【2015 International CES】

クアルコムがLTE関連技術を展示、IoTや自動車向けソリューションも

 「International CES」は“CES”(Consumer Electronics Showの略)は、名称が示すとおり、一般消費者向け家電製品の展示会である。通信チップなどを手がけるクアルコム自身は、そうしたユーザーに向けて、直接、自社製品を発売することはほとんどない。

クアルコムブース

 だが、同社のチップや技術、ソリューションは、数多くのスマートフォン、タブレットなどに採用されている。とくに今回のCESでキーワードとも言えるほど勢いを見せている「IoT」(モノのインターネット)についても、さまざまな技術やソリューションを持っていることから、クアルコムのブースは大手家電メーカーに並ぶほどの注目を集めていた。

LTE技術の展示コーナー

 2015年のハイエンドチップ「Snapdragon 810」、そして「810」が対応するLTE カテゴリー9などの展示に加え、将来的にLTEの仕様への取り込まれる技術「LTE-U」の展示も行われている。

 LTE-Uはの「U」は「Unlicensed」の略。簡単に言えば、行政による免許を必要としない周波数帯でLTEを使う技術。免許を必要とする通常のLTEは帯域幅が限られているなか、その通常のLTEと組み合わせる(キャリアアグリゲーションする)ことで、通信の効率化とスループット向上を目的とする。LAA LTE(Licensed Assisted Access LTE)と呼ばれることもあり、昨夏にはNTTドコモとファーウェイが、共同で実証実験も行った。

 LTE-Uの位置づけはWi-Fiに近く、ごく狭い範囲に限定しての利用が想定されている。電波の出力も同帯域を使うWi-Fiと同等となる。しかしLTEはもともと、多数のユーザーが同時アクセスすることを前提に設計されているため、多数のユーザーが接続してもスループットが低下しにくいというメリットがある。また、Wi-FiとLTEを組み合わせるより、LTE同士でキャリアアグリゲーションする方がシンプルでメリットもある。ただしLTE-Uは携帯電話事業者が設置するものとなり、その事業者の契約者のみが接続する形式となる。

 免許不要なため、事業者は自由にLTE-Uを設置できることになるが、そうなったときに干渉し合わないような仕組みの整備が必要となる。こうした問題点は現在さまざまな検討が行われているが、日本の場合、「電波を出す前に周囲に確認を取る」という仕様が必須とされていて、その仕様が盛り込まれるのがLTE-Uの仕様の中でも後のバージョンとなるため、LTE-Uの導入は日本では少し遅れるとの見方もある。

LTE-Uの概要。免許アリのLTEをベースとするため、免許ナシのLTEだけでは利用できない
同じ帯域幅を8人でシェアするとき、LTE-Uの割合が高い方が全体のスループットが向上する

 LTEの展示は通信業界関係者にとっては興味深い内容だが、CESではこうした技術展示は、比較的、地味な扱いで、製品やコンセプトの展示の方が人気だ。クアルコムのブースでも、同社の技術やソリューションそのものより、そうした技術を使った製品やコンセプトの展示が前面に置かれ、来場者の注目を集める。

AllJoynを使ったデモ。後ろの冷蔵庫も対応機器

 IoT関連では、「AllJoyn」という機器間通信技術のコンセプトがショウルーム形式で展示されている。AllJoynはもともとクアルコムが開発した技術だが、現在はオープンソース化され、AllSeen AllianceというLinux Foundation配下の業界団体で仕様の策定が進められている。同Allianceにはソニーやマイクロソフトといった大手メーカーも主要メンバーとして参画し、幅広い活用が期待されている。

冷蔵庫が開けっ放しになると、このような警告

 デモでは、たとえば冷蔵庫が開けっ放しになっていると、ほかの機器上で警告を出す、といった内容が披露されていた。機器の組み合わせは自由で、今回はタブレットを使い、機器構成を変更して、開けっ放しになったときにLED照明を赤く光らせて警告するようにもしていた。クアルコムでは会期前日のプレスカンファレンスにおいて、Wi-Fi電球を手がけるメーカー、LIFXとの提携を発表しているが、まさにこのような用途を想定しての提携というわけだ。ただしAllJoyn対応製品がほとんどないため、こうした環境を市販品で実現するのは、今のところ、難しいとのこと。

 このほか、ブースの一番目立つ位置には2台の乗用車が展示されている。一方はAndroidベースの車載システムを搭載するキャデラックで、もう一方はプラグインハイブリッドのホンダ アコードだ。このほかにも屋外のクアルコム特設ブースでは、マセラッティも展示されている。こうした自動車向けのITソリューションも今回のCESのキーワードとなっている。

802.11ad対応キオスク端末

 無線LAN規格の一つ、IEEE 802.11adも展示されている。802.11adは60GHz帯という非常に高い周波数帯を使うため、壁などの遮蔽物に弱く、見通せる範囲内での通信にほぼ限定されているが、広い帯域幅を確保できるため、数Gbpsという高速通信が可能となる。ブースではフランスのOrangeが運用中のキオスク端末を使ったデモが行われていた。飛行機への搭乗前に映画などのコンテンツをダウンロードするといった用途で使っているとのことで、映画コンテンツが10秒程度で802.11ad対応タブレットへとダウンロードされていた。クアルコムが買収したWilocityの技術を使っているが、今後はクアルコム・アセロスの無線LANチップへの統合も想定されている。

 このほかにもブースではクアルコムの技術やソリューションを使ったさまざまな製品の展示が行われていた。

クアルコムのチップセットを使ったスマホ・タブレットの一例
アクセスポイントなどはクアルコム・アセロスのチップを使っているものが多い
スマートウォッチにもSnapdragonは多数採用されている。ちなみに右上のToqは数少ないクアルコム自身の製品だ
ヘッドマウントデバイスの採用例も多い。CSRの買収が完了すれば、ウェアラブル分野での採用製品はさらに増えると思われる
1989年に最初のCDMAのテストで使用された実験機。公衆電話よりもでかい
クアルコムの携帯電話。昔はこうした一般向け携帯電話も手がけていた

白根 雅彦