【Mobile World Congress 2013】

HTCに聞く「HTC One」のコンセプトや日本市場での取り組み

Mobile World Congress直前に発表されたHTCのフラッグシップ「HTC One」

 「Mobile World Congress 2013」に先がけ、英・ロンドンと米・ニューヨークで同時に新端末「HTC One」を発表したHTC。画素を大きくして暗所での仕上がりをよくしたカメラや、フロントに搭載したステレオスピーカーなどが、この端末の特徴だ。ユーザーインターフェイス(UI)も一新し、ホーム画面上にニュースやSNSの情報が集約される「HTC BlinkFeed」を採用する。

 一方で「HTC One」の販売国には、日本は含まれていなかった。「HTC J butterfly HTL21」や「INFOBAR A02」など、KDDIから発売される戦略的な製品で徐々に日本市場への足がかりを築きつつあるHTCだが、今後の展開をどのように考えているのか。最新端末の開発コンセプトや、日本におけるHTCの取り組みを、同社のCPO(チーフ・プロダクト・オフィサー)の小寺康司氏に聞いた。また「Mobile World Congress」でホットなテーマになっている新OSについての考えもたずねた。

――HTC Oneが発表され、ブースもにぎわっていました。これが今年のフラッグシップということでよろしいでしょうか。一方で、昨年末に発売されたHTC J butterflyも機能は突き抜けていました。両者の関係を改めて教えてください。

小寺氏

 はい。「HTC One」が我々のフラッグシップです。グローバルでのフラッグシップはこちらです。HTC J butterflyや、同じモデルをベースにしたVerizon版の「DROID DNA」は、昨年のフラッグシップである「HTC One X」を補強するモデルという位置づけになります。

 それにはいろいろな要因がありますが、HTC J butterflyはネットワークやチップセットの関係もあり、あのタイミングになっています。発表自体は10月でしたが、出荷が年末だったこともあり、日本ではしばらくHTC J butterflyが中心になると思います。

――HTC Oneは、カメラの考え方が、大きく変わったのには驚きました。

小寺氏

 技術的には、あの方向に行くことがいいと思って、3年ぐらいかけここまで来ました。ピクセルを大きくして光を多く入れるというのは、カメラが好きな方ならすぐに分かる理屈だと思います。あとは、それをどうやってプロモーションしていくかですが、キレイに写真を撮るにあたってはそれ(ピクセルを大きくしたカメラ)が一番いいので、そういったことをコミュニケーションしていきます。

――スマートフォンのカメラも画素数が増える傾向にあり、これは特に日本が顕著なのかもしれませんが、ユーザー中にも「高画素=高画質」という思い込みがあります。

HTCでCPO(チーフ・プロダクト・オフィサー)を務める小寺氏

小寺氏

カメラの仕上がりのよさだけでなく、「HTC Zoe(ゾーイ)」のような、楽しさにもこだわった

 自分もかつては画素数を上げる立場だったので、あまりこういうことは言えないのかもしれませんが、当時は画素数を上げた方がキレイな写真が撮れたからです。VGAぐらいから、メガピクセル、2メガピクセルとケータイのカメラは進化し、画質もよくなってきましたが、あるところまでいくと画素数を上げることがその反対になってしまいます。

 では、原点に返って、どうやったらキレイに撮れるのか。スマートフォンで写真を撮ることを考えると、やはり低照度のシチュエーションが多くなります。であれば、あえて画素数を追わないのが正解だと思います。スペック競争の時代も終わりを迎えつつあり、今後は差別化要因にならないと思います。

――ユーザーインターフェイスを一新しましたが、この狙いを教えてください。

小寺氏

 スマートフォンをみんなが使うようになり、ある程度まできて習熟度も上がっています。元々の「HTC Sense」はいかに簡単にスマートフォンを使えるかに注力していましたが、基本的な操作はみんなできるようになりました。

 そこで、機能を簡単に使うのではなく、コンテンツを楽しむという方向に発想を転換しています。見え方としてはWindows Phoneのタイルにも通じますが、あちらと比べてもコンテンツという点が大きく違います。コンテンツを中央におき、消費度を上げれば別の世界が開けるのではないか。今回のHTC BlinkFeedは、そこを狙ったものです。

 また、スマートフォンが店頭に並んでいると、基本的に画面にはアイコンが並んでいて、時計などのウィジェットがあります。異なるのはフレイバーぐらいですから、差別化にもなります。

――日本での発売はないのでしょうか。

小寺氏

 そこは日本の事業者さん次第です。ただ、日本ではシーズンごとに新製品を発表するタイミングがあり、そこに合わないとどうしても難しい。でも……出したいですね。

――キャリアによっては、HTC Oneをベースにした派生機というものもありえるのでしょうか。

小寺氏

 HTC Oneがフラッグシップで、2013年のHTCの技術の中心です。今後のことはお話できませんが、去年を見てください(笑)。去年もHTC Oneをやり、その後、日本で「HTC J」のようなモデルが出ています。そういった形で、コンセプトをある程度使いまわすことはやっていきます。

――昨年は、HTCが日本市場で足がかりを作った1年でした。一方で、自社ブランドを強化しているHTCがKDDIのブランドでもあるINFOBARの製造を担当したのが、自分には少々意外でした。

小寺氏

 我々の日本での立場はニューカマーで、これから市場を立ち上げなければいけません。ユーザーの認知度を上げるのは課題ですし、そのためには販売店、代理店さんに商品を扱ってもらい、信頼感を上げる必要があります。INFOBARをやることは、その上でプラスになります。

――なるほど。ユーザーには見えないかもしれませんが、販売店にはHTCがどういうもの作りをするのかが伝わりやすいですからね。ところで、Mobile World CongressではFirefox OSやTizenといった新しいOSの発表が相次ぎました。ここについて、HTCの見解をお聞かせください。

小寺氏

HTCはAndroidのほかに、海外ではWindows Phoneにも積極的に取り組んでいる

 検討はしていますが、見ている点は、ユーザーに対して何ができるかということと、HTCらしさをどう出せるかということです。それができないなら、急いでやる意味はありません。正直なところ、両方とも様子を見ている段階です。

 というのも、HTCにはAndroidもありますし、Windows Phoneもあります。そして、それがコアのビジネスにもなっています。もちろん、必要があればやりますが、先に挙げた2つの観点で、今すぐやる必要はないと考えています。

――Mobile World Congressのブースを見ていると、ソニーやサムスン電子、LGエレクトロニクスといったメーカーは、家電などの自社製品との連携を強く打ち出しています。一方でHTCはスマートフォン専業メーカーなので、そういったことが難しいという気もします。これについてはいかがですか。

小寺氏

 ほかの家電がないぶん、逆にどことでもつなげられますし、それが強みになると考えています。たとえば、HTC Oneにはテレビのコントロールができるアプリを入れています。今のEPGは、時間とチャンネルの縦横軸があり、その中に文字があるだけで見づらくなっています。それをグラフィカルにして、サムネイルの下に表示されたバーで番組が今どの辺りを放送しているのかということも分かるようにしました。

 ただ、これは技術的には非常にローテクで、実は赤外線を搭載してやっています。Wi-Fiでの連携は、実際に使おうとするとセットアップがすごく大変で、テレビの大半もWi-Fiに対応していませんからね。

――なるほど。家電がないぶん、そこを強みにするというのは逆転の発想でおもしろいですね。本日はどうもありがとうございました。

石野 純也