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「実質0円規制」緩和求めるソフトバンク、ドコモは抜け道封じを要望――総務省のフォローアップ会合

 「競争が後退している、一部の規制緩和を」「規制の抜け道がある。塞ぐべきだ」――これらは、13日に総務省で開催された「モバイルサービスの提供条件・端末に関するフォローアップ会合」で携帯電話会社幹部から発せられた主張だ。

 実質0円の廃止やライトユーザー向けの1GBプランなど、2016年に入ってから、さまざまな変化が訪れた日本の携帯電話市場。フォローアップ会合では、高市早苗総務大臣も出席して、大手携帯会社から意見をヒアリングした。なお、当日には、米アップルCEOのティム・クック氏が来日していたが、総務省の会合には出席していない。

高市総務大臣も出席。2時間、みっちり各社の意見に耳を傾けた

これまでの流れ

 ライトユーザー向け料金プランの導入などを要請することになった、総務省のタスクフォースが開催されたのは2015年後半のこと。それを受けて、携帯各社では、2016年前半、さまざまなアクションを行い、総務省では今年5月、それらの動きを評価する会合を開催した。

タスクフォース以降の動き
2015年9月11日安倍晋三総理大臣、経済財政諮問会議で家計における携帯電話料金などの負担軽減策を指示
10月19日第1回「携帯電話料金その他の提供条件に関するタスクフォース」
12月18日方針策定、携帯各社へ要請。
1.)ライトユーザー、長期契約者向けの料金負担軽減
2.)行き過ぎた端末販売の適正化
3.)MVNOのサービス多様化
2016年1月~2月ソフトバンク、ドコモ、KDDIがライトユーザー向け料金を相次いで発表
3月25日「スマートフォンの端末購入補助の適正化に関するガイドライン」の策定
3月29日MVNOガイドラインを改正
4月5日ドコモ、ソフトバンクへ端末購入補助に関して行政指導
4月11日KDDIへ端末購入補助に関して行政指導
4月~5月ドコモ、ソフトバンク、KDDIが順次、長期契約者向け割引施策などを発表
8月2日公取委が報告書「携帯電話市場における競争政策上の課題について」
8月29日ドコモとIIJが加入者管理設備(HLR/HSS)の開放に関して合意
9月携帯各社が大容量プランを発表
10月7日ドコモ、KDDI、ソフトバンクへ再び行政指導、報告懲求

ソフトバンク「競争が後退している」

 携帯各社からは、過去半年ほどの取り組みをあらためて説明。そうした中でソフトバンクが「規制強化で競争が後退する」と訴える。

ソフトバンク常務執行役員 渉外本部長の徳永順二氏

 新規・MNP向けの割引やサービスを一律で規制されたことが影響しているというその主張は、たとえばソフトバンクが他社からユーザーを乗り換えさせようとしても、規制によって割引はできない。ところがドコモのようにシェアの大きな事業者では、ユーザーが機種変更したり家族で端末を複数台購入したりする場合の割引は規制の対象外ということで、最大手からユーザーを奪おうとしても、まず規制が邪魔をする格好、という主張だ。

 またフィーチャーフォンからスマートフォンへ乗り換える場合、特に他社のフィーチャーフォンから自社のスマートフォンへ乗り換えを薦めるため、端末割引に関する規制を緩和するよう求めた。ユーザーが本当にフィーチャーフォンからの乗り換えかどうか、どう確かめるのか、と問われると、ソフトバンク側は「ユーザーからの申告に基づいて判断する」と説明。システムを整備するのではなく、申告ベースで対応する考えだという。

 さらにソフトバンクでは1社で固定回線と携帯電話回線を提供するため、セット割引についても規制対象とみなされる。ところが、他社の場合は、携帯電話回線と固定回線が別会社であり、セットで割引しやすいとも語る。

 競争促進のためには、そうした部分での規制緩和を……と要望する。

 このほか、ハイエンドとエントリー向け、あるいは型落ち機種も一律で同じ規制対象となっていることも指摘。廉価な機種や型落ち機種は規制を撤廃するよう求めた。こうした要望を挙げる背景として、MVNOの新規契約に伴う端末販売が増加していることを紹介し、「MVNOと大手キャリアで差をつける必要はないのではないか」とした。

ドコモ「抜け穴塞げ」

 一方、NTTドコモから挙がったのは、端末購入補助、つまり「実質0円」廃止のためのガイドラインでカバーされていない“規制の抜け道”で実質0円をうたうケースがある、というものだ。

NTTドコモ取締役 経営企画部長の大松澤清博氏(左から二人目)

 ガイドラインでは端末購入が条件ではない回線販売の奨励金は対象外。端末と一緒に購入する新規契約やMNPでは、通信回線への割引という体裁で端末価格の割引に繋がるケースがあるという。実際にiPhone 6sなどの実質負担額が0円以下、つまりキャッシュバックになるほど割引が盛られているケースが散見されると報告し、ガイドラインで規制して抜け道を塞ぐべきと訴える。

SIMロック解除までの期間、ソフトバンクは短縮へ

 有識者から質問が挙がった話題のひとつはSIMロック解除に関する部分。解除できるまでの期間が180日間であること、ドコモやソフトバンクは中古端末のSIMロック解除に応じていないことなどだ。

NTTドコモKDDIソフトバンク
解除制限期間購入から6カ月
※購入前の機種でSIMロックを解除していれば、その時点から6カ月経過時点で即解除できる
端末購入から180日端末購入から180日
解約後の端末と中古端末解約から3カ月経過後は解除に応じていない
中古端末は解除に応じていない
店頭で解除可能解約から90日経過後は解除に応じていない
中古端末は解除に応じていない

 たとえば中古端末のSIMロック解除については、ドコモ、ソフトバンクともに割賦の支払いを踏み倒すなどして、不正に入手した端末が転売された場合の影響を見越した対策と説明。KDDIは現在、中古端末のSIMロック解除を受け付けてはいるが、他社が指摘する不正利用の影響は意識しているとのことで、今後の動向を見極めたいとする。

腕組みするKDDI執行役員 渉外・広報本部長の藤田元氏

 ソフトバンクではSIMロック解除までに必要な期間が、端末購入から180日間となっているところ、ユーザーの利便性を踏まえて短縮する意向を明らかにした。

 なお、総務省の資料によれば、SIMロックが解除された端末数は、2016年度第1四半期(4月~6月)で5万8001台。それより以前の2015年度は、四半期ごとの数字が2万5000台~3万台で推移しており、4月からは倍増しているが、携帯電話の普及数からすれば、かなり限られた規模と言えそうだ。

公取委、8月の文書は「注意喚起するもの」

 今年8月、公正取引委員会が携帯電話市場に関する報告書を発表した。

 10月13日の会合では、公正取引委員会 事務総局 経済取引局 経済調査室長の木尾修文氏が報告書を「注意喚起の文書」と位置付ける。

木尾氏
「公正取引委員会と聞けば“行政処分”や“排除措置命令”といったイメージを持つかもしれないが、これはそうではなく、ヒアリングに基づき、関係各社に競争政策上、注意喚起させていただくもの。そのため、一切、個別の企業の名前は登場しない」

 報告書の方向は総務省が進める政策と一致している、と木尾氏は語り、報告書の中でもMVNOの普及に関する環境や、SIMロック解除、端末販売に関する部分を切り取る形で、報告書の内容をあらためて説明。

 たとえば実質0円のように端末と通信回線が分離されていない形で割引が適用され販売されれば、MVNOではなく大手携帯会社へ誘導されるのは、独禁法上、問題になる可能性があると指摘する。この点について、有識者(構成員)の1人である野村総研の北俊一氏が「端末補助について、代理店による代理戦争に移行している。代理店を間に挟んだ形態についてはどう解釈しているのか」と問うと、木尾氏は「仕入れ値以下で販売するのは不当廉売にあたる」と明快に答えた。

 このほか、中古端末が新品に比べて、流通量が圧倒的に少ない現状を踏まえて、大手携帯会社がユーザーから下取りした端末を日本国内で流通させないよう、メーカー側から拘束する、といった行為は独禁法上、問題になるとした。

 会合後、あらためて木尾氏に尋ねたところ、今後のアクションについては、検討を進めているものの、まだ公開できる状況ではないとした。

今後の指標にMVNO加えたMNP利用数を

 このほか、構成員の北氏(野村総研)からは、競争が機能しているかどうか判断材料のひとつとして、MVNOを交えたMNPの利用件数を開示するよう、総務省へ要望する。

左から野村総研の北氏、新美育文 明治大学教授(フォローアップ会合主査)、平野晋 中央大学教授(会合主査代理)

 MVNO同士、あるいは大手携帯会社とMVNOという関係のなかで、どの程度のユーザーが乗り換えたのか、「新たな競争状況の指標になるのではないか」とした。

 次回会合は週明け早々、10月17日に開催され、MVNOからの意見をヒアリングする。それらの内容を踏まえ、11月中にもとりまとめが発表される見通しだ。