造の細長いバッテリしか作れず、スマートフォンなどに使われている板状の巻く内部構造のバッテリにはまだ応用できないとのこと。

圧電バイブレーター内蔵の指輪。下の給電台からの無接点電力で動いていた

 村田製作所は開発中の圧電素子(ピエゾ素子)を使った小型バイブレーターを展示している。スマートフォンなどのバイブレーターはモーターを回転させるタイプが多いが、こちらは圧電素子を使っている。モータータイプのバイブレーターの消費電力は200mAくらいとなるが、こちらの圧電素子のものはわずか4mAで振動する。

 展示デモではカードや指輪型のデバイスに圧電バイブレーターを内蔵し、無接点給電装置からの給電でバイブレーターを振動させていた。振動はやや弱く、カバンやポケットの中の機器だと気がつきにくいレベルで、ウェアラブル機器や手に持つ機器向けとなるが、非接触ICカードリーダーレベルの給電でも動作することが可能だという。