【Mobile World Congress 2017】

「Xperia XZ Premium」「Xperia Touch」開発担当者に聞く製品コンセプトと狙い

Xperia XZ Premium ルミナスクロム

 MWC 2017でグローバル向けにXperiaシリーズの最新モデルが発表された。

 国内市場向けなどはまだアナウンスされていないが、開発の背景などをXperiaシリーズの商品企画を担当するソニーモバイルコミュニケーションズ UX商品企画部門UX商品企画2部統括部長の安達晃彦氏、Xperia TouchをはじめとしたXperiaスマートプロダクトについて、同社スマートプロダクト部門副部門長の伊藤博史氏に、それぞれお話をうかがった。

伊藤氏(左)と安達氏(右)

――今回のMWC 2017に合わせて、Xperia XZ Premium、Xperia XZsなどの新機種が発表されましたが、発表の背景などについて、教えてください。

安達氏
 今回、MWCで大々的に発表させていただきましたが、ひとつは新しいメモリー積層型イメージセンサーを搭載した「Motion Eye」カメラをご用意できるのがこのタイミングだったというのがあります。

 2つめはXperia XZ Premium向けになりますが、最新のチップセットであるクアルコム製Snapdragon 835が搭載できることが挙げられます。また、同じくXperia XZ Premium向けですが、4K HDR対応のディスプレイが搭載でき、これに合ったコンテンツもご提供できるタイミングだったというのもあって、今回の発表に至りました。

 ちなみに、従来のXperia XZも継続して販売しますが、新しいカメラである「Motion Eye」を少しでも早く、より多くの人に体験していただきたいということで、機能バージョンアップモデルとして、Xperia XZsも発表させていただきました。

――Xperia XZ Premiumは開発について、苦労された点などをお聞かせいただけますか?

安達氏
 個別の苦労はそれぞれの担当チームでいろいろな苦労がありますが、全体的に見ると、技術の進化が非常に激しく、自分たちの差異化ポイントをいかに作り、お客さまにお届けしていくのかが難しいと感じましたね。

 今回で言えば、特にカメラの進化をどう取り込んでいくのかが課題でした。カメラについては、グループ内でデバイスとして、イメージセンサーを製造していますし、デジタルカメラもソニーグループとして、αシリーズやCyber-shotシリーズを販売していますから、今回の製品ではそれらの強みをうまく活かすことができたと考えています。MWC初日に発表後、各方面で取り上げられ、たいへん好評をいただいています。

――Xperia XZ Premiumには4K HDRパネルが搭載されています。一昨年のXperia Z5 Premium以来の搭載ですが、今回、実現されたHDRについては、パネルとしての違いなのでしょうか、それともシステムを含めた全体に違いがあるのでしょうか?

安達氏
 詳しい仕様や構造については、またあらためて説明する機会をもうけさせていただきたいのですが、デバイスそのものの進化に加え、最新のSnapdragon 835によって実現できた部分もあります。

――HDRについては、昨年あたりから家庭用テレビの世界でも新製品に搭載されるようになってきましたが、これをモバイルの世界に取り込むにはどういう条件が必要だったのでしょうか?

安達氏
 HDRという技術は家庭用テレビの世界で展開されていますが、モバイルでは周囲の明るさなど、環境がその都度、変化します。そこで、独自の画質チューニングとして、アダプティブトーンマッピングという技術を採用することで、お客さんが利用する環境に応じて、常に最適なHDR対応コンテンツを楽しめるように作り込んでいます。

――MotionEyeカメラに採用されたメモリー積層型イメージセンサーはいつ頃から開発されてきたものなのでしょうか?

安達氏
 具体的な時期については、お答えできないのですが、スマートフォンとして商品化された今というタイミングから考えると、かなり前の段階からソニーの半導体事業部門と話をしていて、新しい技術を盛り込むことで、どういう新しいユーザー体験をご提供できるかを検討し、共同で開発を進めてきました。

――今回のMotionEyeカメラではメモリー積層型イメージセンサーの特徴を活かす機能として、最大960fpsのスーパースローを撮影できるようにしましたね。

安達氏
 スーパースローはソニーのCyber-shot DSC-RX100やDSC-RX10のシリーズで実績があって、センサーとしてもフォーカルプレーン歪みなど、画質の向上は常に取り組まれていたので、下地はあったと思います。

 ただ、同じスーパースローを実現するにしてもXperiaの場合、動画でのコミュニケーションを活性化したいという想いがあったので、単純に960fpsの動画を撮るということだけではなくて、ひとつの動画の中で、30fpsの通常の動画とスーパースローの動画を組み合わせて生成するような工夫をすることで、誰でも手軽にインパクトのある動画を体験できるように仕上げています。

――MotionEyeにはPredictive Capture(先読み撮影)という新しい撮影機能も搭載されました。

安達氏
 Predictive CaptureはCyber-shotにもない新機能なのですが、これまでXperiaシリーズではオートフォーカスの速さや被写体の追尾性などをひとつのセールスポイントにしてきました。ただ、実際の利用シーンでは、シャッターチャンスのタイミングそのものを見逃してしまうケースは往々にしてあるわけで、今回搭載されたメモリー積層型イメージセンサーの性能を活かして、何か新しいことができないかを開発陣と知恵を絞りました。

 その中で、どうやら先読みで撮影する機能が実現できそうだということになり、そこに独自の物体の動きや速さを検知するアルゴリズムを加えることで、今回のPredictive Captureを実現しています。実際にみなさんが製品を手にして、日常の生活で試していただけると、役立つシーンがかなり多くあるのではないかと期待しています。

――ところで、今回発表された製品ラインアップにはXperia XZsという機種があります。昨年9月にXperia XZが発表されたばかりですが、どういう位置付けなのでしょうか。

安達氏
 昨年発表させていただいて、国内でも販売しているXperia XZはプレミアムセグメントに位置付けられるモデルですが、今回、スーパースローモーションをはじめ、新しい機能を実現したMotionEyeというカメラがXperia XZ Premiumで実現できました。

Xperia XZs

 これをXperia XZを求めるユーザーにご提供したいということから、Xperia XZsというモデルが企画されました。ただ、4K HDR対応ディスプレイをはじめ、現時点で最新の技術が搭載されたモデルはXperia XZ Premiumであり、価格的にはXperia XZsよりもXperia XZ Premiumの方が若干、高くなりそうな印象です。

――Xperia XZ Premium、Xperia XZsのほかに、Xperia XA1/XA1 Ultraという新モデルも追加されました。

安達氏
 そうですね。これらは昨年、発表されたXperia XA/XA Ultraの後継という位置付けになります。どちらのモデルもご高評をいただいたのですが、なかでも6インチディスプレイを搭載したXperia XA Ultraはセルフィーが重要視されるアジア地域などを中心に、セルフィーと大画面が高く評価されていたこともあり、今回はチップセットなどを新しくした後継モデルを開発しました。

Xperia XA Ultra

――日本ではXperia XAシリーズが販売されていないので、今ひとつイメージがわかないのですが、他の国と地域でどういう層に支持されているのでしょうか。

安達氏
 基本的には若い世代が多いのですが、スマートフォンですべてのことを住ませたいというニーズがあり、そこに受け入れられている印象です。地域で言いますと、ベトナムやタイなどでは女性を含め、特に大画面の需要が高く、それに加えて、自撮りのニーズが極めて高いので、この2つの要素を組み合わせたモデルが受け入れられているようです。

――自撮りについては、日本市場に参入している海外メーカーを中心に、ビューティーモードなどがアピールされ、徐々に市場でも認知されつつありますが、ソニーとしてはこうした動きをどう捉えているのでしょうか?

安達氏
 ビューティーモードや美顔モードが話題になっていることは十分に認識していますが、我々としては、まず、画質が最優先であると考えています。また、ユーザーの好みに合わせたエフェクトについてもさまざまなアプリが公開されていて、最近、日本では「SNOW」なども人気ですが、そういったアプリを使って、楽しんでいただくのが基本だと思います。ですから、Xperiaとしては、まず、カメラとしての基本性能をより優先して、開発しているということになりますね。

――Xperia XAシリーズは日本市場向けに投入されませんでしたが、今回のXperia XA1/XA1 Ultraも日本市場向けには難しいのでしょうか?

安達氏
 個別の商品をどの市場に投入するかという点については、我々もそれぞれの国と地域の状況を注意深く観察していて、適切なタイミングでベストな商品を投入していくようにしています。市場の状況はもちろんですが、その国と地域のユーザーのみなさんの好み、使い方など、さまざまな要素が絡みますし、これらの要素も刻々と変化してくるので、現時点では何とも言えない状況です。

――国内市場ではSIMフリー端末の市場が少しずつ拡大しつつあります。国内の各携帯電話事業者などに納入しているメーカーでは、ほとんどのメーカーが何らかの形でSIMフリー端末を投入しています。ソニーも過去に1機種のみ、供給したことがありますが、今後、ソニーとして、国内のSIMフリー市場に投入する可能性はあるのでしょうか?

安達氏
 グローバル全体の状況を例にお話しすると、たとえば、スペインやフランスなどはすでに市場の半分近くがオープンマーケット(SIMフリー端末を扱う市場)になりつつあります。グローバル全体としてもオープンマーケットが拡がる方向にあると認識しています。そういった流れが日本市場にも拡がるのかどうかを注視している状況にあるというのがひとつの答えですね。ただ、将来的に国内市場へのSIMフリー端末の投入がまったくないという状況ではないということになります。

――Xperia XZは昨年9月に発表され、国内では昨年11月に発売されました。今回のXperia XZsはまだ国内市場投入が明らかになっていませんが、グローバル市場で見てもわずか半年弱での新製品投入です。かねてからXperiaシリーズはモデル周期が短いという指摘がありますが、どのようにお考えでしょうか。

安達氏
 Xperia XZについては、引き続き、販売をさせていただく予定ですが、今回はMotionEyeという最新のカメラを搭載したXperia XZsを加えることで、プレミアムセグメントのモデルの選択肢を増やし、市場を拡げて行きたいと考えています。市場によってはXperia XZがメインモデルのまま、扱われるところもあり、国と地域によって、取り扱いは違ってきます。国内市場については各方面で協議中ですので、時期が来ましたら、発表させていただきます。

Xperia Touch

――Xperia Touchは元々、コンセプトモデルとして発表されたものが約1年で製品化されることになりましたね。コンセプトモデルを発表した後の反響はどうだったのでしょうか?

伊藤氏

伊藤氏
 実は、コンセプトモデルを発表したのはちょうど1年前のバルセロナ(MWC 2016)なのですが、その後、いろいろなお客さんのところに持ち込んで、お話をさせていただきました。Xperia Touchはタブレットで動作しているAndroidプラットフォームのアプリがそのまま動作して、内蔵されているプロジェクターを使って、どこでも大画面で観たり、操作できるのですが、こういった使い勝手は非常にユニークだというご評価をいただいています。

 Xperia Touchのコンセプトモデルを発表後、日本だけでなく、欧州など、各国の企業とお話をさせていただきました。たとえば、バルセロナにも店舗を構えるEl Corte Ingres(エル・コルテ・イングレス)というデパートがあるのですが、彼らが提供するショッピングアプリでは画面に表示された野菜や果物を買い物カゴにドラッグ&ドロップするというユーザーインターフェイスを採用しているので、これを机や壁に投影すれば、家族みんなで表示された画面を囲みながら買い物ができるという点が評価されました。

 また、教育アプリの企業ともお話をしていたのですが、これも机などに大きく投影して、保護者の方が見守る中で、子どもが遊ぶことができるので、タブレットとは違ったアプローチができるという評価をいただきました。

――そうすると、どちらかと言えば、企業向けに供給するという販売が中心になってくるのでしょうか?

伊藤氏
 Xperia Touchは家族のコミュニケーションを活性化したいという考えから生まれた商品なので、その基本的な方向性は変わっていません。ただ、B2Bというか、さまざまな企業とコラボレーションする形でのアプローチも見えてきたというのが本当のところです。販売パートナーについてはまだアナウンスができないのですが、やはり、店舗などを持たれているところが「落ち着いた環境で、商談やプレゼンテーションに使いたい」といった話をいただきます。


 少し変わったアプローチの話としては、2カ月くらい前にドイツのケルンで催されたキッチンショーでは、システムキッチンのメーカーがデモに利用したいというお話をいただきました。現在、欧州ではリビングで話していた家族がキッチンに移動し、アイランドキッチンを囲みながら、料理をいっしょに作ったり、レシピを見たりするそうですが、そこにスマートフォンを持ち込むのではなく、みんなで楽しめるXperia Touchのようなデバイスが便利ではないかということで、共同で展示をさせていただきました。

――Xperia Ear Open-style Conceptという新しいコンセプトモデルが発表されました。従来のXperia Earは非常にユニークな商品だと思いますが、国内ではBluetoothヘッドセットがあまり使われておらず、なじみにくいのではないかという指摘もあります。今回のXperia Ear Open-style Conceptはどういう背景から生まれてきたのでしょうか?

伊藤氏
 初代のXperia Earを世に送り出してみて、いくつか見えてきたことがあります。どういった人がどういうところをいいと言ってくれるかを気にしていたのですが、今のところ、取り出して、耳に装着すれば、すぐに使えるという扱いやすさがいいという声を多くいただきました。しかし、その一方で、ご指摘のように、日本ではなかなか街中で発話しづらいという声もあり、そこも考慮して、ヘッドジャスチャーなどの機能も入れてきました。

Xperia Ear Open-style Concept

 二号機については、元々、音楽体験を提供したい考えがありましたが、現在のステレオイヤホンは装着すると、その音楽の世界に完全に浸ってしまうような構造です。つまり、耳に入ってくる音としては、音楽か、現実かの二者択一の状態になってしまっています。そうではなく、音楽も聴きつつ、Xperia Ear同様のアシスタントの声も耳に届け、周囲の環境音も聞こえるような方向性がいいのではないかということで、今回のXperia Ear Open-style Conceptが企画されたわけです。ちなみに、この周囲の音も活かすという部分については、ソニーのオープンイヤーオーディオ技術も活かされています。

――Xperia Ear Open-style Conceptは耳に装着した状態もユニークですよね。耳の下側から挟むように装着するというのは、あまり見かけたことがありません。

伊藤氏
 そうですね。これは周囲の音とミックスしながら楽しめるという部分とも関係しますが、装着したときにできるだけ付けていることを感じさせないようなものにできないかという考えから、この装着スタイルを導き出しています。

 実は、初代のXperia Earのときもそうなのですが、ソニーの中にはイヤホンやヘッドホンなどに携わってきた『耳型職人』のようなエンジニアがたくさんいて、彼らの持つノウハウを活かしながら、開発が進められています。その中のひとつの話題として、耳に装着する場合、耳の上側を回して装着するときは個人差があり、最適解を導き出すのがたいへんであるのに対し、下側については意外に個人差がないという分析がありました。また、耳たぶは柔らかいため、装着時にひとつの緩衝材のような役割も果たせるということで、この装着方法にたどり着きました。

――今回のXperia Ear Open-style Conceptはスポーツを意識しているように見えたのですが。

伊藤氏
 必ずしもダイレクトにスポーツ向けというわけではなく、どちらかと言えば、アクティブに動く人に使っていただきたいというコンセプトです。たとえば、作業中で両手がふさがっていたり、動いていて、スマートフォンの画面が見られないといったときでも操作ができるようにするということですね。もちろん、スポーツもそのひとつですが、できるだけ自然にフィットする形で使っていただきたいと考えています。

――今回はコンセプトモデルとしての発表でしたけど、実際の製品化はどれくらいのタイミングになるのでしょうか?

伊藤氏
 Xperia Earも好評なので、できるだけ早い時期にお届けしたいと考えています。現在、鋭意開発中ですので、今しばらくお待ちいただけますか。

――今日はありがとうございました。