【Mobile World Congress 2011】
NFCとFeliCaの共用は2012年から――ドコモが語るNFCのこれから


ドコモの目指すNFCの形

 既報のとおり、NTTドコモは、韓国キャリアのKT Corporationと、AndroidのNFC端末を利用したサービスの相互利用に合意した。この取り組みには、Visaやgamalto、サムスン電子、三井住友カードなど、キャリアからベンダー、メーカー、決済事業者まで、幅広いプレイヤーが参画している。Mobile World Congressでは発売済みの端末を用いて、NFCによるクーポン利用や決済のデモを行っていた。

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 NFCとは、Near Field Communicationの略称で、近距離無線通信規格のこと。モバイルFeliCaと同じレイヤーの技術と誤解されがちだが、あくまでNFCは無線部分の規格。その上でFeliCaや、タスポなどに使われる「Mifare」、住民基本台帳カードといったいわゆるType A、Type Bのサービスが動く仕組みだ。ドコモは、FeliCaやType A、Type BのサービスなどをSIMカードのUICCに格納することを目指している。過渡期として、FeliCaのセキュアエレメントのみを端末内部に実装したまま、そのほかのチップをSIMカード内に置く形を想定。この形式に対応したモデルを、2012年までにリリースする見込みだ。韓国の大手事業者やメーカーを巻き込むことで、国際標準化も見据えている。では、今回の取り組みの意義はどこにあるのか。ドコモのフロンティアサービス部に在籍する中村典生氏、市川剛氏、モリキョシ氏の3名にお話をうかがった。

NTTドコモ フロンティアサービス部 おサイフケータイ事業推進担当部長 中村典生氏NTTドコモ フロンティアサービス部 おサイフケータイ事業推進 NFC推進担当課長 市川剛氏
NTTドコモ フロンティアサービス部 おサイフケータイ事業推進 NFC推進担当 モリキョシ氏

――では、まず今回のKT Corporationとの取り組みを、改めて説明してください。

中村氏
 私たちは日本でFeliCaを使ったおサイフケータイを、2004年からずっとやってきました。今後は、そこにNFCの要素を入れ、“おサイフ”の幅を広げていきたいと考えています。では、今回の取り組みで何が新しくなるのか。1つのポイントは、日本と韓国との間を行き来しながら、サービスが使えるということです。

市川氏
 世界でもようやくNFCが注目を集めるようになりましたが、日本のおサイフケータイのような使い勝手は、まだ実現していません。私たちには6年以上かけて培ってきたエッセンスや基本要件があるからです。この経験をきちんと踏まえ、要件をすり合わせてNFC端末として仕上げることが、今回の取り組みの目標です。実際、韓国でも2002年ごろからおサイフケータイのようなサービスは始まっていました。当初は独自の規格でしたが、KT(韓国のキャリア)さんは昨年、GSMAの推進している方式に切り替えています。これでVISA、マスターカード、Tマネーなどが使えるようになりました。フランスでも、限定的にこのようなサービスを展開している地域はありますが、韓国では普通にモバイルで決済ができる世界が出来ているんですね。

モリ氏
 標準という観点も重視しています。ただ、足りないところもあります。世界で必要なノウハウをシェアすることで、スタンダードを目指せればと思います。

市川氏
 韓国と日本で基本仕様をまとめて、端末に実装してもらう。そこで必要なのは、それを世界に広めることができるベンダーさんです。サムスン電子さんやGemaltoさんが加わっているのは、そのためです。これからAndroidにNFCの要件が入ってくれば、あとはSIMカードさえ用意すればよくなります。私たちとしては、そこを目標に据えています。もちろん、今のFeliCaがそのまま動くのは大前提で、さらにType A、Type B対応への拡張を図る形です

――その仕組みだと、ユーザーにとっての使い勝手が変わらないため、シームレスに両方のサービスを使えそうですね。実現の時期や、端末はどのように考えているのでしょうか?

中村氏
 まずはAndroid端末をターゲットにしています。無線機能のNFCとセキュアメモリのFeliCaをパッケージ化し部品が1つになれば、日本と世界の両方をターゲットとするケータイメーカーさんが作り分けをしなくてもよくなります。結果としてNFCケータイを開発しやすくなるでしょう。端末は、2012年を目処にリリースする予定です。

モリ氏
 NFCチップの上にセキュアな瀬モリを搭載した端末は、すでに存在しているようです。そのFeliCa版を作るイメージですね。

市川氏
 カードの世界ではType A、Type Bが多いのですが、日本でこれだけ普及したこともあり、モバイルではまだまだFeliCaが主流といえる状況です。両方がシームレスに使えないと、ユーザーさんが困ってしまいますからね。

――海外で使えるということ以外に、どのようなユーザーメリットがあるのでしょうか?

中村氏
 Type AやType Bは、日本だと社員証やタスポ、免許証などに使われています。規格が違うので、今まではケータイと結び付けられませんでしたが、これを入れることが可能になります。決済だけでなく、そういったアプリケーションを動かせるのもNFCならではですね。また、海外で重要視されているのが、ケータイでICカードのタグを読み取るという使い方ですが、そういったソリューションにも応用できると思います。

市川氏
 Type A、Type Bなら、タグも非常に安いですからね。そういったことに関するハードルは、一気に下がるのではないでしょうか。

中村氏
 ケータイ同士をタッチして情報を交換するという、スマートフォンならではの使い方も広がるかもしれません。FeliCaにもそのような機能はあり、Twitterクライアントのiアプリにタッチでフォローできる機能が搭載され話題になりましたが、スマートフォンならさらに色々なことができるはずです。

――一方で、KDDIやソフトバンクは、ドコモとは別にNFCの実験を行っています。足並みはどのようにそろえるのでしょうか?

中村氏
 当初のアプローチの仕方は異なりますが、最後には他社とも足並みは揃えることになると思います。サービス提供側もユーザーも、仕様がバラバラだと使いづらいですからね。

――Android標準の仕様になると、広がりも出そうですね。

モリ氏
 それは強く要請しています。

市川氏
 部品も要素の1つですが、ソフトウェアの部分も合わせていかなければなりません。日本と韓国だけの特殊な要件ではなく、世界に通用するものにするというのが、今回の取り組みの目標ですからね。そのためにも、まずは大きなパートナーと一緒に実現していく必要があります。GSMAで行っている活動も、その1つです。端末メーカーに実装していただく、これを意識して作っていかなければいけないと思います。

――世界ではどのくらいの時期に普及が進むと見ていますか?

中村氏
 韓国では、2012年、2013年ごろにこの取り組みが実現すると思います。アメリカでも昨年秋にジョイントベンチャーを作っていて、そのローンチが来年ぐらいです。フランスでもNFCを利用する機運が高まっていますし、イギリスもオリンピックに合わせてインフラを変えようとしています。ORANGE(フランスのキャリア)がNFC端末を出荷する計画という計画もあるので、そういったところが起爆剤になっていくのではないでしょうか。

――本日はどうもありがとうございました。



(石野 純也)

2011/2/18 11:02