スマートフォンアプリ開発のツボ

サイバーエージェント「Ameba」の取り組み


サイバーエージェント 技術部門執行役員、アメーバ事業本部 ゼネラルマネージャーの長瀬慶重氏

 芸能人や有名人などのブログを中心に幅広いユーザーから支持を受けているコミュニティサービス「Ameba」(アメーバ)。同サービスをスマートフォンから利用するユニークユーザー数は、2010年末の段階で350万人/月を突破。同サービスを運営するサイバーエージェント 技術部門執行役員、アメーバ事業本部 ゼネラルマネージャーの長瀬慶重氏によれば、2010年の秋から急速にスマートフォンユーザーからのアクセスが増えているという。

目標は年内に10億PV/月、来年には100億PV/月

 同社では2010年よりスマートフォン向けのサービス開発を強化。まずはiPhone向けにサイト表示を最適化したり、iPhone向けのアプリを提供してきた。同社では2010年11月、Xperiaユーザーの増加やIS03などの新機種の登場に伴い、それまでパソコン向けサイトを表示していたAndroid端末向けに、iPhone同様のスマートフォン向けサイトを表示するようにした。結果として、「Ameba」全体のアクセス数約200億PV(ページビュー)/月のうち、スマートフォンからのアクセスは約5億PV/月にまで成長した。ちなみに、残りのPVについては、パソコンとフィーチャーフォンがほぼ半々になっているとのこと。

 長瀬氏は「年内にスマートフォンからのアクセスを10億PV/月にするのが目標。来年には100億PVを目指していきた」と語る。同氏によれば、昨秋以降、iPhoneとAndroidからのアクセス数の推移を見ると、週ごとに1%ずつAndroidが増える形になっており、直近ではスマートフォンからのアクセスに占めるAndroid端末の比率が25~26%程度になっているという。とはいえ、iPhoneからのアクセスも減っているわけではなく共に増加しており、よりスマートフォンの大衆化が進んだ結果と言えそうだ。

 「最近はおサイフケータイやワンセグといった日本人向けの機能を搭載したIS03のような端末からのアクセスが急に増えており、どんどん一般の方がスマートフォンを利用しはじめている」というのは、同氏の感触だ。

トップページ(iPhone)プレビュー(iPhone)

安全第一、ユーザー目線で面白いサービスを

 mixiやGREE、モバゲータウンといった大手SNSサイトは、APIを公開するなどしてオープン化に大きく舵を切ろうとしているが、同社の考えはそれらとは一線を画している。「Amebaユーザーは正直、あまりITリテラシーが高くない一般的なユーザーが多い。闇雲にAPIを公開すると怪しいアプリが登場するなどしてユーザーを危険にさらすことにもなりかねない」(長瀬氏)と、慎重なスタンスだ。

 また、ここ最近、ケータイ業界では位置情報やAR(拡張現実)といったジャンルの話題が多い。これについて長瀬氏は、「もちろん研究は行っており、社内ではプロトタイプを作ったりもしているが、これまでに表に出したことはない。あくまでもユーザーにとって面白い、便利という視点が重要で、技術ありきでサービスを立ち上げたりはしない」と説明する。

 iPhoneなどから位置情報付きの写真がアップロードされることがあるが、プライバシーへの配慮から、その時点で位置情報を削除した上でブログに掲載する仕組みを敢えて導入しているという。芸能人や有名人のブログを運営する「Ameba」ならではのユニークな発想だ。

Amebaピグ(Android)

ファーストビュー神話の崩壊

 同社の柱の一つ、インターネット広告事業についても、スマートフォン対応の準備が進められている。

 「今年はスマートフォン広告が花開く年になると考えており、スマートフォン向けのアドネットワークの準備を進めている。極端な話、iPhoneのアプリはApp Storeのランキングに入るかどうかで勝負が決まる。一方のAndroidは、マーケットが、まだ混沌としていてアプリを探し出すのが困難。アプリの存在をユーザーにPRする必要がある。その部分をビジネスにできるのではないかと考えている」(長瀬氏)という。

 長瀬氏によれば、「スマートフォン広告ではファーストビュー神話が通用しない」のも面白い特徴だ。パソコンやフィーチャーフォン向けのインターネット広告の世界ではページ上部、いわゆる“ファーストビュー”のクリック率が最も高いとされている。しかし、実際にデータを確認してみると、スマートフォンでは最下部に掲載した広告のクリック率が最も高いのだという。

 「Ameba」の大きな収益源となっているユーザー課金について、同氏は「2~3月にはiPhone向けの2タイトルでアイテム課金をスタートする。まずは動向を見ながらということになる。アプリは年内に100本程度出していきたい」としている。

2月にリリース予定の「育成ゲーム」Amebaゲーム内で展開している「GYAOS」のスマートフォン版

過渡期ならではの課題

 今後、確実にユーザー数が増えると予想されるスマートフォンだが、まだまだ過渡期ということで、他社同様に抱えている悩みもある。

 長瀬氏は、「Webサイトとネイティブアプリの間には、HTML5やJavaScriptなどを使って実現するWebアプリという方法もあるが、通信速度や処理速度の問題もあり、Webアプリで快適な操作性を実現するのはまだ難しい。当面はWebサイトとネイティブアプリに力を入れていくことになるだろう」と語る。

 また、OSはスマートフォンと同じでも、画面のサイズが大きく異なるタブレット端末が登場したことで、サイトやアプリ設計の複雑さは増している。現状、Androidのタブレット端末から「Ameba」のサイトにアクセスすると、スマートフォン向けサイトが表示されてしまい、不自然に間延びした画面で閲覧することになる。

 「タブレットなどは今後の課題の一つで、Cookieなどを活用して解決していかなければならない。ユーザーがストレスを感じないようにサービスを作っていきたい」(長瀬氏)というのが、同社の姿勢だ。

(湯野 康隆)

2011/2/2 06:00