【Mobile World Congress 2012】
ソニースマートフォンの登場を“面”で見せる――Xperiaの製品戦略を語るソニーモバイル


 フラッグシップの「Xperia S」「Xperia ion」に続き、Mobile World Congressでは新たに「Xperia U」「Xperia P」がラインナップに加わった。2月には社名がソニーモバイルコミュニケーションズになった中、Xperiaはソニーグループの中核的な製品としても位置づけられている。

 では、同社はどのようなラインナップ戦略を考え、どう他社と差別化していくのか。また、各国の市場をどう捉えているのか。ソニーモバイルコミュニケーションズでグローバル向け製品全体のポートフォリオを立案する、Head of Product portfolioの大澤斉氏にお話を聞いた。

――Mobile World Congressでは、Xperia PやXperia Uを発表し、ラインナップが広がりました。あらためて、全体の中で、この2機種が占める役割や位置づけを教えてください。

 Xperia Sも含めた今回の3モデルは、ポートフォリオのコアになる商品であり、新しい「ソニースマートフォン」の第一歩です。スペックにこだわったフラッグシップのXperia Sに対し、マテリアル(素材)にこだわったのがXperia Pです。もちろん、Xperia Pもテクノロジーに手を抜いているわけではなく、「WhiteMagic」技術(RGBに白の画素を加えた液晶技術)を載せていたり、8メガピクセルの「Exmor R for mobile」を継承しています。一方で、Xperia Uについては、Xperia NXTシリーズへのエントリーとして、ユーザーの広がりを期待したモデルです。着せ替えというカスタマイゼーション、パーソナライゼーションの要素も取り込んでいるので、若年層にも使っていただきたいですね。欧州であれば、高校生ぐらいからのユーザーを想定しています。

ソニーモバイルコミュニケーションズ Head of Product portfolio 大澤斉氏

――Xperia S、Xperia P、Xperia Uには、展開を想定している市場はあるのでしょうか。

 周波数対応や各国オペレーターの要望を盛り込んだうえで、どこの市場にも出せる形にはしています。その意味ではすべてグローバルですが、Xperia Sについては日本も含めたハイエンドがスムーズに受け入れられる土壌がある国、Xperia Pが欧州、Xperia Uが欧州とアジアを意識したモデルという位置づけになっています。

――Xperia arc、rayの頃からデザインが大幅に変わりました。この意図はどこにあるのでしょうか。

 実はデザインのプリンシパル(原理原則)自体は変わっていないんです。Xperia arcのときは、いかに人の手になじむかという感覚については、あれが最適な解でした。今回は逆にラウンドさせることで、手になじみやすくしています。

Xperia UXperia P

――去年は各機種ごとにデザインのバリエーションがもっと広かった気がしますが、今年はXperia S、P、Uの差が少なくなっています。

 デザインを大中小という形で“面”として見せるためで、意図的にやっています。Xperiaは幸い、日本ではかなり認知度が高く、ユーザーもソニーとソニー・エリクソンのブランドに差異をあまり感じていません。初代Xperia(Xperia SO-01B)のスタートダッシュもうまくいきました。ただ、ほかの市場では、Xperiaをソニーのスマートフォントして認知してもらうことが重要です。液晶がメインで、かつ周りがラウンドしているというデザインが多いなかで、期待感を出したい。そのような時は、デザインを面で広げたほうがいいのではと思います。見た目だけではなく、ユーザーエクスペリエンスも上から下までなるべく同じになるようにしています。搭載部品による差はありますが、基本は同じ使い勝手を見せていきたかったんです。

――ソニーモバイルコミュニケーションズになり、製品のデザインにも今までよりソニーらしさを求められることはありますか。

 ソニーのクリエイティブセンターとは、常に方向性を連動させています。ラフなレベルから、たとえば今でいうと「2013年のモデルは共通言語を何にするのか」という議論は常にしています。結果として、デザインを分ける場合もあれば、近づける場合もあります。ソニーのデザインセンターとは、物理的にも人事的にも近いので、デザイン言語やデザインのプリンシパルは引き継がれていると思います。

――今は、タブレットとスマートフォン、ウォークマンで、ユーザーインターフェイス(UI)も統一されていません。ここに対して、ソニーモバイルコミュニケーションズができることは多いと思います。

 ソニーとの取り組みの1つとして考えています。モバイルビジネス、特にAndroidに関しては、これまでの経験がありますので、持てる知識はグループに広げていかなければいけない。ソニーとは、血が循環する中で、いいものが生まれるようにしていきたいと考えています。

――ソニーらしさの象徴としてコンテンツやサービスが挙げられますが、たとえば「PlayStation Certified」については他のメーカーに対してもオープンです。仮に他社がこのサービスに対応した場合、どうやって差別化をしていくのでしょうか。

 プロダクトそのものをどうするのかというのは去年までの議論で、2012年の取り組みが「Beyond Smartphone」(スマートフォンを超えるもの)です。今年はソニーグループのアセット(資産)を使い、ほかの機器との連携も含め、特にエンターテインメント領域でのユーザーエクスペリエンスを築いていかなければなりません。我々のコアもそこにあります。その中で、ゲームは我々のアセットの1つですが、もう一方でカメラなどのデバイス技術もアセットになります。「PlayStation Certified」についてはオープンにライセンスを提供していますので、当然他社が使おうと思えば使うことができます。一方で、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)のキャパシティも有限ですし、グループとしてはやはり面で展開できるというのが強みになります。同じグループであれば、ポートフォリオレベルで何を考えているのかの話もできますからね。たとえば、来年は10モデルリリースするので、それだけのリソースを割り当ててほしいということを考えてもらえるわけです。

――昨年のMobile World Congressでは、Xperia PLAYが発表されました。ちょうど1年経つので、後継機も期待していたのですが…。

 ソニースマートフォンの立ち上げ時期なので、今回はど真ん中から攻めています。もちろん、後半にかけて色々なモデルも考えています。ただ、キーパッドというハードに固執するつもりはなく、エクスペリエンスとしてXperia PLAYと同等のものを実現できるような検討はしています。

Xperia S(左)とXperia ion(右)ブースではグループの製品をまとめて展示

――今回のプレスカンファレンスでは、米国向けのLTE対応スマートフォンであるXperia ionを、グローバルに広げることも発表されました。AT&Tと組み、あえて米国で先行的に端末を投入する意図をあらためて教えてください。

 米国が、戦略マーケットの最右翼だからです。米国では、ソニーとしてのポテンシャルが高く、ブランドイメージもまだかなり強い。さらに、スマートフォン全体のエコシステムや、トレンドも米国発のものです。今までのソニー・エリクソンはそこで勝負できていなかった。これは1つの問題です。米国発のトレンドが(元々ソニー・エリクソンが強かった)欧州にも入ってきますからね。このような循環する流れがある中で、米国と日本に関しては重点マーケットと位置づけています。

――日本が重点マーケットである理由は、何でしょうか。

 日本には、アドバンストテクノロジーという役割が期待され、グローバルのファンクションとして明確に割り当てられています。もちろん、米国発のテクノロジーはありますが、依然としてデバイスやコンポーネントレベルでの重要度は高いんですね。アドバンストテクノロジーを先行的に日本で商品化するということは、グローバルでも認められています。もう1つの理由としては、オペレーターの動きが早いこともあります。たとえば、ネットワークもその1つですし、おサイフケータイのようなエコシステムもうまく回っています。特に欧州と比べたとき、キャリアがマーケットをきちんとリードしているのは、日本市場のよさの1つだと思います。

――日本発という意味で、Xperia acro HDのような端末を逆に輸出する可能性はありますか。

 日本の防水技術は世界一だと思っていますし、ここで培った技術は海外にも輸出できます。また、中国、香港、台湾、シンガポールなどでは、日本のモデルも評価されていますから、同じものを出すというプランも考えとしてはあります。たとえばワンセグはチューナーを載せかえればいいですからね。

―― 一方で、日本向けモデルを特別に作るというより、Xperia Sにある程度、三種の神器なり四種の神器なりを入れていく方向はないのでしょうか。

 スピードを重視し、いかにこのタイミングで出すかということを考えたときに、今回はこの方法を採用しました。サイズ的な問題もあり、FeliCaのカスタマイズ入れるのがやや難しかったんですね。見た目が変わってしまうのを嫌ったというところはあります。また、Xperia arcとXperia acroのフィードバックから勉強させていただいたことですが、お客様はFeliCaだけでは満足しない。販売員の方からも売りづらいという声は聞くので、やるなら全部ということもあります。ただ、NFCとFeliCaを1つにしたチップもありますから、ソフトを変えるだけという方法にすればいずれは出せると思います。

――先ほどXperia ionのお話が出ましたが、LTEについては各国の周波数がバラバラです。メーカーとしてはどのような課題がありますか。

 周波数帯の違いについては、正直なところ、明確に心配しないでくださいと言えるレベルにはなっていません。今のLTEはローミングバンドですらあてがない状況ですからね。しかもLTEについてはCDMAとUMTSで技術的な隔たりがあります。今後、VoLTE(LTE上でIP電話を行う仕組み)が出てくれば技術的なハードルは下がりますが、そういうことまで含めたストラテジー(戦略)を、ちょうど今考えているところです。ただ、我々ができるのは、バリアント(種類)をどう効率的に作るのかということなので、ここは地道な努力をしていくしかありません。

――Xperia ionを他国に展開するにあたっても、その部分はカスタマイズしたわけですね。

 中身は当然変えています。現時点では、米国のお客様はアンテナパフォーマンスへの要求が非常に厳しい。そこはXperia ionでクリアしたので、ボディのサイズは変えずに展開していきます。

――日本でのソニー製LTEスマートフォンも期待しています。

 ぜひご期待ください。日本のLTEはアドバンステクノロジーの1つですし、必ずやっていかなければいけないことだと考えています。

――本日はありがとうございます。

 




(石野 純也)

2012/3/1 13:41