ドコモ「spモード」担当者に聞く
spモードで目指す“スマートフォンとiモード”の融合
9月1日、NTTドコモが「spモード」というサービスを開始する。スマートフォンでのインターネット接続や、iモードメール、コンテンツ購入の決済を可能にするための仕組みで、これまでの携帯電話で提供されてきた“iモード”をスマートフォンでも利用できるようにするサービス、とも言える。
spモード開発の経緯とコンセプトから細かな疑問まで、NTTドコモスマートフォン事業推進室 サービス企画担当課長の久永隆則氏、同室サービス企画担当主査の竹原元康氏、サービス企画担当の豊田輝隆氏に聞いた。
左から豊田氏、久永氏、竹原氏 |
■iモードとインターネットを組み合わせる
――まず「spモード」提供の経緯から教えてください。
久永氏
「spモード」は、ドコモのスマートフォンをより便利に、安心してリーズナブルに利用していただくために提供することになったサービスです。スマートフォンユーザーからは、かねてよりiモードのメールアドレスを使いたいという声が寄せられていましたし、コンテンツ決済のニーズも高かった。そうしたことから、今回提供することになりました。
久永氏 |
――開発時のコンセプト、あるいは担当者としての共通認識はどういったものだったのでしょう。
久永氏
どうやってニーズの高いiモードメールのようなサービスを実現するかという点ですね。ニーズの高いサービスを持ってくるとしても、全て持ってくるわけではありません。スマートフォンのほうが優れている部分、オープン性は活かしつつ……と。
――ドコモでは、スマートフォンが登場する以前から、PDAを提供するなど、“iモード”以外のモバイルデバイスへの取り組みを続けてきました。
久永氏
私自身、「M1000」(2005年7月発売のモトローラ製端末)のころから担当していますが、当時のターゲットは、いわゆるビジネスコンシューマでした。iモードではなく、パソコンに近い市場があるのではないかとトライしてきましたが、思った以上にiモードへの強いニーズもあって、そういった取り組みは市場にあまり受け入れられませんでした。そこで、iモードの中でも、スマートフォンに必要な機能は持ってこようじゃないかと。
――昨夏にはHT-03A、今年4月にはXperiaと、話題となるスマートフォンが登場しましたが、spモードの提供が9月になったのはなぜでしょうか。
久永氏
今回提供する機能のうち、iモードメールについては、「同じアドレスを利用したい」という声が多かったんです。そこで実際に検討してみると、iモードメールと言っても、さまざまな機能があり、それを全て利用できるようにするのか、と。考え方の整理から始まって、具体的な技術に落とし込むところなど、時間をかける必要があったと思います。
――iモード用のサーバーシステムが存在すると思いますが、spモード用のサーバーシステムを新たに構築されたのでしょうか。
豊田氏
あまり詳しくお答えできませんが、iモードと別の部分もあり、連携してる部分もある、ということになります。
■iモード、mopera Uとの違い
――iモードとspモードを比べると、たとえばどういった違いがあるのでしょうか。
竹原氏
iモードは、ドコモ独自で作り込んだ仕様です。一方、spモードは、見た目や使い勝手をiモードに近づけながら、その中身はインターネット標準の技術を使った、といった感じですね。もちろん多少作り込んだ部分はあります。たとえば、iモードメールは同報5件ですが、インターネットメールでは少ないので100件まで同報送信できる、といった具合ですね。そうした1つ1つの機能について、iモードのままがいいのか、インターネットに寄せたほうがいいのか検討しました。
竹原氏 |
――これまでmopera Uを使っていたユーザーがspモードへ乗り換えるとき、どういう形になるのでしょうか。
竹原氏
spモード発表後、「mopera Uを契約した上で、追加でspモードを契約しなければiモードメールは使えないのか」という質問を多くいただきましたが、そうではないのです。spモードだけ契約すると、インターネット接続やiモードメールがスマートフォンで使える、という形です。公衆無線LANサービスを利用したい場合は、mopera Uを契約していただく必要があります。
――通常のiモード端末を使っていたユーザーがたとえばXperiaに機種変更したというケースでたまにFOMA端末を使う、という場合はどうすればいいのでしょう?
竹原氏
1つのFOMAカードで運用する場合は、iモードとspモードを両方契約していただく、という形になるでしょう。ただ料金面では、ISPセット割が適用され、料金的な負担は増えません。iモード、spモードという契約での料金は315円ですね
※編集部注
spモードのみの契約でも12月31日までに契約すると、キャンペーンでspモード利用料が最大半年間、無料となる。また、iモード、spモード、mopera U ライトプランを契約すると計472.5円かかる。
■メールサービスについて
豊田氏 |
――spモードにおいて、iモードメールと同じような使い勝手を実現した部分はどこでしょうか?
豊田氏
「絵文字」と「デコメ」ですね。
――「絵文字」は文字コードとイラストを対応させる、という仕組みだと思いますが、スマートフォンで利用できるようにする上で、どういった工夫が必要だったのでしょうか。
豊田氏
1つは「iモードと同じ絵文字」が見られることですね。絵文字をスマートフォンで表示させるということ自体は、さほど難しくないことですが、スマートフォンのディスプレイの画質の良さという違いがありますので……。
――なるほど。スマートフォン向けにリファインした、ということですか。一方「デコメ」ですが、これはHTMLメールで、仕組みとしてはスマートフォンでも対応しやすいように思えます。
豊田氏
はい、HTMLメールなんですが、iモードのデコメールは全ての仕様が決まっているのです。たとえば「Blink」というタグを使った装飾では、「何秒に1回点滅する」という形です。spモードではそこまで仕様を決めず、各端末ごとに見え方が異なる可能性もあるのです。
spモードメールアプリ |
――ユーザーエクスペリエンスという観点からすると、絵文字はiモードと同一のもので、デコメはそうではないということですね。その違いはどういった背景があるのでしょうか?
豊田氏
iモードと同じものをどこまで作り込むか、ということでしょうか。今後もさまざまな端末が登場するでしょうから、(そういった違いがオープンな)スマートフォンらしさとも言えるのではないでしょうか。
久永氏
その他の点としては、メールの設定ですね。スマートフォンのメールといえば、POPの設定などが必要ですが、従来のiモードメールですと、すぐに使えます。そこでspモードのメール設定も通信経由で入手して、初期設定なしですぐ使い始められるようにしています。
竹原氏
それからiモードメールアドレスの引き継ぎですね。iモードとspモードのシステムは、完全に別になっているところもあれば、連携しているところもあります。iモードを解約してspモードを契約する方は、自動的にメールアドレスを引き継ぐようになっています。
――spモードではプッシュでメール受信が通知され、本文を取得する、という形でしょうか。
豊田氏
そうですね。プッシュ通知自体はmopera Uでも実現していた機能です。
――逆に、spモードならではの部分はどこでしょう? 先ほど同報件数の例はありましたが。
久永氏
1つは同報件数で、もう1つは添付ファイルですね。
――iモードメールは最大2MB(合計10個まで)ですが……。
竹原氏
spモードは(メールのタイトルや本文を含め)10MBまで、ですね。これはインターネットらしさ、スマートフォンらしさを重視した結果です。
――ファミリー割引の同一グループ内、つまり家族間のメールは、通常のiモード端末ですと無料(一部除く)で利用できますが、spモードでは対象外ですね。
竹原氏
インターネット標準の技術、汎用的なOSなどスマートフォンは“標準”に近い技術で実装していますので、iモードとの違いが出てきています。
久永氏
料金プランとして「メール使いホーダイ」が利用できますので、メールを多く利用する方はそちらをご利用いただけます。現時点で、ファミリー割引への対応の予定はありません。
■コンテンツ決済機能について
――特徴的な機能であるコンテンツ決済についてですが、使い勝手としてはiモードと同等になっているのでしょうか。
久永氏
簡単なspモード用パスワードを入力すると、コンテンツプロバイダへ決済情報が渡され認証される、という形です。コンテンツプロバイダさんがIDを作って管理されてもいいですし、我々の決済番号を元に仕組みを作られてもいいという形です。
――そのあたりもスマートフォンらしいオープン性を取り入れた印象ですね。機種変更時はどうなるのでしょう。
久永氏
決済番号から、「この人がこのコンテンツを購入した」ということは、ドコモ側は把握できますので、機種変更しても購入したコンテンツを引き継いで利用できます。ただ、Androidマーケットには対応していません。あくまでspモード対応のコンテンツのみです。このあたりは現在検討中ですね。
コンテンツ機能の実装は、決して技術的なハードルが低いわけではありませんでしたし、都度課金や月額課金といったサービスも利用できますが、とりあえずベーシックな機能を提供した、という形です。
――ベーシックと言うことは、更なる付加的な機能もあり得るということでしょうか。
久永氏
たとえばホスティングをドコモで用意するのかどうか、といった点ですね。今回はドコモとしてコンテンツ用のホスティングサーバーは用意していませんが、いわゆるスマートフォン向けアプリは個人での開発者も多く存在しますので、どう取り込んでいくかも1つの課題です。またIDの取り扱いも課題ですね。
――なるほど。
久永氏
コンテンツプロバイダさんがどういった機能を求めているか、という点は分析中です。iモードでコンテンツを提供してきた方や、パソコン向けに提供されてきた方がいらっしゃいますので、まず分析と。
■今後について
――メールとコンテンツ決済の両方で気になるのは、FOMA網ではなく、無線LANのようにインターネット経由でアクセスする時に利用できるかどうか、です。
竹原氏
メールとコンテンツ決済、どちらもFOMA網でアクセスしたときだけ利用できます。もちろんインターネット経由でのアクセスについては、ニーズが高いと思っていますので使えるようにしなければいけないと思っています。課題はやはり認証の部分ですね。この人が本当のユーザーだ、と認証する部分をクリアしなければ、使いやすさは向上できません。
――mopera Uという存在に加えて、新たに登場したspモードですが、さまざまな課題があるということで、現時点ではまだ完成形ではない、と?
久永氏
はい、完成形とは思っていません。スマートフォンユーザーの方には今後、spモードを訴求していきますが、課題はまだあると思っています。無線LANからのアクセスもその1つです。iコンシェルのような行動支援サービス、あるいはおサイフケータイなど、iモードで提供されてきた、ニーズの高いサービスはスマートフォンでも利用できるようにしたいと思います。
――iモードとspモードの今後の関係ですが、iモードそのものの代替ではなく、iモード向けに開発されたサービスでニーズが高いものはspモードでも、といった形でしょうか。
久永氏
そうですね。もっとも安心・安全系など、iモード/スマートフォンに関わらず、ドコモの全ユーザーに提供すべき機能というものは、spモード必須、といった制約はないと思います。
――ユーザーがiモードからspモードへ移行、ということができれば開発側からすると楽なのかもしれませんが、なかなかそうもいきませんね。
久永氏
今までiモードに10年以上馴染んでいただいて、パソコンはわからないけれどiモードはがんがん使えるという方はいらっしゃると思います。ガラパゴスと揶揄されることもありますが、作り込んだからこそ使いやすく安心、といった面も(iモードには)あると思います。
――spモードを契約していても、帯域制限は適用されるのでしょうか。またタブレット型のような、スマートフォン以外の端末についてはどうお考えでしょうか。
竹原氏
spモードでもFOMAとして一律の帯域制限は適用されます。
久永氏
たとえばタブレット端末は、パソコンとスマートフォンのどちらにトラフィックでは近いのか、1台目なのか2台目なのかなど、そのあたりを見極める必要があります。時代は動いていますので、そのあたりは課題ですね。
――なるほど。本日はありがとうございました。
2010/9/2 13:10