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ドローン、パワードスーツ、AR――ドコモの災害対策で先端技術

 ドローンで電波を中継し、パワードスーツで可搬型基地局を搬入する――NTTドコモが30日に実施した防災訓練において、先端技術を活用する試みが披露された。

 東京・有明にある東京臨海広域防災公園で実施されたドコモグループの総合防災訓練。毎年、実施されるもので、今回も車載型基地局や可搬型の基地局など、大規模災害が発生した際に活用される機器が登場。首都直下型地震が発生した、という想定で、スピーディにそれらの機器を運び、設営する。

ドローン中継機、初お披露目

 こうした災害時の対策のひとつとして、新たに紹介されたのが「ドローン中継局」だ。いわゆるドローン(マルチコプター)に、ブースターなどと呼ばれる電波の中継装置を取り付けて上空に飛ばす、というもの。災害によって停止する基地局があれば、その周辺に飛ばして上空でホバリングし、近隣で活動中の基地局からの電波を中継してユーザーの携帯電話と繋げる。

 地上に大容量バッテリーを設置してケーブルで繋いだままホバリングする。バッテリー1つで1時間程度飛行でき、途中でバッテリーを交換・充電していくことで今後、24時間の稼働を目指す。現在の機体では高さ100m、風速20m程度までホバリングできるとのことだが、今後求められる仕様にあわせてハードウェアを変更することも検討する。特に給電しようとすると、ケーブルが長いため電圧が下がる。このあたりの基板開発は今後取り組む課題のひとつ。また法規制により、中継装置を上空に飛ばすことはできず、30日の訓練ではモックアップを用いた。今後、法規制の改正に向けた手続きを進め、早ければ1年以内にも実用化を目指す。

 似たコンセプトの取り組みとして、競合他社のソフトバンクでは気球を使った中継システムのテストを行っている。ドコモの担当者はドローンの利点として、コンパクトさを挙げる。軽ワゴン程度の車で十分と持ち運びやすく(可搬性)、担当スタッフも教育しやすいこと、1時間で設営を終えられることなどがメリットとしている。

 ドローンの活用例としては、中継局だけではなく、人が立ち入れない被災エリアの状況把握も挙げられる。たとえば今年10月の阿蘇山の噴火後、火口周辺は今も立ち入りが規制されている。その近くには基地局もあったため、いずれは被災状況を把握しておきたいところだ。こうした場面で、無人機であるドローンであれば、スピーディかつ広範囲に現地の状況を確認できる。30日の訓練では、阿蘇山火口付近をドローンで空撮した映像も披露された。

パワードスーツで作業効率アップ

 もうひとつ、ドコモが初めて紹介したのはパワードスーツの活用だ。今回はCYBERDYNE(サイバーダイン)社の製品を用いており、女性スタッフが重さ12kgの箱(ミネラルウォーター)を出し入れするという形。

 ドコモが水の運搬をわざわざパワードスーツで、と聞けば首をひねるかもしれないが、これも大規模災害時においては重要な作業。というのも、復旧作業を進めるためには、被災地周辺で拠点を設置しておく必要がある。復旧にあたるスタッフが食事を取り、体を休め、資材を置くという場所だ。

 基地局を復旧させるために必要な機材の運搬にパワードスーツが役立つ、ということになるが、それだけではなく、スタッフのために必要な物資の搬入にも活用できるという目論見。たとえばフォークリフトのようなマシンで運ぶと、重い資材をらくらく運べるが、立ち入れる場所が限られたり、免許が必要だったりする。それに対して、パワードスーツであれば、男女問わず多くのスタッフが着用するだけで、さまざまな場所で活躍できる。今回、デモに用いたCYBERDYNEの製品は重さ3kg程度で、身に着けていても重さを感じない。バッテリー1つで3時間ほど駆動し、替えのバッテリーを用意すれば丸1日作業できる。

 一方、今後に向けた課題もある。ドコモでは、被災した山間部などの基地局への資材搬入にも、パワードスーツを活用する考えだが、現時点では上半身をサポートする機能がなく、険しい山間部にあるような基地局への物資運搬といった面では、今後の開発が必要だという。

スマートグラスでARな指示出し

 スピーディかつ広範囲での復旧作業という用途に向けて、スマートグラスの活用が検討されている。

エプソンのグラスをかけるスタッフ

 スマートグラスのカメラで周囲の映像を捉えて、センターにいるスタッフに観てもらう。現地に赴くスタッフの技術レベルがさほど高くなくとも、センター側のスタッフが熟練した技術を持っていれば、リモートで指示を出せる。センター側からテキストを送ると、スマートグラスをかけたユーザーには、レンズに緑色の文字でテキストが表示され、指示を確認できる。

ソニーのグラスもテスト中

ヘリで機材搬入、移動郵便局も登場

冒頭、挨拶を行ったNTTドコモ副社長の阿佐美 弘恭氏

 訓練では、陸上自衛隊と協力して、ヘリコプターで被災地向けのエリア復旧用基地局を搬入する場面もあった。

 また日本郵便の車両型郵便局も登場。中には窓口カウンター、ATMまで設置されており、立て替え中の郵便局や被災地で、郵便局関連のサービスを滞りなく提供するための車両という位置付け。特にドコモの通信技術が使われているわけではないそうだが、両社の協力関係もあって、今回、訓練に登場したという。

 ドコモではあわせて、全国712カ所の基地局のバッテリーを強化して、予備電源だけで72時間稼働させるようにする。対象の基地局は、各地にある災害拠点病院をカバーするもので、被災時には通常よりも広いエリアをカバーする「中ゾーン基地局」として振る舞う。中ゾーン基地局自体はこれまでも一部エリアで導入されており、今春の熊本地震でも効果を発揮。ドコモでは災害拠点病院での通信を確保することで、災害時の救護活動を支援する。

 またあわせて、船上基地局の運用訓練を実施したことも案内されている。船舶に基地局装置を載せて、海の上から被災した地域に携帯電話のサービスエリアを構築するというもので、同様の仕組みはKDDIが先駆けて取り組んでいる。ドコモもそれに続く形となり、船舶利用を想定した携帯電話用の基地局免許が、総務省九州総合通信局より交付されている。ドコモによれば船舶用の基地局免許が、九州総合通信局から交付されたのは全国で初めてとのこと。