【Mobile World Congress 2013】

京セラ能原氏、海外展開のこれからを語る

京セラ能原氏、海外展開のこれからを語る

 京セラは「Mobile World Congress 2013」にブースを出展し、国内外向けの端末を多数展示している。これまでネットワーク機器側でMobile World Congressに出展したことはあるものの、端末中心での展示は今回が初めてだ。

 なぜ端末の展示を行ったのか。今回、Mobile World Congressの会期最終日に京セラブースにおいて、通信機器関連事業本部 通信機器統括営業部 マーケティング部長の能原隆氏にインタビューする機会を得たので、その模様をお届けする。

京セラの能原氏

――まずは今回、京セラがMobile World Congressにブースを出展し、端末が展示されたことに、どういった狙いがあるのかお聞かせください。

能原氏

 京セラにとってのケータイ事業は、2000年にクアルコムのCDMA携帯電話端末の部門を買収したことから始まります。そこから2008年に三洋の携帯電話端末の部門を買収しました。3GもCDMAでやってきたので、日本とアメリカでビジネスをやっています。UMTS(W-CDMA)は、残念ながらやっていませんでした。そのため、(UMTS陣営側のGSMAが主催する)Mobile World Congressへの出展も、端末部門としては行っていませんでした。

 しかし3つの出来事で流れが変わりました。

 1つめは、京セラがソフトバンク向けにUMTS端末を発売したことです。これにより、UMTSプラットフォームが、我々の資産として出せるようになりました。

 また、これまではCDMAとUMTSは別々のものでしたが、半導体の進化により、ここ1~2年で両方に対応したソリューションが登場するようになりました。

 さらにLTEが登場しました。LTEはUMTS、CDMAの進化の上にオーバレイするもので、どちらかということは関係なく、こうなってくるとCDMAドメインにこだわる必要がありません。

 これらのことから、いまは京セラがグローバルに展開できるチャンスかな、と考え、今回Mobile World Congressに出展することとしました。

――(京セラが投入したUMTS端末である)ソフトバンク向けのHONEY BEEはターニングポイントだったのでしょうか。

能原氏

 大きなきっかけでした。

――もともとCDMAに注力していたのは、(京セラが主要株主となっている)KDDIとの関係があったのでしょうか。

能原氏

 そこはどちらかというと、KDDIとの関係より、もともと「CDMAに特化しよう」という方針があったことが重要です。CDMAをビジネスのメインとして成長しよう、と考えていました。しかしそれでCDMAを作っているからUMTSができないというわけではありませんし、KDDIしかやらないなどとは考えていません。

北米向けモデルのラインナップ

――現状の話をすると、米国では京セラのMVNO向けの端末が好調なようですが、米国以外はどのあたりの市場を狙って行かれるのでしょうか。

能原氏

 基本的にはすべて、これからの話になります。現在は米国に販売の拠点があるので、広い意味でのアメリカ大陸が最初のターゲットになります。南米も一部は米国の販社経由でやっていて、お客さまとのコネクションもすでにあります。

 南米もかつてはCDMAが多かったのですが、UMTSに一気に変わってしまいました。コネクションはあったものの、なかなか事業を拡大できなかったのは、CDMAが縮小していたから、という面があります。これからはUMTSやLTEで事業を拡大していきたいと考えています。

――Mobile World Congressは欧州の来場者も多いかと思いますが、そのあたりの方々とはこれから商談をされるのでしょうか。

能原氏

 今回はまだお披露目の段階なので、具体的なお話はこれからさせていただければと思っています。

――今回の展示、キャリアの方々などの反応はいかがでしょうか。

能原氏

 結構あります。

――個性的なHONEY BEEへの反応は?

能原氏

 以前、米国でHONEY BEEを紹介したときは、「ファンシー」「子どもっぽすぎる」と言われました。しかし今回は意外なくらいに興味を持っていただけました。ブース内ではスマートソニックレシーバーのデモを体験していただくと、HONEY BEEのストラップをプレゼントさせていただいているのですが、そのストラップ目当ての人がいたくらいです。多色展開やデザインなど、海外で目がないことはないかな、という気がします。

――ノキアのブースなどに行くと、同じようなカラフルなデザインの端末もありますね。

能原氏

 みなさん同じことを考えているのかも知れませんね。子どもっぽすぎると言われることを気にしていましたが、意外とそうでもないようです。しかし、あまりやりすぎるとオモチャっぽくなってしまうので、国内向けでもデザインには気を遣い、洗練さが光るようなプロダクトになるようにこころがけています。

タフネスLTEスマホのTorque

――Torque(トルク)の反応はいかがでしょうか。

能原氏

 こちらも非常に各所から具体的な興味をいただいています。もともとTorqueのような端末は、米国に好きな人が多いと考えていました。今回も半信半疑で展示しましたが、国を問わずにご好評をいただいています。

 今回は米国と日本のプロダクトをそのまま持ってきているのですが、思ったより反応があった印象です。

――欧州ではスポーツ自転車の文化など、別の需要があり、北米と違う売れ方もあるのではないでしょうか。

能原氏

 北米向けのTorqueでは、プッシュトゥートーク機能などで法人需要を意識しました。この路線では、DURAシリーズというフィーチャーフォンを昨年から北米で展開しています。これは工事現場や警察消防をターゲットとしていました。Torqueもその延長になります。しかし実際に一般コンシューマの方にDURAシリーズをお見せして反応を聞くと、「これはかっこいい」と言われます。そういったこともあり、急遽、Sprintのコンシューマー向け販売チャネルでもDURAシリーズをプロモーションできないかと考えています。現在はSprintの直営店では売っているのですが、Best BuyやRadioshackでは売っていません。

――Torqueはこれからどのように展開する予定でしょうか。たとえば日本での展開もあり得るのでしょうか。

能原氏

 まずは3月上旬に米Sprintにて発売されます。日本では少しモディファイが必要かもしれませんが、ウケるならば、「アメリカで流行のものです」という流れができるかもしれません。いままでは当社も取材を受けるときなど、「日本のスマートフォンを世界へ」という流れでしたが、当社ならば、「アメリカで人気のスマートフォンを日本へ」ということがあるかもしれません。

――TorqueのUMTS版はどうでしょうか。

能原氏

 ニーズがあればやらないといけないですね。

Hydro

――そういえば1月のCES取材の際、Best Buyを覗いたのですが、MVNO向けの京セラ端末(HydroとRise)が100ドルを切る価格で販売されていて驚きました。Boost MobileとVirgin Mobileではそれぞれ販売台数が1位と好調とのことですが。

能原氏

 そうですね。米国市場では2~3年前に、ポストペイド(後払い)契約者のあいだでスマートフォンが急速に普及しました。そこはそこで引き続き好調なのですが、ここ最近になって、プリペイドのサービスでスマートフォンを使いたいという人が急激に伸びています。プリペイドでは最初から端末にSIMが入った状態で、Best Buyなどの量販店頭ではブリスターパックでぶら下げられ、月額50ドル(約4600円)くらいで音声もデータも使えます。去年からはそうしたプリペイドのスマートフォンが伸びてきて、そこで京セラのHydroとRiseが売れました。

――100ドルを切る価格はインパクトがありますよね。

能原氏

 プリペイドでも、若干の、いわゆるインセンティブがあるのも100ドルの理由でもあります。

――価格的に中国メーカーとも戦えるところに来ているのでしょうか。

能原氏

 京セラのこれらのモデルが受け入れられているのは、価格はもちろんですが、品質面が高いというところがあります。私たちは内部で「(トヨタの)カローラみたいなところ」と表現していますが、お手頃な価格でありながら非常に高品質である、という製品です。私どもはいきなりクラウンやレクサスのような層には入っていけません。カローラのゾーンで日本メーカーの良さをアピールしていきたいと考えています。

 とくにHydroは防水仕様という特徴もあります。防水仕様のスマートフォンはコンシューマー向けではほぼ初めて、ということもありました。また、RiseはQWERTYキーボードを搭載しています。私たちの認識では、北米でもまだ10~20%はQWERTYキーボードにニーズがあるので、そこを狙っています。QWERTYキーボード搭載のスライドデザインにしては非常に薄い、というのも特徴です。

 こうしたクラスになると、たとえばCPUのコア数がどうとかシステムメモリがいくつとか、そういったことは気にされなくなります。まずはスマートフォンを使いたい、というユーザー層がターゲットとなっています。

――防水仕様は世界的に見て、どう評価されているのでしょうか。

能原氏

 調査では強い引きがあります。しかし、実際にお客さまが端末を買うとき、防水にどれだけの価値を認め、防水端末のためにどれだけのお金を払ってくれるかが問題です。ここは文化が違うのでわかりません。

――そもそも北米市場において、京セラはどういったイメージを持たれているブランドなのでしょうか。

能原氏

 歴史も見ると、いろいろなフィーチャーフォンを提供してきました。歴史がある中で、品質が良くてお手頃価格、と思っていただけているかと思います。

――日本国外でのフィーチャーフォンはどうでしょうか。

能原氏

 マーケットは引き続き存在しています。京セラとしても、ニーズが求められる中で、端末を出していきたいと思っています。フィーチャーフォンを辞めないで欲しい、という要望も承るので、当社としては、マーケットがある限りは、出していきたいと思っています。

――フィーチャーフォンでは価格的な面でも戦いになりますが。

能原氏

 ノキアが今回、15ユーロ(約1800円)のモデルを発表していますが、京セラがそこまで出せるとは言えません。米国市場が要求する価格に食らいつくしかないです。

――今回、auの見守り歩数計、Mi-Lookが展示されていますが、あのような端末の概念は、日本国外でも理解してもらえるのでしょうか。

能原氏

 京セラの携帯電話端末の戦略として、メインストリームにガツンと、というのはやりません。幅広く、と考えています。今回、グローバル展開を広げるにあたり、そういったソリューションで興味を持っていただけないかな、と思って展示しました。たとえば医療費の問題は世界共通です。けっきょく、自助努力をしてもらわないと、医療費は下がらないのですが、みんななかなか自助努力してくれません。そこへの対策のひとつとして、体脂肪計とか血圧計を連動したデモを行いました。みなさまには「そりゃ必要だよね」といっていただいています。ただ、どうビジネスモデルを組み立てるかが難しいところです。端末としての可能性はあるのではないかと考えています。

――簡単ケータイ系はどうでしょうか。今回のMobile World Congressでは富士通がらくらくスマートフォンの海外版を展示しています。

能原氏

 シニア向けというのも、万国共通の問題なので、ニーズはあると考えています。ただ、気をつけないといけないのは、シニアは世代によって変わってきます。いまの60代は仕事でケータイを使っています。京セラが簡単ケータイを出したとき、そうした層はケータイを使ったことがありませんでした。その違いを考えて展開しないといけないと考えています。

――スマートフォンを手がけるメーカーには、たとえば家電もやっているソニーやサムスンがいて、一方でNECや富士通はパソコンやサーバーの会社でもあり、それぞれいろいろなアプローチでスマートフォンを開発しています。普通にスマートフォンを作ってもなかなか売りにくい中で、京セラは何を武器にされるのでしょうか。

能原氏

 基本的には端末そのものしかないと考えています。ハンドセットそのものを、研ぎ澄まされたものにすることです。機器連携するようなソリューションについては、いろいろな方とお話しできれば、と考えています。

――今回のMobile World Congressでは、第3のOSなどと呼ばれる、Firefox OSとTizenが本格的に始動しました。京セラとしてはどのようにお考えでしょうか。

能原氏

 当然、マーケットが要請するものには応じていきます。技術的な検討も行っています。しかし問題は、お客さまにとっての価値を生み出せるかどうか、というところにあります。これはあくまで個人的な感想ですが、何が違うのでしょうか。

 AndroidがあってiOSがあってFirefox OSやTizenがある。これらは業界では大きな違いですが、たとえば、あるOSでお客さまのニーズを満たせないならば、そこに手を出す意味がありません。テクノロジーオリエンテッドでFirefox OSやTizenをやる、ということではないのです。

――ユーザーにとって価値のあるものを提供するのにFirefox OSが必要にならばやる、と。

能原氏

 そうです。ただし、まだ個人的な見解ですが、いろいろなOSが入ってくることで、競争原理が働くのは良いことだと思っています。

――今回のMobile World Congressで何か「これは」と思ったものはありましたか?

能原氏

 ポストスマートフォンのソリューションはなんだろうな、と思いました。今回のMobile World Congressはスマートフォンが成長期から成熟期に入ったことで、ある一定の範囲の中で、用途が分散してきた印象もあります。成長期は毎年新しいものがポンポンと出てきましたが、今年は応用展開的なものが多かった印象です。

――そういったところでは、今年のMobile World Congressでは、NFCがプッシュされていますね。NFCについては、どうでしょうか。

能原氏

 日本に住んでいると、おサイフケータイが普及しており、NFCは商品企画の上で当たり前になっています。アメリカでのビジネスはこれからなのですが、我々が当たり前だと思っているNFCをどうアメリカで展開するか、というのがNFCでは先進国の日本のメーカーにとって重要なことかと思います。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

白根 雅彦