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続々登場のHMD、歩いて充電するビーコン、顔認識されないメガネ――「ウェアラブルEXPO」レポート
(2016/1/14 14:30)
1月13日〜1月15日までの3日間、東京ビッグサイトでウェアラブル技術の展示会「ウェアラブルEXPO」が開催されている。今年で2回目となる展示会で、第1回に続き、最新の技術、製品が紹介されている。
サン電子、ARグラス「AceReal」を展示
サン電子は開発中のARゴーグル「AceReal」を展示している。これはイスラエルのLumus社のデバイスと同じく、イスラエルのInfinity AR社のAR技術を使ったもの。搭載されている2個のカメラで自然物を立体的に認識し、ARマーカーなどがない環境でも、環境に重ねた映像を表示できる。
「ARマーカー不要で空間認識できる」という特徴を最も重視した業務向けデバイスとして企画されていて、コンシューマー向けではない。工場などの業務に加え、アミューズメント施設での利用も想定されている。空間を認識できないヘッドマウントデバイスと比べても高価なものとなる見込み。サン電子ではデバイスからソフトウェア、サービスまでを含めた業務向けのソリューションとして展開する予定。
ハードウェアのベースになっているのはLumusのDK-50という製品。1280×720で視野角40度の映像を表示でき、Androidベースのコンピュータ、各種センサーが内蔵されている。一般のメガネと同時に装着することはできないが、展示機では内側にある専用マウンタで度入りのレンズを追加できるようになっていた。価格帯は未定。ちなみにLumusが2014年のCESで展示していた「DK-40」は開発キットが6000ドルで販売されていた。
ブラザー、「エアスカウター」防水版を参考展示
ブラザー工業は、同社から発売中の単眼・透過切り替え型・フルカラーディスプレイ「エアスカウター」をタフネス仕様にしたコンセプトモデルを出展している。
エアスカウターはディスプレイのみで、たとえばAndroidなどの機能は一体化されていない。パソコンなどの端末と接続して利用する。販売終了となった島津製作所の「DATA GLASS」シリーズを置き換えるような製品として位置づけられる。
今回展示されているコンセプトモデルは、既存モデルをベースにタフネス仕様としたもの。耐衝撃性とIP65相当の防塵・防水性能を持つ。2016年度中に製品化される予定で、普通のモデルよりも少し高くなる見込み。仕様もまだ確定しておらず、画像をどのように入力するか、バッテリーの容量をどうするかなどが検討中とのこと。Miracastなど、防水性を損なわない無線による映像転送方式が検討されている。
東芝「Wearvue」は21万6000円で予約開始
東芝はヘッドマウントディスプレイ「Wearvue TG-1」を展示している。TG-1は展示開始と同時にAmazonにおいて予約受付が開始されており、価格は21万6000円、2月29日以降に出荷が開始される。
BtoBの製品で、導入する企業は自社でソリューションを用意するか、東芝にソリューション開発を委託するか、他社が開発するソリューションを購入する。
ディスプレイは片眼・透過型・カラーで、1280×720という解像度を変形させた正方形映像を投影する。Androidなどは内蔵せず、別途、Windowsパソコンを用意して、HDMIケーブルで接続する。映像を変形させる都合上、汎用のヘッドマウントディスプレイのようには使えない。また、一般のメガネと一緒には装着できない。
このほかにも東芝ブースではアクティビティトラッカーなどのウェアラブル機器も展示されていた。
シャープはHMDやレーザープロジェクターを展示
シャープは同社が開発したヘッドマウントディスプレイ向けのLCOSモジュールと小型レーザーMEMSプロジェクターモジュールなどを展示している。いずれも具体的な製品化の予定のあるものではないが、他社へのモジュール供給も含めた展開を予定している。
ヘッドマウントディスプレイは片眼・透過型・フルカラーのコンセプトモデルが展示されていた。他社技術と比較し、導光板を2.5mmと薄く作れるのがシャープの特徴だという。
小型レーザーMEMSプロジェクターモジュールは、同社のレーザープリンター(複合機)の技術を応用したもの。規制もあって通常のプロジェクターほどの光量は出せないが、モジュール自体を非常に小型に作れること、調整不要で焦点がどの距離にも合うことなどが特徴となる。
メガネスーパー、独自開発のHMDを展示
メガネスーパーは独自に開発中のヘッドマウントディスプレイ「b.g.」を展示している。これは両眼・非透過・フルカラーのディスプレイで、コンピュータは外付け式。主に業務用途に向けて開発されていて、さまざまなソリューション例とともに展示されていて、導入企業やソリューション開発パートナーも積極的に募集している。
メガネを取り扱うメガネスーパーらしく、メガネフレームの技術を応用したデザインが特長。ディスプレイの位置を柔軟に調整することにより、瞳の位置に合わせやすくしているほか、着用時の前後・左右のバランスも考えられている。
展示されていたのは開発中の試作機で、ケーブル類が外側に出ていたが、製品版ではケーブルは内蔵される見込み。
行動から猫犬の気持ちを推し量るAnicallの「しらせるアム」
動物向けのトラッカデバイスを開発するAnicallは、新製品の「しらせるアム」を展示している。昨年はペットの家出監視などをするビーコン、「つながるコル」を展示していたが、今回は活動量や地磁気、温度のセンサーを搭載している。
細長い形状にリチウムバッテリーと基板が内蔵されている。バンドに付けることが可能で、猫や犬の首輪として装着することができる。1回の充電で最大2カ月動作する。
運動量や食事の量を計測でき、そのデータをクラウド上で解析することで、猫や犬の気持ちを推測したり、体調変化に気がつきやすくする。
すでにMakuakeでのクラウドファンディングに成功していて、出資者へは出荷が開始されている。一般販売は3月末を予定し、価格は9000円程度とのこと。
今後の製品としては、体温や心拍、呼吸を計測する携帯端末「みまもるヴォル」が今年秋に製品化される予定。
歩いて発電するBluetoothビーコン
イノテックとスター精機、ロームは共同でブースを出展し、Bluetoothビーコンなどを展示している。中でもユニークなのが、歩行時の震動を電力に変換する機構を持ったBluetoothビーコンだ。
このモジュールは、毎秒5回程度の震動で発電し、内蔵するコンデンサーに一時的に電力を蓄え、それでBluetooth通信を行なう。動いているときにしか通信しないが、電池交換などはほぼ不要で利用できる。
歩行時の震動で充電することが可能で、展示ブースでは犬に装着したデモが行なわれていたが、たとえばランドセルなどに装着し、児童が学校を出たかどうかを記録する、といった用途が想定されている。このビーコンはまだ開発中の段階で、具体的な製品化については未定。
日本のメガネフレーム技術もウェアラブルに転用
メガネフレーム産業や繊維産業などで知られる鯖江市のある福井県は、ふくい産業支援センターとしてブースを出展し、ウェアラブル向けのメガネフレーム技術や繊維技術を展示している。
たとえば三工光学は同社がOEM開発したスマートグラス向けメガネフレームを展示している。これはVuzixのスマートグラス「M100」向けのもので、元々はアジア人向けに作られたものだが、現在はM100のパッケージに同梱されているという。同梱のものは度付きレンズを交換できるタイプのものだが、メガネの上にかけられる形状のものも用意されている。
前澤金型はちょっと変わったプライバシーバイザーを展示している。これは国立情報学研究所の越前功教授らが開発したもので、装着すると、映像から人間の顔を認識・識別する通常のアルゴリズムでは人間の顔として認識されなくなるデザインとなっている。
顔認識・識別システムは、コンシューマー製品にも搭載されるようになっているが、プライバシーの議論が十分にされないまま発展している面もある。このプライバシーバイザーは装着すれば「顔認識されたくない」という意思の表明となるので、それを認識するのは是か非かといった議論につながることも狙っているという。
福井県のブーストは別に、ボストンクラブは独自にブースを出展し、ウェアラブルデバイス向けのメガネフレーム技術「neo-plug」を出展している。
これはメガネのフレームの折りたたみ部分を使うもので、こめかみ側のフレーム(テンプル)にミゾを組み込まれている。フレームを折りたたんだ状態でのみ、ウェアラブルデバイスの抜き差しが可能になる。磁石を用いないため電子機器や人体への影響がなく、フレームをたたまないと外れない構造が特徴。ディスプレイ付きのデバイスだけでなく、ウェアラブルカメラなどへの応用も可能だ。
ヘッドマウントデバイス向け技術やソリューション多数
このほかにもヘッドマウントデバイスを使ったさまざまなソリューションの展示なども行なわれていた。
たとえばSRAはソニーの「SmartEyeglass」を使ったソリューションを展示している。SmartEyeglassは現在、開発者向け版が11万3500円で販売されている。SRAはこれを使った業務向けのソリューションを展示している。SRAは業務向けソフトウェアやシステム開発を手がける企業で、ソニーと取引関係があることから、SmartEyeglassを採用しているという。
ヘッドマウントデバイスはコンシューマー向けに売り出しているものはまだほんの一部で、その多くはこうした業務向けソリューションと組み合わせての展開となっている。また、こうしたデバイスは1個単位の販売となると開発者や業務用途での試験導入向けとなり、価格も10万円以上、ときには数十万円という価格になることがほとんどで、10万円以下でコンシューマーを想定している製品はごく一部に限られている。今回のウェアラブルEXPOでは、そうしたコンシューマー利用を想定した製品はほとんど展示されていなかった。